山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「iPhone 12 mini」で電子書籍を試す。iPhone SEとの差も比較
~コンパクトながらコミックの表示にも対応可能
2020年11月28日 09:50
「iPhone 12 mini」は、5Gに対応したAppleの5.4型スマートフォンだ。かつての初代iPhone SEやiPhone 5sよりもわずかに大きいだけというコンパクト筐体が特徴で、さらにCPUなどのスペックは上位モデルと遜色ないなど、可搬性と高い性能を兼ね備えた1台だ。税別価格は7万4,800円から。
2016年発売の初代iPhone SEは画面サイズが4型と、お世辞にも電子書籍向けではなかったが、本製品はiPhone 12シリーズ共通の全画面デザインにより画面サイズは5.4型へと大型化している。画面の横幅は今春発売の第2世代iPhone SEとほぼ同等とあって、電子書籍の閲覧にも十分に対応できる。
今回はSIMロックフリーモデルを用い、初代および第2世代iPhone SEとの比較を中心に、電子書籍ユースでのレビューをお届けする。
第2世代iPhone SEよりも筐体は小さく、画面は大きい
まずはiPhoneのなかで競合となりうる製品との比較から。
iPhone 12 mini | iPhone SE(第1世代) | iPhone SE(第2世代) | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2020年11月 | 2016年3月 | 2020年4月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 64.2×131.5×7.4mm | 58.6×123.8×7.6mm | 67.3×138.4×7.3mm |
重量 | 133g | 113g | 148g |
CPU | A14 Bionicチップ 次世代のNeural Engine | A9チップ | A13 Bionicチップ 第3世代のNeural Engine |
RAM | 4GB | 2GB | 3GB |
ストレージ | 64/128/256/GB | 16/64GB | 64/128/256/GB |
画面サイズ | 5.4型 | 4型 | 4.7型 |
解像度 | 2,340×1,080ドット(476ppi) | 1,136×640ドット(326ppi) | 1,334×750ドット(326ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ax(Wi-F i6) | IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5) | 802.11ax(Wi-Fi6) |
コネクタ | Lightning | Lightning | Lightning |
防水防塵 | IP68 | - | IP67 |
生体認証 | Face ID | Touch ID | Touch ID |
駆動時間/バッテリー容量 | ビデオ再生:最大15時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大10時間 オーディオ再生:最大50時間 | ビデオ再生:最大13時間 オーディオ再生:最大50時間 | ビデオ再生:最大13時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大8時間 オーディオ再生:最大40時間 |
備考 | - | 2017年に32/128GBが追加 | - |
本製品の最大の特徴はコンパクトな筐体サイズだ。初代iPhone SEよりはさすがに大きいものの、今春発売された第2世代iPhone SEよりはひとまわり小さい。現行のiPhone 12は手に持ったときに意外と大きく感じるので、それが手になじみにくく、よりコンパクトな製品を求めるユーザーには最適だ。
また重量は、第2世代iPhone SEに比べて15gも軽量化されているほか、ホームボタンを省いたことで画面サイズは第2世代iPhone SEの4.7型よりも大きい5.4型へと改められている。筐体は小さく、かつ軽いにもかかわらず、画面サイズはむしろ大型化しているのがポイントだ。さらに解像度は476ppiと、iPhone 12シリーズのなかでもっとも高解像度だ。
