Creators Meet ASUS
第6回: ASUSの液晶一体型PC「Zen AiO 27」で、映像エディターの小林氏が色調整によるドラマ作りを解説
2019年1月9日 11:00
本連載では、これまで5人のクリエイターにASUSのクリエイター向けノートPC「ZenBook Pro 15」を使ってもらい、異なるジャンルの視点から製品の性能の高さや使い勝手の良さを体感してもらった。しかし、ASUS製品でクリエイター向けとなるのはZenBook Pro 15だけではない。クリエイターのプロフェッショナルな業務に対応できる製品ラインナップを多数取り揃えている。
本稿では、ASUSの液晶一体型PC「Zen AiO 27 Z272SDK」(以下、Zen AiO 27)を用い、動画編集ソフト「DaVinci Resolve 15」での映像編集について、映像エディターの小林譲氏に検証してもらった。
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4K液晶搭載の一体型PC Zen AiO 27
Zen AiO 27は、単体の27型液晶ディスプレイと大差ない本体サイズに、PCとしてのフル機能を内蔵させた一体型PCだ。おもな仕様は、CPUが6コアのCore i7-8700Tで、メモリ16GB、PCIe SSD 512GB、HDD 2TB、GeForce GTX 1050、Windows 10 Homeとなっており、写真や動画編集など、ある程度負荷の高いクリエイティブな作業にも対応できる性能をコンパクトな筐体に凝縮している。
写真を見てわかるとおり、デザインにも注力されており、ASUSの「Zen」シリーズの伝統を受け継いだ高級感溢れる見た目となっている。
ZenBook Pro 15がそうであるように、Zen AiO 27も、ただ格好良さを追求しただけではなく、機能性についてもしっかり考えられている。たとえば、背面にあってデザイン性がないがしろにされがちなディスプレイスタンドにも、アクセントでローズゴールドの縁取りがされるなどこだわりが見えるが、ディスプレイの角度を上下左右にかなり広い範囲で調節できる。
ディスプレイを支えるスタンドは、必要以上にデスクを占有しないが、ここにはqi対応のワイヤレス充電器が内蔵されており、スマートフォンを置くだけで充電できるなど、極力デッドスペースが生じないよう工夫が凝らされている。
クリエイターにとって重要な液晶は、PANTONEカラー準拠、Delta E < 2(※)、sRGB 100%のIPSレベルの4Kパネルを採用している。スピーカーもharman/kardonの認証を取得した高出力(5W×2+10W×2)のものを採用し、仕事の合間の息抜きのエンターテイメント視聴や、動画編集者の作業に大いに役に立つだろう。
このほか、Thunderbolt 3、USB 3.1×3、USB 2.0、SDカードリーダ、Gigabit Ethernet、音声入出力、顔認証対応カメラなど豊富なインターフェイスも特徴だが、なかでもHDMIは入力と出力を備えており、外部にさらに4Kディスプレイをつないだり、別の端末の画面を表示することもできる。
※ASUS社によるテスト結果平均:Delta-E < 2、 +/- 0.5、 フルHDパネル Delta-E < 3、 +/- 0.5
映像編集者がPCに求めるスペックとは
前述のとおり、今回はこのマシンを使って、本場ハリウッドの映画製作でも使われている動画編集ソフトDaVinci Resolve 15(以下、Resolove)で作業を行なってもらった。
小林氏に、映像編集者がPCに求める仕様を伺ったところ、まずはGPUの性能という答えが返ってきた。最近の映像編集ソフトは、CPUだけでなくGPUも効率的に利用するようになっている。とくにResolveは、カラーグレーディング、エフェクト処理、レンダリング、画像出力と、広範囲にわたってGPUを活用する設計になっている。
また、ここ1~2年でThunderbolt 3の需要が高まっているという。4Kだけでなく8Kというひじょうに大きなデータも扱う機会がでてきており、大容量の高速ストレージごとデータを渡されることもあるため、高速なインターフェイスが必要となってくる。ストレージだけなら、USB 3.1でも対応できるが、Thunderbolt 3があれば、外部GPUボックス(eGPU)も接続できるため、映像編集者からThunderbolt 3に対する注目度が高まっているのだという。
プロの映像編集者は、映像の仕上がりは、外部につないだ業務用のマスターディスプレイにつなぐので、PCのメインディスプレイに求めるスペックはそこまで高くない。だが、一度4Kの高解像度環境で作業すると、もうフルHDには戻れないので、扱うデータがフルHDであっても、今後は4Kでの作業が主流となるだろう。
ストレージについても、マスターデータは外部ストレージにあることが多いため、こちらも内蔵の容量については、何TBも必要というわけではないようだ。それでも、クラウド上でマスターデータを共有し、それをローカルストレージと同期させながら使うことも多く、SSDは512GB程度、HDDは1TB程度は欲しいという。
