山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

iPad Pro似になった「iPad Air(第4世代)」で電子書籍を試す

~電源ボタン一体型のTouch IDで、電子書籍はより扱いやすく?

「iPad Air(第4世代)」。本体色はシルバーのほか、スペースグレイ、ローズゴールド、グリーン、スカイブルーの5色が用意される

 「iPad Air(第4世代)」は、10.9型の画面を備えたApple製のタブレットだ。第3世代までのiPad Airの形状とはまったく異なり、ホームボタンがなくUSB Type-Cを採用したiPad Proに似たデザインへと一新された。

 もっともiPad Proの一部機能を省略した下位モデルかというとそうではなく、電源ボタンと一体化したTouch IDのように、本製品が初のお目見えとなるギミックを搭載しているほか、現行のiPad Proよりも上位であるA14 Bionicチップを搭載しているなど、興味深い点は多い。

 今回は筆者が購入したWi-Fiモデルを用い、従来の第3世代モデル、および11インチiPad Proとの違いを中心に、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を紹介する。

縦向きに表示した状態。ホームボタンがなく、額縁が細い全面ディスプレイのデザイン。11インチiPad Proとそっくりだ
横向きに表示した状態。11インチiPad Proと同じく、アスペクト比4:3よりも若干横長の画面が特徴
カメラはシングルレンズで、背面からわずかに突出している

iPad Pro似にリニューアル。主な相違点はカメラ周り

まずは従来の第3世代モデル、および現行の11インチiPad Proとの比較から。

iPad Air(第4世代)11インチiPad Pro(第2世代)iPad Air(第3世代)
発売2020年10月2020年3月2019年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)247.6×178.5×6.1mm247.6×178.5×5.9mm250.6×174.1×6.1mm
重量約458g約471g約456g
CPUA14 Bionicチップ、Neural EngineA12Z Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサA12 Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ
画面サイズ/解像度10.9型/2,360×1,640ドット(264ppi)11型/2,388×1,668ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)
通信方式Wi-Fi 6(802.11ax)Wi-Fi 6(802.11ax)IEEE 802.11a/b/g/n/ac
生体認証Touch IDFace IDTouch ID
バッテリー持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間
コネクタUSB‑CUSB-CLightning
スピーカー2基(上下)4基2基(横)
価格(発売時)62,800円(64GB)
79,800円(256GB)
84,800円(128GB)
95,800円(256GB)
117,800円(512GB)
139,800円(1TB)
54,800円(64GB)
71,800円(256GB)
※いずれもWi-Fiモデル

 この比較表からもわかるように、厚みが0.2mm異なるだけで、11インチiPad Proとほぼ同じだ。ベゼル幅の関係か、画面サイズはわずかに小さいが、両者を並べればわかる程度で、見た目には11インチiPad Proそのものだ。

従来の第3世代iPad Air(右)との比較。まったく別物と言っていいデザインだ
背面の比較。背面カメラは大型化し、かつフラットではなくなっている
11インチiPad Pro(右)との比較。ベゼルの厚みがわずかに異なるが、ボディの幅および高さ、さらにデザインは同一だ
背面。11インチiPad ProはWi-Fi+Cellularモデルなので上下アンテナ部の違いは無視していただくとして、カメラ部が大きく異なっていることが分かる
ベゼル幅の違い。左が本製品、右が11インチiPad Pro。確かに幅に差はあるが、並べればようやく違いが分かる程度
厚みの比較。左はいずれも本製品、右は第3世代iPad Pro(上)、11インチiPad Pro(中)、第8世代iPad(下)。十分に薄型と言っていい厚みだ

 もっとも、この11インチiPad Proはおろか従来のiPadシリーズを通じても初となる、A14 Bionicを搭載しているほか、電源ボタンと一体化したTouch IDも、本製品が初のお目見えとなる。上位モデルにもないSoCやギミックが搭載されるのは、モデルチェンジのタイミングによるものとはいえめずらしい。

 なお従来のFace IDは省かれている。どちらも使えると便利そうだが、実際にはロック解除のために電源ボタンに触れた時点で指紋認証が行なわれるため、Face IDはあってもほぼ使い道がない。ただしSmart Keyboard Folioなどの利用時に、スペースキーを併用して本体に触れずにロックを解除できるギミックは省かれている。詳しくは後述する。