またそれでいて、iPhone 12シリーズ共通のA14 Bionicチップを搭載するなど、性能も高い。位置づけとしては「iPhone 12」の小型版であり、上位のiPhone 12 ProやiPhone 12 Pro Maxに搭載されている望遠レンズは省かれているほか、メモリの容量も若干抑えられてはいるが、小型高性能という名がふさわしい製品だ。もちろん5Gにも対応している。
価格は、さすがにiPhone SEのような手頃さはなく、最小容量の64GBモデルでも、実売価格は7万円台からとなるが、それでもiPhone 12シリーズのなかではもっとも安価だ。今回のiPhone 12シリーズのなかから価格優先でどれか1台を選ぶとするならば、筆頭に挙げられる存在だ。
片手で保持でき、画面の反対側まで指が届くサイズ
iPhone 12シリーズからは、パッケージに充電器およびイヤフォンが同梱されなくなり、ハードの付属品はLightningケーブルのみとなっている。USB Type-AではなくType-C仕様なので、充電にあたってはType-C仕様の充電器が必要となる。
ちなみに本製品と同時発売のMagSafe充電器もUSB Type-C仕様なので共用が可能だが、このiPhone 12 miniでMagSafe充電器を使った場合、最大15Wで充電可能なほかのiPhone 12シリーズよりも、充電速度が若干遅くなるとされている。
実際に手に持った感覚としては、非常に小ぶりで、片手でも握りやすい。さすがに初代iPhone SEやiPhone 5sほど小さく軽いわけではないが、片手で握った状態で、画面の反対側および上まで指が届くので、操作中に握り直したり、簡易アクセス機能を使って画面を下にスライドさせる必要もない。じつにストレスフリーだ。
この握りやすさには、今回のiPhone 12シリーズから採用された、側面を垂直に切り落とした筐体も大きく関係している。これは初代iPhone SEやiPhone 5s以前のモデルに近いデザインで、両サイドからしっかりと握ることができる。テーブルの上に置いた本製品を持ち上げるときに、ツルッと滑って落としそうになることも少ない。
また画面は天地サイズが広いため、Webページなど縦スクロールのページの閲覧には威力を発揮する。ただしホーム画面で縦に並ぶアイコンは6個ということで、第2世代iPhone SEと変わりはない。もう1段増やして7個にできればよかったのだが、本製品の大画面版に当たるiPhone 12もアイコンは縦6個なので、まあこんなものだろう。
1つ気をつけたいのは、画面上部のノッチと呼ばれる切り欠きだ。この横幅はほかのiPhone 12シリーズと共通なので、画面幅がもっとも広いiPhone 12 Pro Maxと比べると、本製品はノッチ左右の隙間が極端に狭く、時計やアンテナピクトの表示がかなり窮屈だ。
Face IDを搭載する関係上、他社のようにカメラをパンチホール式にできないのは仕方ないにしても、野暮ったい印象があるのは事実。次期モデルでは改善を期待したいポイントだ。
画面幅は第2世代iPhone SEと同等、コミックの表示にも対応
さて電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。電子書籍ストアは原則としてApple Booksを使用している。
冒頭にも述べたように、解像度は476ppiと、iPhone 12シリーズのなかでもっとも高解像度であり、それゆえ細部までしっかりと描写できる。画面サイズそのものが大きいわけではないので、見やすさだけで言えば大画面版にあたるiPhone 12に軍配が上がるが、筐体サイズの取り回しのよさを考えると十分すぎるほどだ。
個々の製品との違いを見ていこう。第2世代iPhone SE(およびデザインがほぼ同じiPhone 8などの4.7型モデル)と比べると、コミックの表示サイズを決める画面の横幅は、本製品が58mm、第2世代iPhone SEが59mmということで、ほぼイーブンだ。コミックの表示サイズはほぼ同等となり、決定的な違いにはなりにくい。
ただし、縦に長い画面を活かしてテキストコンテンツを表示する場合や、電子書籍ストアのランキングやライブラリ一覧を表示する場合は、本製品のほうが有利だ。筐体が軽量なのも、第2世代iPhone SEとの比較ではアドバンテージで、トータルでは本製品がプラスと言えるだろう。ネックなのは生体認証の方式くらいだ(後述)。
