Hothotレビュー

物理Escキー復活などCPU以外ほぼ全取っ替えになった「MacBook Pro 16インチ」は“買い”である

第5世代MacBook Proと呼ぶに相応しい大幅なモデルチェンジが施された「MacBook Pro 16インチモデル」。5月に第9世代Coreプロセッサーを搭載したモデルが登場し、半年もたたないうちのモデルチェンジとなった

 AppleのMacBookファミリーは一度デザインが決まるとしばらくデザインが変わらない。ハードが変わってもデザインが大きく変わらないので、新モデルが出ても新鮮味に乏しい……と感じている人も多かったのではないだろうか。2016年にTouch Barという新しい装備も追加されたが、進化の停滞感は否定できなかった。

 だが、2019年11月13日に販売が解禁された「MacBook Pro 16インチモデル」は、ひさびさの大型アップデートとなった。

 MacBook Proシリーズはこれまで4コア以上のCPUとディスクリートGPUを搭載した15インチモデルと、2〜4コアCPU&内蔵GPUの13インチモデルのハイローミックス構成で回してきた(17インチモデルも存在したが、2012年に終息している)が、MacBook Pro 16インチモデルは15インチモデルを置き換えるかたちになる。

 MacBook Pro 16インチモデルの変更点は液晶の大型化やキーボードの大改編にとどまらず、ディスクリートGPUやオーディオシステムの刷新などきわめて多岐にわたる。今回のモデルチェンジは初代から数えて5番目の大改編となった(2006年初代、2008年〜 : ユニボディ世代、2012年〜 : Retinaディスプレイ世代、2016年〜 : Thunderbolt 3世代に続く5番目)。

 そして、CPU以外のスペックが全体に底上げされているにもかかわらず価格は旧15インチモデルに比べ10,000〜16,000円安くなっており、実質大幅値下げと言ってよいだろう。

 MacBook Pro 16インチモデルについて最初に結論を言ってしまえば、ひさびさに“Pro”と名乗るのに相応しい内容を備えている。ではそこまで評価する理由はなんなのか?

 今回は幸運にもCore i9-9980HKをはじめスペックを適度に盛ったCTOモデルをテストする機会に恵まれた。さまざまな角度から検証してみたい。

【表1】MacBook Pro 16インチのスペック ※CPUは筆者推測
型番検証機MVVM2J/AMVVL2J/A
ディスプレイ16インチ 3072×1,920ドット(226ppi)、True Toneテクノロジー
CPUCore i9-9980HK(8コア/16スレッド、2.4〜5GHz)Core i9-9880H(8コア/16スレッド、2.3〜4.8GHz)Core i7-9750H(6コア/12スレッド、2.6〜4.5GHz)
メモリDDR4-2666 32GBDDR4-2666 16GB
グラフィックRadeon Pro 5500M(GDDR6 8GB)Radeon Pro 5500M(GDDR6 4GB)Radeon Pro 5300M(GDDR6 4GB)
ストレージ2TB(NVMe SSD)1TB(NVMe SSD)512GB(NVMe SSD)
インターフェイスThunderbolt 3×4
ネットワークIEEE 802.11ac、Bluetooth 5.0
バッテリ容量100Wh
バッテリ動作時間最大11時間
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)357.9×245.9×16.2mm
重量2kg
OSmacOS Catalina
税別価格409,800円288,000円248,800円
【表2】旧MacBook Pro 2019 15インチのスペック
型番検証機MV922J/AMV912J/A
ディスプレイ15.4インチ 2,880×1800ドット(220ppi)、True Toneテクノロジー
CPUCore i9-9980HK(8コア/16スレッド、2.4〜5GHz)Core i9-9880H(8コア/16スレッド、2.3〜4.8GHz)Core i7-9750H(6コア/12スレッド、2.6〜4.5GHz)
メモリDDR4-2400 32GBDDR4-2400 16GB
グラフィックRadeon Pro Vega 20(HBM2 4GB)Radeon Pro 560X(GDDR5 4GB)Radeon Pro 555X
(GDDR5 4GB)
ストレージ512GB(NVMe SSD)256GB(NVMe SSD)
インターフェイスThunderbolt 3×4
ネットワークIEEE 802.11ac、Bluetooth 5.0
バッテリ容量83.6Wh
バッテリ動作時間最大10時間
本体サイズ(同)349.3×240.7×15.5mm
重量1.83kg
OSmacOS Mojave
税別価格407,800円302,800円258,800円

