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Appleとパナソニックに勝つため、世界最軽量追求を捨てたNECの新ノート「LAVIE Pro Mobile」開発者インタビュー
2019年5月14日 11:00
NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)が、薄型軽量ノートPC LAVIEの新シリーズとして、プロシューマー向けの「LAVIE Pro Mobile」を発表した。これまでのLAVIE Hybrid ZEROの後継となるシリーズだ。その開発にさいする同社の決断は「世界最軽量追求をやめる」ということだった。その背景について、同社の森部浩至氏(商品企画本部商品企画グループ部長、永井健司氏(同グループマネージャー)、北山善正氏(HW Development Group Mechanical Design Team シニアマネージャー)に話をきいた。
――これまでのLAVIE Hybrid ZEROは、LAVIEのなかでも異色の存在だったように感じていましたが、今回のLAVIE Pro Mobileは、ほかのLAVIEに近づいたようです。
森部氏(敬称略、以下同) 最軽量追求のゆがみと言えそうです。前のモデルのコードネームは「Kiwami」でしたが、今回は「Hibiki」です。最軽量をきわめるというコンセプトをやめ、感性に響くような製品を作りたいという想いを込めました。
永井 具体的にはスペックとして見えない要素の追求です。森部の言うように、感性に響くような感じで開発コードをつけました。
森部 経営陣に向かってコンセプト変更の企画をプレゼンしたのは2018年の2月末のことでした。じつはこの最初のタイミングでは、いったん企画が却下されてしまいました。まだ世界最軽量についての未練がたっぷり残っていたからです。
学生をユーザーに想定した12型のLAVIE NOTE Mobileが先行していましたが、そこではないターゲティングで、プロシューマーを狙うという製品企画だったのですが、方向性が中途半端に感じられたのです。
今、日本で売れているモバイルノートはパナソニックとAppleです。それはどうしようもない事実です。われわれとしては、そこと真っ向から勝負できる製品を作りたかったというのがあります。絶大な人気を持つパナソニックとAppleですが、われわれが考えたのは、そこにしっかり競合したいということでした。
――それはAppleとパナソニックにあって、NEC PCにはないものがあるということですか。
森部 これまでのLAVIE Hybrid ZEROで、できていないところはなにかを考えた結果、堅牢性、バッテリスタミナの点で弱いことが明らかになってきました。かつては世界最軽量13.3型2in1ということで競合製品を圧倒していましたが、そのころに経営幹部から言われたのは、そんなことを追求するよりも、もっとほかに重要なことがあるんじゃないかということでした。その点を見直せと言われたのです。今から思えば的確な指摘です。
まず、業界リーダーとして超軽量のカテゴリを作った自負があります。最初の世界最軽量は2012年のLAVIE Zで、製品発売後、業界では最軽量争いが勃発しました。そして、先のない戦いが生まれてしまいました。クルマでいくとスピードを求めるがゆえにほかの要素をすべてはずして、走るだけの要素を残し、快適性やデザインの魅力を捨ててしまったイメージです。
そんな調子で、本来なら外資系が得意なはずの質感や、所有感を犠牲にしてきたところが反省点です。その一方で、働き方改革の流れのなかで、新しい価値観が出てきて、モバイルノートPCを使うことでの生産性向上のニーズが出てきました。
それなら世界最軽量にこだわらないで、機動性やデザイン、生産性を妥協しない製品を作るべきではないかと考えたわけです。
――軽さを正義にした結果、ほかの正義が犠牲になったということですね。
森部 はい。そう思い切ると、一気にコンセプトは確かなものになりました。世界最軽量を早々にあきらめ、バッテリと重量は最低限満足できるレベルを満たした上で商品を再企画しました。たった2カ月でモックを作り、800g台でいくことにして、再び経営陣に見せました。それですぐにゴーサインが出たのです。
