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AMDがCPUをフル3D積層へと進化させるビジョンを発表

AMDのLisa Su(リサ・スー)CEOが半導体カンファレンスで発表

 AMDの目指すゴールは、完全な3D統合ソリューションだ。CPU、GPU、DRAM、NVM(Non-Volatile Memory:不揮発性メモリ)など、すべてを1パッケージに統合する。3D積層技術を使って、チップ同士を積層し、チップサイズのパッケージの中に、コンピュータが必要とする全てを搭載する。言い換えれば、3Dスタッキングで究極のシステム統合を実現する、これがAMDの野心だ。

Lisa Su氏
AMDの目指す3Dシステム統合のビジョン
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 AMDのLisa Su(リサ・スー)氏(President and Chief Executive Officer,AMD)は、米サンフランシスコで開催された半導体学会「IEDM(IEEE International Electron Devices Meeting)」で、同社の技術ビジョンを発表した。IEDMは半導体のデバイス技術の学会であり、ファブレスの半導体チップメーカーであるAMDが基調講演にあたるプレナリセッションを行なうことは珍しい。もっとも、スー氏自身は「IEDM Best Student Paper」を取ったことがあり、IEDMとのつながりは深い。

 スー氏は、過去10年ほどのCPUとGPUの性能は、サーバーCPUで約2.4年に2倍(SPECInt_rate2006)、GPUで約2.1年に2倍(単精度浮動小数点演算)のペースで向上して来たと説明。下の図のサーバーのベンチマークは、マルチコア向けの並列化したSPECInt_rateなので、コア数の増加も反映している。また、システムレベルでのサーバーの性能/電力も約2.4年に2倍のペースの向上だったと語った。言い換えれば、マルチコアCPUとGPUの性能/電力は、過去10年の間は、1.5~2年で2倍の性能向上だった以前と比べるとかなり鈍化しながらも、それでも一定のペースで延びてきていたことになる。下がIEDMでスー氏が示したベンチマーク結果だ。

2PサーバーCPUの整数演算性能の向上は約2.4年に2倍ずつのペース。SPECInt_rate2006で、CPUコア数の増加を反映したベンチマーク結果
GPUの単精度(FP32)浮動小数点演算性能の向上は約2.1年に2倍ずつのペース
サーバーCPUのシステムレベルの性能/電力の向上も約2.4年に2倍ずつのペース

プロセス技術だけでは性能が向上しなくなった

 これをさらに細かく見ると、過去10年の間にプロセス技術は45nmから32nm、20/22nm、16/14nmと移行した。しかし、トランジスタ密度とテクノロジレベルでの電力効率は、約3.6年に2倍ずつしか向上していないとスー氏は説明する。かつてはプロセス技術によってプロセッサの性能が、約1.5年に2倍のペースで向上していたのが、過去10年はそうならなくなってた。

プロセステクノロジによるオペレーションあたりの電力とトランジスタ密度の向上

 プロセス技術だけではプロセッサの性能向上のペースは大幅に落ちた。その状況で、AMDは2.4年で2倍のペースで性能を伸ばしてきた。ここに、乖離が見られる。AMDは、過去10年間はシステムアーキテクチャやソフトウェアなど、さまざまなアプローチで性能のギャップをカバーして来たと言う。

 AMDによると、2.4年で2倍の性能向上のうち、半導体技術による向上はCPUで40%程度、GPUで35%程度だったという。では、どうやって残りの60%以上の性能向上を実現したのか。スー氏によると、次のような改良がなされたという。まず、ダイサイズの大型化、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の引き上げといった力技的なアプローチ。加えて、プロセッサのマイクロアーキテクチャの改善とコンパイラ技術の改良、そして電力管理の強化だ。

過去10年間のCPUの性能向上は、プロセス技術によるものが40%で、残りはほかの方法によるもの
過去10年間のCPU性能向上
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サーバーではマルチダイ化によって性能を引き上げ

 AMDによると、サーバーCPUのTDPは、過去に年あたり約7%強ほど漸増させて来たという。GPUについてはそれ以上のペースで上げて来た。電力の内訳では、コンピュテーション以外の比率がかなり高いことがわかる。ダイサイズについては、とくにサーバーCPUで急激に伸ばしてきた。これは、AMDの場合、MCM(Multi-Chip Module)技術によるマルチダイ構成を取り始めたからだ。2010年代からは、AMDのハイエンドサーバーCPUはマルチダイとなり、300平方mmクラスのダイを2個、1パッケージに封止するようになった。合計するとダイサイズは600平方mm越えとなる。下の図はそれを反映している。

