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「世界最軽量追求に意味はある」868gのペン対応2in1を作った富士通開発者に真意を問う

~「LIFEBOOK UH95/D2」開発者インタビュー

LIFEBOOK UH95/D2は、付属のペンを収納できる。ただし4.3gのペンはその重量を本体総重量仕様に含まない

 富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)がLIFEBOOK UH95/D2を発表した。圧倒的世界最軽量698gを誇るUH-Xにタッチとペンというさらなる生産性、創造性を付加価値として与える製品だ。また、ペン内蔵2in1コンバーチブルノートPCとして現時点では世界最軽量の868gを達成している。

 今回は、その開発に関わった河野晃伸氏(富士通クライアントコンピューティング株式会社プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネージャー)、飯島崇氏(同第三技術部主任技術者)、赤見知彦氏(同第一技術部)、そしてコンシューマ向けに新しい2in1を提案する新シリーズとしてMHシリーズの開発に関わった日浅好則氏(同コンシューマ事業本部コンシューマビジネス事業部第三技術部シニアマネージャ)、山崎博人氏(同第一技術部)ら(以下、敬称略)に話を訊いてきた。

――NECパーソナルコンピュータが世界最軽量には意味がない的な発言をしたことが話題になりました(Appleとパナソニックに勝つため、世界最軽量追求を捨てたNECの新ノート「LAVIE Pro Mobile」開発者インタビュー参照)。ペン対応なしということもありますが、LAVIEのHZ750は、2in1コンバーチブルで769gまで軽量化をはたしていたので意外に感じました。FCCLはその方向性をどう考えているのかが気になっていましたが、今回は、世界最軽量にこだわりましたね。

河野氏 2017年1月に発表した777gのLIFEBOOK UH75/B1からはじまった世界最軽量へのチャレンジですが、現行モデルのUH-Xは698gまで軽量化に成功しています(ついに約698gまで軽量化。強度も増した富士通13.3型モバイルノート参照)。プレミアムシリーズとしてのUHは、世界最軽量なしではありえないということで、いろいろな付加価値を追加した今回のUH95/D2も、そこには強いこだわりがありました。

河野晃伸氏(富士通クライアントコンピューティング株式会社プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネージャー)

――総重量868gのUH95ですが、UH-Xとの差は170gありますね。その内訳が気になるところです。

飯島 UHシリーズは初代から担当していました。メカ設計の立場としては、マグネシウムリチウム合金をUH-Xで使って最軽量を更新しました。それによって700gを切ることができたわけですね。UH-Xでは、マグネシウムリチウム合金をA面(天板面)C面(キーボード面)に使いましたが、今回はそこまで軽量化に貢献する材料を使うことができず、C面はマグネシウム合金となっています。

飯島崇氏(同第三技術部主任技術者)

河野 設計のしわよせです。派生機種などの関係で、アンテナ感度を確保するために、金属物をおけないなどの制限がありました。

アンテナ実装のために金属が使えない。

飯島 UH-Xで軽量化をつきつめたところで、今回は、2in1をいかにつめこむかというテーマに取り組みました。でも使い勝手は譲れませんし、お客さまの要求はなるべくかたちにする。それがわれわれの仕事だと思っています。

ABCD各面。今回はA(右上)とC面(左下)をマグネシウム合金に変更したため重量がかさんでしまっている。
ABCD各面の裏側。

河野 今回は開発に8カ月かかりました。Intelからのプロセッサ供給のタイミングなどもあっていろいろ難航したという経緯もあります。それでも“UH”を名乗るかぎりは、世界最軽量の冠が欲しかったというのが正直なところです。

 さらには日を追うごとに世界最軽量化などには意味がないというような声も聞こえてくるじゃないですか。でも、開発サイドから生み出した要素として、使いやすくするために背面カメラをセンターにとか、ペンを収納できるようにしたりといった工夫を取り込んみながら最軽量を目指しました。今までの企業向けの2in1はぶ厚かったりアンテナが飛び出ていたりとスタイリッシュではありませんでした。

