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Adobeが「Photoshop Camera」を開発表明。撮影後の即編集/合成などが超手軽に

~2020年に提供予定。ベータテスターの申し込みも開始

すべての人にクリエイティブな環境を提供するCreative Cloud

 米Adobeは11月4日(現地時間)から、クリエイター向け年次イベント「Adobe MAX」を、米国カリフォルニア州ロサンゼルスにあるロサンゼルスコンベンションセンター(LACC)において開催している。

 11月4日午前(日本時間11月5日未明)には基調講演が行なわれ、同社の新しいiPadアプリとなるAero、Adobe Photoshop for iPadの製品版の提供が明らかにされたほか、Illustrator for iPadの開発意向表明が行なわれた(Photoshop、Aero、Illustratorという3つのiPad用アプリが示すAdobeソフトの方向性参照)。

 さらにAdobeは、新しいコンシューマ向けのスマートフォン向けアプリケーションとして「Photoshop Camera」の開発意向表明。Photoshop Cameraは、カメラが実装されているスマートデバイス向けのアプリケーションで、AdobeのAIプラットフォームであるAdobe Senseiを利用してプロがAdobe Photoshopでさまざま合成したような画像を手軽に作成できることが特徴になる。Adobeによれば2020年に投入予定になっており、現在ベーターテスターの募集がはじまっている。

すべての人にクリエイティブな能力を発揮できる環境を提供していく

Adobe 会長、社長 兼 CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏

 現地時間午前9時から開始されたAdobe MAXの基調講演では、Adobe 会長、社長 兼 CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏が冒頭に登壇し、Adobeのビジョンについて説明した。

 ナラヤン氏は、「Adobeの基本的な方針はデジタル体験で世界を変えていくということだ。そのためにわれわれは急進的なアプローチを取っていく。アプリケーションもクロスデバイスで提供し、たとえばLightroomはPCでもタブレットでも利用することができ、Frescoはタブレットから提供を行なっている」と述べ、Adobeがクリエイターを通じて新しいデジタル体験を一般のユーザーに届けることを重視しており、そのために新しい戦略をとっていくとした。

InDesingは20周年
Creative Cloudが進化していくとナラヤン氏
デジタル体験で世界を変えていく

 その上で、「現在デザインは人々の生活を変えていっている。Adobeの役割は、クリエイターの声をリッチなメディアというかたちでストーリーとして語れるようにすることだ」と述べた。同社のサブスクリプション型クリエイターツール「Creative Cloud」に新しいアプリケーションや機能を提供し、その実現を図るということだ。

クリエイティブこそが問題だ
すべての人の声をリッチなデジタルコンテンツで届けられるようにする
境界を越えていく
Adobeマジック
クリエイティブをすべての人に

 また、「すべての人にクリエイティブな能力を発揮できるような環境を提供していきたい。そのためにAdobe SenseiのようなAIを導入し、コンテンツはクラウドにおいてすべての人が共有して共同で作業できるようにする」とし、ここ数年のCreative Cloudの進化はそうしたことを可能にするための基礎だと説明した。

Photoshop for iPad/Aeroの一般提供を開始、Illustrator for iPadは2020年に提供予定

Adobe Creative Cloud担当上級副社長 兼CPO(最高製品責任者) スコット・ベルスキー氏。ベルスキー氏

 ついでステージに登壇したのは、Adobe Creative Cloud担当上級副社長 兼CPO(最高製品責任者) スコット・ベルスキー氏。同氏は、今回のAdobe MAXでAdobeが発表した3つのiPadアプリなどに関して説明した。

Creative Cloudと無駄な時間の戦い
Creative Cloudの開発で注力している点は3つ

 ベルスキー氏はAdobeがCreative Cloudの開発で注力している点は3つあると説明し、1つ目が高性能/高品質/高信頼性、2つ目がいつでもどこでもコンテンツを作成できること、3つ目が新しい機能だとした。

高性能、高品質、高信頼性
PhotoshopのAIによる切り抜き機能がさらに進化

 1つ目の高性能/高品質/高信頼性に関しては、Creative Cloudのバージョンアップで、PhotoshopやLightroom、Illustratorといった主要アプリケーションが高速化していることを説明した。

 たとえば、LightroomであればGPUの利用方法がより細かく設定ができるようになったことや、Photoshopに関してはAdobe Senseiを利用したAIの機能で、複雑な切り抜きをAIが自動で行ない、ユーザーが手動でやる部分が減ったりしているという(Photoshop、ざっくり囲むだけで複雑な形状も範囲選択可能に参照)。

いつでもどこでのクリエイティブ
Photoshop for iPadのデモ
一般提供開始
Fresco Windows版の提供開始

 2つ目のいつでもどこでもコンテンツを作成できることの例としては、今回発表されたPhotoshop for iPad(和名 : Photoshop iPad版)についてで、デモではデスクトップ版のPhotoshopと同じように複数のレイヤーを活用しながら写真を編集し、人を切り抜くときに、手で指定するのが難しい髪の毛なども、Adobe SenseiのAIを利用して自動で綺麗に切り抜ける様子などを紹介した。また、すでにiPad版を発表していたFrescoのWindows版を本日より提供開始した。

Illustrator for iPadのデモ

 そして、もう1つの新しいiPadアプリとして、Illustrator(ベクターイメージ編集ツール)のiPad版を、来年(2020年)に提供予定であり、クローズドベータテストが開始されることをであることを明かした。

