山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Apple「12.9インチiPad Pro (第3世代)」
~Face ID採用でホームボタン廃止、狭額縁化により小型化した大画面タブレット
2018年11月14日 06:00
12.9インチiPad Pro(第3世代)は、Apple製の12.9型タブレットだ。同時発売となった11インチモデルとともに、iPadシリーズとしては初となるFace IDテクノロジーを採用し、ホームボタンが廃止されたほか、コネクタはLightningから汎用のUSB-Cへと変更されるなど、iPad史上もっとも大規模といって良いリニューアルを遂げたモデルだ。
B5を原寸大で表示できるタブレットは、もともと種類自体が少なく、そうした意味でも本製品は貴重な存在だが、今回はホームボタン廃止にともなって筐体サイズが劇的に小さくなるなど、使い勝手に大きな影響を与える変化が見られる。
今回は筆者が購入したWi-Fiモデル(64GB/シルバー)を用い、電子書籍ユースを中心に従来モデルとの違いを紹介する。
ホームボタン廃止により筐体がひとまわり小型に
まずはスペック面における、従来モデルとの違いをチェックしてみよう。
モデル | 12.9インチiPad Pro(第3世代) | 12.9インチiPad Pro(第2世代) | 12.9インチiPad Pro |
---|---|---|---|
発売 | 2018年11月 | 2017年6月 | 2015年11月 |
CPU | 64ビットアーキテクチャ搭載A12X Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ | 64ビットアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ |
メモリ | 4GB(1TBモデルのみ6GB) | 4GB | |
画面サイズ/解像度 | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | ||
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | ||
バッテリー持続時間(公称値) | 最大10時間 | ||
コネクタ | USB Type-C | Lightning | |
スピーカー | 4基 | ||
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 280.6×214.9×5.9mm | 305.7×220.6×6.9mm | |
重量 | 約631g | 約677g | 約713g |
価格(発売当時) | 111,800円(64GB)/128,800円(256GB)/150,800円(512GB)/194,800円(1TB) | 86,800円(64GB)/97,800円(256GB)/119,800円(512GB) | 94,800円(32GB)/112,800円(128GB)/130,800円(256GB) |
本製品はiPadとして初めてFace IDを採用したことで、従来まであったホームボタンが省かれている。
前面カメラはベゼルの内側に収まっているため、iPhone Xなどに見られるノッチこそないものの、このカメラを収める幅に合わせて、上下左右ともに均等な幅のベゼルを備えている。ベゼルレスではないものの、デザインとしては非常に美しい。
また、本体のコネクタがLightningからUSB Type-Cへと変更されたことで、さまざまな周辺機器を接続したり、あるいは本製品から別のデバイスに充電を行なうことも可能となった。
電子書籍ユースではあまり直接的な使い道はなさそうだが、拡張性の高さは従来とは段違いである。個人的には外部デバイスに充電する、モバイルバッテリとしての機能が面白いと感じた。
本製品と同時発売の11インチモデルは、従来の10.5インチモデルとほぼ同じ筐体サイズを維持しつつ、画面をギリギリまで広げるというアプローチを採用しているが、今回紹介する12.9インチモデルは、画面サイズを据え置き、筐体サイズを縮小するという真逆のアプローチを採用している。12.9インチは、画面サイズをこれ以上大きくする必要はないという判断なのだろう。
従来の12.9インチiPad Proは、画面サイズは大きいものの、かなりの重量があり、手で長時間持つのは難しかったが、本製品は第2世代に比べて約46g、初代と比べると約82gも軽量化され、かなり持ちやすくなった。
もちろん片手で長時間持てる重量ではないものの、膝の上に置いて読書する場合でも、負担は格段に少ない。
