笠原一輝のユビキタス情報局

謎の性能向上機能「VAIO TruePerformance」を解説

第8世代Coreプロセッサを搭載した新しいVAIO S13

 VAIOが11.6型モバイルノートPCの「VAIO S11」、13.3型モバイルノートPCの「VAIO S13」をリフレッシュした(「VAIO TruePerformance」によりCore i5でi7以上の性能を実現する「VAIO S13/S11」参照)。

 VAIOが昨年(2017年)の9月に発売したVAIO S11/S13では第7世代Coreプロセッサが搭載されたが、今回のリフレッシュで第8世代品搭載されるようになった(BTOモデルでは引き続き第7世代品を選択可能)。

 そのVAIO S11/S13のBTOモデルでは、「VAIO True Performance」が適用されたCore i7-8550U、または同Core i5-8250Uという選択肢が用意されている。ここでは、このVAIO TruePerformanceの正体について解説していきたい。

Turbo Boostを活用する「VAIO TruePerformance」

 VAIOの説明によれば、VAIO TruePerformanceとは「Intel Turbo Boost Technologyをより長期間、高いレベルで継続的に動作可能にする」機能だという。初めて説明を受けたとき、筆者はなにを言ってるのかよくわからなかった。

 その後、VAIOのエンジニアに突っ込んた質問をしたところ、Turbo Boost Technology 2.0でブーストモードが有効なときに、PL1(Power Limit 1)を上げるものだということがわかった(PL1についての解説は別記事を参照されたい)。順を追って説明していきたい。

 まずは、そもそもTurbo Boost Technology 2.0とはどういったもので、それがどういう仕組みで動いているのかを理解する必要がある。

 Turbo Boost Technology 2.0は、Sandy Bridgeこと第2世代Coreプロセッサから導入された、Intelの公式的なクロックアップ技術だ。一般的なオーバークロックの場合はCPUメーカーが規定する以上のクロックで動かすことを目的としている。一方、Turbo Boostでは“ベースクロック”と“ブースト時の最大クロック”という2つのクロックが規定されており、Turbo Boostが有効であれば、その2つの間のクロックでCPUが動作する。

 たとえば、VAIO S11/S13に搭載されているCore i7-8550Uの場合は、ベースクロックが1.8GHz、ブースト時の最大クロック4GHzなので、その間のクロックで動作するわけだ。

Turbo Boostを実装するために規定されている2つの電力リミット、「PL1」と「PL2」

 図1は、第7世代Coreプロセッサ・Uシリーズ(KBL-U)のデュアルコア版CPUを例にとって、Turbo Boost Technology 2.0がどのように動作しているかを示している。縦軸はクロックと供給電力で、横軸は時間となっている。

【図1】デュアルコアの第7世代Coreプロセッサ・UシリーズにおけるTurbo Boost Technology 2.0の動作

 CPUはアイドルと呼ばれる待機モードに入っている場合、クロックは300MHzなどの最下限まで下げられ、それに合わせてCPUに供給される電流/電力も低い状態に抑えられている。その状態ではCPUはほとんど発熱していないので、システムの温度も低い状態になっている(図1の①を参照)。

 そこから、アプリケーションが起動するなどしてアイドルから通常モードに戻ると、CPUはシステムの温度が低いのを検知し、CPUクロックをブースト時の最大のクロックまで引き上げる。このときにCPUが必要とする電力も増えるので、CPUに多大な電力が供給される(図1の②を参照)。このさいのクロックが、IntelのCPUスペックに記載されているブースト時最大のクロックだ。

 次に、供給される電力が増えればCPUの発熱も上がる。CPUは温度を下げるために段階的ににクロックを下げていき、それと同時にCPUへの供給される電力も減っていく(図1の③を参照)。

 そして、徐々に下がっていくクロックはある段階にくると安定して動くようになり、そこでクロックが固定されて動き続ける(図1の④を参照)。実際にはさらにシステムの温度が上がると、ベースクロックまでクロックが下がるのだが、それはワーストケースだ。長時間CPUに負荷をかけると、多くのノートPCはほとんどの時間で④の状態で動作することになる。

 このとき、CPUが④の状態に供給する電力のことを「PL1(Power Limit 1)」、②の状態に供給する電力のことを「PL2(Power Limit 2)」と呼んでいる。

