山田祥平のRe:config.sys

拝啓iPhone様、スタンダードの世界にようこそ

 USB Type-Cに対応したiPhone 15シリーズの販売が始まった。新シリーズの発売によって、スマホ周辺の充電事情が大きく変わることが期待される。といってもレガシーiPhoneがなくなりLightningがその役割を終えるまでには、まだ数年以上の歳月が必要だ。ただ、新しいiPhoneを購入しないまでも、これから新しく入手する各種ガジェットについては、ほんの少し先の未来を考慮しておきたい。

USB 30W入出力対応の頼もしいモバイルバッテリ

 神奈川/海老名のデジタルアクセサリーベンダーMotteruから、USB PD/PPS入出力30Wに対応した36Wh容量のモバイルバッテリが発売された。同社は質感やデザインにこだわった製品作りで知られるベンダーだ。個人的には、オシャレ路線のみならず、技術に裏付けされた硬派なベンダーの1つとして認識している。

 スマホをターゲットにした一般的なモバイルバッテリやUSB PD対応のACアダプタは、出力20W未満のものがほとんどだったが、この製品は30Wの入出力に対応している。

 USB Type-CとUSB Type-Aの2ポートを持ち、仕様としての定格は、

定格入力 USB Type-C:5V/3A、9V/3A、12V/2.5A、20V/1.5A [USB PD 30W]
定格出力 USB Type-C:5V/3A、9V/3A、12V/2.5A、15V/2A[USB PD30W、 PPS 3.3~11.0V/3.0A
USB Type-A:5V/3A、9V/2A、12V/1.5A[最大18W]

となっている。電力を入力してバッテリ本体に充電ができるのはType-Cポートだけで、Type-Aポートは出力のみだ。

 W(ワット)というのは電圧と電流を乗じた値で、単位時間に電流がする仕事量を示す。20Wと30Wなら、単純に1.5倍の仕事量ということになる。充電される側のデバイスが対応していれば、1.5倍の速度で充電ができるのだ。充電に要する時間は単純計算で66%になることが期待できる。

 先に書いたように、この製品は入力も30Wに対応している。スッカラカンになったこのバッテリを、60W超のUSB PD対応ACアダプタに、両端USB Type-Cの60W対応ケーブルで接続して充電したところ、仕様では2.5時間と記載されていたが、2時間13分で充電が完了した。本当は、もう少し高速に充電されることを期待していたのだが、過熱回避などの制御で安全が優先された結果だろう。比較のために併行して充電した同容量の18W充電対応モバイルバッテリと、充電に要する時間は変わらなかった。規格遵守という点ではUSB Type-Aポートの18Wが気になるが、これは見なかったことにする……。

 モバイルバッテリの場合、電力という仕事量を維持できる時間は、その容量に依存する。この製品の場合は、内部にリチウムイオン電池が実装されていて、容量は7.2V 5,000mAh/36Wh(3.6V/10,000mAh)とスペックに記載されている。過去において、モバイルバッテリの容量は、リチウムイオン電池の定格3.6V時のmAで換算されることが多かったが、インテリジェントな制御で出力電圧が変化するようになったことから、最近ではW表記で容量が記されることも多くなった。この製品の場合の容量36WhのhはHourの意味で時間のことだ。つまり、満充電状態から理論値として、30Wでの出力を1.2時間持続できることになる。

 これまでのモバイルバッテリが20Wh未満のものがほとんどだったのは、充電されるデバイス、つまり、iPhoneを含む多くのモバイルデバイスが20W未満にしか対応していなかったからだ。

 その一方で、タブレットやノートPCなどは、さらに大きな電力に対応しての急速充電ができる。そもそも電力が大きくないと、充電よりも稼働のために電力が使われ、その結果、充電中しているのにバッテリが減るという現象を目の当たりにする。

 iPadでは27W、MacBook Proなどは、90Wや100Wに対応する。高性能なPCは、稼働にも大電力が必要だ。そして、USB Type-C対応したばかりのiPhone 15は、14シリーズ同様に27W対応であるとされている。Androidスマホも30W超対応のものが増えつつある。

 実は、USB PD規格で60W超の電力を供給するにはケーブルも対応していなければならない。100W超は、さらに240W上限のUSB PD EPR規格に対応していなければならない。60W、100W、240W対応/非対応がケーブルの見かけではわからないのがなさけない。

 ちなみに、多くのノートPCは、稼働時に45W程度の電力が供給されないと、本体内蔵バッテリが減っていく。また、機種によっては30W程度の供給電力しかない場合は、充電を拒否することもある。これは、内蔵バッテリの放電と充電の切り替えが頻繁に起こらないようにして、内蔵バッテリをいたわり、保護するためだ。

 だが、最近は、バッテリの管理技術も向上し、小さな電力しか供給されなくても、遠慮なくもらってしまうという製品も少なくない。最新PCはさぼるのも上手なので、30W程度のモバイルバッテリ接続時でも、バッテリ駆動時間の延命には役にたつ。

 こうしたことから、USB PD対応のモバイルバッテリは、スマホはもちろん、ノートPCなどでも役にたたせる可能性を考えて、30W対応のものを選ぶのがいい。コンパクトで軽量なUSB PD 30W対応モバイルバッテリで、30Wの入出力ができる製品はまだほとんどない。だからこそ、このMotteruの30W対応モバイルバッテリは頼もしい。

