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照明だけでここまで変わる。"映える"配信に向け、低コストで自宅をスタジオっぽくしてみた

筆者の自宅配信環境

 PC、家庭用据え置き機、スマートフォンなど、イマドキのゲームプラットフォームは、ゲームの配信に対応している。あまり周りで利用例は聞かないが、Windows 10だと、別途ソフトを入れなくとも、標準で配信機能を搭載していたりもする。

 加えて、カメラやマイクを用意すると、ゲーム画面だけでなく配信者の顔や声も配信に載せられる。上級プレイヤーであっても、ただゲーム画面を映すより、その時々のリアクションがあった方が観ている方は楽しめる。しかし、あまり考えなしに、ただ機材を用意、設置しただけでは、ワイプ画面は、あまり映えないものになってしまう。

 筆者は、業務で「インプレスeスポーツ部」という配信をはじめたこともあり、自宅からも配信を行なうようになった。最初はゲーム画面だけを流していたのだが、いまでは自分の顔もワイプで入れている。筆者は著名配信者でも、上級ゲーマーでもないのだが、ノウハウ蓄積のため、やや身に余るような豪華設備にしてみた。

すべて同じカメラで撮影

 目指したのはワイプ画質の向上。上のビフォーアフターの写真を見ててもらえばわかるとおり、環境を整えることで、ワイプ画質は驚くほど向上できる。筆者の場合、カメラは変えておらず、照明だけでこれだけ映像が変わった。

 ただ、豪華設備と言っても、それほど大きな金額はかけていない。本稿では、具体的に筆者が導入した機材を紹介しつつ、個人でもプロっぽい画質で配信を行なうためのテクニックを解説する。

キーライト(メインライト)を設置

 はじめにお断わりしておくが、筆者はカメラやライティングのプロでもなんでもない。いろいろな情報を調べて、見よう見まねで機材を用意した。そのため、プロのカメラマンのような方が読むと疑問符がつく点もあるかもしれないが、ご承知おき願いたい。「個人レベルでも配信の画質をプロっぽくしてみよう」というのが本稿の目的だ。

 それにあたって、もっとも重要と言っていいのが、先にも挙げた照明だ。一般的な家庭の照明、つまりシーリングライトは、本を読んだり、日常のことをするのには十分な役割を果たすが、動画の撮影(配信)には適さない。

 まずは明るさが不足している。明るさが不足していても、カメラ側が感度を上げてくれるが、その分どうしてもノイジーな画質になってくる。陰影も弱いので、立体感のない平らな画になる。

 また、光源の位置も良くない。部屋のレイアウトにもよるが、天井中央にシーリングライトがあり、配信者が壁際に壁を向いて座っていると(多くの人がそうだろう)、顔は軽い逆光状態となり、暗く写る。逆方向を向いたとしても、光源は上にあるため、眉の辺りの影が目にかかり、パンダのような状態になってしまう。

 そこで筆者がメインライトとして導入したのが、YONGNUO製LED照明「YN600」だ。メインライトはキーライトと呼ばれる。

YN600
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 YN600は、コンパクトでありながら、600個の白色LEDを搭載し、輝度は4,680ルーメンと十分明るい。価格は14,000円前後。

 なお、ほぼ同じ型番で、白LEDが300、黄色LEDが300の製品もある。こちらは、3,200K(電球色)~5,500K(昼白色)の間で色温度を調節できるが、5,500Kだと白LEDのみとなるので、輝度が半分となる。筆者は、5,500Kのみでの利用を考えていたので、「5500Kのみ」モデルを購入した。ちなみに、5500Kのみモデルでも、オレンジ色のフィルターがついているので、細かな調整はできないが、電球色系にすることもできる。リモコンも付属する。

 YN600の電源を入れ、明るさを最大にすると、正面になくてもかなりまぶしい。加えて、本体がコンパクト、つまり光源が小さいため、ハードライトとなってしまう。照明の質には、ハードライトとソフトライトの2つがある。細かい説明は割愛するが、ハードライトだと、陰影や影の境目がかなりくっきりと出るのに対し、ソフトライトではそれが穏やかになる。

