買い物山脈

冷却もバッテリも強化って本当?「REON POCKET 5」をガチでベンチマークしてみた

製品名
REON POCKET 5
購入日
4月23日
購入金額
1万7,600円
試用期間
約3週間
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです
REON POCKET 5

 毎年ゴールデンウィーク前後からUSBファンやハンディクーラーのようなパーソナルクーラー(冷却グッズ)が店頭に登場し始める。有象無象の製品が毎年登場する中、価格が飛び抜けて高い割には、夏本番シーズンまでにはほぼ売り切ってしまうパーソナルクーラーが、ソニーサーモテクノロジーから発売されている「REON POCKET」だ。

 2024年は5世代目となる「REON POCKET 5」が4月23日に発表と同時に発売された。

 即日発売は突然すぎるだろ……と思いながら筆者は急いで仕事を終わらせ、帰宅途中のビックカメラ有楽町店で購入してきた。

 今回はREON POCKET 5で何が変わったのかとベンチマークを中心に紹介していく。

REON POCKET 5を発売日に購入

REON POCKET 5は何が変わったのか

左からREON POCKET 3、REON POCKET 4、REON POCKET 5

 REON POCKETとは、「本体接触部分の体表面を直接冷やしたり温めたりすることのできるウェアラブルサーモデバイス」のことで、今回のREON POCKET 5はその名の通り第5世代に位置する製品となる。

 初代はクラウドファンディングから始まっており、ソニーブランドを冠した製品としては挑戦的なシリーズだ。用途としては激しい運動で使うようなものではなく、日常生活や軽い運動を想定した製品となる。

 2024年4月からは、従来のソニーグループ株式会社からソニーサーモテクノロジー株式会社に会社分割され、REON POCKETを含むREON事業が継承されている。

カギとなるサーモモジュールの大型化

REON POCKET 5のサーモモジュールと空冷ファン

 この「サーモモジュール」というのはまたの名を「ペルチェ素子」や「ペルチェモジュール」と呼ばれているものとなり、異なる金属や半導体を直列に接合して電流を流すと接合部分で吸熱もしくは放熱が行なわれる。極性(プラスとマイナス)を交換すると熱の方向が変わるため、冷却することも温熱することもできる。

 REON POCKETシリーズは冷却に加えて温熱もできるが、これも極性を交換させることで実現している機能となり、REONという名称も「冷(れい)」と「温(おん)」どちらも使えると言うダジャレから来ている。

 ただ冷えるだけなのであれば夢のようなモジュールなのだが、そこまで都合の良い話はなく、冷えている面の反対側は逆に熱くなる。ここで発生した熱が冷えている面へ逆に浸透すると効果が落ちてしまうため、いかに放熱するかが重要となる。

 今回のREON POCKET 5では、このサーモモジュールが新設計のものになっており、大型化。具体的には内部構造の最適化と冷やした上面と温めた下面の距離を離すことで最大1.8倍の冷却効果を実現しているという。

空冷ファンの変更

 サーモモジュールの効率が上がるということは、その分の熱を逃がす必要も出てくる。そこで重要となるパーツが空冷ファンだ。REON POCKET 5ではREON POCKET初代からREON POCKET 4まで継続採用してきたファンが変更された。

 具体的にはファンのブレード数を倍以上にし、軸には流体動圧軸受を採用することで約1.5倍のファン効率の向上、静かさは約5分の1となっているという。今回精密小型モーターの開発/製造で有名なある国内メーカー会長の発言が発端で売り込みがあったとのことだが、その国内メーカーというのは古参自作PCユーザーにもおなじみNidecである。

 静かさについて言えば、確かに同程度の使用環境で比較すると改善しているが、通常のオフィス環境であれば新旧どちらも気にならないし、本当に静かな環境の場合ファンの音よりも空腹時にお腹が鳴る方がよっぽど気になるだろう。

