山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
iPad miniとほぼ同サイズ表示の8型電子書籍端末「Kobo Forma」
~コミックの見開き表示にも対応
2018年11月7日 06:00
楽天Koboが販売する「Kobo Forma」は、E Ink電子ペーパー採用の電子書籍端末だ。歴代で最大となる8型画面に加えて、ページめくりボタンを搭載。さらに防水機能なども搭載した、シリーズの最上位モデルとなる“全部入り”の製品だ。
本製品は、Onyxの「BOOX」シリーズなど汎用タイプを除いては実質初となる、8型オーバーで見開き表示に対応するE Ink端末だ。前述のページめくりボタンに加え、ローテーション機能により左右どちらの手でも、また横向きにした状態でも使えるなど、ライバルであるAmazonの「Kindle Oasis (第9世代)」に近いコンセプトを備えている。
今回は10月24日に発売されたばかりの実機を用い、ページめくりボタンの挙動とともに、コミックの見開き表示における実用性を中心に検証する。
iPad miniと同等の画面サイズながら約100gも軽量
まず最初に、過去に発売された6型オーバーのKoboシリーズ2製品、および競合となるKindle Oasisと比較してみよう。なお7.8型の「Kobo Aura ONE」については、すでに終売となっている。
製品 | Kobo Forma | Kobo Aura H2O Edition 2 | Kobo Aura ONE | Kindle Oasis(第9世代) |
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発売月 | 2018年10月 | 2017年5月 | 2016年9月 | 2017年10月 |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,440×1,920ドット(300ppi) | 6.8型/1,080×1,440ドット(265ppi) | 7.8型/1,404×1,872ドット(300ppi) | 7型/1,264×1,680ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | |||
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | |||
内蔵ストレージ | 32GB | 約8GB | 約8GB(ユーザー使用可能領域:約6GB)/約32GB(ユーザー使用可能領域:約27GB) | |
フロントライト | 内蔵(自動調整) | 内蔵 | 内蔵(自動調整) | |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ、ボタン | |
見開き表示 | ○ | - | ○ | |
防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | |||
バッテリ持続時間の目安 | 数週間 | 数週間(明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、一日30分使用時) | ||
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 177.7×160.0×4.2~8.5mm | 172×129×8.8mm | 195.1×138.5×6.9mm | 159×141×3.4~8.3mm |
重量 | 197g | 207g | 230g | 約194g |
発売時価格(税込) | 34,344円 | 19,980円 | 24,624円 | 33,980円(8GB、広告つき)/35,980円(8GB、広告なし)/36,980円(32GB、広告つき)/38,980円(32GB、広告なし) |
ざっと見ると、iPad mini(7.9型)並となる8型という画面サイズが目を引くが、その割に軽量であることもまた特徴だ。
比較対象のKoboシリーズ2製品はそれぞれ6.8型、7.8型だが、本製品はその中でもっとも軽く、長時間の保持でも手が疲れにくい。またE Inkと液晶の違いがあるとは言え、画面サイズがほぼ同じiPad mini 4(298.8g)に比べて100g以上も軽いのは驚異的だ。
厚みについては、筐体がくさび型であることから公称値は「4.2~8.5mm」となっているが、主要な部分は実測6mm前後だ。Kindle Oasisの画面部分に比べるとさすがに厚みはあるが、筐体がフラットなほかのモデルと比べてもかなり薄い。
さらに本製品はタップやスワイプ以外に、物理ボタンによるページめくりにも対応する。物理ボタンは単純に部品のコストもかかるほか、故障率も上がるため、メーカー側としてはなるべく避けたいギミックだが、それを敢えて搭載したところに、本製品への意気込みがうかがえる。コストがかけられる上位モデルにのみ許された機構といったところだ。