それ以外では、カメラの厚みが従来よりもさらに増しているほか、イヤフォンジャックが廃止になっている点が、違いとして挙げられる。
なお、薄型化による剛性の変化については、両手で本体を持って歪ませてみる限りでは、従来モデルよりも低下しているように感じられるが、実際の耐衝撃性において、どの程度の差があるかは不明だ。
なおベンチマークについては、「Sling Shot Extreme」によるスコアでは、従来モデルが「3,291」のところ本製品は「7,053」と劇的に向上している。
測定中に何度かエラーが起こっているのであくまで参考値として見てほしいのだが、約2倍というスコアは、Appleホームページにある「A12X Bionicでグラフィックスが2倍速く」という値に近いのが興味深い。
B5サイズの雑誌のほぼ原寸大表示が可能。見開きも実用レベル
電子書籍の表示については、画面サイズの大きさと高解像度の合わせ技により、B5サイズの雑誌の(ほぼ)原寸大表示はもちろんのこと、見開き表示にした場合も、ズーム機能を使わなくとも読み進められる。細かい注釈についても文字が潰れることはまずない。
またコミックについても、画面をちょうど半分にしたサイズなので、見開きをほぼ原寸で表示できる。あくまでもページサイズの大きさにこだわるならば、これほど向いたデバイスもない。
性能も十分で、コンテンツのダウンロードからページめくりまで、ストレスを感じるケースは皆無だ。
ところで今回の新iPad Proは、シルバーとスペースブラックという2色のカラーバリエーションをラインナップしているが、どちらもベゼルは黒で、従来のシルバーやゴールドに見られた、白いベゼルは姿を消している。
これは、Face IDに使う前面カメラを目立たせずベゼルに内蔵するには、黒しか選択の余地がなかったためと考えられる。
もっとも、これは電子書籍や動画などの表示においてはプラスだ。というのも、従来はベゼルに白と黒の2色があったため、余白を塗りつぶす時の色を確定できず、楽天Koboのように、ベゼルもページも白なのに、その間に挟まる余白が黒、というおかしな表示が発生することがあった。
ベゼルが黒で固定されてしまえば、こうした余白はすべて黒で塗りつぶせば済むため、アプリ開発者は、仕様を決める時にあれこれ悩まず済むようになる。ベゼル色の選択肢が減ったのは残念だが、長期的にはメリットとなるはずだ。
現在、背景色がどっちつかずのグレーになっているような電子書籍ストアアプリは、これを機会に余白の色を見直してもよいのかもしれない。
従来モデルよりも表示サイズが小さい?
さて、本製品は画面サイズ(12.9型)も解像度(2,732×2,048ドット)も従来モデルと変わりはないため、電子書籍の見え方は同一のように思えるが、実はアプリによっては、従来の12.9インチiPad Proよりもページが縮小表示される場合がある。
なぜそのようなことが起こるのか、この問題が発生しやすいコミックの見開き表示を例に見ていこう。
本製品は、ホームボタンが廃止されたことにより、画面の下から上にスワイプをすることでホームに戻る仕様を採用しているが、これにともなって追加されたのが、画面下部に表示される「ホームインジケータ」と呼ばれる横長のバーだ。
これを表示するためには、画面下部に高さ40ドット程度の領域を必要とする。
つまりこの領域があることで、従来は画面一杯に表示できていたページは、そのままだと画面からわずかにはみ出ることになる。
この解決方法は2つで、1つは画面上下の余白を切り詰めてそこにホームインジケータを収める方法。この方法では、従来と同じページサイズを維持できるが、上下に余白のないコンテンツに対応できない。
もう1つは、ページ全体をわずかに縮小し、ホームインジケータの表示に必要な高さを強制的に作り出す方法だ。ページが従来よりも一回り小さくなるほか、画面左右にまで黒帯ができてしまう欠点があるが、どのようなページやコンテンツにも対応できる。
後者の方法は、アプリ側の最適化が不要なためか、現時点では電子書籍アプリに限らず、多くのアプリがこのような表示になっている。さきほど紹介したベンチマークアプリのスクリーンショットに、黒帯がついているのもそれが原因だ。
では、電子書籍ストアアプリでは現状どのような症状になっているか、見え方が異なる4つのアプリを例に見ていこう。
表示サンプルは、本連載でこれまでに用いているうめ著「大東京トイボックス 1巻」で、ほかのコンテンツでは見え方が異なる可能性があることをご了承いただきたい。いずれも11月11日時点での仕様である。