赤見 そう。軽くしているだけではないんです。ちゃんと付加価値があります。たとえばカメラも2つありますから、タブレット形状にしているときにもカメラが使えます。ホワイトボードを撮影して、そこになにかを書き込むといった使い方に便利です。ワンプッシュでWindows Inkワークスペースを呼び出せる専用ボタンもつけました。

 楽に持ち運べることも大事なのですが、軽量化を追いつつ、使いやすいPCをということをつねに考えて開発を続けてきました。

 ということで170gの差分ですが、今回は、タブレットとして使われることを想定し、センサー類の追加などがありました。タッチパッドはUH-Xと共通で、ペン対応タッチパネルをつけたことが重量に大きなインパクトを与えています。世界最軽量という命題があるなかで、少しでも軽くするためにガラス厚を0.5mmにして薄くしました。

赤見知彦氏(富士通クライアントコンピューティング株式会社プロダクトマネジメント本部第一開発センター 第一技術部)

――ほんの少しですが、液晶面が白っぽく感じます。これはどうしてですか。

赤見 ダイレクトボンディングを使っていないからです。重量へのインパクトを少しでも回避したかったためです。でも、内部での乱反射は最小限に抑えています。

 一般的にガラス厚を薄くすると、ノイズの影響を受けやすくなったりするのですが、それもクリアできました。また、ペン先でガラス面を押しこんだときに、液晶との距離が短いとノイズの影響を受けやすくなるのでPET注入なども考えたのですが、スペーサーがなくても品質として耐えられることがわかって、それは回避できました。

 結局、170gの内訳については、

【表】UH95の170gの内訳
Aカバー+11g(タッチパネル重量増に対して強度確保する目的)
Cカバー+27.5g(パームレスト手前 樹脂一体成型と強度確保のため)
Dカバー+10g(手前部分にアンテナ樹脂カバー追加のため)
ヒンジ+10.5g(2in1ヒンジのため)
タッチパネル+105g
その他+6g(背面カメラ、ボタン機能の追加など)
合計170g

となっています。

 UH-Xの仕様については使えるところはそのまま使っています。マザーボードも共通です。細かいところ以外は双子機のようですね。

河野 いろんな裏技はあるのです。パーツにいびつな形状のものを使ったりなど、いろいろできるのですが、量産が難しくなってしまいます。開発スタート時、当初はペンつき2in1は1.1kgくらいの製品が多かったために998gを実現してほしいというのが企画からの要請でした。

マザーボードはUH-Xと共通。ファンの左下にLTEモデム実装のためのスペースが確認できる。これは企業向けに2019年5月8日発表された「LIFEBOOK U939X/A」のため。

飯島 やれることは詰め込んだと思います。あれをやりたい、これをやりたいということはあるのですが、バランスを考えると、現時点でのベスト機に仕上がっているはずです。

赤見 検討できる範囲ではやりつくした感がありますね。ただ、バッテリにしろ、タッチパネルにしろ、さらなる工夫の余地はあったかもしれません。

――今回はLTE搭載機がないのが残念です。

河野 それについては2019年5月8日発表「LIFEBOOK U939X/A」でサポートしました(富士通、法人向けの777gの13.3型モバイルノートやタブレットなど7製品参照)。個人よりも法人のほうがニーズが高いと見込んで対応しています。

 大学内や街中のカフェなど、多くの場所でWi-Fiが使えますが、法人のお客様は公衆Wi-Fiは使用禁止の場合も多いようですから。ただし、877gと10gほど重くなっています。指紋センサーやスマートカード、セキュリティチップなどによって重量がかさみました。さらにLTE機は大容量バッテリ必須になるため、総重量は1kgを超えてしまいます。

――さきほども少し話に出ましたが、レノボ傘下になったことで、開発体制や考え方に影響はなかったのでしょうか。世界最軽量には意味がないという論調まで出てきていて、ちょっと気になります。