開発サイドと商品企画サイドの議論としては、あるべきデザインを先行して決めた点で掟破りだったと思います。じつは、経営陣にプレゼンした商品企画を、前もって開発サイドに見せたのはほぼ最終段階にきているタイミングでした。
北山 とつぜん、モックを見せられてびっくりしました。でも、でき上がっているモックを見て、開発サイド側もこれはいいんじゃないか思ったのです。そして、いかにそのモックに近づけるか、それをどうやったら実現できるかを考えはじめました。キーボード面のフラットさが演出する美しさ、これまでよりも本体側がずっと薄くなるフォルムなど、そこをどう詰めていくのかが課題でした。
森部 Hybrid ZEROは、ヒンジが目立っていました。カメラの位置もディスプレイ下部にあってこれもどうだろうと議論しました。そこで今回はヒンジを見せない方針にし、さらには、キーボードを沈めるための溝やディスプレイまわりのラバーも撤廃することにしました。ディスプレイは全周がラバーでかさ上げされていて、キーボードとの接触を防ぐようにしました。重量的には不利ですが、視覚的な心地よさがあります。
また、方向キーは手前にシフトさせず、タッチパッドのクリックボタンについても省略する方向でデザインを進めました。すっきりとした印象に貢献しているはずです。
――企画先行の製品ということですが、従来の製品企画とどう違ったのですか。
森部 本来は、まずスケッチレビューがあって、ファースト、セカンド、サードと進めながら製品のデザインを決めていくのです。セカンドあたりで開発側が加わって議論し、フィードバックしながらサードを作って、最終的にモックを作ります。
でも今回は、とにかく企画とデザインチームが先行して作業をはじめてモックまで作るところまでを独走しました。そこが掟破りで通常のプロセスではありません。ただ、すでに出荷予定日まで1年を切っているというインパクトもあってたいへんでした。そうせざるを得ないという事情もありました。
――掟破りのモックをいきなり見せられた開発側はどう感じられたのでしょう。
北山 びっくりはしました。でも、今までのNEC PCのかたちとは違うという印象を持ちました言ってみれば「おっ、きたー」という感じです。こんなにボトムを絞ったこともないし、かたちとして非常にきれいです。
これまでの機構設計のアプローチベースは前の装置のどこを変えるかということで頭が動いていたのですが、今回は、企画側が考えたモックがスタートです。その制限のなかでなにができるのだろうという考えでチャレンジし、まずは、底面の素材をマグネシウムリチウムに変えることにしました。
森部 今までの弱点はデザインと堅牢性だったことを真っ先に挙げて、改良を求めましたね。結果としてトップカバーも新素材のカーボンに変えてもらうことになりました。
永井 課題はアンテナ感度確保のために別素材で覆った部分との分割ラインでした。それがどうしても目立ってしまうのです。今回どうしてもフラットイメージでやりたかったので、新カーボンを使うことにしたのです。
――今回は、これまでのYOGAスタイル(360度回転式ヒンジ)も踏襲していません。
森部 はい、YOGAにして、液晶を折り返せるようにしなかったのは、どうしてもデザイン上不利になるからです。ただ、2in1としてタッチ画面はBTOで対応できるようにしていますし、ペッタリと180度倒れるようにすることにもこだわりました。
永井 依然としてユーザーニーズはクラムシェルです。ノートPCの王道として極みを作るなら、クラムシェルを極めたいと考えたのです。
森部 ただ、怖いのは王道を行くと既存の世界最軽量とどうしても比較されてしまうことでしょうか。
北山 自分たちのなかでも、開発のこだわりとして、なぜ、これまでどおり世界最軽量をやらないのかというジレンマはありました。だからこそ、バッテリの分だけ重くなったというのではなく、軽量化の努力も。随所にちりばめています。
森部 駆動時間は伸びているのに重量は減っていますからね。どこにユーザーの満足感があるのかということを考えた結果、そもそも当初の重量目標はまずは899gを切ることでした。
