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第3回:手塚治虫に憧れ、"マシリト"に出会い、プロの道に~マンガ家北上諭志氏編

~作画、コミュニケーション、原稿管理もフルデジタルで作業

 5人のプロクリエイターにASUSのクリエイター向け製品を体験してもらう本連載。第3回目は、マンガ家・イラストレーターの北上諭志氏に話を伺った。

北上諭志氏
漫画家・イラストレーター。奈良県出身。サブカル系実録マンガなど多数執筆。ゲームキャラクターデザインなども手がける。電子書籍「狂犬狩り~デビルズ・ダンディ・ドッグス~」発売中

すべての作業をデジタルで。コストを削減し効率化

 マンガ家には、従来の紙にペンで描くアナログ派と、PCなどを使ってデジタルペンで描くデジタル波の人がいる。北上氏は、元はアナログ派だったが、2000年頃からデジタルに移行し、マンガに関する作業はほぼすべてデジタルで行なっている。

 いまアナログ時代のころを思い返すと、当時は作画にいまよりも時間がかかっていたと北上氏。デジタルはどのような点が効率的なのか?

 たとえば消しゴム。アナログの場合は、鉛筆で下書きを行ない、ペン入れしたあとは下書きを消しゴムで消す。これがデジタルの場合は、下書き用のレイヤーに下書きを描いておき、清書が終わったら、下書きのレイヤーを非表示にするだけ。1クリックで済む。

 「ベタ」と呼ばれる、黒で塗りつぶす作業も、アナログだと筆でこまめに塗っていく必要があるが、デジタルの場合は、塗りたいエリアを1クリックするだけだ。

 中間色などを表現するスクリーントーンについても、アナログでは形に添ってカッターで切り抜くのに時間がかかるが、デジタルだと、スクリーントーンを選んで、エリアを指定するだけで終了する。

 スクリーントーンについては、コストの面でもデジタルにメリットがある。スクリーントーンは、A4程度のサイズで1枚500円前後するので、マンガ1話で数千円かかることもある。

 「これが、デジタルだと初期投資としてPC一式やソフト代はかかりますが、すぐに元は取れます。僕の場合は、その浮いたトーン代で、アシスタントを雇えるほどですね」(北上氏)。連載を持つプロとなると、デジタル化によるコストメリットも相当大きいが、デビューしたてなど収入が低いときであっても、無理をしてでもPCを買った方が結果的に安く上がるだろうと北上氏は述べる。

 人物を描く作業については、デジタルでもアナログでも時間は変わらないが、ベタやトーンなどの装飾的な作業で、大きな違いが出るのだという。

 画を描くということについて、デジタル、アナログ、どちらが優れているというものではない。北上氏も、趣味の絵画は水彩絵の具で描いたりもするというが、仕事のマンガとなると、効率を優先し、すべてデジタルで行なうようになった。

小学6年生のころに"マシリト"に出会う

 そんな北上氏が、マンガ家に興味を持ち始めたきっかけは、幼稚園時代にまで遡る。おばあちゃん子だった北上氏は、祖母に与えられた色鉛筆でノートにイラストをしばしば描いていた。子供が描いた落書きに近いようなものであっても、氏の祖母は両手放しで出来映えを誉めてくれた。

 「人って、他人から誉められるとうれしいし、もっと喜んでもらおうと努力するじゃないですか。それで、次第にキャラクターの設定とかストーリーとかも考えて祖母に話していました」(北上氏)。

 小学生になったころ、祖母から手塚治虫のことを教わった。世界中から愛されている人物だと聞き、マンガ家への憧れが強くなった。イラストは友達からも評判が良く、3~4年生のころにはよりマンガらしいものを描くようになった。

 そんななか、北上氏が本格的にプロマンガ家になろうと決意するに至るできごとがあった。小学6年生のとき、中学受験に合格したお祝いで、春休みに家族で東京旅行にでかけた。無邪気な北上少年は、せっかく東京に来たのだから週刊少年ジャンプ編集部に行きたいと思い立ち、ホテルから編集部に見学をしたいと電話。果たして、編集部側は、その申し出を快く受け入れてくれたのだという。

 そして編集部で北上氏を迎えてくれたのが、当時の少年ジャンプの副編集長で、鳥山明氏作「Dr.スランプ」の「Dr.マシリト」のモデルにもなった鳥嶋和彦氏だった。そこで大胆にも「プロになりたいんです!」という思いの丈を伝えた北上氏に対し鳥嶋氏は、「ならばとにかくマンガを描くのを継続するのが秘訣」とのアドバイスをくれた。

 そして、編集部でみかけたのが、プロを目指すマンガ家のタマゴたちから送られてきた膨大な量の没原稿の山だった。その光景を目の当たりにして、「日本中にはこれだけプロになりたい人がいるんだ」と子供ながらに衝撃を受けるとともに、逆に「なら頑張らねば」と奮起した。

 東京旅行から戻って以降はその助言を忠実に実行。マンガを描き続け、高校2年生のときに応募した少年ジャンプの賞レースでは佳作を受賞。後日、編集部から電話があり、プロになる見込みがあるので、その気があるなら、東京でのアシスタント先を紹介すると言われ、19歳の時にプロマンガ家を目指し上京した。

