山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple「11インチiPad Pro」

~Face ID採用でホームボタン廃止、画面もひとまわり大きくなったタブレット

11インチiPad Pro

 「11インチiPad Pro」は、Apple製の11型タブレットだ。同時発売の12.9インチモデルとともに、iPadシリーズ初となるFace IDテクノロジーを採用し、ホームボタンが廃止されたほか、コネクタをLightningから汎用のUSB-Cへと変更するなど、大規模なリニューアルを遂げたモデルだ。

 またこれら大幅な仕様変更の影に隠れているが、本製品はiPad史上初となる、アスペクト比が4:3ではないモデルだ。10.5インチモデルの筐体サイズを極力維持しつつ、ホームボタンがあったエリアにまで画面を広げたのが原因で、これが電子書籍ユースにどう影響するかは気になるところだ。

 今回は筆者が購入したWi-Fi+Cellularモデル(64GB/シルバー)を用い、電子書籍ユースを中心に従来モデルとの違いを紹介する。12.9インチモデルと共通の仕様については、前回のレビューも参考にしてほしい。

縦向きに表示した状態。ホームボタンが廃止され上下左右のベゼル幅が均一なデザインとなった
横向きに表示した状態。Face IDでの認証はこの向きでも問題なく行なえるが、手で塞がれやすいのがややネック
上部の電源ボタン、側面の音量調整ボタン、背面のカメラなどは従来モデルおよび同時発売の12.9インチiPad Pro(第3世代)と同じ配置だ
コネクタはLightningからUSB Type-Cに改められた。すぐ上にはSmart Connectorが見える
上面および底面。スピーカーを計4基搭載する。側面は背面にかけて直線的にカットされるなど、iPhone 4/5/SEに似たデザイン

史上初の「画面が4:3より細長いiPad」

 まずは先代に相当する、10.5インチiPad Proとの比較から。

11インチiPad Pro10.5インチiPad Pro
発売2018年11月2017年6月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)247.6×178.5×5.9mm250.6×174.1×6.1mm
重量約468g約469g
CPU64bitアーキテクチャ搭載A12X Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A10X Fusionチップ、組み込み型M10コプロセッサ
メモリ4GB(1TBモデルのみ6GB)4GB
画面サイズ/解像度11型/2,388×1,668ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリ持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間
コネクタUSB-CLightning
スピーカー4基4基
価格(発売時)89,800円(64GB)
106,800円(256GB)
128,800円(512GB)
172,800円(1TB)
69,800円(64GB)
80,800円(256GB)
102,800円(512GB)

 冒頭でも述べたように、本製品は従来の10.5インチiPad Proの筐体サイズを極力維持しつつ、これまでホームボタンが配置されていたエリアにまで画面を広げたため、従来のiPadとは異なり、アスペクト比が4:3よりも細長い画面になっている。

 これは同時発売の12.9インチモデルが、ホームボタンのあったエリアを省いたことで筐体サイズが正方形と近づいたのと対照的で、少なくとも電子書籍においては、アプリ側で最適化を行なわなければ無駄な余白が発生することになる。のちほど詳しく見ていく。

 この画面のアスペクト比の問題を除けば、CPUの強化やUSB-Cの採用、狭額縁化など、特徴は基本的に12.9インチモデルに準じているが、厚みが約1mmも薄くなった12.9インチiPad Proと異なり、本製品の先代に当たる10.5インチiPad Proはもともと6.1mmと薄かったため、厚み(5.9mm)の差は誤差レベルにとどまっている。

 またベゼル幅も、短辺側は確かにスリムになっているのだが、長辺側は従来の10.5インチモデルが約6mmなのに対して本製品が実測9mmと、むしろ幅が増しており、従来モデルに慣れたユーザーにとって必ずしも狭額縁というイメージはない。

 ベンチマークについては、「Sling Shot Extreme」によるスコアでは、従来モデルが「3,811」のところ本製品は「5,692」と約1.5倍に向上している。約2倍近くに伸びた12.9インチモデルほどではないが、かなりの性能アップだ。

