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世界最軽量は譲りません、使い勝手を犠牲にした商品開発はいたしません

~世界最軽量を再更新したLIFEBOOK UH開発者インタビュー

FMV LIFEBOOK UH

 FCCLがノートパソコン「FMV LIFEBOOK UH」シリーズの新モデルとして新UH-Xを発表。昨夏発売された先代モデルの698gに対して64gものダイエットに成功し、重量634gと、13.3型モバイルノートとして世界最軽量を更新したことを明らかにした。

 発売は10月下旬以降と、少し先になるが、開発に関わった仁川 進氏(執行役員常務 R&Dセンター長)、河野晃伸氏(プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第一技術部 マネージャー)、松下真也氏(プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第三技術部 マネージャー)らの話を聞いてきた。

最軽量の更新は”開発体制の健康診断”

 LIFEBOOK UH-Xシリーズは、777gの世界最軽量モバイルノートとして、初代のLIFEBOOK UH75/B1が2017年1月に発表された。ところが、その発売前の2月に、769gのNEC PC LAVIE Hybrid ZEROに最軽量の座を奪われてしまった。最終的には、量産開始後に、できあがった実機の実績値をとって761gに重量を下方修正し、世界最軽量の座を守ったという逸話がある。

 そして、その秋には2世代目のUH75が748gで自己記録を更新している。その後、2018年11月に698gで世界最軽量を更新した。今回、話を聞いた松下氏は、この世代からUHシリーズに関わっている。昨年2019年は、868gの世界最軽量コンバーチブル2in1のLIFEBOOK UH95に注力、その記録は更新されなかった。そして、この秋、UH-Xは満を持して世界最軽量更新に成功したわけだ。

――2年ぶりの世界最軽量更新となります。おめでとうございますというべきですね。今の感慨をうかがえますか。

仁川:「実は、毎年、UHシリーズの最軽量を更新するのは健康診断のようなものだと考えています。パソコンとしてのできのいい悪いはあるとしても、更新ができるかどうかというのは、開発体制の健康診断でもあるんじゃないでしょうか。FCCLがこの軽量化を他社に譲った時点で、開発体制に何かがあったのではないかと思ってもらってかまいません。今年はできましたから、開発陣は健康です(笑)。

仁川進氏(執行役員常務 R&Dセンター長)

 いずれにしても、このままいいけば無事に最軽量を更新し、世界最軽量は確実です。新型コロナやIntelプロセッサ供給難状況などのなかで、うまくできたというのはまだまだ開発体制が健康だという証拠です。

 これから生産に入るところですが、そこで、もう1つの健康のバロメータを確認できます。たとえば、設計的な無理をしている部分などがわかるわけですね。これで工場の健康のバロメーターが測れるはずです。

 R&D(研究開発)の存在価値として、その状態が健康である以上、ずっと最軽量チャレンジは続くだろうし、続かなければなりません。そうでなくなったときは、スタッフが健康でなくなったと思ってもらっていいでしょう。だからこそ、軽量の追求がなくなってしまったら意味がないのです。軽いことは基本中の基本で、その中でどこまで妥協しないでやるかが重要です。

軽量化のため100カ所以上の改善を実施

――64gのダイエットというのは先代機に対して約91%の重量になったということです。ほぼ1割の重量をそぎ落としたことになりますが、いったい、どのような方法で実現されたのでしょう。

河野:前回は50gの軽量化を果たしました。今回も、最低でもそのラインはクリアしたいと考えていました。結果として、重量のみならず、フットプリントも92%に小型化することに成功しました。

インタビューが始まるとさっそく本体を分解し始めた河野晃伸氏(プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第一技術部 マネージャー)

松下:今後、どうしていくかを考え、結局は天板をカーボンにすることに行き着きました。もともとカーボンは市場にすでにあったものですが、コスト的に使えませんでした。でも、レノボとのジョイントベンチャーによって、コストもこなれて採用ができるようになったのです。つまり素材をレノボといっしょに購入できたということですね。レノボの購買力が生きた例の1つといえます。

松下真也氏(プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第三技術部 マネージャー)

 その結果、天板のみをカーボンにすることができました。筐体全部がカーボンだととんでもなく軽くなるんです。でもさすがにそれはコスト的に無理でした。そこでいちばん効果のあるところで天板のみカーボンにすることにしました。じつは、外見からはわからないのですが、天板のアンテナの部分だけは樹脂にしています。ちょうど液晶の両肩の部分です。本当に一部だけなので、見かけではまったくわかりません。

カーボンによって大幅に軽量化された天板
天板裏のアンテナ部分はよくみるとわずかに素材が樹脂になっている部分がわかる

 マグネシウムリチウムの天板とカーボンの天板では重量が30%違います。具体的にはこれで約マイナス20gを実現できたことになります。今回の軽量化の1/3はレノボのおかげといっていいでしょう。