Kaby Lake RefreshのPL1とPL2の“間が空いている”という特徴をうまく活用したVAIO TruePerformance

 今回のVAIO S11/S13に搭載されている第8世代Coreプロセッサ・Uシリーズ(開発コードネーム: Kaby Lake Refresh、以下KBL-R)と、従来の第7世代Coreプロセッサ・Uシリーズ(開発コードネーム: Kaby Lake-U、以下KBL-U)との違いはCPUコア数にある。KBL-Uは2コアだが、KBL-Rは4コアになっている。

 じつは、Turbo Boost時の最大クロックはどちらも4GHz近くに設定されており、つまりブースト時に必要な電力はKBL-Rのほうがはるかに大きく(コア数が倍になるからだ)、供給する電流量の最大値(Icc Max)もKBL-Rでは拡張されている。

 KBL-Uが32Aなのに対して、KBL-Rのそれは64Aとなっており、それだけ電源回路に余裕を持たせる必要がある。同時にPL2も引き上げられている。KBL-Uでは20W台後半だったのが、KBL-Rでは40W台半ばになっているのだ。このことを示しているのが以下の図2だ。

【図2】KBL-RとKBL-Uの電力/クロックの関係

 これでわかるように、KBL-RはTurbo Boost時の最大クロックは同じだが、4コアであるために供給しなければならない電力(PL2)が大幅に上がっている。このため、安定動作時の供給電力であるPL1との差が大きくなっており、そこに“大きな間”がぽっかり空いてしまっている。これがKBL-Rの技術的な特徴だ。

 そのことを活用したのが今回のVAIO TruePerformanceだ。CPUの電源回路的には余裕があるのだから、このPL1をPL2に合わせて少し引き上げてみたらどうだろうか、というのが基本的な考え方となっている。

【図3】VAIO TruePerformanceでの電力/クロックの関係

 というのも、PL1での熱設計を規定するのはIntelではなく、OEMメーカーだからだ。OEMメーカーがIntelが想定している以上のキャパシティを持つ熱設計(具体的にはCPUファンや熱伝導するヒートパイプなど)を用意すればそれが可能になるわけだ。

 このため、今回VAIOは放熱用ヒートパイプの熱輸送力を33%向上させつつ、放熱用フィンの熱交換率も10%向上させた。さらに、ファン回転テーブルのチューニングなどを行なうことで、前提的な放熱能力の向上を達成、PL1を押し上げることに成功した。その結果、VAIO TruePerformanceが実現されている。

左が第8世代用のヒートパイプ、右が第7世代用のヒートパイプ、放熱フィンが銅と思われる素材に変更されていることなどが確認できる

 VAIO TruePerformanceについて端的に言えば、Turbo Boost有効時の安定動作時のクロックが一般的な設計に比べて引き上げられており、それによって性能が向上するということだ。

電力が増えるバッテリ駆動時間への若干のインパクトはあるが性能は向上

 VAIOによれば、Core i7-8550U搭載システムで、CINEBENCH R15を使ったベンチマークを走らせた場合、VAIO TruePerformance無効の状態と有効の状態を比較すると、有効の状態でスコアが13%アップしたという。これは、PL1を引き上げることで、システム稼働時にCPUクロックが高い状態を維持できているからだ。

 ただし副作用もある。

 図3を見れば明らかなように、クロックが上がる=電力が増えるわけなので、性能が上がる分消費電力も増えてしまう。このため、バッテリ駆動時間にはマイナスの影響があるはずだ。

 実際に、第8世代Coreを搭載したVAIO S11/S13は、第7世代Coreを搭載したものと比較して、VAIO S11で30分~1時間、VAIO S13は30分程度バッテリ駆動時間が短くなっているという。VAIO TruePerformanceの影響だけではないだろうが、オンにすれば当然バッテリへの影響は出てくる。

VAIOの設定ツールで、パフォーマンス優先にした場合はVAIO TruePerformanceがオンになる

 このため、VAIO S11/S13では、VAIO TruePerformanceのオン/オフをVAIOの設定ユーティリティで変更できるようになっている。バッテリ駆動時間を優先したいならオフにしておくといいだろう。