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Centrinoをも凌ぐモバイルノートの革命「Intel Evoプラットフォーム」とは

~薄型軽量でバッテリも持ち、ゲームまでもが快適に動作

ノートパソコンに貼られているEvoプラットフォームのロゴ。右側はIris Xeグラフィックスのロゴ

 Intelは9月にこれまでTiger Lakeの開発コードネームで知られてきた最新プロセッサを「Intel Iris Xeグラフィックス搭載第11世代Coreプロセッサ」として発表。同時に、これまでProject Athenaの開発コードネームで呼んできた、ノートパソコンの新たなプラットフォームを「Intel Evoプラットフォーム」(以下、Evo)というブランド名にすることを明らかにした。

 Intelがノートパソコンに付与するブランドとしては「Centrino」が記憶に残るが、同社がCentrinoでWi-Fiを広く普及させたように、Evoもモバイルノートを新たなステージへと推し進める存在となる。本記事ではEvo準拠のノートがもたらす可能性について俯瞰していく。

第10世代のタイミングで導入されたProject Athenaが第11世代では「Evoプラットフォーム」に進化

第11世代Core(出典 : Intel)、左がUP3と呼ばれる薄型ノートパソコン用、右がUP4というより小型のタブレットや軽量ノートパソコン用

 今回発表されたEvoは、Project Athena 2.0に相当するもので、Intel Evoとして改めて正式なブランド名がつけられた。搭載製品では、従来Coreプロセッサのロゴシールが貼られるところに「Evo」のシールが貼られるかたちになっており、IntelがEvoをCoreよりも上位に位置づけていることは明らかだ。

Evoのロゴシール、Powered by Coreの文字列も

 ただし、Evo自体はプロセッサではない。Evoは、”プラットフォーム”(基盤)という言葉が示しているように、CPU以外にもメモリ、SSD、ディスプレイ、バッテリなどノートパソコンを構成するコンポーネントすべてが対象となっており、それらについてIntelが設けている基準をクリアすることで「Evoプラットフォーム」と名乗ることができる。

 そういう意味で、過去にIntelが同じようにプラットフォームにブランドをつけた「Centrino Mobile Technology」や「Ultrabook」と似た位置づけであり、Evoでは、「よりよいユーザー体験の保証」という現代的な考え方が導入されている。

 たとえばCentrinoではWi-Fi装備が必須となり、その普及に大きく貢献したし、Ultrabookでは薄型ノートというフォームファクタを普及させるため、厚さは20mm以下という規定が設けられるなど、これまでのプラットフォームブランドは、どちらかと言うとスペックに焦点が当てられていた。

 これに対してEvoでは、ユーザーの使い勝手を優先した要件が規定されている。具体的には下記のとおりとなる。

  1. 優れた応答性(OSやアプリケーションの起動が高速でサクサク使える)
  2. 長時間バッテリ駆動(フルHDのディスプレイ搭載モデルで9時間以上)
  3. 高速レジューム(1秒以下でレジューム)
  4. 急速充電(フルHDディスプレイ搭載モデルにおいて、30分で4時間駆動が可能な量を充電可能)
  5. 最高峰のワイヤレスとワイヤードのネットワーク(Wi-Fi 6とThunderbolt 4に対応)
Evoが規定するユーザー体験、ノートパソコンメーカーはそうしたユーザー体験を保証する認証テストを通過する必要がある

 Evoでもスペックについても基準があり、以下のとおりとなる。

【表】Evoプラットフォームのスペック要件(Intelの発表より筆者作成)
項目要件
プロセッサIntel Iris Xeグラフィックス搭載第11世代Coreプロセッサ(Core i5以上)
メモリ8GB以上/デュアルチャネル
ストレージ256GB以上、PCIe/NVMe SSD
ディスプレイ12型~15型、フルHD以上の解像度、タッチ対応、狭額縁
筐体の厚さ15mm以下、ファンあり/ファンレスの熱設計
熱設計Intel Dynamic Tuning Technology
Wi-FiWi-Fi 6 Gig+
BluetoothBluetooth 5(オーディオオフロード機能対応)
マイクデュアルマイク(最大63dbのノイズ比、+/-1db)/遠方界マイク
オーディオIntel Smart Sound Technology
スピーカー音圧(50cmで78dB以上)/低音周波数(353Hz以下)
前面カメラ720p/30fps以上
OSWindows 10ないしはChrome OS

