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世界最高峰の64コア/128スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3990X」を徹底テスト

 AMDは2月7日、第3世代Ryzen Threadripperに64コアCPU「Ryzen Threadripper 3990X」を追加した。これに先立ち、同CPUのレビュアーズキットを借用する機会が得られたので、ベンチマークテストで性能をチェックしてみた。

64コア128スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3990X」

 AMD Ryzen Threadripper 3990Xは、Zen 2アーキテクチャを採用した64コア128スレッドCPUだ。1つあたり8コアを備える7nm製のCPUダイ(CCD)を8個と、1個のI/Oコア(cIOD)を組み合わせることで、64コア128スレッドを実現している。

 CPUソケットには既存の第3世代Ryzen Threadripperと同じ「Socket sTRX4」を採用。I/Oコアには、DDR4-3200の4チャネル動作に対応するメモリコントローラや、合計64レーンのPCI Express 4.0などを備える。TDPは既存モデル同様280W。

【表1】Ryzen Threadripper 3990Xのおもな仕様
モデルナンバーRyzen Threadripper 3990XRyzen Threadripper 3970XRyzen Threadripper 3960XRyzen 9 3950X
CPUアーキテクチャZen 2Zen 2Zen 2Zen 2
製造プロセス7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O
コア数64322416
スレッド数128644832
L2キャッシュ32MB16MB12MB8MB
L3キャッシュ256MB128MB128MB64MB
ベースクロック2.9GHz3.7GHz3.8GHz3.5GHz
ブーストクロック4.3GHz4.5GHz4.5GHz4.7GHz
対応メモリDDR4-3200 (4ch)DDR4-3200 (4ch)DDR4-3200 (4ch)DDR4-3200 (2ch)
TDP280W280W280W105W
PCI ExpressPCIe 4.0 x64PCIe 4.0 x64PCIe 4.0 x64PCIe 4.0 x24
対応ソケットSocket sTRX4Socket sTRX4Socket sTRX4Socket AM4
価格3,990ドル1,999ドル1,399ドル749ドル

 Ryzen Threadripper 3990Xの製品パッケージには、Asetek製水冷クーラー用のリテンションキットとSocket sTRX4用トルクレンチが付属する。これは従来のRyzen Threadripperと同様で、CPUクーラー自体は別途用意する必要がある。

 先述のとおり、Ryzen Threadripper 3990XのTDPは既存の第3世代Ryzen Threadripperと同じ280Wなので、Socket sTRX4対応CPUクーラーや、TDP 280Wに対応可能な冷却性能を備えたSocket TR4対応CPUクーラーが利用できる。

64コア128スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3990X」
付属品はSocket sTRX4用トルクレンチとAsetek製水冷クーラー用リテンションキット
Ryzen Threadripper 3990XのCPU-Z実行画面
Ryzen Threadripper 3990Xのタスクマネージャー。表示を論理プロセッサにすると各スレッドの使用率がヒートマップで表示される

テスト機材

 今回、AMDより借用したレビュアーズキットにはRyzen Threadripper 3990Xのほかに、Socket sTRX4対応マザーボード「ASUS ROG Zenith II Extreme」、DDR4-3600対応の16GBメモリ4枚組「CORSAIR CMT64GX4M4Z3600C16」、PCIe 4.0 SSD「CORSAIR CSSD-F1000GBMP600」が同梱されていた。

 これに、GeForce RTX 2080 Ti搭載ビデオカード「ASUS ROG-STRIX-RTX2080TI-O11G-GAMING」や、240mmラジエータ搭載一体型水冷クーラー「ASUS ROG RYUJIN 240」などを加えてテスト環境を構築した。

Socket sTRX4対応マザーボード「ASUS ROG Zenith II Extreme」
DDR4-3600対応64GBメモリキット「CORSAIR CMT64GX4M4Z3600C16」
PCIe 4.0 SSD「CORSAIR CSSD-F1000GBMP600」
GeForce RTX 2080 Ti搭載ビデオカード「ASUS ROG-STRIX-RTX2080TI-O11G-GAMING」
240mmラジエータ搭載一体型水冷クーラー「ASUS ROG RYUJIN 240」

