後藤弘茂のWeekly海外ニュース
AMDが第2世代RyzenやAPU版Ryzen、モバイル版Vegaなどを一挙発表
2018年1月8日 14:18
製品ラッシュとなるAMDの2018年
AMDは、米国ラスベガスで開催される家電ショウ「CES」に合わせて、CPUとGPUのロードマップを刷新。CPUとGPUを統合したAPU(Accelerated Processing Unit)版のRyzenをフルラインナップで投入することも発表した。
CPUのロードマップの目玉は、12nmプロセスの第2世代「ZEN+」が早くも今年(2018年)4月から投入されると発表されたこと。Thread Ripperも、ZEN+世代で刷新される。さらに、7nmプロセスのZEN2と、7nm+のZEN3がそれに続く。ファウンドリであるGLOBALFOUNDRIESの7nmプロセスは、すでに半導体学会IEDMで12月に発表されており、プロセス微細化の道が開けている。
GPUでは、モバイル向けのディスクリートGPU「Radeon Vega Mobile」が発表された。Vega MobileはミッドレンジGPUでありながらHBM2メモリを採用して電力効率を高めたことが大きな特徴だ。さらに、7nmもGPUより先に採用し、Vegaの7nm版を投入する。
APU版Ryzen(Raven Ridge(レイヴンリッジ))は、モバイル向けのRyzen 7/5で先行しているが、さらにモバイルのRyzen 3ブランドとデスクトップ版も今年第1四半期に登場する。さらに、企業向けの「Ryzen Pro」ブランドも投入される。
プロセス技術と同期して進化するZEN
AMDは、CES直前に開かれた技術イベント「AMD Tech Day」で、CPUとGPUのロードマップを刷新した。CPUでは、ZEN CPUコア製品を今後3ステップ進化させる。ほぼ毎年、新しいZEN CPUコアが登場するペースだ。CPUコア刷新のポイントは、プロセス技術の進化。プロセス技術が、AMD CPUコアの進化を後押ししている。
現在のZENコア製品はいずれもGLOBALFOUNDRIESの14nm「14LPP」プロセスを採用している。しかし、第2世代の「ZEN+」では、製造プロセス技術は12nm「12LP」となる。GLOBALFOUNDRIESの12nmプロセスは、現行の14LPPからの派生プロセスで、高性能化とダイ(半導体本体)面積の縮小が利点だ。ZEN+も現行のZENコアより高クロックとなる見込みで、AMDでは10%以上の向上を見込んでいる。
ただし、12nmでのダイ面積の縮小は、使用するスタンダードセルライブラリのセルハイト(セルの縦の長さ)の縮小などを行なわなければ大幅には実現できない。ZEN+ではセルの大幅な変更はないと見られ、ダイの縮小も謳われていない。
ZEN+では、マイクロアーキテクチャレベルの拡張はフォーカスされていない。しかし、パフォーマンスブースト制御の技術も2世代目の「Precision Boost 2 Technology」となり、その面での性能向上も見込むことができる。ZEN+では現在、CPU製品が予定されている。ZEN+ベースのCPUは、すでにサンプル出荷を始めており、2018年4月に正式発表される予定となっている。
CPUコアで次に登場するのは「ZEN 2」。7nmプロセスで製造される。プロセスを移行するだけでなく、ZENマイクロアーキテクチャも拡張する。そのため、コードネームもZEN 2と、新しいナンバリングとなっている。
ZEN 2に続くのは「ZEN 3」。「7nm+」とされているEUV版の7nmプロセスとなる。同じ7nmでも、EUV版は製造プロセスの露光技術が変わり、プロセスのフィーチャが刷新される。7nmより7nm+の方が、トランジスタのサイズがより微細となり、スタンダードセルも小型化される。
つまり、より多くのトランジスタを搭載した高性能なチップが製造可能になる。GLOBALFOUNDRIESの7nmプロセスは、Intelの10nmプロセスとフィーチャサイズ的には非常に近い。7nmでIntelにプロセスでも追いつくというのがAMDのプランだ。
7nmプロセスのGPUも開発が完了
GPUロードマップでは、モバイル向けディスクリートGPUと、次世代の7nmプロセスGPUが登場する。
CESでは、まずミッドレンジ向けのVega GPUが「Radeon Vega Mobile」として発表された。現在のハイエンド向けVegaより小規模なGPUだが、HBM2をメモリとして採用する。従来のGPUメーカーは、性能/電力に優れるが高価格なHBM系メモリはハイエンドGPUだけに採用、ミッドレンジ以下のGPUにはGDDR系メモリを採用してきた。そのため、Radeon Vega Mobileは、GDDR系メモリを採用するミッドレンジGPUに対しては、メモリ帯域あたりの消費電力で大きな利点を持つ。
