山田祥平のRe:config.sys
Bluetoothとイヤフォンの深い関係
2023年7月1日 06:06
身の回りには音を奏でるデバイスがたくさんある。スマホしかり、タブレットしかり、PCしかり、ノートPCしかり、TVしかりだ。そして、そのサウンドを没入して楽しむためにBluetoothイヤフォンを使う。そこで工夫が必要になるのがデバイスとイヤフォンのペアリングだ。こいつがまたうっとうしい。
ペアリング先は1つだけという潔さがかえって分かりやすい
Xiaomiが片耳ユニットがわずか3.92gの超軽量ワイヤレスイヤフォン「Redmi Buds 4 Lite」を発売した。インナーイヤー型で耳にひっかける(うどんタイプ)形状で、IP54の防水防塵性能を持つ。ドライバは12mmと口径も大きい。
しかも、2,480円と驚異的な価格だ。この価格ではアクティブノイズキャンセル機能といった機能は望めない。そこはあきらめる。
それにしても、昨年、出荷台数でTWS市場シェア世界第3位のメーカーであるXiaomiが、この価格帯の製品を出してきて、市場を取りに来たというのには驚いた。
今や、100円ショップでも、1,100円出せばいくつかの製品が選べるTWSではあるが、さすがにそのレベルとは一線を画する仕上がりになっている。
タッチコントロールもサポートされ、2回タップで再生と一時停止、着信応答、3回タップで次曲、終話といった操作がボディのタッチ操作でできる。タッチ操作は左右どちらのイヤフォンでも同じように機能する。
また、低遅延モードが用意され、左右のイヤフォンを同時に1.5秒長押しすることで、遅延の少ない再生ができるので、ゲームプレイなどの際には頼もしい。
このイヤフォンは、Google Fast Pairに対応し、カバーを開けば、すぐに近くのスマホが反応してペアリングができる。
Google Fast Pairは、「ペアリングって何?、それって美味しいの」といったエンドユーザーにとってはスマホが相手を見つけて「接続しませんか」と言ってくれるので親切だ。
でも、普通にBluetoothペアリングができるユーザーなら特にうれしくもない。ただ、デバイスを探す機能があって、接続しているのにユニットが見つからないといったときに音を鳴らして見つけることができるのは便利かもしれない。
このイヤフォンには、2台のデバイスに同時接続できるマルチポイントといった高度な機能も実装されていない。
デバイスとペアリングができて音楽などを楽しみ、別のデバイスの音が聴きたくなったら、接続済みデバイスとの関係を解消するために、接続を削除する。すると、再び、開封直後と同様にペアリングモードに入り、Google Fast Pairによって別のデバイスとペアリングができる。その繰り返しだ。
切断しておいて別のデバイスとペアリングして再生を楽しみ、接続解除して、以前のデバイスの再生を楽しむといったことはできない……ように見える。少なくとも、このイヤフォンには強制的にペアリングモードに入る機能が実装されていないからだ。
ペアリングモードに入るには、ペアリング済みデバイスとの関係をいったん解消する必要がある。そのためには、再生デバイスで接続を削除しなければならない。これが意外と面倒くさい。これからつなぎたいデバイスだけの操作で完結しないからだ。
それ以外の方法としては、ケースからイヤフォンを取り出して30秒以内に左右のイヤフォンを5回同時タッチする。これはイヤフォンを工場出荷状態に戻すための強制リセット方法で、少なくともすべての設定を忘れ去ってくれて、ペアリングモードに入る。このとき、再生デバイス側にイヤフォンの情報が残っていれば、保存済みデバイスへの接続で再ペアリングが簡単にできる。
Google Fast Pairはアカウントにイヤフォンデバイスの情報を保存することができ、デバイスが見つかると接続をうながす通知が表示され、最初のときと同様に、すばやく以前のイヤフォンとヨリを戻すことができる。この方法を覚えておくと便利かもしれない。
イヤフォンでサウンドを楽しむ複数台のデバイスを選んで接続したい
冒頭に書いたように、今の時代、個人が普通にサウンド再生を楽しむデバイスは1台だけとは限らない。TVも楽しむだろうし、音楽もスマホ1台だけで楽しむとは限らない。
また、YouTubeや、Netflixといったコンテンツ配信サイトを楽しむときにはPCやTVなど、別のデバイスを使うかもしれない。
マルチポイントは2台のデバイスとの同時接続をかなえてくれるが、仮に、5台のデバイスを日常的に使っているユーザーが、それらのデバイス全部とペアリングしておいて切り替えるといったことは難しい。
このあたり、Boseのデバイスはよく考えられている。ずっと以前から、ペアリング済みデバイスの順次切り替え機能が提供されていた。
また、「Bose QuietComfort Earbuds II」は同社の最新完全ワイヤレスイヤフォンだが、ハイエンド製品でありながらマルチポイントには対応していない。だが、6台の再生デバイスとのペアリングを記憶し、アプリで切り替えることができる。
それは当たり前だとしても、「Bose QuietComfort Earbuds II」は、どのデバイスとつながってしまっていようが、ペアリング済みのデバイスから接続を試みると、既存接続が切断されて、最後に接続しようとしたデバイスとの接続が確立される。
実は、これが一番分かりやすい。かつて、有線のイヤフォンを使っていた時代、目の前にあるイヤフォンジャックに、プラグを差し込むだけで、その再生機器のサウンドを自分のイヤフォンで即座に楽しめた。
ところが、イヤフォンが無線になって、再生機器との関係をペアリングという方法で紐付けなければならなくなって、再生サウンドの獲得手続きが面倒になってしまった。
飛行機のシートの前に装備されたモニターで映画などのコンテンツを楽しむ場合も、有線イヤフォンなら簡単だが、自分のワイヤレスイヤフォンを使いたいと思ってもペアリング機能は提供されていない。
ちなみに、昨今のレンタカーであれば、カーオーディオに自分の持ち込んだスマホなどの再生デバイスをBluetooth接続でき、通話などもサポートする。そしてレンタカーの返却後はリセットされることになっていて、接続の痕跡は残らない。少なくとも、新しく借り出したレンタカーに、前のユーザーの接続やペアリング情報が残っていた経験はない。
ピュアオーディオとは異なるTWSの役割
Bluetoothは、新しいオーディオ体験として、「Auracast」と呼ばれるブロードキャストオーディオを提案しようとしている。これはBluetoothの新機能で、オーディオ共有の新しい体験を提供するものだ。
いわば放送のような機能をBluetoothで実現するもので、Wi-Fiのアクセスポイントを探すようにしてブロードキャストソース、いわばコンテンツ配信元を見つけたり、QRコードを読み取って参加したりすることができる。
この仕組みを使えば、もう大きな公演会場で同時通訳レシーバを借りる必要もなくなるし、病院などの待合室に設置されたTVの音声を聴くのも簡単だ。また、展覧会の作品情報を聞くにも便利そうだ。
仕組みとしては、アプリを使ってブロードキャストされているソースを選択し、その接続情報をイヤフォンなどのレシーバデバイスに伝え、イヤフォンがオーディオストリームを受信する流れになる。先日のCOMPUTEXでは、アジアで初めて報道関係者向けの体験会が開催された。
そこでは、スポーツバーに並ぶ多くのディスプレイから、見たい試合を放映しているものを選び、その音声を自分のワイヤレスイヤフォンで楽しむといった、さまざまなユースケースのデモが披露されていた。
こうした方向性を見ていると、明日より少し先の未来には、完全ワイヤレスイヤフォンの役割は今と少し異なるものになっているかもしれない。