山田祥平のRe:config.sys
新生活様式が求めるTWSとANC対応イヤフォン
2021年12月11日 06:32
新しいANC対応TWSイヤフォンを試す
うるさい場所では耳を塞いでノイズを遮断する。それが従来の当たり前だった。例えば飛行機などで10時間近く定在的なノイズが続く場所でじっとしていなければならないときに、ノイズキャンセルヘッドフォンをつければ疲労は最小限に抑えられる。まさに頼もしいパートナーとして機能してくれた。
ノイズキャンセルは、マイクで環境音を拾い、その逆相の音を発生させて混ぜて再生することで結果的に環境音を打ち消す仕組みだ。
半世紀も前だろうか、ステレオの出力を左チャンネルと右チャンネルを逆相結線にして再生し、簡単になんちゃってカラオケを作ることが流行った。ステレオではボーカルは中央に定位する。中央に定位するということは左と右が同じ音量で録音されているということだ。だから左右逆相でLRを混ぜると中央のボーカルが消える。ノイズキャンセルの機構は、この仕組みを洗練したものだと言える。
耳栓をすれば環境音は抑制される。その原始的なノイズキャンセルがパッシブと呼ばれるのに対して、電気的なシカケでノイズを遮断するということで、アクティブを冠しているのが今様のノイズキャンセルだ。それがTWSでも当たり前になりつつある。
最新のANC対応TWSイヤフォンのトレンドを体験してみようと、比較的新しい製品として次の3機種を試してみた。
2万円弱~3万円程度と、1万円以下の製品が数多く出てきている現状では、比較的高価格帯の製品で、使い勝手や機能の点ではどれも大きな不満がない。かつてのTWSは雑踏など人の多い環境で再生音が瞬断することが頻発していたが、もうほとんどそんなことは起こらない。ちょっと前までのTWSは、装着した耳を手の平で覆うだけで瞬断が発生していた。
今回試してみたのはすべて耳栓型のイヤフォンだが、JabraとAnkerが耳穴に押し込むカナルタイプであるのに対して、Amazfitは引っかけるタイプで筐体に棒状の出っ張りがあるスティック形状だ。
形状の違いは好みによるが、Amazfitのように耳に深く挿入するのではなく、引っかけるタイプの場合は、音楽を聴いているときにシャカポコと再生音が周辺に漏れやすい。ただ、この製品では、ほとんど音漏れはないようなので、公共の空間での使用にも支障はなさそうだ。
ただ、ANCの効き目という点では、JabraやAnkerに及ばない。強力なANCを期待するなら、耳にしっかりと押し込むタイプの方がいい。特に、騒音レベルの高い電車の中などでの静寂感を求めるならそうだ。
もっとも耳穴奥深くまで異物がずっと入っていることになるので、長時間の装着では煩わしさを感じるかもしれない。騒音というほどの騒がしさがない自室で使うならAmazfit、外出時に使うというならJabraやAnkerといったところだろうか。
使う場所と使う目的を想定する
コロナ禍において、自宅にいる時間が長くなり、本来は仕事をする場所ではないところで作業する時間が長くなった。また、そこにいる家族などの全員が、仕事に集中しているわけでもない。めいめいがまちまちの目的で、その空間を共有している。そこが組織のオフィスとは大きく異なる環境だ。
そういう意味では、在宅という環境は、パブリックというほどには不特定多数の人々が存在するわけではないが、ある意味ではセミパブリックな空間であると言える。そこで仕事をするのだから、色々な邪魔の防御が必要だ。
そんなときに威力を発揮するのがANCだ。オフィスなどとは異なり、比較的静かな環境であるだけに、ちょっとしたノイズが耳につく。例えば、オフィスでは気にしたこともないエアコンの動作音などがそうだ。PCから発せられる冷却ファンのノイズもしかりだ。
ANCはこうした音を抑制するのには絶大な効果がある。その一方で、隣の部屋で見ているTVの音声などにはあまり効果がない。とは言え耳栓的にも機能するのである程度の抑制は可能だ。