 プロセッサは第11世代Coreのみが対象。メモリはデュアルチャネルで8GB以上、ストレージはPCI Express/NVM Expressに対応した256GB以上のSSDとなっており、Evoプラットフォームが実現する(1)のユーザー体験であるサクサク動くシステムという条件を担保している。

 バッテリ容量は規定されていないが、フルHDディスプレイで9時間駆動できることが条件になっている。欧米では8時間バッテリ駆動できるシステムを「All-Day Battery」(バッテリで1日使える)と呼んでいるが、じっさい、朝8時からはじまる会議に参加して、ずっとパソコンを使い続けても9時間駆動ができれば、夕方17時まで使える計算になる。

 そのほかにも、1秒以内の高速レジュームや、2,402Mbpsと有線のGigabit Ethernetよりも高速に通信できるWi-Fi 6、Thunderbolt 4対応が必須になっているなど、使い勝手に関わる部分が大きく拡張されていることもEvoプラットフォームの特徴と言える。

Intelが規定しているEvoのスペック要件

 つまり、ユーザーから見れば「Evoプラットフォーム」のブランドがついている製品は、高性能で、1日バッテリで使うことができ、ちょっとACアダプタをつなぐだけでかなりの割合を充電でき、1秒以下でスリープから復帰でき、Wi-Fi 6などの高速なネットワークアクセスが可能という体験が約束されているわけだ。

 Thunderbolt 4はまだ新しい規格だが、Thunderbolt 3同様、外部ディスプレイを接続してマルチディスプレイ環境を構築可能なのに加え、これまで1基のみ可能だった4K出力が2基に増加され、8Kでの出力にも対応。また、PCI Express 4.0に対応したことで、対応する外部ストレージ、外部GPUなどを接続したさいの性能もより高まる。

 それだけではない。これはEvoの要件ではないが、上位プロセッサ採用製品では、第11世代Coreプロセッサに内蔵されたIntel Iris Xeグラフィックスにより、薄型ノートながら、定番ゲームもプレイできるグラフィック性能を実現している。

 CentrinoやUltrabookは、どちらかというとビジネス向けの製品が多かった。Evoについても、ビジネスパーソンが場所や時間を問わず快適に作業できる性能や使い勝手を提供するが、Evoノートは、オフにゲームもするカジュアルゲーマーなビジネスパーソンや、学業に使いつつゲームもプレイする学生向けなどにも好適な存在と言えるのだ。

 具体的なゲーム性能については回を改めて紹介するが、この観点から、EvoはCentrinoやUltrabookを凌ぐモバイルノートの革命となると言っても過言ではない。

Evoプラットフォーム対応製品は2020年末から出荷開始

Intelが開発した第11世代CoreのUP4パッケージを利用したシステムボードのリファレンスデザイン。iPad Proと同じようなレベルの高密度実装基板となっている

 こうしたEvoプラットフォームのノートパソコンは、Intelとノートメーカーが共同で開発している。Intelはリファレンスデザインと呼ばれるマザーボードの設計データをパソコンメーカーなどに提供しているが、Evo向けには、より小型の高密度基板や熱設計周りの情報・技術をパソコンメーカーに提供し、薄型軽量で高性能なノートパソコンを共同開発している。

ノートパソコンメーカーと共同で開発を行なっている

 9月のEvo発表時には、Acer、ASUS、Dell、Dynabook、FCCL(富士通)、Google、HP、Lenovo、LG、Microsoft、MSI、Razer、Samsungなどがパートナーとして紹介されており、Google、Microsoftの2社を除くメーカーからすでにEvoに対応した製品が出荷開始されている(逆に言えばその2社からも今後販売される可能性がある)。そのうち、日本でも発売済みのものをいくつか紹介しよう。