ネックバンド4と新形状のエアフローパーツ

 空冷ファンからの排熱は本体上部のスリットから行なうが、そのまま排熱すると頭に当たってしまう。また、ワイシャツのような服の場合、襟の部分で本体が隠れてしまい性能が発揮できない場合がある。そのような場面を想定してREON POCKETではエアフローパーツと呼ばれる排熱方向を変えるパーツが同梱のネックバンド4に付属している(紛らわしいが、REON POCKET 5向けに新設計されたネックバンドがネックバンド4である)。

 REON POCKET 5では、ショートサイズとロングサイズの2種類が同梱されるようになり、どちらも後方へ排熱できるように調整されるようになった。

 新形状のエアフローパーツは昨年(2023年)のREON POCKET 4に同梱されているネックバンド3と互換性があるが、エアフローパーツだけ入手することはできず、ネックバンド4を購入する必要がある。

ショートサイズのエアフローパーツを取り付けた場合。通常のTシャツの場合はこちらの方がおすすめだ。後ろに排気するため本体が隠れると効率が落ちるため気をつけたい
ロングサイズのエアフローパーツを取り付けた場合。ワイシャツなど襟のある服はこちらの方がおすすめだ。大は小を兼ねるということで常時ロングサイズでも良いのだが、飲み物を飲むときや上を向く時、ポジションによっては頭に当たることがある
REON POCKETシリーズはネックバンドの固定仕様が共通化されているため、サポート外ではあるがREON POCKET 5にREON POCKET 3のネックバンドを取り付けることも可能だ
ネックバンド4(左)とネックバンド3(右)、スリットが1本入っている程度しか見た目の違いはないが、ネックバンドの可動部分に若干の違いがある。

センサー周りは変わらず

 サーモモジュールも空冷ファンも、性能こそ違うものの、ほかのペルチェ素子を採用したパーソナルクーラーと仕組み的に違いはない。REON POCKETはそれに加えてセンサーの情報を活用した多くの動作パターンを持っている。

 他社が冷感慣れ対策として温度の上げ下げをするウェーブモード程度しか導入できていない現状、ここが差別化ポイントとなっている(正確には扇風機とのハイブリッド型など独自の進化はあるのだが割愛する)。

 そのセンサー周りだが、REON POCKET 5は

  • 温度センサー×3
  • 温湿度センサー×1
  • 加速度センサー×1

と昨年のREON POCKET 4と比べてセンサー構成に変更はない。

昨年のREON POCKET 4のセンサー構成

 また、昨年登場したオプションのREON POCKET TAGは型番を含め変更がなかった。

 そのため、既にREON POCKET TAGを持っているユーザーは、REON POCKET 5のタグ同梱版を購入する必要はない。正確に言えば今年のモデルからは紛失防止のための丸形の金属製リングが付属するようになっているが、そのために買い換える必要はないだろう。

 REON POCKET TAGについては1つのタグを複数のスマートフォンに紐付けることが可能だ。そのためたとえば2台のスマホ+2台のREON POCKET+1台のApple Watchといった環境でもREON POCKET TAGは1台あれば問題ない。

 REON POCKET 5でも冷却と温熱を自動で切り替えるSMART COOL⇔WARM MODEと温熱を自動で制御するSMART WARM MODEを使用する場合は引き続きREON POCKET TAGが必須となる。

センサーの構成は

  • 温湿度センサー×1
  • 照度/近接センサー×1
  • 加速度センサー×1

となっている。

 2024年4月のファームウェアアップデートで、今までタグに障害物で覆われていないか程度にしか使われていなかった照度/近接センサーが、直射日光や周辺の温度の検知に対応したことで、より意味のあるデバイスになったことは間違いない。

REON POCKET TAG。クリップが緩い設計のため筆者は別途ジョイントクリップが先に付いたスプリングストラップをダイソーで購入し取り付けている。
REON POCKET TAGのセンサー構成

電池の持ちが良くなった

 これまでREON POCKETはせいぜい3~4時間しか使えないため外出中にバッテリが空になってしまうことは「当たり前」だった。

 しかし、REON POCKET 5は昨年のREON POCKET 4と比較して約1.8倍長く使用ができるという。ただ、これはあくまでも一定に冷やす「COOLレベル4」の場合であり、「SMART COOL MODE」ではどうなるのか気になるところだ。ここは後ほどベンチマークしていく。