これだけの抑制効果があると、逆に、静かな環境では静寂の圧迫感を感じるかもしれない。音楽などを再生することで、その圧迫感を抑制できるが、それが作業の邪魔になるなら、聞こえるか聞こえないくらいの小さな音量で再生するのがいい。
Jabraのサウンドスケープ機能は周辺の音をかき消すために、ノイズをキャンセルするだけではなく、ピンクノイズ、ホワイトノイズ、波の音、雨の音、せせらぎといった音を連続して再生する機能がある。
Ankerの製品には比較的静かな環境下での過度なノイズキャンセルを防止する機能がある。ノイズキャンセル自動/手動でオンとオフが切り替わるほか、風切り音を低減するモードもある。手動切り替えでは高、中、低と、ノイズキャンセルの強度を設定できる。アプリを使い、HearID ANCテストをすれば自分自身の耳の特性などを反映したノイズキャンセルの最適化もできる。
Ankerは3製品の中ではコーデックとして唯一LDACに対応し、音の品位という点では高く評価できる。オーディオ用を視野に入れたいならこの製品がよさそうだ。Jabraの製品はさすがの老舗で抜群の安定感と品質だが、特性がWeb会議のような会話に重きが置かれているように感じる。
Amazfitはノイズキャンセル効果をユーザー自身に選ばさせず、周囲のノイズレベルに応じて自動的に調整される適応モード、リラックスした環境に特化した屋内モード、地下鉄や飛行機の騒音を抑制する移動モード、安全のために交通の環境音は聞こえるが、風などについての騒音を抑制する運動モードを用意している。適応モードにしておけば、これらの状況が判断されて自動的に切り替わる。
装着時の操作についてはJabraがボタン式で、AnkerとAmazfitはタッチ式だ。Amazfitはタッチする場所が棒の先端部分なので最初はちょっと戸惑うかもしれない。微妙な操作が必要という印象だ。
タッチ式は、装着時にタッチが機能してANCがオフになるなど、予期せぬことが起こる可能性がある。それを防ぐためにAnkerのタッチ操作のデフォルトはダブルタッチで機能する。その一方で、ボタン式は確実なのだが、可動部品であるだけに耐久性という点で不安もある。
日常的にイヤフォンを装着
最近は、有線イヤフォンの復権の兆しがあるそうだ。TWSは他者から見たときに、イヤフォンを装着していることに気がつきにくい。通話のためにボソボソ1人でしゃべっていたり、話しかけられたりしたときにも気がつかずに困るシーンがあったりもする。
昨今のスマートデバイスにはアナログイヤフォンジャックが装備されていないことが多いので、トレンドとしてはワイヤレスにいくのだが、例えワイヤレスであってもネックバンド方式など、多少は装着していることが一目で分かるようにしたいというのもあるようだ。
もちろん、ファッショナブルという点ではTWSよりワイヤードの方が個性を強調できるという面もある。また、デバイスを取り替えることが多い場合も、ワイヤードの方が手っ取り早い。マルチポイント対応でも3つ以上のデバイスを併用するのは面倒くさい。
イヤフォンを使うのは人の邪魔をせず、人に邪魔されずに音楽や映像などのコンテンツを楽しみたいときに限られていたが、今はそれが別の展開を始めている。Web会議で自ら会話に参加したり、喧噪を回避するためにノイズをキャンセルするといった用途が日常的に当たり前になりつつある。
個人的にも、かつてはノイズキャンセルヘッドフォンを使うのは、飛行機に乗るときくらいだったが、この数年でずいぶん変わった。対応イヤフォンの選択肢が増えたからだ。それもコロナ禍がもたらした暮らし方、働き方によるスマートデバイスの変化だと言える。
音楽を聴き続けるわけでもないのに、比較的長時間、イヤフォンをつけていること、そして、かつてはあまり気にならなかった環境のノイズが気になるような場所にいる時間が増えたことなどで、ANC対応TWSはこれからまだまだ大きな進化を見せてくれそうだ。これからの新しい生活様式の中で、1つは持っていてもよさそうだ。