 比較用のCPUには、第3世代Ryzen Threadripperの32コア64スレッドCPU「Ryzen Threadripper 3970X」と、第3世代Ryzen最上位モデルの16コア32スレッドCPU「Ryzen 9 3950X」を用意した。

 また、Ryzen Threadripper 3990Xについては、後述するWindowsのプロセッサー・グループの仕様に関連して、1コア2スレッドを実現するSMTを無効化した「64コア64スレッドCPU」としての性能も測定する。

 そのほか、テスト時のパワーリミットについては標準仕様どおりで、Socket sTRX4対応マザーボードの「ASUS ROG Zenith II Extreme」にはレビュアー向けに配布されたUEFI「バージョン0021」を適用した。また、メモリクロックについては、XMPを適用した上で各CPUの最大対応クロックであるDDR4-3200に調整している。

【表2】テスト機材一覧
CPURyzen Threadripper 3990X (SMT-ON)Ryzen Threadripper 3990X (SMT-OFF)Ryzen Threadripper 3970XRyzen 9 3950X
コア数/スレッド数64/12864/6432/6416/32
CPUパワーリミットPPT:280W、TDC:215A、EDC:300APPT:142W、TDC:95A、EDC:140A
CPUクーラーASUS ROG RYUJIN 240 (ファンスピード=100%)
マザーボードASUS ROG Zenith II Extreme [UEFI: 0021]ASUS TUF GAMING X570-PLUS (WI-FI) [UEFI: 1405]
メモリDDR4-3200 16GB×4 (4ch、16-18-18-36、1.35V)DDR4-3200 16GB×4 (2ch、16-18-18-36、1.35V)
ビデオカードASUS ROG-STRIX-RTX2080TI-O11G-GAMING (GeForce RTX 2080 Ti 11GB)
システム用ストレージCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源CORSAIR RM850 CP-9020196-JP (850W/80PLUS Gold)
グラフィックスドライバGeForce Game Ready Driver 441.87 DCH (26.21.14.4187)
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 1909 / build 18363.628)
電源プランAMD Ryzen Balanced
室温約26℃
Ryzen Threadripper 3970XのCPU-Z実行画面
Ryzen 9 3950XのCPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマーク結果を紹介していこう。

 今回実施したベンチマークテストは、「POV-Ray(グラフ01)」、「CINEBENCH R20(グラフ02)」、「CINEBENCH R15(グラフ03)」、「Blender Benchmark(グラフ04)」、「V-Ray Benchmark(グラフ05)」、「やねうら王(グラフ06)」、「HandBrake(グラフ07)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ08~11)」、「Adobe Media Encoder 2020(グラフ12~13)」、「PCMark 10(グラフ14)」、「SiSoftware Sandra(グラフ15~23)」、「3DMark(グラフ24~27)」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク(グラフ28)」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ29)」。

POV-Rayとプロセッサー・グループ

 レイトレーシングソフトのPOV-Rayにはベンチマークテストが実装されており、CPUのマルチスレッド性能を測定することができるのだが、正式版であるv3.7.0でベンチマークを実行してもRyzen Threadripper 3990Xでは64スレッドまでしか利用できない。

 これは、CPUが64コアを超える論理コア(=スレッド)を備えている場合、Windowsが論理コアを最大64コア単位のプロセッサー・グループに分割して管理しているためだ。

 Ryzen Threadripper 3990Xの場合、32コア64スレッド×2グループというかたちに分割管理されており、アプリケーション側でプロセッサー・グループを超えたCPUの利用に対応していないと、1つのアプリケーションが利用できるのは32コア64スレッドに制限されてしまう。

 逆に、プロセッサー・グループを超えたCPUの利用に対応していれば良いわけで、AMDより提供された128スレッド対応版のPOV-Rayでは、Ryzen Threadripper 3990Xが備える64コア128スレッドをフル活用することが可能だった。

POV-Ray v3.7.0でベンチマークテストを実行中のCPU使用率。プロセッサー・グループに制限され32コア64スレッドしか稼働していない
128スレッドに対応したPOV-Rayでベンチマークテストを実行中のCPU使用率。プロセッサー・グループの制限を超えて64コア128スレッドがフル稼働している

 それでは、実際のベンチマーク結果をまとめたグラフを紹介しよう。v3.7.0のベンチマーク結果と、128スレッド対応版のベンチマーク結果をまとめてグラフ化している。