 Illustrator for iPadでは、デスクトップ版のIllustratorと同じようにベクターデータを利用してイラストを作成できるが、iPad版はタッチ操作とApple Pencilを利用してイラストを作成したり、編集したりできることが大きな特徴となる。デモでは撮影した画像からベクターデータをなぞってイラストを作るというIllustratorの機能を、Adobe SenseiのAIが自動で行なう様子が紹介された。

Aero
Aeroのデモ
Aeroの一般提供開始

 3つ目の新しい機能としてはARコンテンツを手軽に作れるAeroが紹介された。AeroはiPadで使えるアプリケーションで、Photoshopで作成したアセットなどをもとに簡単にARコンテンツを作成できる。

 Aero、Photoshop for iPadはすでにAppleのApp Storeを通じて配布されており、基本的な機能は無償利用できるが、フル機能を使うにはCreative Cloudのサブスクリプションが必要になる。

ネット上のコンテンツの著作権処理を行なう仕組みとなるContent Authenticity Initiative (CAI)

Rushの出力先としてTikTokをサポート

 このほかAdobeは同社がPC、スマートフォン、タブレット向けの動画編集ツールとして提供しているPremiere Rushの出力先として、中国の動画配信サービス「TikTok」が選べるようになった。

 Premiere Rushは、Premiereに比べて手軽に動画が編集できるツールとして提供しており、PCだけでなくスマートフォンやタブレットでもPremiere譲りの機能を利用して動画を編集できるのが大きな特徴となっている。

Rushの出力画面、TikTokが追加されている

 これまでもYouTubeなどの動画サービスなどには標準で対応してきたが、今回それに加えてTikTokにアプリから直接出力できるようになった。iPhoneなどでPremiere Rushを利用して動画を撮影/編集した後、そのままTikTokにアップロードするという使い方が可能になる。

Content Authenticity Initiative (CAI)
Adobe、Twitter、ニューヨークタイムズがCAIの策定への取り組みを行なっていく
Adobeのサイトで詳細などを発表する予定

 また、AdobeはContent Authenticity Initiative (CAI)という取り組みをTwitter、ニューヨークタイムズなどと協力して行なっていくと発表。現在インターネットに上げられている静止画や動画のデータは、そのデータが誰が著作権を有しているのかという情報がない。このため、誤って他者の著作権を侵害したりということが起きてしまう。

 そこで、Adobeが業界各社と協力し、それを解消するハイレベルのフレームワークアーキテクチャを策定していくという。なお、今後Adobeはそれに関するカンファレンスを開催する予定になっており、詳細に関してはそうしたカンファレンスで発表する予定だとした。

自動で「Photoshopスル」ことができるカメラアプリの「Photoshop Camera」

Adobe 上級副社長 兼 CTO(最高技術責任者) アベイ・パラスニス氏

 講演の最後に登場したAdobe 上級副社長 兼 CTO(最高技術責任者)のアベイ・パラスニス氏は、同社が2016年に導入したAIフレームワーク「Adobe Sensei」の新しい成果として、新しいアプリケーションを計画していることを明らかにした。その名称は「Photoshop Camera」で、スマートフォンやタブレットなどのカメラを持つスマートデバイス向けのカメラ・アプリケーションとなる。

Adobe Senseiを利用
Photoshopの機能をスマートフォンのカメラに
Photoshop Camera(PsC)

 従来のカメラアプリケーションとの大きな違いは、その名称からもわかるように単に撮影するだけでなく、「Photoshopスル」カメラアプリとなる。撮影をした後に、Photoshopを利用してそこにいない人を追加したいなどのニーズがあるだろう。従来であれば、AdobeがiOS向けなどに提供しているPhotoshop Expressなどを利用して撮影した後に編集するという使い方が一般的だった。

Photoshopカメラアプリ
セルフィーも可能
撮影した後プリセットのフィルタをかけたり
必要な部分をAdobe Senseiで切り抜いたりできる
好みの背景と組み合わせたり
文字を追加したりできる
昼間の写真をワンタッチで夜の写真にしたりできる
月の写真を追加したりも可能

 しかし、Photoshop Cameraではそんな難しいことを考えなくても、撮影した画像にキャラクターを追加したり、あるいは背景の色を変えたりなどといって「Photoshopスル」をアプリが自動でやってくれる。

 通常であれば撮影した画像にほかの人を追加する場合、Photoshopを利用して写真から人物を切り抜き、それをレイヤーとして重ねていく。Photoshop Cameraではそうした作業をAdobe Senseiがユーザーに代わってやってくれるため、ユーザーは画像などを指定して、切り抜きたい部分を大まかに指定する程度で、そうした作業がカメラアプリだけで完了するのだ。

Photoshop Cameraはベータテスターの募集を開始

 Photoshop Cameraは2020年に一般提供される計画で、現在ベータテスターを募集しており、Photoshop CameraのWebサイト」から申し込める。ベータテストサイトでは「Apple iPhone 6以降」ないしは「Pixel3/XL、Pixel4/XL、Samsung S9/S9+、Samsung S10/S10+、Samsung Note 9、Samsung Note 10/10+」のAndroidデバイスを持っているかと聞かれるので、そうしたデバイスを奨励デバイスとされているようだ。