原稿はDropboxで共有し、アシスタントとはSkypeでやりとり

 当時はマンガ制作だけでなく、編集者との連絡や打ち合わせも直接会って行なうというアナログな時代だったため、プロデビューするには上京して修行するのが当然だったが、いまでは必ずしもそうする必要はないだろうと北上氏。

 じっさい、北上氏のアシスタントは地方在住で、Dropboxに共有された原稿データに対してリモートで作業を行なっている。製作に使う「CLIP STUDIO PAINT EX」で、作業者ごとに原稿のレイヤーを分けておき、担当者は自分のレイヤーに対して作画を行なう。アシスタントへの作業指示は、SkypeやLINEで出す。

 編集者との打ち合わせもLINEなどでできるし、完成した原稿もDropboxからそのまま渡せるので、マンガ家自身も地方にいながら仕事ができる時代なのだ。

 「昔のように、アシスタントに自宅や作業場に来てもらってだと、その食事代も出すし、寝泊まりする場所も必要ですよね。女性アシスタントだと、さらに部屋も分けないといけないので、そういうマンションとかを借りるとすると、そのコストはバカにならないです。いまも週刊連載だと、同じ場所で顔をつきあわせて作業される方も多いイメージですが、月間のペースだとリモート作業の人も多く、デジタルによって、大きくコストを下げながら、効率も上げられますね」(北上氏)。

タッチ操作や、ScreenPadでの動画や画像の表示が非常に便利

タッチパッドとディスプレイが統合されたScreenPadを搭載したASUS ZenBook Pro 15

 北上氏にもASUS「ZenBook Pro 15」を使ってもらった。まず、CLIP STUDIO PAINT EXは、さほどマシンパワーを必要としないこともあり、快適に作業できることが確認できた。マンガの執筆作業では、細かなところの書き込みでは拡大表示し、ときには描きやすい向きに回転させたりし、また縮小して全体表示をするという作業が多いが、そういったこともスムーズにできる。

 ZenBook Pro 15はタッチ操作も可能なので、その拡大縮小や回転作業は、左手でタッチでやりながら、右手はペンタブレットで操作できるので、作業効率が高まる。カラー原稿であっても性能が落ちることはなく、加えて、ZenBook Pro 15の液晶は、北上氏が普段自宅で利用しているものよりも発色がいいという。

CLIP STUDIO PAINT EXは快適に動作。カラー原稿で液晶の品質を見てもらったが、自宅のディスプレイより発色がいいと北上氏

 フルHDのタッチ液晶を埋め込んだタッチパッドとなる「ScreenPad」については、普段から作業中に動画やネットラジオを再生していることが多いという北上氏は、その用途にうってつけだという。

 ながら作業するときに、たとえば動画のウインドウを小さくしたとしても、常に画面上に見えるようにしておくと、メインで使うソフトのウインドウが狭まって、作業効率が落ちる。ScreenPadでは、音楽プレーヤーやカレンダーなどの専用アプリを表示・操作できるのに加え、セカンダリディスプレイとしても利用できるので、マンガソフトを全画面表示しながらも、ながら見ができる。

 北上氏によると、いったん下書きができた原稿へのペン入れは、ながらでもできてしまうため、そのように作業することが多いのだとか。

 じつはこれは、まさにScreenPadでASUSが想定している使い方の1つなのだ。ScreenPadの詳細については、この連載の序章(序章:「創造力を解き放つ」。ASUSがZenBook Pro 15に込めた想い)を参照いただきたい。

タッチ液晶を埋め込んだタッチパッドの「ScreenPad」では、セカンダリディスプレイとして動画なども表示できる。ながら作業にはうってつけだ

 また、小物や衣装、背景の建物などを描くとき、実物の写真を参考にすることもある。そういったときも、まずはメイン液晶で検索を行ない、参考にするものが見つかったら、ScreenPad側にウインドウを移動させるボタンをタップすれば、あとはScreenPadを参照しながら描くことができる。

 普段は、マンガソフトと画像検索との行き来が面倒で、参考写真を印刷して、それを見ながら描いているそうだが、ZenBook Pro 15では、そういった無駄も省ける。

画像検索で実物の写真を参考にするときに、ScreenPadに表示しながら描くというのも便利な使い方だ

 今回は検証していないが、ZenBook Pro 15は1,024段階の筆圧検知が可能な専用のASUS Penにも対応しているので、北上氏は、それがあればカフェなどに持ち出しての作業にも使いたいとのことだ。

自分から逃げないのがプロとしての心がけ

 最後に北上氏に、プロマンガ家としての心がけを伺った。北上氏は20歳くらいのころ、週刊少年ジャンプの売れっ子マンガ家のもとでアシスタントをしていた。そこで目の当たりにしたのは、研究熱心で、作品に手を抜かず、睡眠も削って作業するマンガ家の姿だった。

 プロになった後でも、ときには、ちょっと骨休みしたり、遊びに行きたいと思うこともあるが、そういうときは先輩の背中を思い出し、「そんなことをしていたのでは生き残れない」と、ペンを走らせ続ける。

 また、デザイン関係の仕事しているいとこからデビュー前に言われた「描きたいものだけを描いていたのでは上達しない」という言葉も常に心に刻んでいる。読者が読み飛ばしてしまいそうなコマであっても、クライマックスのコマであっても、すべてのコマを同じクオリティで仕上げるのが、北上氏の信念だ。