山田祥平のRe:config.sys

月月火水木金金でテレワーク

 働き方改革の1つの方法論として、テレワークが注目されている。7月22から9月6は政府主導による3回目となる「テレワーク・デイズ2019」が実施され、東京オリンピック大会前の本番テストとしてテレワークの一斉実施を呼びかける。オリンピック期間中、通勤さえままならない状態に都市としての東京がおちいっても、経済活動を維持できるようにするということか。そんなオリンピックならやめてしまえという声も聞こえてきそうだ。しかし、テレワークとはいったいなんだろう。

テレあるかぎり本来の現場がある

 総務省によればテレワークとは「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」ということだそうだ。その分類は次のようになっている。

●企業に勤務する被雇用者が行なうテレワーク
・在宅勤務
・モバイルワーク
・施設利用勤務

●自営型
・SOHO
・内職副業型勤務

 とりあえず、自営型が挙げられているものの、その形態はちっともテレワークではない。そもそも「テレ」という言葉を冠していることからわかるように、「本来の場所」というものがあり、そこから離れて仕事をすることを指しているようだ。基本的には、組織に属する雇用者によるものだと考えてよさそうだ。

 フリーランスのライターとして仕事をしているぼくのような人間にとっては、属する組織はない自営型だが、実際には企業に勤務する被雇用者と同様に在宅勤務とモバイルワーク、施設利用勤務を組み合わせて仕事をしている。もっとも自宅が勤務先なのだから、仕事場所として頻繁に使う自宅での作業を在宅勤務と呼ぶかどうかは難しいところだ。

 いずれにしても、このテレワーク推進は、組織に属している人々が、まるでフリーランスのように仕事をすることを促進しようとしているように見える。働き方の環境作りを組織に頼るのではなく自ら作れということなのかもしれない。フリーランスは最初から毎日がテレワークだからだ。

本当はみんなもっと働きたい

 さて、先日、レノボがテレワークの利用実態を調査した。その結果として、テレワーク導入企業の職場満足度は未導入企業の約2倍に達している一方で、「職場のほうが生産性が高い」と感じている雇用者も多いことがわかった。この調査では、いくつか興味深い事実が明らかになっている。

 まず、出社して仕事をするときに比べてテレワークのほうが働きやすいと思うことの理由として、半分以上が「通勤時間を作業時間に割くことができる」としている。これはいくつかの判断ができると思う。「通勤時間がもったいないほど働きたいと思っている」、「通勤時間がなければ余暇が増えて別のことができる」ということだ。

 この調査においてテレワーク制度を導入している企業に属していたのは一割程度だったそうだが、そのなかでテレワークを認められているのはわずか6.7%、しかも、日常的にテレワークしているのは4.9%とごく少数にとどまる。

 そして、職場のほうが生産性が高い、職場のほうが働きやすいという回答が6割強あった。テレワーク従事者の半数以上が出社して仕事をする時と比べてテレワークは働きやすいとしているのとは逆の結果となっている。

 調査結果を見ていると、テレワークは食わず嫌いが多く、その懸念としてセキュリティ不安、データ共有の不安、会議の不参加不安などが挙げられている。

 アンケートの最後に、テレワークが無制限に許される環境にいるとしたら、どのようなことをしてみたいか、自由回答で尋ねてみた結果として、『「隙間時間を活用して、効率的に業務をしたい」、「通勤をやめたい」のように、より効率的に自己裁量による仕事設計を希望する声がある中、「ひたすら引きこもってものづくり」、「バカンスしながら仕事をしたい」のような声も見られました』という。

 個人的には、みんな、やっぱり働きたいのかという印象を持った。いちばん大事なことはカネのために働くというのではなく、もっと働きたいと思う仕事を得て、それをさらに効率的なものにするというという、ごく当たり前のことだ。それでいいと思う。だから、政府がいうほどには、テレワークが働くことを改革することにはつながらないように個人的には感じている。

いつでもどこでも神話

 一方、組織に属するかぎり、ICTの利活用なしにはテレワークは成立しないという面もある。テレとテレを結ぶためにも組織のクラウドの活用は必須だ。

 ただ、いつでもどこでも働けることはとても大事なことである反面、いつでもどこでもが成り立たない職種もある。また、在宅では働きにくい、働きたくないという考え方もあるだろう。

 ぼくらのようなフリーランスだって、アウトプットのための取材は必須で、その多くは、記者会見や展示会、個別のインタビューなどの現場に、約束した時間に赴く必要がある。記者会見や展示会基調講演はライブ配信視聴ですませ、インタビューもテレカンファレンスといった仕事のスタイルも考えられなくはないし、そうすれば自宅を一歩も出ずに仕事が成立するわけだが、本当にそれでいいのかどうか。

 モバイルノート1台あれば、いつでもどこでも仕事ができるように見えるかもしれないが、それはアウトプットをするごくわずかな作業だけで、インプットのためにはあちこちを駆けずり回るのが原始的かもしれないけれども王道だ。会社にはほとんど在席しないのに、客先を駆けずり回ってトップの売上げを確保する営業マンもいる。通勤するくらいならもう一社回りたいし、日報を書くなら電車での移動時間を使いたいなど、そういうことだ。

 こうした議論不在で働き方改革推進のためのテレワークのすすめというのは、なんとなく納得ができないでいるのだが、組織が従業員の良心を信じるように仕向けるという点では、そんなに悪い話ではない。そういう意味では、本当に貢献するのは働き方というよりも、働かせ方というべきなのだろう。