電源ボタンと一体化したTouch IDを搭載する。「トップボタン」というのが正式な呼び名のようだ
Face IDは廃止されたが、前面カメラは従来と同じ位置(電源ボタンのある短辺側のベゼル内)にある

 このほか、USB Type-Cの採用、背面へのSmart Connectorの搭載など、現行のiPad Proの特徴をそのまま継承している。一方でカメラはデュアルレンズではなくシングルレンズで、LiDARスキャナも省略されているなど、相違点はおもにカメラまわりに集中している。

 価格については、従来の第3世代モデルと比べ、同一容量でそれぞれ8千円ずつ値上がりしている。値上げ幅はやや大きめだが、スペックがこれだけiPad Proに近づいたことを考えると妥当だろう。予算の上限が決まっている場合のみ、困ることはあるかもしれない。

USB Type-C(USB-C)を採用する。また背面下部にSmart Connectorを搭載する
両側面にスピーカーを搭載する。従来の第3世代モデルでは片側にしかなかったので、第2世代までの仕様に戻った格好だ。なおイヤホンジャックは廃止されている

ベンチマークはiPad Pro超え。アスペクト比が4:3でないことに注意

 本製品はUSB Type-Cを搭載しており、ケーブルおよびアダプタはそれに準じた仕様のものが付属している。見た目は11インチiPad Proの付属品とそっくりだが、充電器については最大18Wのモデルではなく、先日発売された第8世代iPadと同じ最大20Wの新型モデルへと差し替えられている。

 セットアップの手順は、従来ととくに変わらないが、前述の電源ボタン一体型のTouch IDなど新たなギミックの搭載により、独自の画面がいくつか追加されている。といってもとくに難解だったり面倒なわけではなく、指紋を登録する一般的なフローだ。

USB-C仕様の充電器は、最大20Wのモデル(A2305)が付属する
Touch IDは電源ボタンに内蔵されたが、設定方法は従来と変わらない

 最新のA14 Bionicチップを採用することもあって、ベンチマークについてはiPad Proを上回るという逆転現象が生じている。従来の第3世代モデルと比べても圧倒的で、ここまで差がつくのも最近のモデルでは珍しい。

Sling Shot Extremeでのベンチマーク値の比較。いずれもiPadOS 14.1で検証している。本製品は「6011」、第3世代iPad Airは「4596」、11インチiPad Proは「5699」と、第3世代iPad Airはおろか11インチiPad Proをも上回っている

 続いて電子書籍ユースでの使い勝手を見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 解像度は従来と同じく264ppiで、表示のクオリティは何ら問題ない。コミックは見開きでも精細なディティールで表現できるし、縦向きでの雑誌などの表示も、原寸大でこそないが、注釈などの細かい文字もきちんと読み取れる。

Apple Booksでのコミックの見開き表示。余裕を持って読める大きさだ
Kindleでの雑誌の表示。原寸大ではないものの支障なく読める
264ppiゆえ、細かい注釈なども問題なく読み取れる

 気をつけるべきなのは、アスペクト比は4.3ではなく若干横長であるため、固定レイアウトの電子書籍の多くでは、短辺側に若干の余白ができることだ。いわゆるワイド比率ほどではないが、ピッタリ表示できると思い込んでいると、意外に余白の幅があって驚くかもしれない。

画面がアスペクト比4:3ではなく若干細長いため、横向き表示では左右に若干の余白ができる。これはApple Booksでの表示
雑誌の縦向き表示も、判型によっては上下にそこそこ大きな余白ができる

「カメラが覆われています」のストレスがないトップボタン

 さて本製品が初搭載となる、Touch IDを内蔵した電源ボタン、通称「トップボタン」について、電子書籍ユースでの使い勝手を中心に、もう少し詳しく見ていこう。

 指紋認証センサーが内蔵されたこのボタン、形状は従来の電源ボタンと同一だが、サイズはひとまわり大きい。ロックを解除するには、消灯状態からボタンの表面を指で覆ったままボタンを押し込むか、あるいは画面が点灯している状態でボタンの表面に軽く触れればよい。認証はスピーディで、完成度は高い。

電源ボタンにTouch IDを内蔵する。ロック画面を点灯させるとこのようにボタンの位置が表示される
横向きに使う場合は、左手の人差し指で押すことになる
11インチiPad Pro(下)と比べると、ボタンはわずかに大きくなっている。ちなみにスピーカー穴もひとまわり大きい