 下の表2のほうはMacBook Pro 15インチモデルのスペックであり、表中の評価機とは8月にレビュー(最大5GHzのCore i9搭載Mac最速ノート「MacBook Pro 2019 15インチ」“特盛モデル”を徹底検証参照)したさいに試用した個体のスペック。MacBook Pro 16インチモデルのほうがスペックアップで値下げされていることがよくわかるだろう。

 なお、レビューは以下の動画でも行なっているので、合わせてご覧いただきたい。

キーボード周辺に改善が集中

 まずは外観からMacBook Pro 16インチモデルを眺めてみよう。16インチモデルという言葉からわかるとおり、前世代モデルと比較すると液晶サイズがひとまわり大きくなった。だが本体サイズは幅8.6mm、奥行き5.2mmの増加にとどまる。

 8月にレビューした旧15インチモデルと基本デザインは同じだし、全体のサイズ感や液晶とキーボードのバランスもほとんど変わった印象はない。ただ重量は170g増えて2kgとなったため、手にとるとズシリと感じるかもしれない。

アルミユニボディ(一体成形)は継続使用であるため、全体のデザインエッセンスに変更はない。天板のAppleロゴもそのままだ
サイズ感がわからない! という人のためにDOS/V POWER REPORT(A4変形版)と比較してみた

 搭載インターフェイスは従来どおり、USB Type-C(Thunderbolt 3)ポートが合計4基に、オーディオジャック(4極プラグ対応)があるだけのシンプルな構成だ。よってSDカードの利用やUSBデバイス(とくにプロ向けソフトで使われるUSBドングル)などの利用には、必然的にUSB Type-C Hubが必要になる。冒頭部分で“Proと名乗るに相応しい製品”と書いたが、この点だけはAppleの頑固さが残ってしまったかたちになる。

搭載インターフェイスは左右のThunderbolt 3対応のUSB Type-Cポートが2基ずつ。さらに右側面にのみ4極プラグ対応のヘッドセット端子を配置(公式にはヘッドフォン端子扱いだが……)
前面と背面にはポート類はおろかインジケータLEDの類すらないのはこれまでどおりだ
ACアダプタは出力96Wの「USB Type-C電源アダプタ」とUSB Type-Cケーブルを利用する。もちろんモバイルバッテリやUSB PD対応のスマートフォン用ACアダプタで給電することもできる(ただし保証外の行為となる)
付属品は相変わらずシンプル。紙のマニュアルはクイックスタートガイド程度しかついていない

 MacBook Pro 16インチモデルにおける最大の変更点は、キーボードの刷新だ。2015年のMacBook 12インチモデルで初採用されたバタフライ構造のキーボードは本体の薄型化に大きく貢献したが、反面ストロークが短く、タイピングのフィーリングについては否定的な反応が多かった。それがMacBook Proシリーズにも採り入れられたが、構造的にゴミの混入に弱く、キー入力を妨げるトラブルも報告されている。

 だがMacBook Pro 16インチモデルではバタフライを捨て「Magic Keyboard」、すなわちApple純正外付けキーボードとほぼ同じ構造のシザース機構が採用された。薄型化のためにシザースからバタフライへ移行しながら、MacBook Pro 16インチモデルではシザースへ戻したというのは、ここ数年のAppleプロダクトの流れを見ると苦渋の決断、ユーザーからすれば英断とも言える。

 ともあれ、このMacic Keyboardはタクタイル感が非常にマイルドになり、バタフライ世代よりも指が柔らかく沈み込む感触だ。バタフライ世代のMacBook Proは撫でるような運指でないと指が痛くなるが、MacBook Pro 16インチモデルではとくに意識しなくても打てるだろう。

 フィーリングとしてはバタフライに切り変わる前のMacBook Proに近いが、キートップのウォブリング(グラつき)がかなり抑えられ、打鍵音もかなり優しくになっている。

テンキーなし、ファンクションキー部はTouch Barで運用するのが最近のMacBook Proシリーズだが、MacBook Pro 16インチモデルではキーボードの機構そのものに大きな手が入っている

