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もはや16:9は古いのか?16:10に進化した「ThinkPad X1 Carbon Gen9」の改良点を探る

ThinkPad X1 Carbon Gen9

 レノボ・ジャパンから第11世代Coreを搭載する「ThinkPad X1 Carbon Gen9」が発売された。ThinkPadシリーズの堅牢性、13.3型よりもわずかだが大きく見やすい14型ディスプレイ、クラムシェル構造、ThinkPadならではのセキュリティ機能が利用できるなど、ビジネス向けモバイルノートの定番モデルだ。直販価格は執筆時点で16万円台から(クーポン適用価格)。

 新モデルでもThinkPadらしさやX1 Carbonのこだわりは継承されているが、大きな変更として液晶パネルのアスペクトが16:10へ、それに合わせて筐体にもいくつか変更箇所がある。使い勝手やパフォーマンスを中心に第9世代の進化を確認していこう。

16:10化で使い勝手が向上したGen9

 ThinkPad X1 Carbon Gen9の大きな変更は冒頭で述べた通り、1つが第11世代Coreを採用したことで、もう1つはディスプレイのアスペクト変更だ。

 フルHD(1,920×1,080ドット)や4K(3,840×2,160ドット)に代表されるように、現在スタンダードなディスプレイアスペクトは16:9である。一方、X1 Carbon Gen9で採用されたのは16:10だ。評価機に搭載されていたのは1,920×1200ドットのパネルでスペックについては後で説明するとして、まずパネルの変更によって本体サイズにも違いが出ている点を紹介しよう。

ディスプレイパネルのアスペクトを16:10に変更したThinkPad X1 Carbon Gen9

 X1 Carbon Gen9の本体サイズは314.5×221.6×14.9mm(幅×奥行き×高さ)であり、前世代のGen8との差はわずかだが、幅は8.5mm短く、奥行きは4.6mm長くなっている。専有面積はGen9のほうが小さくなっているのだが、16:9の14型ノートでギリギリのサイズのカバンを使っていた人は注意が必要かもしれない。

幅はより短く、奥行きはわずかに拡大したが14型(狭額縁)のサイズ感は変わらず、携帯性、生産性のバランスがよい

 アスペクトの変更で大きく変わるのはディスプレイの情報量、そして使用感だ。横解像度1,920ドットで比較をすると16:9なら縦1,080ドット、16:10なら縦1,200ドットで120ドットの差がある。わずか120ドットだが、実際にアプリケーションを表示させてみると情報量はかなり違うように感じる。

 たとえば、スケール100%でGoogle スプレッドシートを表示させてみると、1,920×1,080ドットでは1画面に42行だが、1,920×1200ドットでは47行となった。5行分多く表示できるため、データ量が多い場合に把握しやすいといったメリットがある。

 一方で、厳密に言えばドットピッチが異なり、同じ100%スケールでも16:10は文字が小さくなる。つまりドットピッチに違いがある。使い手の視力にもよるが、スケーリングを要調節となる場合もあるだろう。

ThinkPad X1 Carbon Gen9(左)と、筆者所有の同Gen5(右)
16:10のGen9は47行まで表示でき、16:9のGen5は42行まで。色味の違いは次で紹介する

 レノボの直販サイトでのカスタマイズでは、1,920×1,200ドット(WUXGA)のほかに3,840×2,400ドット(同社ではWQUXGAと表記)も用意されている。マルチタッチ対応や斜め後方からの覗き込みを防止するThink Privacy Guardの搭載有無など、ニーズに合わせて選択可能だ。

 また、古い世代のThinkPadは青みが強い独特の色味が特徴だったが、X1 Carbon Gen9は標準構成のパネルでもsRGB 100%、WQUXGAパネルではDCI-P3 100%の色域とHDR対応となる。ここは大きな改善点と言えるだろう。

ThinkPad X1 Carbon Gen9の色味

 上部ベゼルにはWebカメラを搭載している。1つは720p映像用、もう1つはIRカメラ。Windows Helloでの顔認証ログインが利用できるほか、非使用時には物理的にレンズにフタをするプライバシーシャッターを備えている。

 指紋認証も利用可能で、従来モデルでは指紋認証センサーの位置がトラックパッドの横だったが、X1 Carbon Gen9ではキーボード面右上にある電源ボタンに統合された。キーボード面がよりシンプルでスッキリとして見える。

720p映像およびIRカメラと、その右にはプライバシーシャッター用のスライドスイッチがある
横長形状になった電源ボタンは指紋認証センサーを兼ねている

 液晶パネルを180度まで開くことができるのは従来同様だ。パネルアスペクトの変更で少し奥行きが広くなったため、キーボード面、特にパームレスト部にはゆとりが生まれている。