実際に使ってみる

 続いて、実際にREON POCKET 5を使用してみよう。

 ここで登場するREON POCKETは旧機種も含め、本体ソフトウェアバージョン1.51.2、TAGソフトウェアバージョン1.3.0、アプリバージョン1.50.0にて評価を行なっている。

センサーの情報を取り入れ素早く反応する

 多くのユーザーが夏場に利用するSMART COOL MODEをREON POCKET 5で使用する場合、

  • ぬるめ
  • ややぬるめ
  • ふつう(おすすめ)
  • やや冷ため
  • 冷ため

の5つのプリセットから選び利用する。これらのモードはそれぞれに設定されたターゲット温度と呼ばれる目標に向かって温度を下げていき、冷却慣れ(ずっと同じ場所を冷やしていると人間の感覚が慣れてしまう)対策で温度を一時的に上げまた下げる動きを基本としてセンサーによる情報も取り入れ動作するモードだ。

 その状態で衣類内の温度/湿度が高くなると、より冷たいターゲット温度に変更されたことが表示されるようになった。PCで言えば自動オーバークロック機能のようなものだ。この表示されるタイミングが絶妙で、自分は暑く感じているにもかかわらず、REON POCKETが冷やしてくれないといったミスマッチはかなり減ったように思える。

 この制御はREON POCKET 5限定と記載があるわけでもないのだが、筆者はこの表示を今のところREON POCKET 5利用時でしか確認ができていない。

 筆者は日本よりも暑いエリアとなる香港などで試してみたが、基本的にはほぼ常時「衣類内の温度/湿度が高い」判定となり「首元に生ぬるい物体がある」といった不快な気持ちになることはほとんどなかった。「冷却慣れ」について今回の世代でも解決したわけではないが、年々マシにはなってきているように思える。

 なお、香港はREON POCKET 4のタイミングで海外展開された初のマーケットであり、REON POCKET 5でも引き続き利用可能だ。執筆時点でREON POCKET 5は海外展開にあわせて日本、香港、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、イギリスで利用が可能となっている。

夏場ではおそらくこのような表示が続くだろう
SMART COOL⇔WARMモードでなくてもREON POCKET TAG側で強めにすることがある
高温環境下でも表面温度の冷たさはなんとか維持できていた

電池の持ちを検証

REON POCKETのスペック比較表。COOLレベル4での駆動時間は世代が上がるにつれて約2倍になっている

 良くなったと言われる電池の持ちについてベンチマークしていく。

 通常のCOOLであれば一定の出力を出すだけなので楽だが、SMART COOL MODEはセンサーの値を元に動作するため、ただ机に置くだけでは評価が難しい。

 そこで今回は、リフローはんだ付けで使うホットプレートを人肌温度相当で運用する。

 AliExpressにて2,000円くらいで購入できるこのホットプレートは、0℃から350℃まで設定が可能だ。設定温度範囲が100℃~という製品もある中、筆者のような道から外れた用途で使いたい人には嬉しい仕様と言えよう。

 ただ、実際は何もしなくても32℃くらいの表示になってしまうため、少なくともそれ以上の温度で運用する必要がある。今回は38℃を基準として定めベンチマークを行なった。なお、室温はおおよそ24~26℃の環境だ。

 また、このホットプレートはUSB PD 20Vで動作するため同時にUSBテスターのPOWER-Z KM002Cで(積算)電力量も記録する。これは冷たくしようとするREON POCKETと一定の温度を保とうとするホットプレートがぶつかり合うため、ホットプレート側にかかる電力量がある程度性能の指標になるのではないかという考えだ(あくまでも参考値と考えていただきたい)。

いつでも人肌を感じることができるが、設定をミスって火傷しないよう注意したい
ベンチマークしている様子
オレンジ線の電力量の角度が緩くなったタイミングがREON POCKETの電源が切れた時間となる。

COOLレベル4

 まずは、温度の上げ下げなどはせず、一定の出力で冷やすCOOLレベル4でベンチマークを実施する。公式ページの比較表に記載されている駆動時間と同じモードであり、筆者の所有のREON POCKETとの差を確認していく。