HBM2は1スタックとしてコストを抑えている。さらにモバイル向け製品の大きな特徴として、パッケージの厚みであるZハイトを大幅に抑えた。厚みはわずか1.7mmで、廃熱設計に余裕を持たせた薄型ゲーミングノートPCや薄型ワークステーションを設計可能だ。
さらに、Vegaアーキテクチャの第2世代GPUが登場する。2世代目のVegaは、7nmプロセスとなる。AMD初の7nmチップだ。7nm版Vegaは、まずGPUコンピューティング向けのRadeon Instinctブランドが投入されるが、7nm版Vega自体はサーバーからグラフィックス製品までフルスペクトラムでカバーできるアーキテクチャとなっているという。7nm版Vegaは今年(2018年)中にサンプル出荷される。
7nm版Vegaに続いて、GPUの内部アーキテクチャを刷新した「Navi」が7nmプロセスで登場する。Naviの後には、EUV版7nm+の次世代GPUが控えている。また、AMDは12nmプロセスのGPUの開発も示唆している。Vegaの12nmプロセス版は、ローコスト版として登場する可能性がある。
モバイルAPUはフルラインナップに
高性能なCPUコアとGPUコアの両方を揃えるAMDの、クライアントコンピューティングでの強味はAPUにある。AMDはAPU版Ryzen(Raven Ridge)で、その利点を活かすことができる。とくに今回は、APUに最新のCPUコアだけでなく、最新のGPUコアを統合した点が大きい。従来のAMD APUは、GPUコアは1世代遅れたコアとなっていた。今回は統合GPUコアの開発サイクルを前にずらして、最新GPUコアの統合を実現した。
Raven Ridge自体は、4個のZEN CPUコア、11 CU(Compute Unit)構成のVega GPUコアを搭載する。L3キャッシュの量はフルで4MBとCPU製品と比べると減らされている。メモリインターフェイスはDDR4が2チャネル。14LPPプロセスだ。Raven Ridgeのフル構成から派生させて、さまざまなSKUを作り出している。
APU版Ryzen Mobileでは、すでに「Ryzen 7 2700U」、「Ryzen 5 2500U」の2製品が発表されている。どちらも4 CPUコア/8スレッドで、CPUコアの動作周波数は上位のRyzen 7 2700Uがブースト3.8GHz/ベース2.2GHz、Ryzen 5 2500Uが3.6GHz/2.0GHz。GPUコアの構成は、Ryzen 7 2700Uが10 CU(Compute Unit)、Ryzen 5 2500Uが8 CUとなる。各CUはそれぞれ64個の32-bit浮動小数点演算ユニットを持つ。
モバイルAPUで新たに発売されるのは「Ryzen 3 2300U」、「Ryzen 3 2200U」の2製品。2300Uが4コア/4スレッドで6 CU GPU、2200Uは2コア/4スレッドで3 CU GPUとなっている。Ryzen 3ベースのノートPCも、第1四半期に登場予定だ。また、企業向けのRyzen Proも7/5/3の3製品が入される。
デスクトップAPUは2TFLOPSの性能
APUのデスクトップ版は、型番の末尾に「G」がつく。「Ryzen 5 2400G」「Ryzen 3 2200G」の2製品が投入される。上位のRyzen 5 2400Gは、4コア/8スレッドで、ブースト3.9GHz/ベース3.6GHz、GPUコアは11 CUのフルスペックとなっている。価格は挑戦的で、169ドルとしている。
下位のRyzen 3 2200Gは、4コア/4スレッド、ブースト3.7GHz/ベース3.5GHz、GPUコアは8 CUで、価格は99ドル。対Intelを強く意識した、戦略的な価格となっている。
性能面では、11 CUをベースの1,240MHzで動作させた場合でも、FP32性能は1.75TFLOPSに達する。CPUコアと合わせれば、全体で2TFLOPSクラスの演算性能となる。APUとしては従来から性能が大きく向上する。
AMDのメッセージとしては、Intel CPUとNVIDIAディスクリートGPUの組み合わせに匹敵する3Dグラフィックス性能を、単体APUで実現できるというものだ。同じTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)のIntel製品と比較では性能に差をつけるとAMDは説明する。
AMD全体のデスクトップ製品ラインナップで見ると、2017年はトップツーボトムでCPU製品だったのが、2018年にはミッドレンジとエントリにAPUが入る。そして、CPU製品は第2世代のZEN+ベースへと移行する。昨年(2017年)からのAMDの製品ラッシュは、今年になっても続くことになる。