 キーの機構ばかりに話が集中してしまったが、配列面でも大きな変更が加えられた。まずカーソルキーが山型の配置になり、上や下を押そうと思ったときに左右を誤爆するミスが出にくくなった。さらにTouch Barによって消滅してしまったEscキーが物理キーとして復活した。

 とくに後者はUnixのVim(テキストエディタ)で作業を行なうことの多い技術者にとっては、これだけで買い替えに値する変更と言える(VimではEscキーが各種操作の起点になることが多いのだ)。Touch BarにEscを吸収したものの、一部ユーザーの利用頻度の高いEscだけはTouch Barから外した、という点はバタフライからシザースへ戻した決断に通じるものがある。

カーソルキーが山型になった! というのがニュースになるのはどうかと思うが、使い勝手の上がる変更点は歓迎したい。BackSpaceキーの上には指紋センサー兼電源ボタンが配置されているが、そのボタンもTouch Barから独立し、ほかのキーに合わせツヤ消し処理となった
Vimmer、すなわちVim使いが泣いて喜ぶであろうEscキーが劇的な復活をはたした。VimmerでなくともEscキーをよく使う環境では使い勝手が大幅に向上することは間違いない
キーバックライトは白色LEDのみ。安易にRGB LEDを仕込まないあたりは評価したいところ

映像&サウンドクリエイターにうれしい変更点も

 MacBook Pro 16インチモデルではオーディオ&ビジュアル面でも大きな改善が加えられた。まず一番大きな変更点は、液晶パネルのサイズが16インチへわずかにインチアップされ、解像度は3,072×1,920ドットとなった(旧15インチモデルは2,880×1,880ドット)。

 RetinaディスプレイなのでmacOSで使う場合はドット等倍は選択できず、2,048×1,280ドット相当の作業領域となるが、それでもDCI 2Kの2,048×1,080ドットをスケーリングさせずに表示できるようになっている。

環境光センサーを使い周辺の光の色温度に合わせホワイトバランスを自動的に調整するTrue ToneテクノロジとDCI-P3の色域に対応したRetinaディスプレイが使われている。解像度も向上し、macOSではDCI 2K+αの情報量を表示できるようになった

 そしてなにより注目すべきは、このRetinaディスプレイのリフレッシュレートが47.95/48/50/59.94/60Hzのなかから選択できるようになっていることだ。

 これは現在映像コンテンツで使われているフレームレート(23.97/24/25/29.97/30/60fps)の整数倍となっている。29.97fpsの動画をリフレッシュレート60Hzのディスプレイに表示すると、フレームレートのわずかな違いを吸収するためにフレームが飛んだように見えることがある。

 だがMacBook Pro 16インチモデルのRetinaディスプレイなら、映像フォーマットに合わせたリフレッシュレートにすることでそれを防止できる。これは映像制作を行なう人にとっては有用な機能と言える。

 ただしこのリフレッシュレートは、今回テストしたBootCamp環境では選択できなかった。AMDが対応ドライバを出せば解決するのかは不明だが、少なくとも11月末時点ではWindows環境だと60Hzでしか駆動できていない。

画面のリフレッシュレートは60Hzのほかに23.97/24/25fpsの整数倍のリフレッシュレートが選択可能だ
BootCamp環境下だとドット等倍表示が利用できるが、リフレッシュレートは60Hz固定となった。ただし今後ドライバなどの改善で変わる可能性は残されている
Excelのシートを画面に広げ、表示できる範囲を15インチモデル(左)と比較してみた(画面の情報量を一番高くした状態での比較)。MacBook Pro 16インチモデルのほうが解像度が高くなっているため、リボンインターフェイスの情報量も増えていることがわかる

 オーディオ周りもかなり大きく変更された。筐体の左右、パームレスト側にスピーカーユニットが仕込まれているのは従来と同じだが、筐体の容積の増加&内部構造の見直しにより、スピーカーユニットも大型化した。

 片側あたりツイーター1+ウーファー2で構成されているが、従来のMacBook Proシリーズに比べ圧倒的に音の迫力が増している。とくにウーファーの搭載により低音部の表現力向上が著しい。ただしMacBook Pro 16インチモデルのスピーカーは指向性があるため、正面以外でのリスニングには適していない。作業中に音をモニタリングするためのもの、あるいは正対して動画を見るためのもの、と考えたほうが良さそうだ。