 どちらのタイプの照明を使うかは、どういう画作りをしたいかによる。ただ、だいたいの配信では、おそらくソフトライトの方が合うだろう。そこで、YN600に同梱の白色のディフューザーフィルターを装着してみたのだが、光の散乱具合が弱く、光源の大きさは変わらないこともあり、思ったようにソフトライトにならなかった。

 そこで、YN600に対応のソフトボックスを購入した。価格は2,200円前後。

 こちらも一般的なソフトボックスよりはコンパクトだが、個人宅にはこれ以上大きいと邪魔になるし、なによりYN600に特化しており取り付けしやすいということで選んだ。

 このソフトボックスを装着することで、照明が視界に入っていてもまぶしすぎることはないし、照明もソフトになるし、光源サイズも大きくなる。

YN600にソフトボックスを取り付けたところ

 YN600の設置にあたり、もう1つ買ったのがアームだ。通常、照明は三脚を使って設置する。YN600は一般的な照明ようの三脚に取り付け可能だ。しかし、筆者は、照明を設置する配信卓の横に電子ドラムを置いているので、それを活用し、シンバルスタンドに取り付けられるアームを購入した次第だ。

 一応紹介はしておくが、こういう設置はかなりレアケースなので、基本的には照明用の三脚を使うことになる。

ちょっとわかりにくいが、電子ドラムのシンバルアームに取り付けている

 ここまでの時点で、照明によりどのように見た目が変わるかを紹介しよう。カメラはソニーの「α6300」、レンズはFE 50mm、F1.8の「SEL50F18」を使っている。カメラはAverMediaのUSBキャプチャユニット「Live Gamer Extreme GC550」を使って、PCにつないでいる。

カメラはこんなかんじでミニ三脚に取り付けて、窓際に置いている
Live Gamer Extreme GC550。こちらは1月に生産終了となり、Live Gamer Extreme 2が現行
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 ミラーレスカメラを使っても、一般的なシーリングライトでは、配信にありがちな平坦で解像感の低い画になってしまう。

シーリングライトのみでの映像キャプチャ

 ここでYN600を使ってみると、明るくなるだけでなく、画の解像度も上がった。ソフトボックスにより、なだらかな陰影がついたことで、顔が立体的になる。シーリングライトを消すと、背景が暗くなる分、被写体の存在感はさらに際立つ。

キーライトを点けるだけでこうなる

 照明の設置方法については、カメラと照明の位置関係で見え方が大きく変わる。配信だとカメラは自分の正面がだいたいだろう。この場合、照明は、左右どちらか45度の角度の場所に置くのと、頬から耳のあたりにかけて、いい具合に陰影影ができる。

 上下位置については上過ぎると、目に影ができるし、下過ぎるとホラー感が出てしまうので、自分の頭より少し上くらいがちょうどいい。

 距離については、画面に映らない範囲でなるべく近づける。それによって相対的に光源が大きくなり、よりソフトになるのに加え、明るさを稼げる。また、瞳に映る照明が大きくなるので、眼力が増す効果もある。

 陰影のつけかただけで雰囲気はがらりと変わる。筆者は標準的な斜め45度のところにキーライトを設置したが、もっと大胆に真横近くに置いて、劇画的な雰囲気を出すのもアリだ。

フィルライトを設置

 キーライト1つだけでも、一気に画質が上がったが、もう少し画作りをしてみることにした。そこで導入したのがフィルライトだ。フィルライトは、被写体をキーライトとは逆側から照らし、陰影を薄くするために用いる。筆者の場合、キーライトのYN600を右手前に置いているので、左手前にフィルライトを設置した。

 キーライトに加え、フィルライトも、と聞くとずいぶん専門的だなと思われるかもしれないが、単に昔からあった読書用のデスクライトを使っただけだ。ただし、最初から中に入っていた蛍光灯だとちらつきが気になったので、光源をLEDに変更した。

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 フィルライトの輝度はメインライトより遙かに小さい(正確な数値はわからない)ので、顔の陰影は完全に消えることはない。キーライトだけのときからドラマチックすぎるきらいが薄まっている。

