山田祥平のRe:config.sys
USB PD時代のチャージャー選び
2018年3月9日 06:00
USB Power Delivery(PD)の浸透がはじまりつつある。PCやスマートフォンで採用がはじまっているUSB充電の新しい方式だ。となると、考えなければならないのが、その充電のためのチャージャーだ。かつての充電器は気に入ったデザインのものを選べば大きな失敗はなかったが、今回は、ちょっとやっかいな問題もある。
もっと電力を
USB PDは、両端USB Type-Cのケーブルを使って大きな電力を供給することで急速充電などを可能にする技術だ。これまでのMicro USBケーブルを使ったUSB充電では電圧が5Vに固定されていて、その電流を増やすことで大電力を供給しようとしていた。
結果的に、USBの規格を逸脱することになり安全性の面も考慮され、追加の規格として充電器と機器がネゴシエーションして供給する電力を決めるUSB Battery Charging(BC)やQualcommのQuick Charge(QC)、さらには各社オリジナルの急速充電規格などが出てくることになった。
これまでの標準規格としてのUSB BCは電圧5Vのままで1.5Aまでの電流を流す。電圧×電流で電力が算出できるのはご存じのとおりだが、すなわち5×1.5で7.5Wだ。本来はBC規格に準じていれば最大7.5Wだったのだ。
さらに大きな電力を供給しようと、QCでは電圧を可変するようになった。QCは2.0、3.0と細かい規格の追加が行なわれ、最大20Vとなり、QC4.0ではPDを包含する規格になっている。ちなみに、QCとPDの両対応チャージャーも存在し、その場合、PDでのネゴシエーションが先に行なわれるという。
両端がType-Cのケーブルは、この連載でも取り上げてきた100均でも売られているようなものから、USB 2.0対応、3.0対応などさまざまだが、データ転送速度を考慮せずに、「充電」という観点からだけ見れば、3A対応と5A対応の2種類だけだ。
5A対応のものはその素性を示すために、ケーブルにeMarkerという電子チップの内蔵が必須とされるが、3Aならそれはオプションだ。したがって、100均で売られるようなケーブルでも、20V/3A、すなわち60Wに耐えられるだけの上質な素材、造りであればいいということになる。
チャージャーは人間にもわかるように素性を名乗るべし
一方、チャージャーはどうか。
PDのチャージャーは、自分自身が供給できる電圧と電流の組み合わせをパワールールとして持ち、それを最初に充電される側に伝える。充電される側は、そのなかからほしいものを選んでリクエストする。これはPDOと呼ばれ、電圧では、
- 5V
- 9V
- 15V
- 20V
の4種類があり、それ以外の電圧もオプションとして対応できる。これらの電圧でそれぞれ何Aまでの出力をサポートするかをPDOとして充電側に伝えるのだ。
チャージャーの裏側を見ると、多くの製品ではサポートするPDOを、
5V3A or 9V2A or 12V1.5A
などといった表記で明示するとともに、供給最大電力として18W対応といったスペックを明示する。上記例の場合、この値は9×2=18、12×1.5=18で算出される値だ。
チャージャーが供給できる最大電力は、製品によって当然まちまちだ。手元のものでは、18W、30W、45W、65Wなどのものがある。つまり、PDチャージャーは、その素性として供給できる最大電力をしっかりと確認して購入する必要がある。
充電される側も要求をはっきり明示せよ
その一方で充電される側はどうか。PCのように比較的大きなバッテリを搭載し、本体もそれなりの電力を消費する機器では、供給される電力が消費する電力に追いつかないと、電力を供給しているのに充電が進まないとか、それどころか、バッテリが減っていってしまうということも起こりうる。
チャージャーから申告されたPDOのうち、どれを選ぶかは充電される側が選んでよいことになっている。充電される側がこれはだめだと思ったら「No」と言えるわけだ。当然その場合は充電ができない。困ったことに、PDOがどのくらいあれば充電ができるのかをきちんと明記しているPCはほぼないに等しい。だから試してみるしかないのだ。
手元の環境ではパナソニックのレッツノートSV7が同社に問い合わせた結果、次のような詳しい情報を教えてくれた。
【表】レッツノートSV7のPDO | |
---|---|
PowerOFF時 | ・接続デバイスPDO 15W以上 : 満充電可能 ・接続デバイスPDO 15W未満~7.5W以上 : 充電可能 ※ただし満充電手前で充電停止(LED橙点滅) ・接続デバイスPDO 7.5W未満 : 充電禁止(2.5Wアダプタなど、LED消灯) |
PowerON時 | ・接続デバイスPDO 27W以上 : 満充電可能 ・接続デバイスPDO 27W未満 : 充電禁止(LED消灯) |
これだけ詳しい仕様を教えてくれるメーカーはめずらしい。
試してみたところ、富士通のLIFEBOOKは60W未満のPDOは拒否する。HPのElitebookは45W未満で警告を出すようだ。こうしたことは実際に試してみないとわからない。
今後は、各社ともに、受け入れるPDOをきちんと仕様として公開してほしいものだ。もう純正充電器のみという時代ではないし、そのための標準規格なのだから。
大は小を兼ねるが大きく重い
チャージャーは、供給できる電力が大きければ大きいほど、その筐体も大きくなる可能性は高いし、当然重量もかさむ。
たとえば手元のチャージャー製品を比べて見ると、
- cheero USB-C PD Charger: 18W、55g
- Anker PowerPort Speed 1 PD30: 30W、約101g
- PQI Smart i-Charger: 29W、138g(Type-A端子×2つき)
- ベルキン USB-C 45Wホーム チャージャー: 45W、138g
- GOPPA ENEAGEAR 65W USB PD認証 Type-C ACアダプター: 65W、191g
W数と重量はどうしても比例関係にある。
スマートフォンの充電だけでよければ小さいものがいいが、PCと兼用したいなら大きなものに小さなものを兼ねさせるといった判断が必要になるし、そもそも自分の機器にはどの容量のチャージャーが必要なのかを最初に調べなければならない。
軽いほうがいいと思っても、自分の充電したい機器が要求するPDOに届かない場合は充電ができないのだ。
PDがうれしいのは、PCもスマートフォンも同じ充電器、ケーブルを使って急速充電ができることだ。スマートフォン自体のPD対応はまだはじまったばかりといってもよいが、PCほどの大電力は要求しない。
こちらも、どのようなPDOを要求するのか、大きな電力を供給すれば、より急速に充電できるのかといった仕様を明確にしている製品は見たことがない。今後はPD対応というだけではなく、きちんとこのあたりの情報を消費者に伝える努力をするべきだろう。