 さらにMacBook Pro 16インチモデルのスピーカーユニットはDolby Atomsの再生にも対応しており、下手なBluetoothスピーカーを使わなくても、本体だけで良好なサウンド再生環境を提供できている点は評価したい。

 加えて、内蔵マイクも3基で構成されるマイクアレイとなり、よりクリアな録音が可能になったとのことだが、これに関しては旧世代と明確な違いを感じることはできなかった。

MacBook Pro 16インチモデルの内蔵スピーカーとマイクのサンプリング周波数は定番の44.1/48/96kHzに加え、44.1kHzの整数倍である88.2kHzも選択可能だ

Navi系最新GPUに最大8TBの超大容量SSDも選択が可能に

 それではハードウェアの中身について詳しく見ていこう。

 MacBook Pro 16インチモデルのCPUは8月にレビューした15インチモデルと同じ、6コア/12スレッドのCore i7-9750H(以降CPUの型番はツールによる実測や筆者推測によるもの)もしくは8コア/16スレッドのCore i9-9880HKが基本構成で、CTOで8コア/16スレッドの最上位モデルであるCore i9-9980HKも選択可能だ。

 せっかく筐体が変わったのだからCPUも新しくしてほしかったところだが、残念ながらIce Lakeは低電圧のU/YプロセッサのみでMacBook Pro 16インチモデル向けの多コアモデルはまだ存在しないので仕方のないところだろう。

 だがGPUに関しては大きく変化した。2019年8月登場のMacBook Pro 15インチモデルでは、標準搭載のGPUはPolaris世代のRadeon Pro 555Xや560X、CTOでVega 16やVega 20も選べたが、PolarisやVegaはGPUの設計そのものがすでに最新ではなく、さらにVRAM搭載量も4GBと少ない。とくに4K以上の動画編集をするにはVRAM4GBは圧倒的に少ない。

 これに対しMacBook Pro 16インチモデルでは7nmプロセスで製造されている“Navi”世代のRadeonのなかでも最新のRadeon Pro 5300Mまたは5500Mを採用。標準搭載のVRAMは4GBだが、CTOでVRAM 8GB版の5500Mも用意されている。

 CPUは据え置きだがつい先日(12月12日)デスクトップ用のRX 5500XTが発売になったばかりであることを考えると、デスクトップPCよりも早く最新のRadeonを採用したことになる。

「MacCPUID」で評価機(CTOでカスタマイズ済)のCPUはなにかチェックしたところ、モバイル向け第9世代Coreプロセッサの最上位であるCore i9-9980HKであることが確認できた。最下段にはRadeon Pro 5500Mの記述も見える
評価機のRadeon Pro 5500MはCTOで選択できるVRAM 8GB版であることが「システム情報」アプリから読み取れた。MacBook Pro 16インチモデルでも低負荷時はRadeonではなくCPU内蔵のものを使うGPUの自動切り替え機能を採用している

 メモリやストレージ周りも地味にスペックアップされている。まず搭載“量”に目を向けてみるとメモリは旧MacBook Pro 15インチもMacBook Pro 16インチモデルも標準構成は16GBだが、MacBook Pro 16インチモデルは最大64GBまで実装可能になっている(旧15インチは32GBまで)。

 SSDは旧15インチが256GBまたは512GB、最大4TBまで増量可能だったものが、MacBook Pro 16インチモデルでは標準構成で512GBまたは1TBとなったため容量倍増、さらに最大搭載量も2倍の8TBまで増量できるようになった。

CTOでメモリやSSDの増量は可能だが、大容量化にはそれなりに予算もかさむ。8TB SSDにするともう1台MacBook Pro 16インチモデルが買えそうな値段になるが、ノートでここまで搭載できるのはそうそう存在しないだろう……

 とくにSSDは256GB程度だと動画編集には心もとなさすぎるし、BootCampやVM環境でWindowsを導入すれば本格運用は絶望的であるため、標準構成における容量倍増は非常に喜ばしい。

 ただし注意点として、メモリやSSDは従来と同様にオンボード実装ゆえに購入後の増設は不可能だ。そのため、あとからスキルアップをしたら増設……という運用はできない。薄型化とセキュリティ確保のためには仕方のない部分とはいえ、メモリくらいは増設させてほしかったところだ。

 ただ速度のほうはメモリはDDR4-2400から2666になったことで性能向上はわずか。SSDは従来どおりPCI Express 3.0のx4接続であるため、コントローラやNANDフラッシュメモリの性能次第である。