オレンジがGPUのTDP、ブルーがサーバーCPUのTDP。どちらも漸増して来た
サーバーCPUの電力では、コンピューテーションは3分の1程度、ほかのユニットが3分の2を占めている
サーバーCPUパッケージとGPUのダイサイズ。サーバーCPUは、マルチダイ構成の複数ダイの合計値を示している

 このように、AMDは、ダイサイズを拡張(マルチダイ構成)し、TDPも引き上げることで、プロセス技術の向上の鈍化を補って性能を向上させた。ダイサイズの拡大は、CPUコア数の増大を意味している。現在は、CPUコアの性能を、電力効率を維持しながら引き上げることが難しい。そのため、サーバーCPUでは、パッケージあたりのCPUコア数を増やす方向へと向かっている。結果としてダイサイズが増大してきた。

マイクロアーキテクチャやシステムアーキテクチャ、省電力

 しかし、マルチダイにしてTDPを引き上げても、プロセス技術と合わせて、目指す性能向上の60%にしかならない。残りの40%の性能向上はどうしたのか。AMDによると、1つはプロセッサのマイクロアーキテクチャやシステムアーキテクチャの拡張、もう1つは電力管理の強化、加えてコンパイラの最適化だという。

 アーキテクチャ面では、CPUコアについては、K10系からBulldozer(ブルドーザ)系、そしてZEN系へと強化して来た。Bulldozerもシングルスレッド性能ではパッとしなかったが、ダイと電力当たりの性能効率は向上した。GPU側では、GCN(Graphics Core Next)系へとアーキテクチャを大きく変えて、性能効率を進化させた。また、システムアーキテクチャでは、周辺機能の統合によるSoC化を進めてきた。

サーバーCPUのアーキテクチャ上の性能の伸び

 電力制御は、AMDで過去10年間に大幅に高度化した要素だ。AMDは、さまざまな省電力機能をCPUコアやGPUコア、APU(Accelerated Processing Unit)全体に盛り込んできた。パワーゲーティングやクリティカルパスモニタ、ドループ対策回路、CPUコア単位の電圧制御など、最近のAMDの開発努力の多くが省電力機能に費やされている。最新のサーバーCPUの「Epyc」では、省電力制御によって電力消費を54%にまで抑えているという。

EPYCでの電力消費。左が何もしない状態、右が省電力制御を行なった結果

プロセス技術による性能向上はさらに鈍化

 このように、過去10年間、AMDでは、プロセステクノロジの進歩だけでは達成できなくなった性能向上を、ダイやTDPの拡張といった力業と、マイクロアーキテクチャや電力制御、コンパイラの高度化といったソフィスケイテッドされた技法の合わせ技によってカバー。2.4年に2倍のペースの性能と性能/電力の向上を達成してきた。しかし、今後の10年は、さらにハードルが高くなるとスー氏は語る。

 AMDは、今後10年は、プロセステクノロジによる性能向上は、さらにスローダウンすると予測する。また、プロセス技術が進化するにつれて、半導体チップの製造コストが急上昇して行くことも大きな問題だと言う。進歩がスローダウンするのと同時に、コストが上昇するという困難な状況になりつつある。スー氏のプレゼンテーションでは、今後10年も2.4年に2倍かそれ以上の性能向上を継続しようとすると、プロセス技術は30%程度しか寄与できないと示された。

プロセスが微細化するにつれて、チップのコストが急上昇して行く。7nm世代では14nm世代の2倍近いコスト、45nm世代の4倍のコストになるとAMDは試算する
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プロセステクノロジによる性能向上はさらに鈍化するとAMDは予測
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過去10年間と同様の性能向上を維持するには、新しいプローチが必要になるというのがAMDのビジョン
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現在のHBMの実装方式のような2.5D型ではなく、フルの3D積層を目指す

 では、その状況で、どうやって過去10年と同様、あるいはそれ以上の性能向上を実現するのか。ダイサイズとTDPの拡張はもはや限界に来ており、マイクロアーキテクチャと省電力制御も、過去10年ほどの向上は今後は望みにくい。

 AMDを率いるスー氏は、この状況の打開策は、3Dスタッキングによるマルチチップアーキテクチャと、メモリのオンパッケージ統合だと説明する。CPUダイとGPUダイ、DRAMダイ、不揮発性メモリダイなどをすべて3D積層で統合する。つまり、CPUのパッケージの中に、コンピュータシステム全てを積層して入れ込んでしまう。そのアプローチによって、初めて性能向上を継続できるとAMDは見ている。

 面白いのは、Intelも2.5Dだが積層型のシステムインパッケージを今後のCPUのビジョンとして掲げていることだ。PCのシステムチップの2大ベンダーが、ともに、パッケージ技術の革新によるシステム統合へと進んでいる。

IntelとAMDそれぞれのビジョン。ただし、Intelのはより近い将来、AMDの方はより遠い将来を見たものだ
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