 さらに、今回のキーボードは7%軽くすることができました。要因としてはユニットのコネクタ補強の板金の材質や形状を変更しました。具体的には通常のアルミから高剛性のアルミに変えました。これで薄くして軽くできました。

 また、ファン固定のスタッドを円柱形状から三角形状にして体積を減らしています。わずか0.5g未満の効果ですが、その積み重ねです。構造的には先代機と同じで昨年と変わってはいません。とにかく部品1点1点を見直し、試作機前には80個だった軽量化ネタを評価中には40個以上も追加し、最終的には100個以上のネタを積み上げて軽量化を実現しました。

上から初代、先代機、新型機の基板。どんどん小さくなっているのがわかる

――液晶部の三辺狭額縁化でフットプリントも小さくなりました。たわみ量も15%軽減し、最軽量故の弱々しさも大きく軽減されています。たよりない感じがなくなった印象です。

河野:はい、液晶も額縁が狭くなって材質も変えています。

松下:割合でいえば、筐体で70%ほど、残りの25%はユニット、その他でも5%以上の軽量化を果たしたことになります。それで合計64gの減量です。奥行きは15mm分減って、フットプリントのコンパクト化ができています。

河野:フレームの設計は新規でやり直しました。バッテリも限界まで軽量化しています。たとえばコネクタを特注し、軽量でありながら、これまでのものと同等の接続性を実現しています。フロントカメラも2.2mm幅のものを使えるようになりました。今回は、プライバシー保護のための物理シャッターも装備しています。Webカメラのハッキングが気になる方も、使わないときは物理的にカメラをふさいでおけるので安心です。

新製品(左)と先代(右)のフレーム
新製品(左)と先代(右)のバッテリ

 スピーカーも新しいボックススピーカーを採用しました。左スピーカーと右スピーカーの間隔が多少狭くなってしまいましたが、ソフトウェアでセパレーションすることで、左スピーカーと右スピーカーのサウンドが離れて聞こえるようなチューニングを施しています。

比較的左右の端に設置された先代のスピーカー
新製品は中央寄りだが、ソフトウェアでうまく左右を分離している

コロナ禍を考慮した変更も

――顔認証がなくなりましたね。やはりコロナの影響でしょうか。

河野:はい、この状況下、年中マスクをしていることを考慮し、顔認証よりも指紋認証の方が使い勝手がいいと判断しました。そこで電源ボタン内蔵型のWindows Hello対応指紋センサーを搭載し、電源をオンにするのと同時に指紋認証ができるようにしています。これならマスクをつけたままで認証ができます。

 そのほか、スライドパッドのボタンを改良するなど、細かい部分はいろいろと見直しています。フットプリントの減少に伴い、基板面積も詰めて、スペース効率をよくしています。

松下:LANコネクタについては従来の引き出し式のユニットはキーボードの下に置けたのですが、今回は使い勝手を高めるためにフリップ式に変更したため、そのスペース確保は難しかったですね。

先代のLANコネクタ
引き出して開く構造だった
新製品のLANコネクタ
引き出さずに開閉できるように

河野:軽量化を求めてSDカードスロットを無くすという議論もあったのですが、最初からあったものはなくさないという方針をつらぬきました。

――OEMがTDPを定義できるcTDP(Configurable TDP)についてはどのようになっていますか。また、IntelのEVOプラットフォームへの対応などについてはいかがでしょう。

河野:cTDPについては非公開ですが、前機種よりも高く設定しています。EVOについては長時間駆動モデルのUH90/E3での対応を検討中です。UH-Xとの違いは、バックライトキーボード、Thunderbolt 4対応、バッテリが倍の50Whといったところです。最軽量モデルのUH-Xは、搭載バッテリ容量の点でEVO要件の1つであるThunderbolt 4対応を見送りました。

――今回、WEB MARTの直販モデルで待望のWANモデルが用意されるそうですね。

河野:5G対応のWANモデルはFCCLとして初となります。WEB MARTで展開予定です。ただ、こちらも最軽量モデルでは対応できません。ちなみに、UH-90/E3では25Wh標準バッテリモデルも選べるのですが、その場合、5GとThunderbolt 4対応はできなくなります。

――充電についてはどうなっていますか。

河野:7.5WでのPD充電に対応しました。左サイドのType-C端子は両方ともPD、DisplayPortになり、UH-X/E3ではUSB 3.1、UH90/E3ではThunderbolt 4対応になります。ただし、起動している状態では7.5Wでの充電はできません。バッテリの消費を抑える程度と考えてください。今回は、充電機能をType-C PDに集約し、電源供給専用のDCコネクタを撤廃したことも軽量化に貢献しています。専用の小型PD充電器も新たに用意しました。45Wのものとなります。

――最後に、今回の世界最軽量更新を自己採点してください。

仁川:満足度は100点です。でも、それは常に通過点です。

河野:軽量化はかなりやりきったので120点ですね。

松下:すでに次についていろいろ考えています。なので95点くらいにしておきますか(笑)。