山田祥平のRe:config.sys

スマートデバイス充電の新しい当たり前

 人間のカラダと同様、スマホなど、日常的に持ち歩くデバイスには充電という行為が必須だ。それどころか、デバイスのライフサイクルがバッテリのライフサイクルに左右される状況だ。では、この充電に要する時間は、いったいどのくらいが妥当なのだろう。

ゆっくり充電してバッテリをいたわる

 夜寝ている間にスマホを充電するのをやめて1年以上がたった。コロナ禍により、外出の機会が減ったこともあり、1日中待ち受けてスマホを使っていても、夜寝るときになって確認すると数十%は残量がある。そのまま朝まで放置しても空になることはない。

 だったら、朝起きてから充電し、フル充電になったら充電をやめるという方針に切り替えてみようと思ったのだ。数値的な実験結果としてに新たな事実が判明したわけではないが、バッテリのいたわりという点では悪くないんじゃないかと思っている。

 バッテリは、フル充電と残量ゼロに弱く、また高温に弱い。高温は急速な充電によっても誘発される。炎天下のクルマの中に放置といった行為は急激にバッテリの寿命を縮めるそうだ。50%程度の残量にして冷暗所に置くというのがいいらしいが、毎日使うデバイスに内蔵されたバッテリはさすがにそうはいかない。

 各社は各様の工夫でバッテリをいたわるような仕組みを実装している。

 例えば、AndroidスマホのリファレンスともいえるGoogleのPixel 4シリーズ以降では、アダプティブ充電と呼ばれる機能が用意されている。この機能をオンにしておくと、夜中の時間帯にACアダプタに繋ぎっぱなしにしておいても充電の速度がゆっくりになり、フル充電までに通常よりも時間がかかるようにできる。結果として発熱も抑制される。

 具体的には21時~4時の間にスマートフォンを充電するとき、アラームが午前3~10時の間に設定されていればアダプティブ充電の機能が使用され、充電速度が落ちる。これは電池寿命を長持ちさせるために、スマートフォンを夜間にいたわりながら充電する仕組みで、アラームの設定時刻をチェックし、起床前にスマートフォンの充電を完了するように調整する。

充電時間を最小限にしてバッテリをいたわる

 Pixelシリーズのように繋ぎっぱなしでもゆっくりと充電する方法があるかと思えば、とにかく短時間で充電を完了し、繋ぎっぱなしを回避するというアプローチもある。

 Xiaomi 11T Proは、Xiaomiの最新フラグシップスマホだが、実に5,000mAhの大容量バッテリを内蔵している。そして、Xiaomiハイパーチャージと呼ばれる独自方式で、実に120Wで充電し、2%から100%に回復するまでにたった17分しかかからないというのが仕様として明記されている。

 製品パッケージには120W充電器が同梱されている。この充電器にはUSB Type-A用のポートが装備され、やはり同梱のUSB Type-A to Type-Cケーブルを使って充電するときにこの急速充電がかなう。

 ただし、USB Power Deliveryなどの業界標準規格ではなく独自規格によるものだ。Xiaomiでは、USB PDを含む一般的なデバイス充電方式は長い間大きな進化がなく、エンドユーザーに不便を強いていたが、この独自形式は、十二分な安全性を確保しながら、驚異的なスピードでの充電を可能にしたとしている。

 様々な観点から安全を最優先したハイパーチャージは34もの安全機能を実装のもと、9つの熱センサーが温度をリアルタイム監視しているという。こうした設計によって、内蔵されているバッテリは、800回のフル充電で、有効バッテリ容量の最大80%を維持するように設計されているらしい。

 使われている技術としては、取り込む電流の増加によるオーバーヒート低減のための「デュアルチャージポンプ」、高電流を使える時間を延長しトリクル充電時間を短縮するための「Mi-FC技術」、充電タブの数を増やして内部抵抗を下げる「MTW技術」、グラフェンを使用したデュアルセルバッテリによる電気伝導性の向上などの成果ということだ。

 2つの2,500mAバッテリの搭載により、急速充電の負荷を下げていることもここから分かる。早い話が60Wずつで2つのバッテリを同時充電しているのに近い。

 そうはいっても、普段から汎用的で標準的な充電方法としてUSB PDの普及を願っている立場としては、手放しで受け入れられるものではない。パッケージを開き、充電器のポートがType-Aであることを確認し、そのまま元に戻してソッと箱を閉じた……。

 手元にあるいくつかのUSB PD充電器を使って充電をしてみたが、USB PDのオプションであるPPSに対応した充電器であれば驚異的な充電速度を確認できた。PPSは、電圧と電流を充電器が制御しながら充電を最適化する規格で、無駄になる電力を抑制し発熱も抑える。

 100WのUSB PD充電器の場合、PPS非対応機では1%スタートで53%に達するまでには52分間かかったが、PPS対応機では7%スタートから94%に達するまでに15分しかからなかった。

 65Wの充電器でも傾向は同じで、PPS非対応機では100WのPPS非対応機とほぼ変わらないものの、PPS対応機では10%から99%までを充電するのにかかった時間は50分程度だった。5,000mAhのバッテリの充電時間としては十分に急速だ。

 15分間あれば、ほぼフル充電できる100W PPSには及ばないものの、1時間もあればその日に残り容量を心配することがない大容量のバッテリを、空の状態からフル充電近くにできるというのはものすごく心強い。しかも本体の発熱も、ほんのり暖かい程度で特に問題はなさそうだ。

 PPS制御が功を奏してこの実力が出せるのなら、きちんとその旨を明示しておいてほしいものだ。そのほうがエンドユーザーは安心できる。

超短時間チャージが新しい当たり前に

 例えば、朝起きてから出かけるまでに要する時間はどのくらいだろうか。目覚ましで起きてシャワーを浴び、朝食をとって支度をするといった作業があるわけだが、40~50分程度だろうか。

 人によってはもっと短いかもしれないし、1時間以上かかるという人もいるだろう。当然、あわただしくて、その間にスマホをいじっているような時間はほとんどないはずだ。

 バッテリがスッカラカンになっていない限り、40分あればほぼフル充電に復帰し、その日1日の使用にバッテリ切れの心配がなくなるというのは実に心強い。仮に、朝それだけの時間がとれなかったとしても、ランチの時間にちょっと継ぎ足し充電すればいい。

 1時間ではとてもフル充電にはほど遠いというのがこれまでの当たり前だとすれば、17分でフル充電というのは新しい当たり前だ。Xiaomi 11T Proは、独自機能でこれを実現しているが、USB PD PPSでも遜色のない充電結果が得られた。

 人によってはスマホのバッテリが常にフルに近い状態でないと不安で仕方がないということもあるようだが、足りなくなったら短時間でチャージができて、実用的な駆動時間が確保できるというカジュアルな充電は、これからのスマートデバイスに強く求められる機能になるだろう。

 100WのUSB PD PPS対応充電器は、まだ大きく重いので、毎日の持ち歩きにはちょっと抵抗があるが、そもそも充電器を持ち歩く必要がないことこそが望ましい。大容量のバッテリを短時間で充電できることの優位性はそこにある。