ストレージ容量は32GBと、従来(8GB)の4倍だが、製品ページによると「在庫がなくなり次第、取り扱い終了となります」との注釈があることから、詳細は不明だが恒久的な仕様ではないとみられる。
以上の点から、本製品の強みとなるのは、画面サイズ、軽さ、薄さ、物理ボタンということになる。
その一方で、価格は34,344円とほかのモデルに比べて頭1つ抜けており、ベーシックモデルの「Kobo Clara HD」を余裕で2台買えるレベルだ。
競合に当たるKindle Oasisの32GB広告なしモデル(34,980円)を意識した価格だが、これをハンデとしない魅力があるか否かが、ユーザーを製品の購入に踏み切らせるか否かの分岐点ということになる。
セットアップ手順、画面やメニューまわりは基本的に従来同様
本製品は、Kobo史上もっともハイエンドなモデルということで、パッケージも高級感が漂う造りになっている。セットアップの手順は、いくつか画面は増えているものの、基本的には従来と同じだ。
Koboは昨年、ホーム画面のリニューアルを行なっており、今回のモデルはそのデザインおよびレイアウトを継承している。
設定画面は、ページめくりボタンおよび画面回転にまつわる項目がいくつか追加されているが、基本的には従来モデルと同様だ。
左右どちらの手でも持てるデザイン。ボタンの押し心地はやや疑問
本製品の筐体は、グリップ部と背面を中心にラバー加工が施されており、手に持った時に滑りにくくなっている。
またKindle Oasisのようにグリップ部と画面部に明確な段差があるデザインではなく、両者がなだらかにつながっているので、デスク上に置いた場合も傾かない構造になっている。個人的にはこちらのほうが好みだ。
筐体は、180度回転させることで左右どちらの手でも持てるデザインを採用している。この意匠はライバルであるKindle Oasisとそっくりで、電源ボタンとMicro USBポートの位置こそ異なる(本製品は側面、Kindle Oasisは本体上下)とはいえ、兄弟モデルといってもおかしくないレベルでよく似ている。
グリップ部に搭載されたページめくりボタンは細長く、本体の向きにかかわらず押しやすい。両ボタンの間は約20mmほど離れており、通常は親指をそこに置いて本体をホールドすることになるだろう。
多少気になるのは、ページめくりボタンの独特なクリック感だ。軽く押し込むと浅い位置で止まり(この時点ではまだ押したと判定されない)、さらに力を入れて押し込むと初めて押したと判定される仕組みで、軽く押しただけでも「カチッ」と音がするので、触覚はもちろん聴覚でも判断を誤りやすい。
あえて表現するならば「立てつけが悪い」とでも言うべきか、何らかの異物が入り込んだような感触で、操作性を明らかに低下させている。
意図的な仕様なのか、それとも部品の選定を誤ったのかは不明だが、この点においては、確実なクリック感のあるKindle Oasisのほうが優秀だ。また電源ボタンは逆に感触があまりなく、こちらも若干気になる。
見開きへの切り替えはスムーズ。ボタンの挙動も合理的
さてボタンの挙動を確認したところで、注目のコミック見開き表示をチェックしよう。
この機能は当初、年内にアップデートで提供予定とされていたが、届いた製品で試したところすでに実装されていた。今後追加でアップデートがある可能性もあるが、製品ページからアップデートのアナウンスが消えているので、前倒しで実装を終えたとみなして紹介する。
見開きへの切り替えは、画面を90度ローテーションさせることによって自動的に行なわれる。E Inkゆえ若干の間はあるものの、その挙動は一般的なタブレットやスマートフォンとほぼ同じだ。手動で向きをロックすることもできるので、寝転がった状態で本体を使う場合も支障はない。
これがKindle Oasisの場合、やはり自動回転には対応するものの、画面の縦横そのものは手動で設定しなくてはならず、さらに自動回転は180度単位に限られるという特殊な仕様なので、本製品のほうが圧倒的に馴染みやすい。
またページめくりボタンの挙動も合理的だ。
Kindle Oasisの場合、下ボタンが「前ページ」、上ボタンが「次ページ」という割当なので、本体を横向きにすると、右綴じ書籍のページをめくる時に右側のボタンを押すという、感覚的に逆の方向になってしまう。
その点で本製品は、下ボタンが「次ページ」、上ボタンが「前ページ」という、Kindle Oasisとは逆の割当なので、本体を横向きにした時のページめくりの挙動も感覚的に一致している。もちろん設定でボタンの配置を入れ替えることは可能なのだが、本製品のほうが初期設定の段階でより見開きでの挙動が考慮されている。
さらに秀逸なのが、右綴じではなく左綴じのコンテンツを表示した場合、左右ボタンの役割が自動的に入れ替わることだ。つまり、後ろのページ寄りのボタンがつねに「次ページ」になるため、違和感なく操作が行なえる。