 そのほか、キーボード左右にスピーカーが搭載された。ここは内部レイアウト、インターフェイスのレイアウト変更によって実現した部分だ。

従来同様、液晶パネルをフラットになるまで開くことができる
X1 Carbon Gen9のキーボード面

 キーボード配列には変更がない。数世代に渡り同じ配列を受け継いでくれるところが、ThinkPadのよいところだ。ThinkPad独特の配列と言えば、Fnキーと左Ctrlの並び、右AltとCtrlに挟まれたPrtSc(Print Screen)あたりだろうか。カーソル操作はGHBキーに囲まれた赤いトラックポイント、その下のトラックパッドのどちらでも行なえる。トラックパッドの無効化も可能だ。

キーピッチは約19mm
ドラックパッドも従来モデルより広くなった

 重量は約1.13kgで構成によって多少の違いがある。評価機は1.163kgだった。Gen8は公称1.09kgだったのでわずかに重くなっているようだ。とは言え1.1kg台であれば十分に軽量と言えるだろう。

重量は実測1.163kg

 ACアダプタは出力45W。USB PD対応だがいわゆるACアダプタ形状のもので、昨今の小型化が進むUSB PD充電器と比べると大きく感じる。最も、バッテリ駆動時間が十分に長いため、ACアダプタを持ち運ぶ必要はあまりないはずだ。

 一方で小型のUSB PD充電器はノートPCだけでなくスマートフォンやタブレットなど、普段携行する様々な機器で利用できることからも、製品付属のACアダプタはデスク上で、モバイルするのはUSB PD充電器といった使い分けになるだろう。

ACアダプタは45WでUSB Type-C形状(USB PD対応)

排気口が背面へ移設されて快適さもアップ

 続いてインターフェイスを見てみよう。左側面にはThunderbolt 4(USB 4)×2、USB 3.0×1、HDMI×1が、右側面にはUSB 3.0×1、Nano SIMスロット(オプションのWWAN搭載時。評価機は非搭載)×1、マイク/ヘッドフォンジャック×1がある。

前世代から有線LANの専用端子は廃止され、そのほかのインターフェイスはThunderbolt(USB Type-C)が3から4へと変わっているところがポイントだろう。HDMI出力も引き続き採用されている

 ThinkPadでは有線LAN用にイーサネット拡張コネクタを提供していたが、Gen9ではこれがなくなった。専用端子で接続することの安心感があった一方、昨今ではUSB Type-Cドック、Thunderbolt 3ドックで有線LANを利用するほうが一般的になりつつあるということだろう。

 無線LANはWi-Fi 6対応のIntel Wi-Fi 6 AX201を採用している。Wi-Fi 6Eではないが、Wi-Fi 6Eの6GHz帯はまだ国内では未承認なので問題ない。ただし将来認証が通る可能性を考えると、Wi-Fi 6E対応のIntel Wi-Fi 6E AX210をオプションとして提供してくれたならよりよかっただろう。

 また、評価機には搭載されていなかったが、SIMスロットが右側面に移設されている。ちなみに筆者手持ちのX1 Carbon Gen5では背面にあり、かつ液晶パネルを開いた状態では天板によって塞がれる格好だった。SIMカードの接触不良などを疑う際に、パネルを閉じることなく側面から簡単に確認できるのは地味によい改善だ。

 そして、X1 Carbon Gen9では排気口が背面へと移設されている。以前のX1 Carbonでは右側面に排気口があった。左右側面に排気口を置くこと自体はノートPCでは一般的でよく見られる。ただし、この付近にマウスを置いて利用していると排気熱が当たって注意を削がれる体験をした方も多いのではないだろうか。X1 Carbon Gen9ではそうしたことがなく、Gen5と比べて快適さは思いのほか向上しているように感じた。

底面には2つの吸気高がある。その先、背面部に排気口がある

 排気口の移設先は背面で、吸気口は底面のヒンジ寄り中央付近に2つ配置されている。吸気口は見て分かる通りデュアルファンである。吸気と排気はかなり近く、おそらくそこまで広範囲に熱が伝わらないのだろう。

 後述のベンチマーク中でもキーボード面の温度がGen5と比較して抑えられている印象だった。熱くなるのはキーボードよりもさらにヒンジ寄り、電源ボタンのあるスペースだ。一方、動作音はアイドル時ならよいが、高負荷時は負荷なりに大きく、静かな場所では気になった。

GPUも強力になった第11世代Core。メモリはLPDDR4xで32GBまで搭載可能

 CPUは第11世代Coreで、コードネームTiger Lake。10nm SuperFinプロセスを採用し性能を向上させている。評価機はCore i5-1145G7を搭載していた。ほかにもCore i5-1135G7やCore i7-1165G7/1185G7といった選択肢がある。