河野 レノボ傘下になって、コモディティ要素の選択肢が大幅に増えたのは確かですね。いろいろなパーツを低コストで調達できるようになりました。これは大きいです。

飯島 でも、自分の担当レベルではそれほどではないかもしれません。

日浅 レノボ、NECパーソナルコンピュータ、FCCLはたがいに見えないようになっています。IntelやMicrosoftとも個別にミーティングしていますし、おたがいの技術は共有しないというスタンスです。つまり、内部で切磋琢磨していいものを作るということですね。ただ、レノボ傘下になったメリットとして考えられるのは、Intelに対してもMicrosoftに対しても交渉力が上がったということでしょうか。コモディティの調達についても全体的にコストは下がっています。

日浅好則氏(同コンシューマ事業本部コンシューマビジネス事業部第三技術部シニアマネージャ)

河野 コモディティは共有するけれど、各社の独自性は共有しないということになりますね。

――今回は、UHに加えて、同じ2in1のMHシリーズが登場しています。Yプロセッサ搭載で、価格も比較的低く抑えられていますが、コンセプトが異なるのでしょうか。

山崎 UHシリーズはフラグシップのハイエンドです。価格的にも学生さんなどには手が届かない面もあるかもしれません。そこで、コンシューマをターゲットにした製品として用意したのがMHシリーズです。Yシリーズを使ったのは、ファンレスを実現したかったからです。家庭で使われるPCとしては無音であることが重要だと考えました。

山崎博人氏(富士通クライアントコンピューティング株式会社プロダクトマネジメント本部第一開発センター 第一技術部)

――狭額縁がトレンドですが、液晶下部がずいぶん広く感じます。

山崎 画面下部ですね。じつはUHとほぼ同じなんですよ。ただ、UHはヒンジで液晶側が沈むのでせまく見えるんです。キーボードが手前に少しチルトするときに額縁を覆うのです。だから広くみえてしまうかもしれませんね。

重量増の一因となっている二軸ヒンジ。だが2in1化のためには必須のパーツだ。

――モダンスタンバイ対応ということですが、LIFEBOOKとしては最初のチャレンジです。開発にさいしては問題は起こりませんでしたか。

日浅 UHと異なるのは、無線でWake on LANを実現するために、Realtekのチップを使っています。ルーター越えできるインターネット経由でPCをリモート起動できるようにするWake-on-WAN (RealWoW) テクノロジを使えるようにするためです。

 モダンスタンバイはアップデートのプロセスやテレメトリのプロセスなども影響します。モニタ評価中には、いろいろ不可解なことが起こりました。とくにふくまろについては必ず動かすことを目標にして、ISSTなどの挙動に注意を払いました。

――さすがに最軽量のUH同等は難しかったのですね。

山崎 目標としては1kgを切りたかったのですがプラスチックでは限界でした。

日浅 UHに勝ってはいけないという縛りもありますし(笑)。つまりカニバリゼーション的なこともあるわけです。そもそもコンセプトがまるで別のものだよといったところで企画されたものですから。

 中高生をターゲットにしているということです。彼らはスマートフォンを使います。だからスマートフォンのようなPCが必要です。サッと使えることが最重要なんですね。だからモダンスタンバイです。コンセプトの1つは、中高生がクラムシェルタイプでYouTubeを楽しんだり、学習アプリを使って勉強してもらうようなイメージです。とにかくスマートフォン感覚で中高生に使ってもらえるようなPCを作ってみたかったというわけです。

日浅 4マイクの指向性などには注目していただければと思います。ふくまろなどでスマートディスプレイとして使うのにも便利です。UHもAHも2マイクですが、リビングで快適に使うには4つのマイクが必要です。

飯島 UH側から言わせてもらえば、MHの多色展開はちょっとうらやましいですね。

山崎 いやいや、やはり軽いのはうらやましいです。

――これからは、世界最軽量、そしてモダンスタンバイの両立などに期待しています。まだまだやることは多そうですね。

赤見 はい、世界最軽量にはやはり意味があるんです。その上でさらに使い勝手を考えるべきではないでしょうか。

飯島 他社が最軽量には意味がないと主張したとしても、決して油断はできません。向こうにもプライドもあるでしょうから。

――ありがとうございました。