 SMT有効時のRyzen Threadripper 3990Xは、v3.7.0のベンチマークではSMT無効時の約8割のスコアにとどまり、32コア64スレッドCPUであるRyzen Threadripper 3970Xをやや下回っている。一方、128スレッド対応版ではSMT無効時に約13%、Ryzen Threadripper 3970Xには約39%の差をつけ、トップスコアを獲得している。

【グラフ01】POV-Ray

CINEBENCH R20/CINEBENCH R15

 CPUの3DCGレンダリング性能を測定する定番ベンチマークテスト「CINEBENCH」の結果を紹介する。実行したのは最新版のCINEBENCH R20と、長らく利用されてきた旧バージョンのCINEBENCH R15で、どちらもプロセッサー・グループを超えたCPUの利用に対応している。

 Ryzen Threadripper 3990Xのシングルスレッドテストの結果は、最大動作クロックで勝るRyzen Threadripper 3970XやRyzen 9 3950Xにおよばず、それぞれ約4%と約7%の差をつけられている。もっとも、この数値はこれほどのメニーコアCPUにしては相当に優秀なものである。

 一方、マルチスレッドテストでは、Ryzen Threadripper 3970Xに約40~46%、Ryzen 9 3950Xには約158~170%もの大差をつけて、Ryzen Threadripper 3990Xがトップスコアを獲得している。ちなみに、SMTの有無による性能差は約15~19%だった。

【グラフ02】CINEBENCH R20
【グラフ03】CINEBENCH R15

Blender Benchmark

 3DCGソフト「Blender」のオフィシャルベンチマークソフトであるBlender Benchmarkの実行結果を紹介する。このベンチマークテストもプロセッサー・グループを超えてRyzen Threadripperの128スレッドをフル活用可能だ。

 当然ながら、いずれのテストでもRyzen Threadripper 3990Xがもっとも短時間でレンダリングを完了しており、そのレンダリング速度はRyzen Threadripper 3970Xを約30~52%上回り、Ryzen 9 3950Xには約125~191%もの大差をつけた。SMTの有無による差は約20~30%。

【グラフ04】Blender Benchmark

V-Ray Benchmark

 レンダリングエンジンV-Rayのオフィシャルベンチマークソフト「V-Ray Benchmark」では、CPUを使用する「V-Ray」の実行結果をグラフにまとめた。なお、本ソフトもプロセッサー・グループを超えてCPUコアを利用できる。

 ここでもコア数で勝るRyzen Threadripper 3990Xが比較製品を圧倒しており、Ryzen Threadripper 3970Xに約66%、Ryzen 9 3950Xに約181%の大差をつけた。また、SMTの有無による差は約33%で、SMTをかなり有効活用できているようだ。

【グラフ05】V-Ray Benchmark v4.10.07

将棋ソフト「やねうら王」

 将棋ソフトの「やねうら王」にて、ベンチマークコマンドを実行した際の結果をまとめた。ソフトのバージョンは4.88(評価関数KPPT型/トーナメント用)で、実行したコマンドはSingle Coreテストが「bench 128 1 19」、All Coreテストが「bench 128 nT 19」(nTは各CPUのスレッド数)。

 このソフトもプロセッサー・グループを超えてCPUコアを利用可能であり、All Coreテストでは128スレッドを利用できるRyzen Threadripper 3990XがRyzen Threadripper 3970Xに約53%、Ryzen 9 3950Xに約198%の大差をつけてトップに立った。SMTの有無による差は約21%。

【グラフ06】やねうら王 (KPPT 4.88 64AVX2 TOURNAMENT)

動画エンコードソフト「HandBrake」

 無料で利用できる動画エンコードソフト「HandBrake」では、動画変換にかかった時間を比較した。今回はソース動画として、フルHD「1080p60」、4K「2160p60」、8K「4320p60」の3種類を用意し、それぞれ2種類のプリセットで変換(フルHDは1種類のみ)した。

 今回のテストで変換に用いたプリセットは、いずれもx264を用いてH.264形式に変換するものであり、このエンコードではプロセッサー・グループを超えてCPUコアを利用することはできなかった。