 Core i5-1145G7は4コア8スレッドでcTDP-upが28W/2.6GHz、cTDP-downが12W/1.1GHz、ターボ時最大4.4GHz、キャッシュが8MBだ。Core i7-1165G7も4コア8スレッドという点では同じだが、クロック設定が異なりキャッシュ容量も12MBと大きく、性能に違いがある。

 メモリはLPDDR4x-4266を採用し、容量は16GBだった。LPDDR4x-4266を採用する点はGen9世代共通のスペックで、容量に関しては8GB/16GB/32GBの3つがオプションで用意されている。32GBが選択できるのはよい点だろう。今や16GBは標準的な容量であり、2、3年先の将来を見据えれば32GB搭載してもよいくらいだ。

 GPU機能はCPUに統合されたIntel Xe Graphicsを利用する。Core i5-1145G7の場合は実行ユニットが80基で、1.3GHz駆動だ。

 例えばCore i7-1185G7だと実行ユニットが96基で1.35GHz駆動といった具合でスペック、性能に違いがある。Xe Graphicsは従来のUHD Graphicsからアーキテクチャを変更したことで3D性能が向上し、FPSタイトルを含むある程度のゲームを楽しめるようになっている。

 ストレージはM.2 NVMeを採用し、評価機ではPCI Express 3.0 x4接続で256GBモデルを搭載していた。プラットフォーム仕様としてはPCI Express 4.0 x4接続のより高速なNVMe SSDにも対応しており、カスタマイズではそうしたオプションも提示されている。容量も512GBや1TB、2TBと、必要な容量にカスタマイズすればよいだろう。

 なお、ビジネス向けの色が濃いThinkPadだけに、自己暗号化ドライブの「OPPAL」対応SSDも選択可能だ。

評価機に搭載されていたCドライブ用SSDの転送速度(CrystalDiskMark 8.0.1で計測)。シーケンシャルリードが3.4GB/s、同ライトが2.26GB/sでPCI Express 3.0 x4世代だ

【表1】販売モデルの主なスペック
ThinkPad X1 Carbon Gen 9
CPUCore i7-1185G7
Core i7-1165G7
Core i5-1145G7
Core i5-1135G7
メモリ8GB/16GB/32GB
SSD256GB/512GB/1TB/2TB
液晶ディスプレイ14型WQUXGA(3,840×2,400ドット)
14型WUXGA(1,920×1,200ドット) 10点タッチ、Privacy Guard対応
14型WUXGA 10点タッチ対応
14型WUXGA
OSWindows 10 Pro
バッテリ駆動時間約26時間
汎用ポートThunberbolt 4/USB 4×2、USB 3.0×2
カードリーダ-
映像出力Thunberbolt 4、HDMI
無線機能5G/4G LTE(オプション)
有線LAN-
WebカメラHD
セキュリティ顔認証センサー(オプション)
指紋認証センサー
その他音声入出力端子
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)約314.5×221.6×14.9mm
重量約1.13kg~

Core i5のわりに高スコアでバッテリ駆動時の快適さもよい

 それでは性能を評価していきたい。今回用いたベンチマークは、「PCMark 10」、「3DMark」、「Cinebench R23」、「Handbrake」。性能評価での電源設定は「最も高いパフォーマンス」、バッテリ駆動時間評価では「バッテリー/高パフォーマンス」としている。

【表2】評価機のスペック
ThinkPad X1 Carbon Gen9XPS 13(9310)
CPUCore i5-1145G7(4コア/8スレッド)Core i7-1165G7(4コア/8スレッド)
チップセットTiger Lake-U/Y PCHTiger Lake-U/Y PCH
GPUIris Xe Graphics(CPU内蔵)Iris Xe Graphics(CPU内蔵)
メモリ16GB LPDDR4x-426616GB DDR4
ストレージ256GB NVMe SSD1TB NVMe SSD
OSWindows 10 Home 64bitWindows 10 Home 64bit
【表3】基本ベンチマーク
ThinkPad X1 Carbon Gen9XPS 13(9310)
PCMark 10 Extended
Overall4,4174,530
Essentials Scenario9,8529,783
App Start-up Test13,17012,721
Video Conferencing Test7,8808,202
Web Browsing Tset9,2178,975
Productivity Scenario5,9606,706
Spreadsheets Test5,9796,092
Writing Test5,9437,383
Digital Content Creation Scenario5,0664,793
Photo Editing Test8,1007,807
Rendering and Visualization Test3,1192,922
Video Editing Test5,1474,827
Gaming Scenario3,4603,619
Fire Strike Graphics Test4,5635,130
Fire Strike Physics Test13,4389,953
Fire Strike Combined Test1,5271,447
3DMark
TimeSpy1,5221,504
FireStrike4,1094,163
NightRaid15,49612,059
WildLife10,744-
Cinebench R23
CPU(Multi Core)5,3874,680
CPU(Single Core)1,4171,425
HandBrake
4K/60p/MP4→フルHD/30p/H.264/MP4 Fast SW27.3720.19
4K/60p/MP4→フルHD/30p/H.264/MP4 Fast HW(iGPU)34.7426.85
4K/60p/MP4→フルHD/30p/H.265/MP4 Fast SW27.3920.91
4K/60p/MP4→フルHD/30p/H.265/MP4 Fast HW(iGPU)34.0226.02

