山田祥平のRe:config.sys

シンREALFORCEキーボードの凄み

 ここのところのゲーミングブームでちょっとずつ、その存在感が変わってきているマウスやキーボードなどのHID。だが、そうじゃないレガシーデバイスとしての立ち位置もまだまだ健在だ。特に、キーボードは、PCを使った実務作業を縁の下で支える力持ちとして重要な位置づけだ。東プレ社のREALFORCEは、その叩き心地の追求で高い評価を得ているキーボードだが、その3代目となるR3キーボードが限定カラーバリエーションとしてアイボリーモデルを発売した。

アイボリー色が限定発売されたREALFORCE R3キーボード

 先日(2023年9月15日)、東プレ社がAmazonで300台の数量限定で発売した「REALFORCE R3 Keyboard Ivory Limited Edition」は、既発売のR3キーボードの限定カラーバリエーションで、2001年10月に発売された「REALFORCE 106キーボード」と同じアイボリー色が提供される。300台の数量限定で、価格は3万8,830円と、同じスペックの既存製品「R3HA22」よりも3,850円高い。それだけの話だが、限定カラーの限定販売がニュースになるブランドだ。

 R3キーボードは東プレ独自の静電容量無接点方式キースイッチを採用した一般用途向けのハイエンドキーボードで、Bluetooth無線とUSB有線を切り替えられるハイブリッド接続に対応する。スペックとしては既存モデルとまったく同じだ。テンキーを持つ日本語配列フルサイズで、キー荷重は変荷重構成(30g、45g、55gの各キー荷重スイッチを各指の押す力に合わせてREALFORCE独自に最適化した配置)となっている。

 その打鍵感はもう極上という言葉でしか表現できない。筆舌、というか、打舌に尽くしがたいとはまさにこのことだ。

 個人的には2001年の初代機「MODEL SA0100」を2002年に購入した。まだWindowsキーやアプリケーションキーを持たない標準的な日本語106キー配列であり、接続のインターフェースもPS/2だった。これはまだ大事に保管してある。その6年後の2007年になって、USB接続でWindowsキーなどを備えた109キー版が出たので買い替えて以降、今、デスクの上で使っているのは、この109キー版のMODEL SA0100だ。

オーバーホールした手元の初代キーボード

 手元で現役で使っているSA0100はすべてのキーが45g荷重だが、初代のREALFORCEは変荷重でキーごとに30g、45g、55gが混在している。初めてのREALFORCE体験が変荷重でそれが6年間、そして、109キー配列のSA0100に乗り換えて16年、REALFORCE歴21年という計算になる。

 結果として、45g等荷重の打鍵に慣れてしまっているはずなのだが、実際に、今、変荷重のアイボリーモデルを打鍵してみると、そうそう、これで感動したのだったと、22年前のあの感覚が指に蘇る。

 16年使ったキーボードは、実際には何の問題もなく快適に打鍵できるのだが、まだまだ使うつもりで、へたりもあるだろうからと、昨年(2022年)、東プレのカスタマーセンターにオーバーホールを依頼してみた。修理窓口で申しこみ、不具合の内容として、

【 不具合の内容 】 古い製品ですが、このキーボードレイアウトのREALFORCEが使いやすく、もう少し使い続けたいので、オーバーホールをお願いできますか。

と記入して申し込んだ。すぐに修理受付のメールが届き、その指示に従い手元にあった梱包材を使って発送した。代替機の利用もできるようだ。到着確認のメール、そして、検品後、見積もり書が届く。見積もり書に書かれていた金額は3,300円で、戻りの送料がこれに含まれる。実に、交換部品代はゼロ円。つまり、16年間使ったキーボードの部品は何も交換の必要もないということが判明したわけだ。

 調査・確認事項として、

  • 基板に異常がないことを確認

と記載されていた。ここで修理をキャンセルすることもできるようだが、16年間無故障でがんばってくれた感謝の気持ちを込めて修理を進めてもらうことにした。最終的にどのような処置をしたのかわ分からないが、基板に異常がないことを確認した旨のメールが届いている以上、中を開けて内部のクリーニングなどは施されていることを期待した。

 そして、修理の申しこみから約20日後に愛用のキーボードが美しくクリーニングされて戻ってきた。あれから1年以上が経過しているが、まったく問題なく使えているし、当分、大丈夫だと思う。その耐久性には脱帽する。正直言って、修理前後で変わった感じがまったくない……。これまでこのキーボードで打鍵するストローク数、これから打鍵するストローク数を考えると、途方もない。

視覚に入っても邪魔にならない昭和の事務機色アイボリー

 手元の愛機と、今回限定発売されたアイボリー版を比べると、手元のキーボードの方がアイボリーという色に近い。いわゆる昭和の事務機の色をしている。それが好きだった。その主張のなさが気に入っていた。使っているデスクの天板がアイボリーで、そこに置くと、キーボードがデスクに溶け込んで、存在を主張しないのだ。打鍵時に視線に入っても邪魔にならない。ブラック系色では、もっと存在感がある。

 今回、限定発売されたアイボリー版は、そこまで存在感がないかというとそうでもない。だが、現行機のR3HA22のまぶしいばかりの白さを思えば、グッとおとなしい。比べるから色の違いが気になるにすぎない。

 購入前に、色についてWebなどの情報だけで考慮するのは本当に難しい。実際、東プレの公式サイトで現行機の「R3HA22」と、今回の「R3HA52」の写真を比べてみると、確かにアイボリーに見えるのだが、実際の製品はもう少し白っぽい。また、現行機は、初期ロットのものが手元にあるが、製品ページの写真では、おとなしいオフホワイトに見える。その表示写真からは、まぶしいほどの白は想像できない。もしかしたら、現行ロットは色が少しおとなしくなっているのかもしれないし、そのまぶしさがいいという人もたくさんいるのかもしれない。

 ちなみに冒頭の写真は、上が2007年から16年間愛用している最初の109キー配列の製品、下が今回限定発売されたR3アイボリーだ。この2枚のキーボードを、もう40年近く愛用しているアイボリー色のデスクの上に並べておいてみたものだ。

 単に色が変わっただけという限定販売ではあるが、R3世代はキー配列が初代に近いものになったこともあるし、先代機から15年以上が経過し、買い換えを考えているユーザーに、できるだけ当時のイメージに近いものを提供しようということなのだろう。この気配りはうれしい限りだし、長年のREALFORCEファンを大事にしているといえる。

 特別色が限定発売され、その色が赤や青といった晴れや褻的な特色ではなく、平凡なアイボリーというのがニュースになるのは、REALFORCEくらいなもので、今さらながら、このシリーズの凄みを感じる。できれば有線版とともに定番にしてほしいものだ。キーのレイアウトはR3シリーズで許せる今風に落ち着いた。名機が変わってほしくないというのは使う側の論理であって、作る側は何かを変えないといけないと創意工夫を重ねる。その接点に、新たな時代の名機が降臨するのだろう。