従来モデル(右)との比較。筐体サイズはほぼ同じだが、ホームボタンがあったエリアにまで画面が広がっている
背面。基本的なデザインは変わらないが、丸みを帯びたフォルムが全体的に直線的になっている
ベゼルの厚みの比較。側面のベゼル幅は本製品が実測9mm、従来の10.5インチモデル(右)が6mmで、本製品のほうがむしろ増している
上面および底面の比較。マイクの数、コネクタ形状など相違点は多い。横幅もこうして重ねるとかなり違うことがわかる
カメラ部の比較。本製品(上)は径が大きくなっている
下部の比較。本製品(上)ではイヤフォンジャックが廃止されている
Sling Shot Extremeによるスコアの比較。左が本製品、右が従来モデル。総合スコアでは従来モデルの約1.5倍の値を叩き出している

A5とB5の中間サイズ。雑誌は単ページ表示が実用的

 前回レビューした12.9インチモデルでは、ホームボタンに代わって画面下端に搭載されたホームインジケータにより、電子書籍のページが全体的に縮小されるケースがあった。

 これに対し、本製品は縦長化によって長辺が164ドット伸びている。つまり画面が縦向きの場合、この164ドットのなかにホームインジケータが収まれば(必要なのは40ドット程度なのでまず確実に収まるが)、ページを縮小しなくて済むことになる。

 しかし画面を横向きにした場合は、天地がただでさえ圧迫される上にホームインジケータまで画面下端に表示しなくてはならないため、どう折り合いをつけるかが難しいところだ。雑誌、テキスト、コミックの順に見ていこう。

 まず雑誌。もともと判型が4:3比率よりもわずかに正方形に近いことに加えて、縦長化によって上下に余白ができ、ホームインジケータはこの余白のなかに収まっている。そのためページは縮小されずに横幅いっぱいに表示できている。

 ページが縮小されないのはよいことだが、逆に上下に余白が余ってしまっており、あからさまなあまりスペースに対する違和感は少なからずある。電子書籍アプリの側で余白(というよりも背景色)を黒にするなどして、ベゼル色との一体化で目立たなくなる改善を望みたいところだ。

左が本製品、右が従来の10.5インチモデル。今回は「DOS/V POWER REPORT」をKindleアプリで表示しているが、上下の余白が目立つ
下部のアップ。この写真ではわかりにくいが、左側は余白とベゼルの間、40ドットほどがホームインジケータを表示するエリアとして黒く塗りつぶされている。むしろ余白も黒く塗りつぶしてほしいところ

 ただし、本製品の画面サイズは実測161×229mmと、A5(148×210mm)とB5(182×257mm)の中間サイズゆえ、ほぼ原寸大表示が可能な12.9インチモデルにはおよばないにせよ、雑誌も実物にかなり近いサイズで表示でき、また解像度も264ppiと高いため、細部の描写力も高い。

12.9インチモデル(右)はアスペクト比4:3のため、逆に天地がわずかに切り詰められている。これはこれで困りものだが、見栄えに限れば悪くない
紙版(右)との比較。原寸大とは行かないがそれなりのサイズで表示できる
Kindleアプリで表示したところ。雑誌の閲覧に適したサイズだ
注釈の細かい文字も問題なく読み取れる

 では雑誌を見開きにした場合はどうかというと、文字がつぶれたりかすれたりして読めないことはないものの、注釈などのサイズになるとさすがに読みにくい。雑誌は原則、単ページでの表示を前提に考えたほうがよいだろう。

Kindleアプリで見開き表示を行なったところ。サイズはやや小さめ
注釈の細かい文字はつぶれることはないものの、ここまで小さいとさすがに読みにくい

 一方のテキストコンテンツについては、リフロー型ゆえこの種の問題はない。以下はApple Booksでの表示だが、画面サイズが大きくなったことの恩恵を受けており、表示の自由度も高い。白黒反転モードはベゼルが黒で統一されていることも相まって、さながら黒板のようだ。

Apple Booksでのテキスト表示。単行本サイズで、テキストコンテンツの閲覧にはむしろ大きすぎるほどだ
白黒反転モードではベゼルが黒いこともあり、テキストだけが白く浮き上がる
パワーユーザーから忌み嫌われがちなページめくりのアニメーション効果だが、めくろうとする瞬間に左右ページの間に影が入るギミックなどもおもしろく、動作もスムーズだ
Apple Booksは白黒反転やセピア調のほか、グレー表示のモードもある
ページの概念を省いた横スクロールというめずらしいモードも備える
iBooksがApple Booksにリニューアルされたときにストアも刷新され、機能性が高いデザインに改められている

コミックは10.5インチモデルよりページサイズが小さい?