キーライトとは逆の位置(左斜め45度)にフィルライトを設置。顔全体が明るくなる

 フィルライトの代わりにレフ板を置くのもいいが、すでに照明を持っていたのと、フィルライトにカラーフィルターを取り付けることで、顔の影の部分に好きな差し色を加えられることから、フィルライトを利用している。筆者は、映画「レディ・プレイヤー1」や、「ブレードランナー 2049」のような雰囲気を狙い、青色のフィルターをキーライトに取り付けた。価格は7色×2枚入りで1,099円。

フィルライトに青いカラーフィルターを取り付けてみた
フィルライトという名前はかっこいいが、単にデスクライトのカバーを外し、カラーフィルターをガムテで固定しているだけのみすぼらしいもの。配信には写り込まないのでこれでも問題ない(笑)

色の調整と印象作り

 照明によって画質を上げ、配信者の存在感を増すことができた。最後に色の調整などで、配信の印象作りの部分を仕上げる。

 フィルライトにカラーフィルターをつけてはいるものの、基本的にこの時点での色合いはナチュラルだ。映画では、ストーリーや心象などを伝えるために、映像の色味を調整する。色の調整が入っていないシーンはほぼないと言ってもいいだろう。

 ただ、筆者が配信に使っている「Xsplit」は、配信ソフトとしては十分な機能を持つが、映像編集や写真編集ソフトほどの色の調整はできない。最終的には、全体的にやや青に寄せるため、カメラのホワイトバランスを変更。これに加え、Xsplitで、輝度、コントラスト比、彩度を8ずつ下げた。

 これによって、サイバーサスペンス映画的な雰囲気の映像となった。本当は、暗いところには青色を差しつつ、肌の部分はもう少しナチュラルな色にといった感じにしたいのだが、今のところは一括して色味を変える調整しかできていない。このあたりは、やり方がないか模索中だ。

カメラのホワイトバランスを変更(色温度4000K)し、Xsplitでカメラ映像の輝度、コントラスト比、彩度を8ずつ下げるとこのような感じに
Xsplitで録画した映像
じっさいはこのようにゲーム画面をメインとして、ワイプは子画面となる

 もう1つ、筆者が加えたのが、間接照明の設置だ。これは、これまでの照明とは役割がまったく違い、被写体を照らすためには使っていない。カメラの背景ボケによって、薄ぼんやりと背後で7色に煌めいており、ゲーミング感を向上させつつ、ワイプ映像に個性を与えている。

 この間接照明も、配信用に買ったわけではなく、10年以上前に買ったものだが、ほとんど使っていなくて埃をかぶっていたものを移動し、再活用した。

 ついでに言うと、じつは配信のとき、ヘッドセットを左右逆につけている。と言うのも、筆者のロジクール「G633」は、正位置だと、LEDが後ろに向くので、カメラからまったく見えなくなってしまう。逆につけることで、音も左右逆になるが、筆者がおもにプレイするSTREET FIGHTER Vでは影響はなく、つけ心地もとくに変わらない。そして、視聴者にLEDを見せられる。

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オーディオ

 本稿は配信のワイプ画質の向上が目的だが、気になる人もいるかと思うので、筆者が使っているオーディオ環境も紹介しておこう。

 ヘッドセットは前述のロジクールG633。これも以前から持っていたものだ。ただし、マイク機能は使わず、ヘッドフォンとしてのみ使っている。

 というのも、マイクはオーディオテクニカのコンデンサマイク「AT2020」を持っていたからだ。趣味でやっているバンドのボーカルの宅録用に買ったものだが、それ以外では使っていなかった。宝の持ち腐れだったので、机に取り付けられるアームを購入して、自由に配置できるようにし、配信にも使うようにした。

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 アームに加え、マイクのホルダーと、マイクに強い吐息がかかり、音割れするのを防止するポップガードもついて2,380円と安かったので即決したが、ちょっと失敗して、マイクホルダーの径がAT2020より数mmほど狭かったために、マイクを取り付けられなかった。そこで、マイクホルダーを別途買い直した。

