山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

これぞまさしく「電子書籍端末 2.0」?折りたためる13.3型端末「ThinkPad X1 Fold」で電子書籍を試す

「ThinkPad X1 Fold」。これは本体で、キーボードとペンが別途付属するオールインワン仕様だ

 レノボの「ThinkPad X1 Fold」は、中央で折りたためる13.3型OLEDディスプレイを搭載した、Windows 10搭載パソコン。同社では世界初の画面折りたたみ式パソコンであるとアピールしている。

 中央で折りたためるこのディスプレイは広げた状態で段差もほとんどないため、電子書籍を表示してもノドに影ができることなく、見開き表示には最適だ。また、完全に開ききらずにわずかに角度をつけた状態は、ハードカバーの本を開いた状態に酷似しており、読書端末として実にそそられるルックスだ。

 今回はメーカーから借用した機材をもとに、電子書籍ユースを中心に使い勝手をチェックする。ノートパソコンとしての使い勝手やベンチマークの詳細、評価機のスペックは弊紙のHothotレビューで紹介しているので、あわせて参照いただきたい。

横向きの状態。見た目は一般的なWindowsタブレットだ
縦向きの状態。アスペクト比は4:3であるため、極端に細長い印象はない
キーボードやペンも同梱される。電源アダプタは65W仕様で、USB Type-Cポートに接続する
二つ折りにした状態。手帳やハードカバー本のようなルックスだ
500mlのペットボトルとのサイズ比較。このサイズならばバッグにも入れやすい
正面。USB Type-Cポート、SIMスロット、音量ボタン、電源ボタンが集まっている
左側面。こちらの面にもUSB Type-Cポートがある
右側面には排気口以外に何もない。なお付属のキーボードを挟むと、ヒンジ部の隙間を埋めることができる
付属キーボードと組み合わせるとミニノートのスタイルで利用できる。詳しくは前述のレビューを参照されたい

12.9インチiPad Proをひとまわり大きくしたサイズ

 本製品は13.3型の画面を中央で折りたためることが最大の特徴だが、ここではまず、広げた状態で同等サイズとなるタブレットとして、12.9インチiPad Proと比較してみよう。性格自体まったく異なる製品なので、ディスプレイ回りのスペックや、重量を中心に違いを見てほしい。

ThinkPad X1 Fold12.9インチiPad Pro(第4世代)
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)約299.4×236×11.5mm280.6×214.9×5.9mm
重量約973g約641g
OSWindows 10iPadOS
CPUインテルCore i5-L16G7 プロセッサ(1.4GB/4MB)64ビットアーキテクチャ搭載 A12Z Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ
メモリ8GB6GB
ストレージ256GB/512GB128GB/256GB/512GB/1TB
画面サイズ13.3型12.9型
解像度2,048×1,536ドット(192ppi)2,732×2,048ドット(264ppi)
通信方式Wi-Fi 6(802.11ax)Wi-Fi 6(802.11ax)
バッテリ持続時間(公称値)最大約11.7時間最大10時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
※いずれもWi-Fiモデルで比較

 本製品は12.9インチiPad Proと同じ、4:3というアスペクト比を採用している。本製品が13.3型なので、ひとまわり大きくしたサイズだ。12.9インチiPad Proは、単行本の見開きや雑誌の表示に耐えうる大型ディスプレイを備えたデバイスとして筆頭に挙げられる存在なので、それよりも若干大きい本製品は、サイズ的には文句のつけようがない。

 解像度は192ppiとやや低め。パソコンとしての利用に問題はなくとも、電子書籍ユースで注釈やルビなどの細かい文字を表示するには少々きついレベルだ。本製品はあくまでもパソコンであってタブレットではないというメーカーの主張は、このあたりのスペックも関係しているように感じる。

 フットプリントは、13.3型と12.9型という両製品の画面サイズ以上に差がある。これはベゼルが太いためだが、もっとも本製品は折りたたむと約半分のサイズになるので、持ち歩き時に巨大なバッグを必要としない点では、本製品が有利だ。ただし本革カバーやキックスタンドが一体化しているせいで、厚みについては相当な差がある。