 PCMark 10 Extendedのスコアを見ると、以前計測した同じTiger Lake搭載でCore i7モデルのXPS 13と比べても、それほど大きく離されていない。ストレージ性能も影響するが、前回の計測から月日が経っていることによる最適化度合い、そして各製品では冷却設計が異なることも影響しているのだろう。Cinebench R23のCPU(Multi Core)の結果も分かりやすい。

 3DMarkは例えばTime Spyで1,500ポイントを記録しているように、従来のIntel統合GPUよりも高い。ゲーミングと呼ぶにはまだ遠いが、負荷の小さい3Dゲームであれば設定次第で楽しめる。

【表4】バッテリ駆動時間
ThinkPad X1 Carbon Gen9XPS 13(9310)
PCMark 10 - Modern Office
駆動時間11時間19分9時間53分
PCMark 10スコア6,4347,066
1分あたりの処理性能9.4811.92

 Core i5らしさが出ているのはバッテリ駆動時間だ。バッテリ駆動時間と性能を両立させるバランス設定時の駆動時間でも半日に迫る結果が出ている。バッテリ容量の違いもあるが、TDP表記は同じでもクロックが抑えられている分だけ消費電力が若干低いことも考えられる。

 その代わりにバッテリベンチマークでのPCMark 10スコアは6,434。Core i7搭載モデルよりは低かったが、スコアとしては十分と言えるだろう。

【表5】ゲームベンチマーク
ThinkPad X1 Carbon Gen9XPS 13(9310)
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト
1,920×1,080ドット、最高品質11,56611,770
1,920×1,080ドット、標準品質13,27412,409
1,920×1,080ドット、低品質14,66314,835
World of Tanks enCore RT
超高(1,920×1,080ドット、RTオフ)5,1274,889
中(1,920×1,080ドット、RTオフ)10,25610,062
最低(1,366×768ドット、RTオフ)48,67247,079
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
1,920×1,080ドット、最高品質3,6252,959
1,920×1,080ドット、高品質(ノートPC)5,0114,417

 ゲームベンチマークは「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」、「World of Tanks enCore RT」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」を用いた。

 ドラゴンクエストX ベンチマークソフトに関してはなんら問題なく楽しめる。ただしこれは従来のGPUでも一定基準を満たしていたため分かりづらいだろう。

 一方、ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークは、フルHD、高品質(ノートPC)で「とても快適」の評価を得ている。スコアは5,011、フレームレートでは34.616fpsだ。最高品質でも「快適」評価だが、こちらは30fpsを下回るので、どちらかと言えば高品質(ノートPC)のほうがよいだろう。

 World of Tanks enCore RTは、超高設定で5,127(良好な結果)、中および最低ならすばらしい結果という評価だ。このように、軽量なゲームタイトルに関しては楽しむことができる。

フルモデルチェンジに近い使用感の向上を味わえる

 ThinkPad X1 Carbon Gen9は、液晶パネルのアスペクト比が16:10になったというだけではなく、合わせて各部も変更されて使い勝手が大きく向上している。より多くの情報が表示できることは生産性に寄与するだろう。

 合わせてトラックパッド面積の拡大、インターフェイスや排気口レイアウトの変更によって普段の操作感も従来モデルと異なる。筆者としてはよりよい方向に改良が進んだという印象だった。

 性能面では今回Core i5モデルだったため、製品としての最高のパフォーマンスが見られたわけではないが、第11世代Coreへと変更されたことでCore i5でも旧世代のCore i7級の性能が得られていることも分かった。

 一方で、バッテリ駆動時間やコストなどのバランスを考えれば、この通りCore i5の構成もかなり魅力的だ。これらを合わせると、今回のGen8→Gen9への世代交代は、マイナーチェンジというよりはフルモデルチェンジに近い進化と言えるだろう。