ページめくりボタンおよび見開き表示の対応は今回が初だが、こうした挙動を見る限り、完成度は非常に高い印象だ。
なおページめくりの速度については、Kindle Oasisに比べると押してから反応するまでに余計な間があるほか、かつ連続してページをめくると空振りが発生することもあるが、一定間隔を空けてめくっていく一般的な用途ならば大きな問題はない。とはいえ、これだけのハイエンドモデルである以上、もう少し踏ん張ってほしかったところではある。
かつてのソニーReaderのように、ボタンを長押しすると諧調を落とした状態でページを連続してめくるモードも用意されているが、Kindle Oasisでページめくりボタンを連打するよりも速度は遅く、あまり実用的ではない。面倒な操作抜きで、章単位で前後に行ったり来たりするには便利かもしれない。
なお横向きに表示できるのはコンテンツのみで、ホーム画面やライブラリは縦向き限定となる。つまり、見開きで表示している本を閉じると、ライブラリが横倒しの状態で表示されることになる。あまり見た目はよろしくない。
これはKindle Oasisでも同じ挙動であり、本製品に限った問題ではないのだが、開く→読む→閉じる→次の本を探すという一連のフローに含まれるホーム画面やライブラリについては、横向きの画面を用意するのもありではないかと思う。
iPad miniと同等のページサイズ。表現力はKindle Oasisよりも上
話が前後するが、画面サイズおよび画質についても見ていこう。
解像度は、本製品とKindle Oasis、ともに300ppiで違いはない。アスペクト比は本の表示に適した4:3で、コミックなどでも余白が少なく表示できる。画面サイズは、Kindle Oasisの7型に対して本製品が7.9型ということで、対角線の長さの差は1インチ未満とごくわずかだ。
もっとも、見開き表示を行なう上では、この1インチ弱の違いは数値以上の、決定的とも言える差がある。Kindle Oasisでは細かくて読みにくい文字も、本製品であれば読み取りが可能なほか、コミックのディティールも本製品のほうが明らかに高精細だ。Kindle Oasisは「見開きはできなくはない」レベルだったのに対し、本製品は「十分に実用的」と言って良いほど違う。
一方で、テキストコンテンツについては、もちろん読むこと自体は可能なのだが、コミックのような優位性はない。というのも本製品は、日本語テキストコンテンツで行間や余白を調整できず、フォントの種類とサイズしか変更できないからだ。
一応メニューの中には、行間や余白を調整する項目はあるが、楽天Koboが日本で展開を始めて以来、この機能が使える日本語コンテンツに筆者は出会ったことがない。仮にあったとしても、数が著しく限られているか、ジャンルが偏っていると考えられる。
その点、Kindle Oasisでは、フォントの種類やサイズに加えて、太字も5段階で調整できるほか、行間や余白が3段階から切り替えられ、さらに最新のアップデートにより、それら表示設定をテーマとして保存し簡単に呼び出せる機能が追加された。ことテキストコンテンツの表示については、本製品よりも上だろう。
よって現状では、コミック表示では圧倒的大差で「Kobo Forma > Kindle Oasis」、テキスト表示では僅差で「Kindle Oasis > Kobo Forma」という評価になる。
Kindleユーザーが嫉妬するレベルの完成度?
これまで、楽天KoboやAmazonのKindle、さらに過去にはソニーのReaderやBookLive!のLideoなど、さまざまなE Ink端末が登場したが、コミックの見開き表示において、ようやく実用に耐えうる専用端末が登場したという印象だ。
約1万円プラスすればiPad mini 4の128GBモデルが買えてしまう高価格はネックだが、それは競合であるKindle Oasisも同じで、E Inkにおけるコミックの見開き表示において、1つの到達点を示せた意義は大きい。レスポンスはKindle Oasisに劣るものの、Kindleユーザが嫉妬するレベルの完成度といっていいだろう。
その上で要望があるとすれば、ハードウェア面では前述のボタンの感触。またソフトウェア面では、ホーム画面およびライブラリの横向き表示だろう。見開き表示の完成度がこれだけ高ければ、常時横向きで使う人は少なくないはずで、そうした意味でもコンテンツ以外の横向き表示に注力してほしいと感じた。
あともう1つは運営面だ。前回の「Kobo Clara HD」のレビューの時に、表示に不具合が出るコミックを見つけて同社カスタマーケアに報告し、再現性も確認されたにもかかわらず、5カ月経った現在もなお修正が行なわれず、今回の製品でもいまだ不具合が起こっている。
デバイスの完成度が一定レベルまで到達した現在、ほかの電子書籍ストアではまずあり得ない、こうした対応の遅さの改善は、電子書籍ストアとしてより急務と言えるだろう。