 重量は公称973gと、641gのiPad Proと比べるとヘビー級だ。背面を覆う本革カバー、およびキックスタンドが一体化しているので、素のiPad Proとの重量比較で相対的に不利になるのはやむを得ないが、とはいえ絶対値として重いことに変わりはない。電子書籍ユースでこれが耐えられる重量かどうかは、のちほど詳しく見ていく。

 なおこの表で比較しているのはいずれもWi-Fiモデルで、iPad ProはLTEモデル、また本製品は5G対応モデルもラインナップされている。iPad Proは次のモデルチェンジで5G対応となるのはほぼ確実だが、現時点では本製品のほうが有利ということになる。

左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。画面サイズはひとまわり違う程度。アスペクト比も同じ4:3だ
背面の比較。本製品は本革カバーおよびキックスタンドが一体化している。なお背面カメラはない
厚みの比較。本革カバーとキックスタンドの厚みを省けば、本製品がわずかに厚い程度
重量は実測963g。両手で長時間浮かせて持つにはやや酷な重量だ。ちなみに12.9インチiPad Proは641gと、およそ2/3

紙の本と同じスタイルでの読書が可能

 では実際に使ってみよう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」と「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、雑誌は姉妹紙「DOS/V POWER REPORT」の最新号、電子書籍ストアはおもに紀伊國屋書店Kinoppyを使用している。

 前のSurface Go 2のレビューでも触れたが、Windows 10のタブレットモードで使える電子書籍ストアアプリは「紀伊國屋書店Kinoppy」ほぼ一択で、それ以外のストアはブラウザビューアを使うことになる。

 最近のブラウザビューアは専用アプリに近い操作性を備えているが、例えば「マンガ本棚」という名で提供されるKindleのビューアは、対応はコミックのみで、テキストはもちろん雑誌の表示にも対応しない。またWindows 10固有の問題として、ベゼルの外側からスワイプすると起動中のアプリ一覧が表示されるなど、ページめくりを邪魔する操作もある。

 つまり選択肢自体が限られている上に機能に制限があり、かつ操作もiOSやAndroidに比べて気を使わざるを得ないのだが、こと本製品に限っては、ひとたび電子書籍を呼び出してしまえば、それらのマイナスを感じさせない快適な読書体験が得られる。特にコミックは、本製品との一体感は抜群で、まるで紙の本を読んでいるかのようだ。

 本らしさを演出している最大の要因は、画面の中央がわずかに下に沈んだ、紙の本ではおなじみのスタイルで読書が行えることだ。左右が持ち上がり、中央のノドの部分が沈んだこのスタイルは、読書における姿勢として見慣れているだけでなく、両手で持った時の重量バランスもよく、膝の上に置いた場合も安定感があるなど、極めて合理的だ。

 前述のように本製品は900gを超える重量があり、通常ならばすぐにギブアップしておかしくないのだが、本製品はその本ライクな形状のせいか意外に重く感じず、仰向けになって持ち上げたまま、気づいたら読書に没頭してしまっていたりする。数値だけで判断できないものがあり興味深い。

コミックを見開きで表示した状態。中央に継ぎ目がないのが特徴だ
ノドの部分にやや角度をつけたほうが、紙の本のルックスに近くなる
膝の上などにも自然に置ける。折りたためるタブレットだからこそ
仰向けになって頭上にかざして読むスタイルも、まさに紙の本のそれだ
本体を開き、Kinoppyアプリでページめくりを行っているところ。前半と後半で、ページめくりのエフェクトあり・なしの設定を切り替えている

 また、左右の画面が完全につながっているので、紙の本のようにノドの部分に影ができることもなく、コミックなどの左右ページにまたがる見開きも、左右が連結した一枚の画像として表示できる。テキストについても、左右2画面をつないだデバイスによくある、継ぎ目に行が重なって読めない問題もない。見た目のインパクトだけで言えば、これがもっとも訴求力があるだろう。

 特に本製品の場合、フレキシブルタイプのスクリーンにありがちな折り目がほぼ皆無で、広げた状態ではほぼ完全にフラットになるので、ストレスがなく快適だ。同じ折りたたみ端末で言うと、日本未発売のSurface Duoは本製品よりもコンパクトかつ薄型だが、折り目の有無以前に画面が中央で分割されているので、読書における没入感は本製品のほうが優勢だ。