 Face IDを採用するiPad Proでは、ロックを解除しようとしたときに、左手が前面のTrueDepthカメラを覆っていてエラーになることがよくある。とくに電子書籍ユースでは、本体を横向きに持つ場合にこの状態になりやすく、ストレスの原因になっていた。本製品はそうした状態が起こり得ず、Face IDにありがちなストレスは皆無だ。

 もちろん、トップボタンに指で触れに行くという動きが存在するぶん、Face IDでスムーズにロック解除できた場合のスピーディさにはかなわないが、Face IDではカメラを覆わないよう事前にベゼルを持つ位置を変えたりと、無意識に余計な動きをしていることもある。それが不要なだけでも「電子書籍向け」といえる。

iPad Proでは、Face IDでのロック解除時、カメラを手で覆っていてエラーが出ることがよくある。iPad Proのオーナーは悪い意味で見慣れた画面だが、本製品ではお目にかからない

 ただしこれらは本体を横向きに持った場合の話で、縦向きに持っている場合は、本体右上のトップボタンに触れるたびに本体を持ち直したり、もう一方の手を伸ばしたりという動きが発生するため、Face IDの時よりもわずらわしく感じる。どちらの向きで使う頻度が高いかで、使いやすさへの評価は分かれるかもしれない。

 またiPad Proでは、Smart Keyboard FolioやMagic Keyboardと組み合わせて運用する場合、スペースキーとFace IDの併用により、iPad Pro本体に触れることなくロックを解除できたが、本製品では必ずトップボタンに触れなくてはならない。プラスばかりでないことは、知っておいたほうがよさそうだ。

縦向きに持っていた場合は、ロック解除のたびに上部に指を伸ばさなくてはならず、やや面倒だ
縦向き状態でロックを解除中。ちなみに従来のTouch IDと違い、ロック解除に使う指は、ほぼ人差し指限定になると考えられる

 最後に余談だが、このTouch IDは本体をデスク上に置いたままでも操作できる。薄型筐体ゆえ接地状態での指紋の読み取りは難しそうに見えるが、本製品はトップボタンのすぐ裏にあるカメラが背面から突出しているせいで筐体がわずかに浮いており、そのせいで本体を持ち上げなくともトップボタンを指で覆えてしまう。

 このように、本来ないに越したことはないカメラの突起が、意外な形で役に立っているのが面白い。

デスク上に本体を置いたとき、このトップボタン周辺は背面カメラのせいでわずかに浮いた状態になっており、そのせいで本体を持ち上げなくともそのままロックを解除できる

性能は十分、汎用性も高く使い勝手も良好

 1世代前のiPad Airは、ほぼ同じ外観で価格の安いエントリーモデルのiPadが併売されていたため、電子書籍を閲覧するデバイスとしては、コスパ的にも対象になりにくかった。今回の第4世代モデルもその状況は基本的に変わっておらず、電子書籍のためだけに購入するには、高価な印象があるのは事実だ。

 とはいっても、タブレットを買う目的はなにも電子書籍だけではない。ゲームやグラフィックなど、さまざまな用途のために購入し、そのうえで電子書籍も楽しむのであれば、上位のiPad Proに比べてリーズナブル、かつ性能も遜色ない本製品は、候補の最右翼に挙げられる。軽量なことや、前述のTouch IDの使い勝手のよさもプラス要因だ。

 一方で、本製品よりもベゼル幅の広いエントリーモデルのiPadは、本製品より若干重いとはいえ、電子書籍を読むにあたって長時間ホールドしやすく、また物理ホームボタンを搭載するためこの手のデバイスに詳しくない人でも直感的に使える。単純に「価格が高いから使いやすく、安いと使いづらい」わけではないことは、製品選びに当たって、念頭に置いておくべきだろう。

エントリーモデルの第8世代iPad(下)との比較。リフレッシュレートや画面の反射加工の有無などの相違はあるが、解像度の差はない。なおこの写真からも分かるように、本製品のほうが表示は若干大きくなりがち
第8世代iPadのエッジ部分はかなり幅があり、親指を乗せてもまだまだ余裕がある
本製品のエッジ部分は実測10mm程度で、親指を乗せて持つ時には画面に触れないかやや気を使う