MacBook Pro 16インチモデルの内部。ヒートパイプが左右に走っているが、その真下にGPU(左側)とCPU(右側)が配置されている。ヒートパイプからやや離れた場所にメインメモリやVRAMが実装されているが、各チップには放熱用素材が貼りつけられているため、直接型番などを確認することはできない
SSDはCPUとはやや離れた位置に実装されている。図の黒いチップがThunderbolt 3チップ(Titan Ridge)だが、その下に白っぽく見えるチップ(実際は金属光沢色)がNANDフラッシュだ
内部の全体写真でもわかるとおり、NANDフラッシュとSSDコントローラはロジックボードの端側、基板の表裏を利用して4箇所に分散配置されている。OSから見ると1基のSSDとして認識されているが、別にRAID 0などでまとめているわけではないようだ

 1つ残念だなと感じたのは搭載されている無線LANがWi-Fi 5(802.11ac)止まりであることだ。ただWi-Fi 6(802.11ax)はまだ対応ルーターも少なく、Apple自身が無線LANのアクセスポイント開発から手を引いてしまっている。

 Appleは今コストをかけてWi-Fi 6を載せるのは時期尚早と判断したと推測できるが、ハードに目新しさを与える意味でも実用面でも、高速通信が期待できるWi-Fi 6が欲しいところだ。

搭載されている無線LANはWi-fi 5。3x3通信なので最大1,300Mbpsの通信が可能だが、Wi-Fi 6でないのが非常に残念

同CPUでも性能差はしっかりと出る

 ではさまざまなベンチマークを通じてMacBook Pro 16インチモデルの性能をチェックしよう。

 本来なら8月にレビューした旧15インチモデルのCTOモデルを準備したいところだが、機材調達困難ということで、旧モデルについては8月レビュー時の数値をそのまま掲載する。OSは旧モデルがMojaveでMacBook Pro 16インチモデルがCatalinaであるため、厳密に比較するのではなく“参考値”として見ていただきたい。さらに参考用に、筆者の所持していたMacBook Pro 13インチの2018年モデルも合わせて比較する(これも8月時点のデータを流用した)。

 では最初にCPUの馬力を見る「CINEBENCH R20」を試してみよう。旧15インチモデルとMacBook Pro 16インチモデルのCPUは最大5GHz動作のCore i9-9980HKを搭載している。ただし本体容積が増え冷却システムの形状も変更、さらにメモリのクロックも微増しているので、これらの要因がどこまでスコアに影響するかチェックしたい。

「CINEBENCH R20」のスコア

 前述のとおり旧モデルの結果は参考値ではあるが、MacBook Pro 16インチモデルのスコアは至極順当なものだ。5%程度旧15インチモデルより高い感じだが、これは冷却効率が云々ではなく、メモリクロックが引き上げられた結果こうなった、と考えるべきかもしれない。つまりCPU性能については、同じCore i9やCore i7を使っている以上は、旧15インチモデルとおおむね同じなのだ。

 同じCGレンダリング系ベンチである「V-Ray Next Benchmark」も試しておこう。ここではCPUのみを使うテストを実施する。結果はレイを飛ばして計算した数なので、CINEBENCH同様グラフが長いほど高性能になる。

「V-Ray Next Benchmark」の結果

 ここでも旧15インチモデルに対する性能差は3%に満たない。メモリクロック引き上げによる効果はこの程度だろう。旧15インチモデルでCTOカスタムを効かせた人は慌てて買い換える必要はないだろうが、物理4コア以下のMacを使っているなら、2倍近い計算性能の向上を獲得することができるだろう。

 続いてはOpenGLを使ったグラフィック描画性能を「Unigine Valley」で試してみよう。画質はプリセットの“Standard”とし、ベンチマークモードを一周させて最後に提示されるフレームレートを比較する。

「Unigine Valley」のフレームレート

 Navi世代のRadeon Pro 5500Mの性能は、旧世代のVega 20に比べ平均fpsベースで18%強上がっている。MacBook Pro 16インチモデルの平均114.8fpsという数値はとても速いように見えるが、ValleyのStandard設定は解像度も画質もひかえめなので、ゲーミングノートとして使えるとは言いにくい。