 結果として、SMT有効時のRyzen Threadripper 3990XはRyzen Threadripper 3970Xと同等以下の結果となっている。SMTを無効化した64コア64スレッドでもそれほど大きな改善は見られないが、これはそもそもx264でのエンコードでは64スレッドをフル活用できていないことが原因で、これは16コア32スレッドCPUであるRyzen 9 3950XがRyzen Threadripperに比較的近い数値を記録していることからもうかがえる。

【グラフ07】HandBrake v1.3.1

動画エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」

 動画エンコードソフトの「TMPGEnc Video Mastering Works 7」では、HandBrake同様にフルHDから8Kまでの動画ソースをエンコードするのに要した時間を比較した。

 なお、TMPGEnc Video Mastering Works 7自体はプロセッサー・グループの制限を超えられず論理64コアまでしか認識できない。実際には、x264を用いたH.264形式への変換では実際にプロセッサー・グループの制限で利用できるCPUコアは1つのプロセッサー・グループに制限されるのだが、x265を用いたH.265形式への変換ではプロセッサー・グループに縛られず処理が割り振られていた。

x264でのエンコード時。CPU使用率を見るかぎり1つのプロセッサー・グループしか利用できていない
x265でのエンコード時。プロセッサー・グループを超えて処理が割り振られている。ただし、全コアをフル活用はできていない

 テストの結果、とくにCPU負荷の軽い1080p60→1080p60変換などでは、Ryzen 9 3950Xの下克上を許すなど、Ryzen Threadripper 3990Xの結果は奮わないが、もっともCPU負荷の高いx265での8K→8K変換ではSMT有効時のRyzen Threadripper 3990XがほかのCPUを大きく引き離している。

【グラフ08】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.13.15「H.264形式へのエンコード」
【グラフ09】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.13.15「H.265形式へのエンコード」

 TMPGEnc Video Mastering Works 7にはバッチエンコードツールが同梱されており、これを用いることで複数のエンコードを並列実行することができる。この機能を用いて、2160p60→2160p60変換を4本同時に実行した際のエンコード時間をx264とx265でそれぞれ測定した。

 ちなみに、x264ではバッチエンコード時でもプロセッサー・グループを超えることはできず、x265では完全ではないもののプロセッサー・グループを超えてCPUコアを利用できていた。

x264でのバッチエンコード時。4本同時エンコードでもプロセッサー・グループの制限により32コア64スレッドしか稼働していない。
x265でのバッチエンコード時。使用率の偏りはあるものの、プロセッサー・グループを超えてCPUコアを使っているようだ

 x264とx265の違い結果のグラフからも一目瞭然であり、x264で最速を記録したのが物理64コアをフル活用できるSMT無効時のRyzen Threadripper 3990Xであるのに対し、x265で最速を記録したのはRyzen Threadripper 3990Xだった。

【グラフ10】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.13.15「バッチエンコード(4本同時)」

 ちなみに、x264のバッチエンコードではプロセッサー・グループに阻まれてRyzen Threadripper 3990Xをフル活用できなかったわけだが、タスクマネージャーでエンコードプロセスに割り当てるプロセッサー・グループを手動で変更すれば、128スレッドをすべて活用することもできる。

 なお、x265でエンコードを実行している場合、プロセスの関係を変更しようとしても設定へのアクセスが拒否されるため、同様の手段で128スレッドをフル活用することはできない。

タスクマネージャーで「関係の設定(プロセッサの関係)」を実行すれば、x264のエンコードに利用するプロセッサー・グループを手動で選択できる
各プロセッサー・グループで2本ずつx264でのエンコードを実行したさいのCPU使用率。手間はかかるが64コア128スレッドをフル活用できる。

 手動で割り当てを行なうのに10秒前後の時間がかかるため、あくまで参考程度の結果にはなってしまうわけだが、手動割り当てを行なったx264でのバッチエンコードの処理時間は205秒を記録し、先の結果で最速だったSMT無効時のRyzen Threadripper 3990Xの213秒よりも早く処理を完了できた。

【グラフ11】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.13.15「バッチエンコード(4本同時)」

動画エンコードソフト「Adobe Media Encoder 2020」

 Adobeの動画エンコードソフト「Adobe Media Encoder 2020」でも、フルHDから8Kまでのソース動画をエンコードするのに要した時間を比較した。レンダリングエンジンには「Mercury Playback Engine - ソフトウェア処理」を利用している。