 本製品は、アスペクト比が4:3と紙の本に非常に近いため、見開き状態はもちろん、縦向きにして雑誌を表示した場合も無駄な余白がほとんど発生しない。余白ができても、Kindleのブラウザビューアのように背景色が黒であれば、本製品のベゼル色に完全に埋没してしまうので、かなりの一体感がある。

左右がつながった見開きも切れ目なく表示できる
これはテキストを表示した状態。紀伊國屋書店Kinoppyでは、テキスト表示時にノドの部分に余白を設ける設定があるので、オンにしておくと画面を曲げた状態でも読みやすい
雑誌コンテンツもほぼ原寸大での表示が可能だ
紙の単行本との比較。テーブルの上に置いても(ほぼ)完全にフラットにでき、また紙の本のように手を離しても閉じないのは利点だ

 ちなみにベゼル幅は、タブレットとして見た時は決して狭額縁ではないが、指をかけて持つにはちょうどよい幅なので、本製品のやや重めの重量を支えるには都合がよい。ベゼルは柔らかい樹脂で覆われており滑りにくいほか、背面は本革のカバーと一体化しているので、手に触れた時の感触も良好だ。

ベゼル全体が軟質の樹脂で覆われており、ヒンジ部分も一体感がある。幅はややある(横14mm、縦17mm)が、むしろ持ちやすく、本製品の重量を支えるにはむしろ都合がよい
ヒンジ部のアップ。V字のように鋭角に曲がるのではなく、1cmほどの幅があるのが分かる

解像度はもう一声ほしい

 電子書籍端末としての表示性能、および使い勝手まわりを見ていこう。

 13.3型、2048×1536ドット(192ppi)ということで、解像度は平均よりやや低め。通常の文字サイズであれば何ら問題ないが、雑誌の注釈のような細かい文字やルビ、またコミックの細かいディティールの表示は、あまり得意ではない。特に264ppiのiPad Proと比べると、その差ははっきりと分かる。見開き対応としてはもう一声ほしいのが本音だ。

コミックを見開き表示した状態での比較。上が12.9インチiPad Pro、下が本製品。アスペクト比が同じで画面サイズが大きいため、本製品が一回り大きく表示される
解像度の比較。左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。やや粗く感じる
雑誌を単ページ表示した状態での比較。左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。コミック同様、本製品のほうがひとまわり大きくなる
解像度の比較。左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。十分に読めるクオリティだが、このあたりから粗さを感じるようになってくる
雑誌を見開き表示した状態での比較。上が12.9インチiPad Pro、下が本製品
解像度の比較。左が本製品、右が12.9インチiPad Pro。ここまで来ると、モアレを差し引いても、複雑な漢字が読みづらくなっているのが分かる

 本製品は背面カバーの端がキックスタンドになっており、折り曲げると自立できるのもメリットだ。電子書籍を読む時は、何もずっと手に持った状態のまま、宙に浮かせて読み続けるわけではなく、テーブルの上に置いたり、あるいはソファに座った時に膝の上に置くこともある。こうした場合にスタンドがいつでも使えるのは、何かと重宝する。

背面のキックスタンドを使い、本体を立てて読むことができる。ちなみに縦向きには対応しない
もっとも本製品の場合、角度をつけるだけで自立できるので、どうしてもスタンドが必須というわけではない

 本製品ならではの問題として、放熱のためにファンが不定期に回ることが挙げられる。常時回っているわけではないが、起動時には本体側面から放出された熱風が手に当たってびっくりすることがある。もっとも電子書籍ユースはそれほどCPUに負荷はかからないため頻度は低く、また本体が熱くて触れられないなどの問題もない。

側面からの排熱が起動時に手にかかって驚くことがある。排熱口は手にあたらない位置にあるとよかったかもしれな

 また、上でも触れたが、ページをめくろうとスワイプを行った時に、誤ってアクションセンターが表示されたり、起動中アプリの一覧が表示されるというWindows 10ならではの問題はそのままだ。エッジをまたいでスワイプしなければよいだけの話なのだが、iPadやAndroidタブレットより操作に気を使うのは事実だ。