 クリエイティブ系処理のベンチマークに入ろう。

 まずは「Premiere Pro」で編集した約3分半の4K動画を「Media Encoder 2020」で4K MP4動画に書き出す時間を計測する。エンコードは1パスVBRとし、コーデックはH.264が平均80Mbps(最大95Mbps)、H.265が平均25Mbpsとした。さらにエンコード処理にCPUパワーをおもに使うソフトウェアエンコード(デコード処理はGPUで処理するMercury Playback Engineを利用する)のほか、ハードウェアエンコードでGPU内蔵のエンコード機能を使ったときの時間も計測した。

「Media Encoder 2020」のエンコード時間

 OSどころかソフトのバージョンも異なっているため、CINEBENCH以上に旧モデルは参考的に見る必要があるが、旧15インチモデルとMacBook Pro 16インチモデルの処理時間の差は長くて30秒程度、短ければ数秒ときわめて短い。ことこの処理においては、メモリクロックの違いは誤差レベルだし、GPUパワーの差は感じられるレベルとは言えない。だがディスクリートなGPUを持たない13インチモデルとの差は大きい、ということはわかった。

 続いては「Lightroom Classic CC」でDNG形式のRAW画像100枚をJPEGへ現像して書き出す時間を計測した。元画像は6,000×4,000ドット、色温度やレンズ補正などを加え、それを最高画質のJPEG形式で出力するが、そのさいにシャープネス(スクリーン用、適用量“標準”)も付与している。

「Lightroom Classic CC」におけるRAW現像時間

 シャープネスをかけるとCPU負荷はかなり上昇するが、つねに100%張り付きではない。4コア/8スレッドのCPU(Core i5-8259U)を搭載したMacBook Pro 13インチモデルより確かに速いが、劇的にとは言えない結果となった。ただもっと画素数の多い画像や凝った現像にする場合は、差がさらに広がる可能性はある。

 ストレージの性能は「AmorphousDiskMark」で計測した。テストサイズはデフォルトの1GiB×5とした。

「AmorphousDiskMark」のテスト結果。左が8月に計測した旧15インチモデルのもの、右がMacBook Pro 16インチモデルのもの。この2つのスクリーンショットはソフトのバージョンが異なる

 MacBook Pro 16インチモデルのSSDはPCI Express 3.0 x4接続のSSDとしては標準的な読み書き性能を備えている。8月にテストした旧15インチモデルはシーケンシャルライトが遅い印象だったが、MacBook Pro 16インチモデルのSSDではそれは見られない。

 旧15インチモデルのSSDは1TBなのに対し今回試用したMacBook Pro 16インチモデルは2TBなのでストレージの容量差に起因するのでは……と思う人もいるだろう。そこで筆者が購入したMacBook Pro 16インチモデル(CPUとGPUは検証機と同じ。メモリ16GB、SSDは1TB)でも試してみた。

筆者が購入したMBP(Core i9-9980HK、SSD 1TB)の「AmorphousDiskMark」の結果

 ここでもシーケンシャルリードが3,200MB/sと高く出ている。すべてのMBPにおいて同じSSDが搭載されるという保証はないが、旧15インチモデルに比べライト性能が大幅に改善されたSSDを使っているようだ。

Windows 10環境で運用する

 ではBootCampを利用してMacBook Pro 16インチモデルをWindows 10ノートとして使ったさいの性能をチェックしよう。ここでもMBPのOSは最新のNovember 2019 Update(1909)を導入しているため、旧モデルの数値はそう外れてはいないものの、参考程度にとどめておきたい。

 まずは総合ベンチマーク「PCMark 10」を利用し、すべてのテストグループを回す“Extended Test”を実施した。最近のAMDは公式HPにおいてBootCamp用のドライバを提供しているが、検証時点ではRadeon Pro 5500M用のドライバは出ていなかったので、BootCampに組み込まれたドライバを使用している。

「PCMark 10」のスコア

 ここではMacBook Pro 16インチモデルが旧15インチモデルに対し3%程度総合スコアで下回ってしまった。各テストグループの内容を見ても、Gaming以外のすべてのテストで少しずつ負けている。ドライバー周りの熟成不足が疑われる。ただGaming性能に関してはRadeon Pro 5500Mの性能がしっかり活かされているようだ。

 「3DMark」を利用してもう少しグラフィック性能を検証してみよう。macOS環境で試したValleyは設定が軽すぎるのと、API的にもう古すぎる(Apple一押しのMetal系の派手なベンチマークが欲しいところだ)。だが3DMarkならその点大丈夫だ。