 さて、懸案となるのはやはりコミックだ。前回の12.9インチモデルと同じ4つの電子書籍ストアで比較していこう。サイズの違いをわかりやすくするために、1枚の画像の左(または上)に10.5インチモデル、右(または下)に本製品を、同縮尺で並べて掲載する。

 表示サンプルはうめ著「大東京トイボックス 1巻」で、ほかのコンテンツでは見え方が異なる可能性があることをご了承いただきたい。いずれも11月20日時点のもので、前回から約1週間程度空いて試用しているため、一部のアプリは仕様が変わっていることに注意してほしい。

 まず本製品を縦方向で使う場合。Apple純正の「Apple Books」とイーブックジャパンの「ebiReaderHD」はいずれも余白を削りつつ全体を拡大する仕様で、従来の10.5インチモデルよりふたまわり大きく表示される。ホームインジケータ専用の表示領域はなく、ページ上に重ねて表示される(そのためまれに絵と重なることがある)。

 Amazonの「Kindle」は、ホームインジケータを表示するための黒帯が下端に、また対になる黒帯が上端に存在しており、それを除いたスペースいっぱいにページを拡大する仕様で、サイズは従来の10.5インチモデルに比べるとひとまわり大きい程度にとどまる。

 「楽天Kobo」は、10.5インチモデルとの差分に当たるスペースをすべて黒く塗りつぶし、そこにホームインジケータを埋め込む仕様のため、画面が10.5インチから11インチに大型化したにもかかわらず、ページサイズは一切変化がない。

Apple純正の「Apple Books」。全体的にふたまわり大きくなっていることがわかる。ちなみにホームインジケータは一定の秒数が経過すると消える
イーブックジャパンの「ebiReaderHD」。こちらもふたまわり大きくなっている。ホームインジケータはページ下端に常時表示されたままだ
Amazonの「Kindle」。従来の10.5インチモデルに比べるとわずかに大きく表示される。上下の黒帯はベゼルの黒と一体化するので、実物ではあまり目立たない
「楽天Kobo」。余白をすべて黒で塗りつぶす仕様ゆえ、画面が大型化してもページサイズは従来のままだ

 次に本製品を横方向で使う場合。Apple BooksとebiRedaerHDはホームインジケータをページに重ねて表示する仕様なのでサイズへの影響はなく、11インチという画面サイズに合わせてひとまわり大きく表示される。余白部分はApple Booksはグレーで、ebiRedaerHDは白で塗りつぶされる。

 Kindleは縦方向の場合と同じく上下に黒帯があり、それを省いた領域いっぱいにページを拡大しており、10.5インチモデルとはほぼ同サイズ。画面サイズが大きくなったにもかかわらず、ホームインジケータの実装によって相殺された格好だ。

 最悪なのは楽天Koboで、画面下端に用意したホームインジケータ専用の黒帯に合わせてページ全体をそのまま縮小したため、10.5インチモデルよりもページが小さくなっている。画面左右の黒い部分(塗りつぶし+ベゼル)の幅は実測22mmと、10.5インチモデルでホームボタンが占めていた幅を上回る有様だ。

Apple純正の「Apple Books」。余白(グレー)の位置が、10.5インチモデルと本製品では異なっていることがわかる。ページサイズはひとまわり大きくなっている
イーブックジャパンの「ebiReaderHD」。こちらもApple Booksと似たアプローチで、ページサイズはこちらのほうがわずかに大きい。ホームインジケータはページ下端に常時表示されたままだ
Amazonの「Kindle」。画面上下への黒帯の追加と、画面の横長化が相殺され、ページのサイズはほぼ同等だ
「楽天Kobo」。余白をすべて黒で塗りつぶす仕様に加えて、下部にホームインジケータの表示領域が追加されたせいで、ページのサイズは10.5インチモデルより逆に小さくなっている