ページめくりの時に、ベゼルをまたぐ形で左から右にスワイプすると…
ページがめくられずに起動中アプリ一覧のメニューが表示されてしまう。ベゼルをまたがず、ページ内でスワイプするのがコツだ
同じく、ベゼルをまたぐ形で右から左にスワイプすると…
ページがめくられずにアクションセンターが表示されてしまう。Windowsならではの症状だ

 以上なのだが、本製品で電子書籍を読む場合に、必ず行っておきたいのが、画面の回転ロックだ。もともとWindowsの自動画面回転は、あまり挙動がきびきびとしておらず、本製品でもそれは例に漏れない。

 そこで見開きで読む時は横向き、雑誌などを単ページで読む場合は縦向きと、回転のロックは欠かさずに行なっておきたい。これらはアクションセンターを表示し「回転ロック」を有効化するだけで済む。

本製品で電子書籍を読む時は、アクションセンターから「回転ロック」をオンにし、自動的に回転しないようにしてやると快適に使える
本製品を開くか、もしくはフラットになった状態から折りたたもうとするたびに、画面を分割して使うための専用ユーティリティ「Lenovoモードスイッチャー」が起動するが、電子書籍ユースでは基本的に分割なしの1画面を選択することになる

重量のハンデを感じさせない完成度

 筆者はもともと携帯デバイスは「軽さこそ命」派で、スマホであれば150g以下、10型前後のタブレットは450gまでが理想と、自分なりのボーダーラインを定めている。それらの基準からすると、いかに13.3型の大画面とはいえ、963gにも達する本製品は、ウェイトオーバーも甚だしい。

 ところが本製品をいざ使ってみると、この重量があまり気にならないから不思議だ。つまり得られる読書体験が快適なあまり、重さに対する感覚が麻痺してくるのである。筆者自身、端末の出来がどれだけよくても、重量のハードルはそう簡単に超えられないと考えていただけに、目からウロコだった。

 もちろん実際には、端末を保持している間、完全に宙に浮かせずに片肘をついてみたり、膝の上に載せたりと、適度に重量を分散させているのだが、これらはハードカバー本などでも行っている行為で、むしろページが反ったりしないぶん、本製品のほうが持ちやすい。これらで得られる読書時の没頭感は、過去のデバイスにはないものだ。

 ちなみに折りたたみが可能な端末としては、読書用としてはかつてのシグマブックが挙げられるが、当時の技術では性能的にも限界があり(通信機能すらない)、そもそもカラーでないという問題があった。

 また、最近ではサムスンのGalaxy Foldなど左右2画面を搭載したデバイスが複数登場しているが、いずれもスマホの域を出ず、縦横の切り替えができなかったり、サイズ自体小さすぎるという問題もある。その点、左右1枚のスクリーンで十分なサイズがあり、かつ汎用性も高い本製品は、実に魅力的だ。

左は電子書籍黎明期の2004年に松下電器産業(現パナソニック)から発売された折りたたみ端末、ΣBook(シグマブック)。奇しくもほぼ同等のサイズおよび厚みだ(写真は東芝から発売されたOEMモデル)
もっとも7.2型×2のスクリーン、グレースケール16階調ということで、本製品との違いは一目瞭然

 30万円オーバーの価格は、ノートパソコンとして15~20万程度、さらにこの画面サイズのタブレットが10万で、そこに諸々のギミックが追加されていると考えると、実際にはそう法外ではない。ただしそうした適正価格うんぬんの話とは別に、電子書籍ユース単独では高額すぎるのは事実で、そこが難しいところではある。

本製品はキーボードやペンも同梱され、汎用性も高いことから、ノートパソコンを買い替える形で導入し、その上で電子書籍端末としても活用するのが、筋書きとしては正しそうだ。電子書籍の楽しさをあらためて感じさせてくれる貴重な製品だけに、ビジネスユースで本製品を購入した人は、電子書籍用途でもぜひ試してみてほしい。

キーボードのほかアクティブペンも標準で付属する。オールインワンのパッケージなのは魅力だ