 利用できるCPUコア数については、H.264形式ではTMPGEnc Video Mastering Works 7のx264同様1つのプロセッサー・グループに限定される一方、H.265形式ではx265と同じようにプロセッサー・グループに縛られず処理が割り振られる。ただし、いずれも64コア128スレッドをフル活用するまでには至らない。

 結果として、Ryzen Threadripper 3990XがRyzen Threadripper 3970Xより明らかに速いと言える結果は限定的で、逆転を許している条件も見られる。もっとも高負荷なH.265形式の4360p60→4360p60変換で強みが見られるかと思いきや、Ryzen Threadripperが総じてCPU使用率が上がらず、結果的にRyzen 9 3950X相手にも大差ない結果となっている。

 一連の結果から、64コアを超えるCPUへの対応が進んでいる3DCGソフトに比べ、動画エンコードの分野はメニーコアCPUへの対応が不十分である感は否めない。

【グラフ12】Adobe Media Encoder 2020 v14.0.1「H.264形式へのエンコード」
【グラフ13】Adobe Media Encoder 2020 v14.0.1「H.265形式へのエンコード」

PCMark 10

 PCMark 10では、もっともテスト項目数の多い「PCMark 10 Extended」を実行した。

 PCMark 10は比較的シングルスレッド性能が問われるテスト内容なのだが、Ryzen Threadripper 3990Xのスコアは、最大ブーストクロックで勝るRyzen Threadripper 3970Xと約3%差、Ryzen 9 3950Xと約10%差という、コア数から受ける印象以上に僅差につけている。ブースト機能が電力や温度リミッターの範囲内で可能なかぎりCPUクロックを引き上げているからこその結果だろう。

 なお、SMT無効時のRyzen Threadripper 3990Xが明らかに低いスコアとなっているが、その原因はGamingスコアが著しく低いスコアとなっているためだ。どうやら、Gamingテストの一部である「Fire Strike」で性能を十分に発揮できていないようで、これは同テストを行なう3DMarkの結果でも確認できる。これに関しては特殊な条件下での不具合と考えるべきだろう。

【グラフ14】PCMark 10 Extended (v2.0.2144)

SiSoftware Sandra 20/20「CPUベンチマーク」

 「SiSoftware Sandra 20/20 (v30.25)」のCPUベンチマーク結果を紹介しよう。実行したのは「Arithmetic」、「Multi-Media」、「Cryptography」、「Financial Analysis」、「Image Processing」の5項目。なお、「Scientific Analysis」と「Neural Network (AI/ML)」については、Ryzen Threadripperの一部または全部でテストを正常に実行できなかったため除外した。

 Ryzen Threadripper 3990Xは、プロセッサの演算性能を測定するArithmeticと、マルチメディア処理性能を測定するMulti-Mediaで64コア128スレッドCPUの強みを発揮している。暗号処理性能を測定するCryptographyではメモリ帯域幅で差のないRyzen Threadripper 3970Xに並ばれているが、財務分析(Financial Analysis)や画像処理(Image Processing)でも多くの項目でRyzen Threadripper 3990Xがトップスコアを獲得している。

【グラフ15】SiSoftware Sandra v30.25 「Processor Arithmetic (プロセッサの性能)」
【グラフ16】SiSoftware Sandra v30.25 「Processor Multi-Media (マルチメディア処理)」
【グラフ17】SiSoftware Sandra v30.25 「Processor Cryptography (暗号処理)」
【グラフ18】SiSoftware Sandra v30.25 「Processor Financial Analysis (財務分析)」
【グラフ19】SiSoftware Sandra v30.25 「Processor Image Processing (画像処理)」

SiSoftware Sandra 20/20「メモリベンチマーク」

 SiSoftware Sandra 20/20のメモリベンチマークテストでは、メモリの帯域幅を測定する「Memory Bandwidth」、CPUキャッシュの帯域幅を測定する「Cache Bandwidth」、キャッシュとメモリのレイテンシを測定する「Cache & Memory Latency」を実行した。

 Memory Bandwidthでは、DDR4-3200メモリの4チャネル動作に対応したRyzen Threadripperが70GB/s前後を記録し、DDR4-3200の2ch動作にとどまるRyzen 9 3950Xを80%以上上回るメモリ帯域幅を実現している。