「3DMark」のスコア

 フルHD向けで負荷がマイルドなFire Strikeでは、旧15インチモデルよりもスコアは約20%上昇。DirectX 12ベースのエンジンを備えたTime Spyでは30%近くスコアが伸びている。macOS環境で実施したValleyの平均fps比に近いことが確認できた。

 「ファイナルファンタジーXIV : 漆黒のヴィランズ」の公式ベンチも試してみよう。解像度は1,920×1,080ドットとし、画質は一番重い“最高品質”と一番軽い“標準品質(ノートPC用)”を選択した。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」のスコア

 ここでも旧15インチモデルとのパワー差は13〜25%をつけて勝利しているため、Valleyや3DMarkの結果と矛盾はしない。ただMacBook Pro 16インチモデルの場合、最高品質でも最上位の評価である「非常に快適」を獲得している。

 旧15インチモデルと同様にMacBook Pro 16インチモデルのGPU性能はエントリークラスのゲーミングPC相当。つまり軽いゲームならフルHDで遊べるが、重量級ゲームでは解像度や画質を犠牲にする必要がある。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」のフレームレート

 上のグラフは前掲のスコアが出たさいのベンチマーク画面の最低および平均フレームレートを比較したものだ。基本的に平均フレームレートはスコアとおおむね連動するが、旧15インチモデルのVega 20が最高品質で平均50fpsを割り込んでいるのに対し、MacBook Pro 16インチモデルだと平均60fpsをわずかに下回る程度。描画の軽いゲームであれば、画質ひかえめにすることでゲームにもなんとか使えるといったところだ。

気になる熱とバッテリ持続時間は?

 8月にレビューした旧15インチモデルでは、最大5GHz動作のCore i9-9980HKは過熱でフリーズすることはないものの、負荷をかけはじめて早々にクロックが落ちていた。

 TDP 45Wの枠内かつCPUの温度限界であるTjmax(100℃)までギリギリまで使って性能を絞り出すというチューニングになっているだろう、ということだったが、MacBook Pro 16インチモデルではこの状況に変化はあったのだろうか?

 そこで「Intel Power Gadget」を利用して、「DaVinci Resolve Studio」で8K MP4(H.264)動画を約22分間エンコード処理をさせた時のCPUパッケージ温度とクロックを追跡してみた。室温26℃前後の環境で計測している。

温度とクロックの追跡には「Intel Power Gadget」を利用した。Frequency欄のピンクのライン(REQ)と、水色のライン(AVG)が離れているときは、TDP制限か温度制限によってクロックが下がっているケースが多い。これは平常時のスクリーンショット
エンコード時はこんな感じにギザギザとした感じになることもある。クロック推移(Frequency)グラフを見るとだいたい2GHz台後半〜3GHz台前半で推移。CPUのクロックに合わせて最上段の電力消費(Power)も大きく揺れている
エンコード処理中のクロックの推移
エンコード処理中のクロックの推移

 まずクロックの推移から見ると、エンコード処理がはじまってすぐに最大値(4.26GHz)を示したものの、基本的にそれが維持されることはなく、激しく変動している。これはエンコード処理が常にCPUをフル回転させるわけではなく、その時々においてパワーが不要ならクロックを下げて温度上昇を抑制している感じだ。

 だがCPUのパッケージ温度は開始から1分程度で100℃に到達してはクロックが下がって温度もさがる……というサイクルを繰り返している。筐体が大型化して冷却性能は少し上がったかもしれないが、その余力をCPUが使うので長時間高負荷で使う場合のCPU温度は低くならない……という感じだろうか。

 下の画像はサーモグラフィーカメラ「FLIR ONE」を利用しエンコード前とエンコード開始から15分後の表面温度分布を比較したものだ。

エンコード処理前(左)および処理中(右)の温度分布。前掲の内部写真でCPUやGPUが配置されていたあたりの温度が高くなっている

 高負荷時はCPUとGPUが入っているキーボードのR〜Oのあたりに高温部が集中し、パームレストや筐体左右の温度は低い。液晶下部の温度が高くなっているように見えるが、これは温められた空気がちょうど左右のヒンジ付近から排出され、液晶下部が熱をもっているように見える、というのが正しいところだ。