マイクはこんな感じで机に取り付けている。このアームのマイクホルダーはAT2020には使えないのは失敗だったが、アーム自体はとても便利
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 ゲーム配信だと、ゲームの音が終始鳴っているので、マイクの音は、収録などと比べるとそこまで気を遣わなくても良い。ただ、試した限りだと、G633のマイクは、自動的に環境ノイズを低減するノイズゲートが強制的にかかっているようで、オフにできなかった。ノイズゲートは便利な機能だが、声の立ち上がりなどで注意して聞いていると人工的な加工が耳についてしまう。

 また、自分の声をヘッドフォンで聞こえるようにすると、マイクの音がじゃっかん遅れるのだ。ただこれは、G633の問題ではなく、使ったミキサーソフトで遅延が起きているようだ。Windowsのサウンド設定でも同様の設定にすると遅延する。

 そういうこともあり、マイクはAT2020を使っている。これはファンタム電源が必要なマイクでそのままではPCにつながらないが、Steinberg製USBオーディオインターフェイスの「UR242」を持っていたので、これ経由で接続している。これによって、クリアで存在感のある音を録れ、ゲームの音も自分の声もUR242につないだG633から聞くことができる。

 専用ソフトを使えば、ゲインメーターで音がピークを越えていないかを確認したり、ヘッドフォンに返すゲームの音を絞ったり、より柔軟な調整が可能だ。

UR242
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カメラがない人にはグリーンバックという選択肢も

 今回、筆者が映像用に新規に購入したのは、キーライトの照明とアームやソフトボックスくらいだ。金額にすると、2万円しない程度。三脚を置いたりするのにじゃっかんかさばりはするものの、その効果は確実に値段分以上にあると言える。すでにワイプありで配信を行なっている人は、すぐにでも購入を検討したい。今回紹介した画作りはあくまでも雰囲気の一例であり、こういったことを導入する場合は、自分の個性や雰囲気を考慮した上で、陰影や色調整を試してみるといいだろう。

 これからはじめるという人の場合は、カメラとキャプチャユニットが必要になってくる。背景をうまくぼかせるミラーレスや一眼レフカメラとなると、少なくともカメラで5万円程度、キャプチャユニットで2万5千円くらいの追加予算が必要だ。なぜ背景ボケにこだわるかというと、プロっぽさを演出できるのと同時に、生活感が出てしまうのを抑えられるからだ。筆者の場合も、背景にはクローゼットが写っているのだが、暗くしつつぼかすことで、ほとんどそれとわからない。じっさい、初めて筆者のワイプつき配信を見た某プロゲーマーは「バーとかで配信しよるんかと思いましたわ」と語っていた。

 ただ、いくら画質や雰囲気を向上できるとはいっても、多くの人に10万円近い出費はきついだろう。そういう場合は、Webカメラとグリーンバックを買うという手もある。Webカメラならハイエンドでも1万円程度。キャプチャユニットは不要だ。

 今回試してはいないが、照明をうまく使うことで、Webカメラでも画質を高められるハズだ。Webカメラだと、背景はぼかせないが、背後にグリーンバックを置き、配信ソフトのクロマキー機能を使って、写真編集ソフトで軽くぼかしたそれっぽい雰囲気の部屋やスタジオの写真を置くけば、バーチャル配信スタジオが一丁上がりとなる。グリーンバックは通販で数千円程度で購入できるので、合計で2万円もしないハズだ。

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 冒頭で、いまではスマートフォンや据え置きのゲーム機でも配信しながらプレイできると書いた。しかし、こういった凝った配信を行なうとなるとPCが必須となってくる。PCであれば、それ1台でゲームをプレイしながらの配信も可能だ。筆者もそのようにしている。PCならではのメリットだ。

 だが、多少込み入った配信をするには、配信ソフトや機材の知識や慣れも必要となってくる。と言うことで、順番が逆転するようではあるが、次回の記事で、1台のPCでプレイしながら配信する上での設定周りや、オペレーションのやり方などについて解説をする。