 以上のように4社それぞれアプローチが異なるわけだが、コミックでどの仕様が望ましいかというと、「ホームインジケータは画面に重ねて表示、ただし一定時間の経過後には消す」および「背景色は黒」がベストだろう。

 前者は、ホームインジケータを表示するための専用の帯を設けると天地が圧迫されるため、ページに重ねて表示する仕様が望ましいが、常時表示されていると絵柄に重なったままになるため、一定時間の経過後には非表示になるのが望ましい。スワイプでページをめくっている間は非表示が維持されるApple Booksの仕様がベストだろう。

ホームインジケータ。Kindleアプリでは表示専用の領域を画面下に設け、Apple BooksやebiRedaerHDのようにページ上に重ねることはしていない

 後者の背景色は、コミックでは白が正しいように思えるが、カラーページでは雑誌などと同様に余白が目立ってしまうので、ベゼルと色を合わせて黒にしたほうがよいと考えられる。つまり楽天Koboのアプローチはある意味で正解なのだが、ほかの仕様が酷すぎる。

 つまり今回の4社は、いずれも帯に短したすきに長しの状態なのだが、かぎりなく理想に近いのは、Apple BooksとebiRedaerHDだ。この両者が背景色を黒にし、かつebiRedaerHDがホームインジケータを非表示にできれば、現時点ではベストということになるだろう。

コミック単行本とのサイズ比較。見開きでの可読性と本体サイズのバランスを考慮すると、ベストの組み合わせと言っていいだろう

電子書籍ユースではあまりメリットなし?

 以上見てきたように、ホームインジケータの実装に加えてアスペクト比の変更によるワイド化によって、現時点ではアプリごとに表示回りの仕様はバラバラで、電子書籍ストアアプリにかぎらず、大混乱と言っていい状態にある。アプリ開発者の方にはじつに気の毒な状況だ。

 これらは時間が経てばある程度は解決するだろうが、それは整合性が取れるというだけで、11インチならではのメリットはあまり感じられない。なるべく少ない余白で電子書籍を美しく表示できていたiPadがこうなってしまったのは個人的に残念だし、歓迎するアプリ開発者も多くはないだろう。

 それにしても今回の11インチモデルで不思議なのは、なぜ12.9インチモデルと同様に、画面サイズを維持して本体を小型化しなかったかということだ。これが将来的に9インチ前後の小型モデルを出す布石ならばバランス的に納得なのだが、ひたすら大型化しつつある現状は、個人的には戸惑いがある。

 とはいえ本製品は、従来までの9.7型とほぼ同じフットプリントながら画面は11インチにまで拡大し、さらに重量は初代iPadの2/3以下になっている。矛盾しているようだが、電子書籍としては非常にハンドリングしやすいサイズと重量なのは事実で、その点で贅沢は言えないだろう。

 また、電子書籍ユースにおいてはアスペクト比4:3でないことは目立つが、動画視聴などの用途では上下の黒帯がせまくなるなどの利点はある。もともとiPadは電子書籍専用ではなく汎用デバイスであり、さらにそのなかでもiPad Proはハイエンド志向ゆえ、仕様を決めるにも難しいところはあるだろう。

 個人的には、今回のアスペクト比をうまく活かした電子書籍アプリが登場するのを待ちつつも、もう少し電子書籍をはじめとしたホビーユースに向いた、かつてのiPad miniに位置づけられるコンパクトな筐体を持つモデルの登場も期待したい。

7.9型のiPad mini 4(右)との比較。本製品が10.5インチのまま筐体サイズを縮小していれば、同等ではなくとも、かなり近いサイズになっていたかもしれない
コミックの見開きサイズを比較したところ。さすがにサイズの差は明らかだ
ベゼルの厚みの比較。左から本製品、10.5インチiPad Pro、iPad mini 4。長辺側のベゼルは本製品がもっとも太い