 キャッシュの帯域幅はコア数が多い分Ryzen Threadripper 3990Xが高速で、ピーク速度は10TB/sを超えている。レイテンシに関しては同じ第3世代Ryzen ThreadripperであるRyzen Threadripper 3970Xと同程度であり、CPUダイの数が増えても特別な変化はないようだ。

【グラフ20】SiSoftware Sandra v30.25 「Memory Bandwidth」
【グラフ21】SiSoftware Sandra v30.25 「Cache Bandwidth」
【グラフ22】SiSoftware Sandra v30.25「Cache & Memory Latency (nsec)」
【グラフ23】SiSoftware Sandra v30.25「Cache & Memory Latency (Clock)」

3DMark

 3Dベンチマークの定番ソフト「3DMark」では、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Night Raid」、「Sky Diver」の4テストを実行した。

 DirectX 12高負荷テストのTime Spyでトップスコアを記録したのはRyzen 9 3950Xで、Ryzen Threadripper 3990Xは約20%差の2番手につけている。

 Ryzen 9 3950Xはほかの3テストでもトップスコアを記録しており、Ryzen Threadripper 3990XはDirectX 12中負荷テストのNight Raidでこそトップから約3%差につけているものの、DirectX 11高負荷テストのFire Strikeで約18%、同中負荷テストのSky Diverで約32%の大差をつけられている。あくまで3DMarkでの結果ではあるが、CPUにおいては大は小を兼ねるというわけではないということを示す結果と言えよう。

 なお、SMTを無効化したRyzen Threadripper 3990Xは、Fire Strikeで著しく低い性能を記録している。とくに合理的な理由がみつからないので単なる不具合と考えられるが、これが同じテストを実行するPCMark 10において、SMT無効時のRyzen Threadripper 3990Xのスコアが伸びなかった原因である。

【グラフ24】3DMark v2.11.6866「Time Spy」
【グラフ25】3DMark v2.11.6866「Fire Strike」
【グラフ26】3DMark v2.11.6866「Night Raid」
【グラフ27】3DMark v2.11.6866「Sky Diver」

ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークでは、描画設定を「最高品質」に固定して、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。

 結果としては3DMarkと同じようにRyzen 9 3950Xが強さを見せており、Ryzen Threadripper 3990Xは約7~29%の差をつけられている。とくにフレームレートが高いWQHD以下で大差がついている。

【グラフ28】ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

 FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画設定を「高品質」に固定して、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。

 ここではRyzen ThreadripperがRyzen 9 3950Xに匹敵するを発揮している。結局のところ、Ryzen Threadripperがゲームでどれだけの性能を発揮できるのかはゲーム側の仕様次第といったところではあるが、ゲームを主目的に買うようなCPUではないこともまた確かだろう。

【グラフ29】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク v1.2

消費電力とCPU温度

 アイドル時の消費電力と、ベンチマーク中のピーク消費電力をワットチェッカーで測定した結果が以下のグラフだ。

 アイドル時の消費電力については、Ryzen Threadripperはいずれも92Wで横並びとなっており、CPUダイが増えた分のアイドル時消費電力の増加は誤差レベルにまで抑えられていると言える。絶対的な数値としては52Wを記録したRyzen 9 3950Xよりかなり大きく、Socket sTRX4自体が電力消費の大きなプラットフォームであると言える。

 Ryzen Threadripper 3990Xのピーク時消費電力は、CPUテスト実行中で201~438W、3Dベンチマーク中は596~602Wだった。ハイエンドGPUであるGeForce RTX 2080 Tiとの組み合わせでもこの程度に収まるレベルであり、電源ユニットへの要求はそれほど厳しいものではない。また、CINEBENCH R20のAll CoreテストでRyzen 9 3950Xを170%も上回るスコアを記録していたことを考えれば、全コア利用時の電力効率はRyzen 9 3950Xをも上回るものということになる。

 フル稼働時の電力効率の良さが光るRyzen Threadripper 3990Xだが、CINEBENCH R20のSingle Coreテストや3DMarkでの高い電力をみると、実際のPC利用で支配的になるアイドルとフル稼働の中間負荷での電力効率はそれほど良くないようだ。もっとも、このクラスのCPUを使うユーザーにとって、その程度の電力消費は大した問題ではないだろう。