 REON POCKET 5は購入した直後ということもあり、電池の持ちは仕様と同じ7時間30分という結果になった。旧機種となるREON POCKET 4については-38分の3時間22分、REON POCKET 3については-18分の1時間42分と差が出ている。

COOLレベル4の結果

SMART COOL MODE「冷ため」、「やや冷ため」

 続いてSMART COOL MODEの「冷ため」、「やや冷ため」でのベンチマーク結果だ。

 このモードはバッテリの減りが早い代わりにターゲット温度が低くなるモードとなる。

SMART COOL MODE「冷ため」の結果
SMART COOL MODE「やや冷ため」の結果

 REON POCKET 4と比較して最も冷やそうとする「冷ため」では駆動時間は約2倍の3時間8分というスコアとなり、「やや冷ため」では駆動時間は4時間51分と約3.1倍というスコアとなった。「やや冷ため」で5時間に迫る駆動時間となるため日中使うくらいであれば十分対応できるだろう。また、ふつう(おすすめ)に下げれば更に長い駆動時間も期待できそうだ。

 本来であれば「ふつう(おすすめ)」で実施するべきなのだが、今回のベンチマーク環境だとREON POCKET 5が「適切な温度」と認識してしまい、省電力での動作に切り替わり、約40分後に動作が停止してしまう。REON POCKET 5のみターゲット温度に到達した状態で運動をしていないと見なされるのか、手を抜かれるようだ。

 対策として、常時ホットプレートごと動かしながらベンチマークを行なえば、加速度センサーにより動き続ける可能性はあるのだが、今回そこまでの準備は間に合わなかった……。

 一方REON POCKET 3、REON POCKET 4は「冷ため」、「やや冷ため」でもほとんど結果は変わらなかった。グラフにはしていないが、「ふつう(おすすめ)」でもほぼ同じ結果となっていた。どのモードでもターゲット温度まで到達できておらず温度を下げようと全力で動いた可能性はありそうだ。

まとめ

 今年のREON POCKET 5は見た目も昨年のREON POCKET 4に近く、REON POCKET TAGのような飛び道具もなかった。そのため筆者は正直映えない内容だなと感じていたのだが、実際に使ってみると新型サーモモジュールと空冷ファンによるパワーと駆動時間、より積極的に使うようになったセンサー制御……と大きな変化を感じ取ることができた。PCで言えばCPUのアーキテクチャが変わったようなイメージだ。

 特に駆動時間については誰でも感じ取れるポイントで、モバイルバッテリなしで日中使えるレベルにまで到達したと言えるだろう。

 ただ、その一方でペルチェ素子を使ったクーラーの宿命でもある冷感慣れや、未だにAndroidしか対応しない電池切れ通知、Apple Watchしか対応しないREON POCKET TAGの気温/湿度表示などまだまだ改善すべきポイントは残っていることも事実だ。

 ほかにもラベルがレーザー刻印になったことや、製造国が日本から中国になったことなど書こうと思えばいくらでもあるのだが劇場版クラスのレビューになってしまうためこのあたりでグッと我慢することにする。

 では、今年のREON POCKET 5は買い時かと問われたら筆者としては「買い」と答える。

 これまで気になっていたけれど手を出していなかった読者は、内部が一新された今が買い時なのは間違いないし、既にREON POCKETを所有している読者も買い換えるだけで大幅に駆動時間が延びるのだからメリットは大きいだろう。

 次にREON POCKET 5単体とREON POCKET 5+REON POCKET TAGのセットどちらを選べば良いか迷うところだが、

  • SMART COOL⇔WARM MODEを使いたい
  • SMART WARM MODEを使いたい
  • スマホアプリ、Apple Watchで気温と湿度が見たい
  • 太陽光でREON POCKET 5を制御したい

の中で1つでも当てはまるのであればセットを選べば良い。ただ、後から購入すると割高なので可能であればセットを買った方がお得と言えるだろう。

 外部のセンサーが準備されているという性質上勘違いされやすいのだが、REON POCKET TAGがなくても「冷」、「温(センサー制御なし)」どちらも対応できるため安心してほしい。