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厚さ0.3mmで10Wの熱輸送が可能なループヒートパイプ。名古屋大
2025年4月3日 11:51
名古屋大学大学院工学研究科の長野方星教授、渡邉紀 特任准教授、佐々木純博士前期課程らの研究グループは、ポーライトと共同研究で、厚さ0.3mmで10W(10W/平方cm)の高熱密度に対応できる「超薄型ループヒートパイプ」の開発に成功したと発表した。
現在モバイル機器に使われているグラファイトシートは、薄く柔軟性はあるが、あくまで固体熱伝導による拡散型の放熱手法であり、高熱密度に対応しきれない課題がある。これに対してヒートパイプやベイパーチャンバーは、液体の蒸発潜熱を利用した高効率な熱輸送が可能だが、薄型化に伴って流路内の液供給に制約が生じ、熱輸送性能が急激に低下する傾向があったという。
今回開発されたのは、ウィックと呼ばれる多孔質体(スポンジ構造)で生じる毛細管現象をポンプ駆動力として利用し、電力を使用せずに半永久的に熱を輸送できる受動的冷却技術。蒸発器内のウィックにのみ毛細管力を働かせ、液体と蒸気の流路を分離。これによりヒートパイプやベイパーチャンバーと比較して圧力損失を小さくでき、長距離かつ高熱密度な輸送を実現できるという。
制作では、2枚の銅箔をエッチング加工により流路を形成した後、銅粉末を焼結したウィックを組み込み、レーザー溶接により気密性の高い構造体として一体化。冷媒として水を使用し、流路詰まり防止と、流動を安定化させる柱(ピラー)構造を導入。あらゆる姿勢で動作できるよう、二次ウィックを設けて液供給の安定性を確保。設計段階から数値モデルに基づく小型最適化を実施し、薄型化/高性能化/実装性の三立を達成できたという。
充填率の異なる複数条件下での動作性能評価に加え、モバイル機器への搭載を見据えて水平/上下/縦横方向の姿勢でも特性評価を行なったところ、いずれの姿勢でも10Wの熱を安定して輸送できることを確認。放熱性能は約18,000W/m/Kに達するといい、熱伝導性の高い銅の約45倍、グラファイトシートの約10倍だとしており、極薄ながら高い放熱能力を有することが実証された。
今回の研究結果は、スマートフォンやタブレットといった小型/薄型電子機器における熱管理技術の高度化に寄与すると期待される。