一方で、本製品の大型版に当たるiPhone 12と比較した場合は、これはさすがに画面サイズからして分が悪い。コミックなど固定レイアウトのページで、見やすさを最優先に考えるのであれば、本製品はどうしても不利になる。
iPhone 12との比較において本製品が有利なのは、片手での持ちやすさ、軽さに加えて、同一容量での比較時に1万円ほど安価という、コスパ面も挙げられる。そのほかの機能面ではほぼ違いはないので、そうした意味ではどちらを選ぶかの判断も容易だろう。
ちなみに初代iPhone SEと比べた場合は、これは本製品の圧勝だ。テキストコンテンツを表示するのがやっとだった初代iPhone SEとは異なり、本製品はホームボタンを排除したオールスクリーンゆえ、横幅の広さを活かしてコミックも読めるほか、天地サイズにも余裕がある。さすがに勝負にならない印象だ。
「側面の握りやすさ」は片手持ちでの大きな利点
ところで本製品の「片手で握れるサイズ」×「全画面デザイン」という特徴を両立させたデバイスは、過去にそう多くはない。横幅ギリギリまで画面が来ていることで、片手で握ったときに誤反応が起こりやすいのでは? との懸念もありそうだが、これについては問題なさそうだ。
というのも、側面がラウンドフォルムになっていることで画面の端がわかりにくかった第2世代iPhone SEまでのモデルと違い、側面が垂直にカットされた本製品は、いま側面だけに触れているのか、それとも画面側に指がかかりかけているのか、指先だけで容易に判断できるからだ。これこそがこのデザインに「先祖返り」した理由かもしれない。
また前述のように、片手で普通に持った状態で、画面の上にまで指が届くので、電子書籍のオプション画面の表示や、しおりの追加なども片手で問題なく行なえる。もう一方の手で吊り革につかまりながら操作している場合など、片手しか使えない場合に、これは大きなメリットだ。
ただしベッドなどに寝転がり、本製品を頭上に掲げて画面を見るような場合は、ホームボタン周辺の余白部分を使い、筐体を表裏から挟むように持つという初代iPhone SEなどで可能だった持ち方ができない。本製品は全画面ディスプレイゆえ、たとえコンテンツが表示されていないエリアでも、触れると反応してしまうからだ。
こうした持ち方をするユーザーはそう多いとは思えないが(それこそ筆者独特かもしれない)、こればかりは天地の縁が太いデバイスのほうが持ちやすさは上だ。かといって第2世代iPhone SEは、前述のように側面が丸く握りにくいので、一長一短の印象はある。
トレンドやユーザーニーズをまったく考慮せずに個人的な理想を言えば、上下の余白の部分に触れてもタッチパネルが反応しないようなモードがあれば、片手でなるべく楽に、握力を使わずに長時間持ちたい筆者からするとたいへんありがたいのだが、このあたりはなかなか難しいものだと感じさせられる。
電子書籍ユースで魅力的な1台。ネックは生体認証か
これまでのiPhoneの製品ラインナップのなかではめずらしい、高性能とコンパクト筐体を両立させた本製品は、初代iPhone SEやiPhone 5sのコンパクト筐体を愛してやまなかったユーザーからすると、まさに理想と言っていい製品だ。筆者も使いはじめて2週間、よほど見開きが必要なコンテンツを除けば、電子書籍ユースですっかり本製品がメインになってしまった。
一方で気をつけたいのは、iPhone 12 Pro Maxのレビューでも触れたように、新型コロナウイルスの影響下にもかかわらず、生体認証がFace IDのみで、Touch IDに対応しないことだ。たとえば電車での移動中に電子書籍を読んでいて、乗換駅で一旦画面をロックしたのち、乗り換え後に再びロックを解除し、続きを読むというケースは多いだろう。
こうした場合も、Touch IDであれば指紋で簡単にロックが解除できるが、Face IDであればその度にマスクをずらすか、あるいはパスワードやPINを使ってロックを解除しなくてはならない。こうした頻度が高ければ、現状では第2世代iPhone SEのほうが、ハンドリングのよさが有利に働くだろう。
いかんせん電子書籍は高いハードウェア性能を必要としないため、ほかの用途で選ぶ場合と違い、使い勝手の優先順位は高い。スマートフォンを使って読書するのが屋内ではなくほぼ外出先オンリーという場合は、新型コロナウイルスの影響下にある現時点においては、Face IDしか生体認証の選択肢がない点は、十分に注意したほうがよさそうだ。