発表時に明らかにされたパートナー、Acer、ASUS、Dell、Dynabook、FCCL(富士通)、Google、HP、Lenovo、LG、Microsoft、MSI、Razer、Samsung

デル「XPS 13」、「XPS 13 2-in-1」

デルのXPS 13(モデル9300)

 デルのXPS 13(モデル9310)は、16:10アスペクト比の13.4型ディスプレイを搭載。特徴は、第11世代Coreの最上位グレードになるCore i7-1185G7を選択可能なことと、32GBという大容量メモリを選択できることだ。Webブラウザでもメモリの消費量は多く、32GBを選択できるのはうれしいポイントだ。2in1型となるXPS 13 2-in-1(モデル9310 2-in-1)も用意されており、こちらはペンにも対応する。

Dynabook「dynabook V8」

Dynabookのdynabook V8

 Dynabookのdynabook V8は、13.3型ディスプレイを搭載し、重量が1kgを切る979gに押さえられている2in1。第11世代Coreの幅広い動作レンジのうち28Wの消費電力に対応できる設計が施されており、Windowsのパワースライダーを設定することで、28Wに設定してCPUやGPUの性能を引き上げ可能になっている。

富士通クライアントコンピューティング「LIFEBOOK UH90/E3」

富士通クライアントコンピューティングのLIFEBOOK UH90/E3

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のLIFEBOOK UH90/E3は13.3型フルHDディスプレイを採用し、約818g(Evo準拠モデルの場合)という軽量さを実現しており、可搬性に優れた製品だ。約22.5時間(JEITA測定法2.0)のバッテリ駆動が可能と、できるだけ軽量でかつ長時間駆動ができるノートパソコンが欲しいユーザーには要注目の製品だ。

レノボ・ジャパン「ThinkPad X1 Nano」

レノボ・ジャパンのThinkPad X1 Nano

 レノボ・ジャパンのThinkPad X1 Nanoは、約907gと、ThinkPadシリーズとして史上最軽量の製品。軽量ながらThinkPadの要件を満たした堅牢性や性能を実現しいる。また、LTEや5Gといったセルラーモデムの搭載にも対応(オプション)しており、パソコンを開いたらすぐに使えるという利便性も兼ね備える。

MSI「Prestige-14Evo-A11M-785JP」

MSIのPrestige-14Evo-A11M-785JP

 MSIのPrestige-14Evo-A11M-785JPは、第11世代Coreの最上位モデルとなるCore i7-1185G7を搭載。熱設計の設定は28Wになっており、高い処理能力を発揮可能だ。また、SSDは、第11世代Coreでノート向けとしてはじめてサポートされたPCI Express 4.0に対応し、ストレージの速さも注目点になっている。

ASUS「ZenBook Flip S」

ASUSの「ZenBook Flip S」

 ASUSのZenBook Flip Sは、3,840×2,160ドット(4K)表示に対応する13.3型有機ELディスプレイを採用した2in1。スタイラスによるペン操作も可能で、オフィススイートはもちろん、ゲームやイラスト動画鑑賞などエンターテインメントをマルチに楽しめる製品となっている。

 これから迎える2021年も、Evoに対応したノートパソコンは増えていく。そのなかには、vPro版も含まれ、高度なリモート管理やハードウェアセキュリティなど、大規模ビジネスにおいても魅力的な製品が期待される。

どれを買っていいかわからないときに「目印」となるEvo

 多くのノートパソコンメーカーも、第11世代Coreのバランスが優れていることを賞賛しており、とくにGPUのIris Xeグラフィックスの高い性能を評価する声は多い。筆者としても、普段業務に使っているモバイルノートでゲームや各種エッジAIに対応する先進ソフトをフル活用できるのはありがたい。各社とも現行のEvoプラットフォームの製品の開発にはかなり力を入れており、魅力的なノートパソコンが出そろいつつある。いまは、まさにノートパソコンの買い換えにうってつけの時期になってきている。

 ノートパソコンが欲しいけどどれを買ったらいいかわからないというときには、この「Evo」マークが目印の1つになることは間違いない。