北山 ところがそれを設計では837gにしました。それは開発のプライドと言ってもいいかもしれませんね。
森部 モビリティ、デザイン、生産性。それを高い次元で最大化するところでまとめたらこうなったということです。デザインのApple、堅牢のパナソニックがあるなかで、今回のLAVIEはドマンナカを行きます。言ってみれば、今回は「ほしいは正義」ということで、とにかく「ほしくなる」、「使ってみたくなる」を狙いました。
要するにLAVIE Hybrid ZEROが技術先行モデルであったとすれば、今回は、いかにほしくなってもらえるかを考えて洗練されたイメージモデルです。きっと、カフェなどで使うときの見られ方なども変わるはずです。
――各種端子類や熱設計など、モバイルノートPCとしてのしがらみはどう処理されましたか。
永井 レガシーUSBを1ポート残しつつ、Type-Cポートを2つ用意しました。また、標準サイズのSDメモリのニーズが減っていることからmicroSDを採用しています。基板設計のことを考えるとフルサイズのSDはかなりの制約を作ってしまいます。もしかしたら、メモリスロットは削ってもよかったかもしれません。
また、Windows Hello対応については電源ボタンと指紋センサーを一体化しました。デザイン的にもすっきり見えます。顔認証を採用しなかったのは、日常的にマスクをすることが多い日本人のことなども考慮した結果です。技術的にはLTEアンテナとWi-Fiアンテナの感度を上げるためにIRカメラが邪魔だったこともありますね。
北山 デザインの工夫としては、見えないところに排気口をおき、ヒンジを隠すようにしています。LCDに熱い空気があたるところのコントロールがたいへんでした。
パフォーマンスを上げていったときの使い勝手も十二分に考えています。ファンの騒音に関してもできるだけ抑えるようにしました。最初は通風孔のかたちをどうするか悩みました。ファンを大きくすればラクなのですが、そこも小さく薄くする必要があります。
永井 ファンサイズは最後の最後まで議論した要素の1つですね。
北山 シミュレーションはかつてないほどたくさんやりました。パフォーマンスに妥協のないようにデザインのつじつまをあわせなければなりません。えぐれたヒンジ部分はとくに見てほしいですね。これだけ外側から見えないヒンジはめずらしいのではないでしょうか。
――素材が変わったこともデザインの印象に大きな影響を与えているようですね。
北山 最終的に、トップカバーはカーボン、液晶面はプラスチックとラバー、キーボード面はマグネシウム合金、底面はマグネシウムリチウムと、それぞれ異なるマテリアルを使うことになりました。とくにトップカバーが変わったことで、堅牢性は格段に向上したはずです。
NECがはじめて開発したマグネシウムリチウムですが、制限がけっこうまだ多いのです。たとえば、プラスチックとマグネシウムリチウムをあわせたときにたがいに侵食してしまうといった現象も確認しています。
――実際にキーボードを叩いてみると、ここにも大きな変化を感じることができました。前のようにツルツル滑る感じがなく、しっかりとタイプを受け止めることができています。
森部 まず、キートップのサイズをもう少し大きくできないかと考えました。その結果、ほぼA4ノート用キーボードのサイズを実現し、モバイルPCなのにフルサイズキーボードのフィーリングをかなえることができました。
キータッチについても見直し、押下時のピークとボトムフォースの落差を大きくすることで、打鍵感を高めました。押し下げはじめと底突き時はしっかりと抵抗を持たせ、中間はより軽い特性です。
また、プレミアムUVコーティングをキーキャップの上にペイントし、これまでのトップコーティングに加えてさらにサラサラ感を向上させることができました。シットリサラサラで指に吸い付くように安定して打鍵ができます。
永井 手触り感にも配慮したわけですが、そういうところにも目を向けることができたのは今回の収穫です。
森部 やはり、デビッドが社長になってから、少しわれわれ自身も変わったのかもしれません。いいものはもっといいものにしようよといった流れが、しっかりとできてきたように感じています。今後の製品にも期待してください。