185gでノートパソコンのバッテリ寿命を数時間延命

 今回使ったMotteruのモバイルバッテリは、EC販売用(MOT-MB10002-EC)と店舗販売用(MOT-MB10002)の2種類のモデルが用意されている。バッテリそのものの仕様は同じだが、同梱の充電ケーブルの長さやケーブルバンドの有無などが異なり、それぞれ4,980円、6,578円とEC版のほうが価格が安い。

 重量は185gとかなりの軽量だ。、一般的な同容量のモバイルバッテリは、ほとんどの場合200gを超える。その健闘は高く評価したい。カラバリについてはアーモンドミルクとペールアイリスの2色展開で、トレンドのくすんだ色味が女性にも受け入れられやすそうだ。この系統のカラーは雑貨でゴチャゴチャしたカバンの中で目立ちやすいというメリットもある。

 個人的に、その日の中でAC電源確保が難しく、PCのバッテリ駆動時間が不安なときには、この製品の倍容量である60Wが確保できる72Whのモバイルバッテリを携行していた。これだけあればまず大丈夫という安心感はあるが、その重量は340gあった。

 現行のWindowsモバイルノートPCは、ほとんどの場合、70Wh前後の容量のバッテリを内蔵している。軽量を目指したFCCLのLIFEBOOK UH-X/H1は25Whと半分以下のバッテリだ。それでも仕様として11時間のバッテリ駆動時間を確保している。話半分としても4~5時間程度は使える計算になる。

 そして、このUSB PD 30W出力対応の185gのバッテリを携行していれば、その駆動時間をさらに数時間延命できるのだ。実使用では、あと少し延命できればOKということも多く、追加の72Whを使い果たすということはほぼなかった。

 モバイルバッテリからモバイルデバイスへの充電は、バッテリからバッテリへの充電となり、効率が悪い。本当は、満充電に近い状態からモバイルバッテリを接続しておくのが望ましい。そうすれば充電に使わず、供給される電力が駆動のために使われるからだ。が、なかなかそうはいかない。たいていは、残り容量がわずかになってからモバイルバッテリに助けを求める。

 本当は、ピンチのときこそ急速充電を頼りたい。バッテリをケーブルで接続した状態で充電しながらデバイスを携行するのでは機動性が犠牲になるからだ。スマホのように30W程度しか受け入れられない場合なら仕方がないが、ノートPCのように60W超の電力を受け入れられる場合は、より高速に充電ができてほしい。

 仮に大きな電力を供給できるアダプタやモバイルバッテリがあっても、電力をもらって内蔵バッテリに充電するデバイスが対応していないと意味がないのだが、ノートPCならすでにいける。ノートPCとスマホの両対応のために大は小を兼ねるわけだ。こうした使い勝手や、各種デバイスの現状を考えると、今後のモバイルバッテリは、60W出力をサポートしてほしいし、出力のみならず、充電(入力)時も60Wあたりを目指してほしいところだ。

あらゆるものをUSB Type-Cで安心安全に充電

 とにもかくにも、あらゆるデバイスが、標準的なUSB PD対応の汎用モバイルバッテリ、USB PD対応の汎用ACアダプタ、汎用USB Type-Cケーブルで電力の供給を受けられる世界は、想像以上に便利だ。

 ちなみに、USB Type-C、USB-Cは、双方ともに、USB規格の仕様を策定するUSBインプリメンターズ・フォーラム(USB-IF)の登録商標(Trademark)だ。アップルもIntelもMicrosoftも同フォーラムのボードメンバーだ。ほかにはHP、ルネサス・エレクトロニクス、STマイクロエレクトロニクス、テキサスインスツルメンツ社がボードメンバーとして名を連ねている。

 なお、USB-IFによる「USB Type-C」の米国における登録商標出願は2015年3月、出願公告は2017年8月、登録が2019年6月となっている。正確には(R)をつけて表記すべきものだ。

 iPhone以外のスマートデバイスが享受してきたUSB Type-Cによる電力デリバリーの世界が、大きく拡がろうとしている。iPhoneがLightningをあきらめたことで、これからの各種デバイスはUSB Type-Cのことだけを想定すればいい。それによって、製造やサポートのコストも下がりそうだし、有象無象の製品が入り乱れるUSB Type-C対応製品の浄化も進むだろう。iPhoneでの動作確認で、挙動の怪しいUSB Type-C対応製品があぶり出されやすくなり、問題も見つけやすくなる。そのメリットは、既存のUSB Type-C世界が歓迎こそすれ、厄介者扱いする理由は何もない。

 これまでのLightningは、サードパーティ各社が対応製品を提供する場合、MFI(Made for iPhone、Made for iPadなど)と呼ばれるアップルの認証を取得する必要があった。このロゴのついた製品は、同社の品質管理を通過し、互換性が保証されている証だ。エンドユーザーはこのMFIロゴのついた製品を安心して購入し、使うことができていた。認証製品以外では充電ができないなど、製品を使えないことを経験した方もいるだろう。

 今回のUSB Type-C採用にあたり、このMFI認証は求められなくなり、両端USB Type-Cプラグのケーブルを使えば、規格に準拠した製品である限りiPhoneでの急速充電がサポートされる。

 iPhone周辺のサードパーティのビジネスモデルにも、多少なりとも影響を与えるだろう。認証取得に必要なパーツはアップルからしか調達できないなどのシバリもなくなるはずだ。それがすべていい方に向かうことを望みたい。それがスタンダードというものだからだ。

 さらには、ここが混沌とした世界であることも覚悟しておいたほうがいい。その洗礼が、同梱ケーブルがUSB 2.0の480Mbpsまでの対応で、10Gbpsのデータ伝送ができないiPhone Pro、Pro Maxだ。見かけではケーブルの性能が判別できないのが悩ましい。