 ベンチマークのシメとしてバッテリ駆動時間と、チャージ時間をチェックしてみたい。

 まず駆動時間については、画面の輝度は最高輝度設定から4目盛り下のポジションに設定。Automatorを利用し、主要なWebサイトを巡回し続けたときと、YouTubeでプレイリストに放り込んだ動画を延々と再生させたとき(解像度はまちまちだが、同じ動画は2度再生しない)の2パターンを試した。

 次のグラフはバッテリ残量(パーセンテージ)を“ioreg -n AppleSmartBattery”コマンドで取得し、グラフ化したものだ。

連続動作時のバッテリの残量をプロットしたもの。旧15インチモデルの結果はあくまで参考データにすぎない

 若干ログの不備があり一部データは97%あたりからの追跡になってしまったが、Web巡回時は約9時間40分、YouTube連続再生だと約7時間で強制スリープとなった。

 旧15インチモデルのバッテリは83.6Whなのに対し、MacBook Pro 16インチモデルは100Whと大幅に増量されたが、それが見事に活かされていることがわかる。もちろんエンコードなどのCPUに負荷をかける作業を行なえば持続時間はもっと短くなるだろうが、移動中に資料をじっくり読みながらメールを書きたい、程度の作業ならかなり持ってくれそうだ。

 ではバッテリ残量ほぼゼロの状態からフル充電になるまでの時間もチェックしてみたい。今回は同梱の96WのACアダプタのほかに、RAVPower製の窒化ガリウムを採用した超小型の61W USB Type-C急速充電器「RP-PC112」でも計測する。同梱のACアダプタは大出力なぶん重いため、外出時は軽量なACアダプタを使いたいからだ。ちなみにケーブルは同梱のものを利用した。

 もちろん、同梱のACアダプタ以外のACアダプタの利用についてはユーザーの自己責任となる。もしこれを読んで試し発火や故障などのトラブルに見舞われても、筆者およびPC Watch編集部は責任を一切負うものではない。

同梱の96W ACアダプタとRAVPowerの小型急速充電器で充電した時の充電スピードの違い

 強制スリープの状態から充電をはじめ、OSが起動できるようになった時点から計測スタートなので始点は若干ずれているが、残3%から100%充電までの時間は純正ACアダプタが約2時間半、RAVPower製の小型急速充電器だと約2時間50分。

 この間は手をふれずに起動した状態で放置しているため、液晶を閉じてスリープさせればもっと短くできるが、小型の急速充電器でも(自己責任ではあるが)割とよいペースで再充電できることが確認できた。

まとめ : まだ頑固なAppleらしさは残っているが、ユーザビリティに歩みよった良モデルチェンジ

 以上でMacBook Pro 16インチモデルのレビューは終了だ。全スペックを最大まで盛ると716,980円ととんでもない値段になるが、SSDとメモリの搭載量をマイルドにすれば普通のGPU搭載大型ノート程度の値段になる。標準構成で旧モデルより安くてスペックアップ、という点は多いに評価すべきだろう。

 液晶の質や解像度、さらに動画編集に寄せたリフレッシュレート設定は非常にすばらしい。液晶の保護ガラスがややテカるのが気になる人もいるかもしれないが、DCI-P3に対応した色表現は動画や写真編集にはうってつけだ。最新のRadeon Pro 5000Mシリーズの採用も評価すべきポイントだが、個人的にはもう少しパワーがあっても良かった気がする。

 キーボード周りの設計が劇的に改善された点はアプリ開発者には福音だ。Appleが2015年以降バタフライ構造を少しずつモデルチェンジしてきたが、それを潔く捨てて既存のものに戻るという決断には驚かされた。ここ数年のAppleは理想に突き進み過ぎて、それを受け入れられないユーザーを切り捨てる印象すらあったが、キーボードのシザース回帰は、より現実的なユーザー目線に戻ろうという予兆のようにも見える(かなり楽観的な考えだが)。

 MacBook Pro 16インチモデルはパッと見こそ従来のモデルと変わらないが、中身は大幅に変わっている。今パワーのあるノート型Macが必要なら、ぜひとも手にしていただきたい。

ベンチマーク編で少し語ったが、筆者もMacBook Pro 16インチモデルを入手した。ただしキー配列は筆者のこだわりによりUS(ANSI)配列のものにしてある