【グラフ30】システムの消費電力 (3Dベンチマーク)

 最後に、CPU温度の測定結果を紹介しよう。CPU負荷に用いたのはTMPGEnc Video Mastering Works 7のx264バッチエンコードで、先のテスト内容からソース映像の長さを3倍にすることで実行時間を10分近くに延長している。なお、SMT有効時のRyzen Threadripper 3990Xに対しては、手動でプロセッサー・グループを調整してCPU負荷を100%に引き上げている。

 温度の測定はモニタリングソフトの「HWiNFO v6.22」を利用し、CPUクーラーである「ASUS ROG RYUJIN 240」の冷却ファンを100%動作させたさいと50%に絞った際のCPU温度(Tctl/Tdie)を測定した。

 なお、現行のRyzenはCPU温度をはじめとする複数のパラメータから動作クロックをアグレッシブに制御するブースト機能を備えており、ピーク温度を測定するだけではデータとして不十分なため、今回は最大CPU温度とアイドル時温度に加え、CPU使用率が40%以上の高負荷状態での平均CPU温度も計測した。

 前置きが長くなったが、CPU温度の測定結果が以下のグラフだ。ファンスピードを50%の絞った状態であっても高負荷時の平均CPU温度は70℃台となっている。決して発熱が小さいCPUではないが、240mmクラスの一体型水冷でも十分に冷却できる程度の発熱と言えよう。

【グラフ31】CPU温度

 モニタリングデータから作成した、CPU温度と動作クロックの推移グラフも紹介する。

 これをみれば、CPUがピーク温度に達したのはすべての処理が完了する瞬間で、CPU使用率の低下によりブースト機能がCPUクロックを引き上げた瞬間であることがわかるはずだ。CPUがフル稼働中の温度は、先に紹介した高負荷時の平均CPU温度に近いものとなっている。

 また、グラフをよくみると、ファンスピード50%よりも100%のほうがややCPUクロックが高い数値で推移していることも見てとれる。いずれもベースクロックである2.9GHzより高い数値であり、このクロック差はサーマルスロットリングではなく、ブースト動作の効き具合の違いによってついた差だ。

【グラフ32】Ryzen Threadripper 3990X SMT-ON (64C128T)のモニタリングデータ
【グラフ33】Ryzen Threadripper 3990X SMT-OFF (64C64T)のモニタリングデータ

抜群のマルチスレッド性能を誇る64コア128スレッドCPU

 3990ドルの64コア128スレッドCPUとしてコンシューマ向けに投入されるRyzen Threadripper 3990Xは、かつてないほどのマルチスレッド性能と価格で、コンシューマ向けCPUという概念を拡張するCPUだ。

 その性能をWindows上で使い切るには、プロセッサー・グループを超えてCPUコアを利用できるアプリケーションの利用が不可欠だが、CPUコアを使い切れない状況でもブースト動作によってクロックが引き上げられるため、なかなかの性能を発揮している。最終的なレンダリングのみならず編集作業もこなせる、個人向けのワークステーションとして優れた性能が得られるCPUと言えよう。

 また、これほどのコア数と性能を備えたCPUでありながら、CPU以外は特別なパーツを必要としないのも魅力だ。今回構築したテスト環境のように、メモリやCPUクーラーから電源ユニットにいたるまで、普通の自作PC用パーツを使って利用できる。CPU以外のコストはかなり安価に抑えることも可能だろう。

 ともあれ、既存のRyzen Threadripperがそうであるように、その膨大なコア数の使い道が決まっているユーザー向けのCPUであることには変わりない。軽い気持ちで購入するには厳しい価格のCPUだが、64コア128スレッドCPUのマルチスレッド性能を必要としているユーザーにとっては、決して高価な選択肢ではないはずだ。


【告知】2月8日(土) Threadripper 3990Xの実動レビューを生配信!

自作PC史を塗り替える64コア/128スレッド対応のウルトラハイエンドCPU、Ryzen Threadripper 3990Xの実動レビューをライブでお届けします。性能は? どんなアプリで効くのか? 必要な電力は? どれくらい冷やせばいいのか? などなど、気になるポイントを大解説。激アツの生ベンチは“KTU”加藤勝明氏が担当、番組の進行は“改造バカ”高橋敏也氏です。

本ナマ!改造バカ