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「ZenBook Pro 15」のScreenPad液晶は“一発芸で終わらない”。ASUS発表会レポート
2018年6月20日 18:21
ASUSは20日、都内で2018年PC夏秋モデルの製品発表会を開催。このなかで、特徴的な主力製品である「ZenBook Pro 15」に関して、詳しい説明がなされた。
冒頭では、同社執行役員 事業部長の溝上武朗氏が挨拶。ASUSのPC事業部はEeePCの時代に立ち上げてから10年以上が経過しているが、その間、2011年に投入した「ZenBook」が切り拓いたUltrabook、「TAICHI」や「Transbook T100TA」による2in1市場の形成、「ZenFone 5」の投入によるSIMロックフリースマートフォン市場の開拓といった、数々のマイルストーンを樹立したことを掲げた。
また、ユーザーのニーズの多様化に伴い、製品ラインナップも拡充し、さまざまなニーズにこと細かに対応させているとし、この戦略を2018年の夏秋モデルも踏襲するとした。
2018年夏秋モデルのなかでの注目株は、なんと言ってもタッチパッド部がタッチ画面にもなっている「ScreenPad」を搭載した「ZenBook Pro 15」だろう。この製品は6月初旬のCOMPUTEX期間中に発表され、世界的に話題となっているが、比較的早い段階で日本国内への投入を実現している。
本製品の位置づけとしては、高いシステム性能を必要とするクリエイター向けとなっている。同社システムビジネス事業部 プロダクトマネージメント課の杉田雄士氏 プロダクトマネージャーは、「ZenBook Pro 15は、CPUに6コアのCore i9プロセッサ、GPUにGeForce GTX 1050 Ti、ストレージにPCI Express 3.0 x4接続の1TB SSDを搭載しており、ゲーミングノート並みのスペックを実現し、ノートPCとして基本的な性能に優れている」とした。
また、PANTONE認証済みの4Kディスプレイも特徴で、工場出荷時にキャリブレーションを施し、sRGB比132%/Adobe RGB比100%の広色域、そして色再現性を示すデルタEは2以下を実現。これは放送業界で使われるディスプレイに匹敵する品質であるとした。
デザインについては、Zenシリーズの特徴である同心円状のヘアラインのみならず夜明けの空に日が昇るシーンをイメージした“ディープダイブブルー”を本体色に採用し、「ただのデバイスではなく、人々の生活に寄り添ったデザイン」を実現したという。
さて注目のScreenPadだが、これはユーザーの生産性を高めるために実装されたものだとしている。スマートフォンのような操作性をPCにもたらしたのが最大の特徴で、ガジェットのようなアプリのみならず、Microsoft Officeのツールバーとして使ったり、セカンドディスプレイとしてYouTubeの再生などを可能にする。
ScreenPadの開発を統括するDavid Lin氏によれば、ZenBookユーザーの利用方法を詳しく分析していったところ、Word/Excel/PowerPointといった文書作成のみならず、動画の視聴や音楽ストリーミングサービスといったエンターテインメント用途にも多く使われているのだという。
ただ、作業しながら動画を見るといったマルチタスク用途において、従来の1画面だと、作業に使える面積が実質65%に縮まってしまい、生産性が低下する。そこでこのマルチタスクのニーズにスマートに応えられないかということで、ScreenPadの開発に至った。
ScreenPad開発当初は、スマートフォンで代用するといった案もあがっていたが、これだと処理の遅延により、ポインタ操作が快適に行なえない問題が発生したので、1つのシステムに統合することを目指した。
ただ、CPU内蔵のIntel UHD Graphicsでは、アプリによってはレスポンスが低下してしまうため、独自技術によりGeForce側に処理をさせるようにした。このため、OS上からは一般的なセカンドディスプレイとしては認識されない特徴を持つ(セカンドディスプレイモード時は、一応はデバイスマネージャー上からディスプレイとして認識されるが、これがGPUではなく、I2CバスのしたのHIDデバイスからぶら下がるかたちとなる)。この独自技術により、タッチパッド本来が持つ機能を維持しつつ、ディスプレイという新たな機能を付加することができた。
サードパーティによるScreenPad対応アプリの開発も可能だ。年内にも、オープンソースのSDKのかたちで提供される予定。ScreenPad上で動作するミニプログラムのかたちでの実装のみならず、YouTubeやOfficeといったほかのアプリを操作する「Adaptiveモード」という2種類の実装が可能だとしている。現在、ソフトウェアパートナーと協業しており、対応プログラムを増やしていくだけでなく、個人でソフトウェアを開発したいプログラマー向けにコンテストも開く予定だ。
さて、タッチパッド部がタッチ画面になっているPCといえば、2009年にシャープが投入した光センサー液晶搭載ネットブック「Mebius PC-NJ70A」が有名だろう。PC-NJ70Aは決して成功した製品とは言えなかったのだが、Lin氏は「シャープの製品はとくにポインタ操作に難があったため、技術面で未熟だった」と指摘する。
確かにそのとおりで、PC-NJ70Aはポインタ操作は解像度が高いとは言えず、屋外の直射日光下では誤作動したりした。その一方で、ScreenPadはタッチパッドとしての機能は確保した上で表示機能が付加されている。
Windows Vista時代にあった「SideShow」機能もしかりだ。SideShowは性能が限定的で、とてもフルHD解像度を持つことができなかった。ASUSが開発したScreenPadをMicrosoftの開発に見せたところ、「どうやって実現したのか?」と驚かれたようで、SideShow時代の開発者を紹介してくれたのだという。
ScreenPadの描画の仕組みについて、東芝製のコントローラが使われている点、NVIDIAのOptimusの仕組みを使い、常時GeForce GTX 1050(Ti)側が処理をしている点などが明らかにされているが、取材したかぎりではまだ不明な部分が残されており、このあたりの情報の入手はもう少し後になりそうだ。ただ、少なくとも現時点では、ScreenPadは技術面が未熟で失敗に終わることはないとLin氏は確信している。
とはいえ、いくら革新的で成熟した技術でも、継続されなければ失敗だと言わざる得ない。ASUSは過去にも「TAICHI」や「Fonepad」といった革新的なデバイスをいくつか投入しているが、後続モデルはなく、“一発芸”で終わってしまっている。Lin氏は「ASUS自身もこの問題を認識しており、ScreenPadについては長期的なロードマップを敷くことにした。たとえば、パームレスト全面に広がるようなモデル、といったところだ。今日お見せしたZenBook Pro 15はその始まりに過ぎない」と答えた。
ScreenPadのソフトウェア面でオープンソースだが、ハードウェアIPは基本的にライセンスを予定しておらず、ASUSプロプライエタリの技術にしたいそうだ。果たしてScreenPadが今後どのような展開を見せるのか、楽しみである。