まず最初は、Apple純正の「Apple Books」。Apple Booksはもともと余白をグレーで塗りつぶす仕様だが、本製品でもこれは変わっておらず、ホームインジケータは余白の上に乗る形で表示されるのでページサイズは従来から変わりはない。ちなみに余白の幅は上部が53ドット、下部が51ドットである。
続いてAmazonの「Kindle」。これまで白だった余白は黒へと改められ、そこにホームインジケータを表示する対策を取っている。
面白いのは、上部余白の位置に、時計やWi-Fiなどを表示するステータスバーを追加していることで、バランスは悪くないのだが、読書中に時間が常時表示されているのは良し悪しだ。余白の幅は上部が48ドット、下部が40ドットとApple Booksより狭い。
3つ目の「楽天Kobo」は、余白が黒という仕様に変化はないが、ページ全体を縮小することで、ホームインジケータの表示に必要な高さを捻出している。そのためページ左右に幅59ドットもの黒帯が生まれ、ベゼル幅が倍以上に広がったように見えてしまう。
また上下の余白も、それぞれ99ドット、91ドットと、Apple BooksやKindleの約2倍もの幅があるのがいただけない。暫定的な仕様であってほしいところだ。
最後に紹介するイーブックジャパンの「ebiReaderHD」は、ページ全体を縮小して下部にホームインジケータの表示領域を捻出するアプローチを採用したためか、これまで白だった背景色は黒に改められている。
余白の幅は上部が48ドット、下部が40ドットとKindleと同様だが、ページ上下左右のマージンを削らないままページを縮小しているようで、そのせいでページサイズはKindleよりも一回り小さい。ページ左右の黒帯は59ドットということで、こちらは楽天Koboと同じである。
上記の問題は11インチモデルでも同じ症状が見られるが、本製品は表示領域の広さこそが最大の特徴であり、他製品との差別化ポイントであるため、無駄な余白が増えてページの面積が小さくなるようならば、本製品を選ぶ意義が半減してしまう。
事実、前述の楽天Koboは、ページサイズを実測すると12.1インチ相当しかなく、せっかくの大画面の価値を下げてしまっている。
現時点では、まだ製品自体が発売直後ということで、アプリ側の最適化待ち、という解釈もできるが、今後長期間に渡って修正されないアプリは、この12.9インチiPad Proに向かないとの烙印を押されかねない。
今回クリティカルな例として楽天Koboを取り上げたが、ほかの電子書籍ストアアプリについても、本製品への速やかな最適化が求められる。
軽量化と小型化で電子書籍との親和性が向上。ネックは価格か
以上のように、発売直後ならではの、まだ完全に最適化できていない問題はあるとはいえ、電子書籍を読むためのデバイスとして、非常に優秀であることに疑いようはない。
アプリ側の最適化さえ果たされれば、残る問題は、横向き画面でFace IDによるロック解除を行なう時、手でカメラを覆ってしまいがちな問題と、あとは画面に指紋が付きやすい問題くらいだ。
今回、実際に使ってみて感じたのは、電子書籍ユースでもっとも影響がある変更点は、やはり軽量化と小型化だということだ。
軽量化については、初代のiPad(約680g)と比べても約50gも軽くなっており、それでいて画面サイズは2周り以上も大きくなっているわけで、その進化ぶりに素直に感心させられる。
筐体サイズの小型化については、実際に使っていて面白い現象に何度か遭遇した。それは筆者自身が、11インチと12.9インチを取り違えるケースが増えたことだ。
今回のレビューでは本製品と並行して11インチモデルも試用していたのだが、11インチモデルと勘違いして、12.9インチモデルを手に取ることが何度かあった。従来の12.9インチモデルではなかった現象で、それだけコンパクトになったという証だろう。
以上のように、トータルとしては間違いなくおすすめなのだが、最大のネックになるのは価格だろう。
もっとも安価な選択肢(64GBモデル、Wi-Fiモデル)でも税別111,800円という価格は、さすがに電子書籍のためだけに購入するには高価すぎる。電子書籍が入り口だったとしても、それ以外の用途でどれだけ価値を見いだせるかが、購入に踏み切れるかどうかのポイントだろう。
とくに本製品は、USB Type-Cの搭載によって拡張性が向上しており、さまざまな外部機器との組み合わせが可能になっている。
これまでのようなApple Pencilやキーボードとの組み合わせにとどまらず、対応ディスプレイを接続しての表示領域の拡大や、デジカメと組み合わせてのビューア用途、チューナと組み合わせてのテレビ視聴など、電子書籍ユースも含めて“モト”を取る方法を全力で模索したいところだ。