総合すると、Zen AiO 27は、小林氏が求めるスペックをちょうどいい具合に満たしている。
Resolveで性能を検証
では、実性能はどうなのか? まず、Resolveの開発元であるBlackmagicが公開している4.6K 12bit 24p Blackmagic RAWというきわめて重いデータで作業してもらった。
まず、このデータでも再生についてはコマ落ちなく処理できた。そこに対して、コントラストや、彩度などの2~3の全体的な色調整をかけてもコマ落ちは発生しなかった。しかし、肌色だけを抽出して選択的な色調整をかけると、フレームレートは半分程度に落ちた。
一方、このデータを10bitのフルHD h.264に変換し、プロジェクト設定もフルHDにしてみたところ、2倍近い数のカラーコレクション処理を行なってもフレームレートは落ちなかった。小林氏によると、ここまで多重に色調整を行なうのは、化粧品のCMなど、相当に色に気を配るコンテンツくらいとのこと。また、このデータはHDRクラスの10bitのものなので、SDRの8bitデータならさらに負荷は減るため、フルHDの映像編集には問題のない性能が出せているようだ。
参考までに、60秒の4.6K 12bit 24p Blackmagic RAWデータをフルHD 10bit 24p h.264に変換するのにかかった時間は55秒だった。
色の調整だけでもドラマは作れる
プロの映像編集の世界には、カラリストという色だけを専門に扱う人もいる。小林氏は、カラーコレクション以外の作業もこなすが、今回は、色味の調整だけで、ここまでイメージが変わるというテクニックを見せてもらった。
今回のサンプルデータはRAWデータなので、Resolve上でカメラ側での調整をかけていないRAWの状態に戻す。すると、階調が浅く、色が十分に出ていないことがわかる。まずはこれを普通の見た目にする。
まず意識するのはコントラストで、カラーホイールやガンマカーブを使って調整する。スコープを見て、RGBの各波形がスコープの上下いっぱいにまで広がるよう調整し、ベクトルスコープを見ながら彩度を上げていくと、被写体が持っていた本来の色の情報が引き出されてくる。波形だけを信じるのではなく、画面に出ている色味を逐一目で確認するのも重要だ。また、今回の素材は、窓から明るい光が差し込んでいるので、それに逆らわないようにも配慮している。
次にホワイトバランス。基本的にはスコープで、RGBの波形バランスが取れていればきちんとしたホワイトになるが、ここでも数値だけではなく、たとえば本来白であるべき色の物体がきちんと白く見えているかも確認する。
ここまでは、素材を普通の見た目にする作業だ。ここから味付けに入る。ガンマカーブで、暗部や明部の強さを調節してやると、少しドラマチックになってくる。今回は、素材がかなりナチュラルな雰囲気なので、大げさには調整しない。
この段階で、ソファなどにはコントラストがついたが、女性の肌が意図したものより暗くなりすぎてしまっている。そこで、ノードを追加し、クオリファイヤーを使って、肌色部分を抽出する。機械任せでおおまかな肌色部分は抽出されるが、木のテーブルなど、近い色のものまで抽出されることもあるので、パラメータを調節して、肌だけが抽出されるようにしたら、その部分の明るさを持ち上げてやる。
ここから、暗部に少しだけ青や緑色を差してやると、緊迫感のあるドラマのような見栄えになってくる。先ほどまで、日記でも書いているように見えた女性が、急に犯罪計画を立てているかのようなサスペンス感が出てくる。
さらに、手元部分だけをほんの少しだけ明るくする、あるいは逆に、それ以外の部分の彩度を少し落としたり、暗くしたりすることで、見ている人の視線を手元に誘導できる。
今回の例はさまざまな演出手法のほんの1つに過ぎないが、たった1つのカットやシーンにも、多くの加工が施され、そしてその背後には監督や編集者のさまざまな狙いがあるのだということがおわかりいただけたのではないだろうか。
これから映像編集者を目指す人に
最後に小林氏から、これから映像編集者を目指す人に向けたアドバイスをいただいた。
映像編集に興味のある人は、まず他人の作品でいいなと思ったものをとにかくマネしてみることで、作品をより良くするコツが見えてくるという。小林自身も若いころ、気に入った作品を1フレームずつ観てみて、より良い編集の肌感覚を掴んでいった。そうするうちに、「このシーンを5フレームで終わらせるとテンポ良くなるが、10フレームにしてしまうと間延びしてテンポが悪くなる」といったことが掴めてくるのだという。
しかし、映像編集には唯一の答えはなく、1つの素材から何通りもの作品が生まれる可能性があり、そういったポテンシャルの広がりこそが映像編集の楽しさだという。
映像編集者としての小林氏のお気に入りの映画は、マーティン・スコセッシ監督の作品で、カラーコレクション・映像美という視点からだと、デビット・フィンチャー監督の作品がもっともお勧めとのことだ。