【GTC 2010レポート】【番外編】サンノゼでドコモの海外パケ・ホーダイを使ってみた



 ソフトバンクモバイルが7月から開始した、海外での定額通信サービス「海外パケットし放題」に触発されたのかは分からないが、NTTドコモも9月1日から「海外パケ・ホーダイ」を開始した。今回、GTCで渡米するに当たり、このサービスを利用してみたので、番外編としてその使い勝手などをお伝えする。

●海外でも1日1,480円で通信がし放題に

 海外パケ・ホーダイは、日本国外で国際ローミングを使って、定額料金でパケット通信を行なうことができるサービス。対象となる機器は、同社が「WORLD WING」と呼ぶ国際ローミングに対応する同社の携帯電話はもちろん、スマートフォン、PC用通信アダプタおよびそれを内蔵したPCなど、ほとんど全ての機器で利用できる。

 もちろんこれは、データ通信向けサービスなので、音声/テレビ電話などの通話料は対象外となるが、携帯電話をUSBやBluetoothでPCにつないで、モデム代わりに使う場合も対象だし、iモードの利用も含まれる。利用条件として、国内での定額通信サービス「パケット定額サービス」か「定額データプラン」を利用している必要があるが、11月いっぱいまでは、それらを利用していなくても、自動的に海外パケ・ホーダイが適用される。

 気になる料金は、1日あたり最大1,480円。これを高いと見るか、安いと見るかはユーザー次第だろう。

 筆者は年4~5回程度米国に取材にでかける。滞在先のホテルには、ほとんどの場合、有線あるいは無線のインターネット回線が用意されているので、最近まではそれを利用していた。日本ではこの回線利用料が無料なことが少なくないが、筆者がこれまで利用した米国のホテルは、ほぼ全てが有料だ。基本的に5日間や1週間のパックでサービスを利用するのだが、おおむね1日10ドル近くかかる。

 しかし、最近ではいわゆる3G回線を利用するUSB通信アダプタを国内でレンタルして持って行くようになった。レンタル料は1日1,500円程度で、定額通信できる。これを使うことで、これまではホテルの部屋か、Wi-Fiなどが用意された取材会場のみでしかできなかった記事のアップロード作業などが、場所を選ばずにできるようになった。速報性が求められるWeb媒体にとって、これは強力な武器だ。その通信速度は平均して下り1Mbpsか、それ以下くらいなのだが、多くの人が集まる展示会では、これでもホテルの固定回線よりも速い場合が少なくないので、そのメリットはさらに大きい。

 ただ、デメリットもある。それは、利用した日毎の課金ではなく、レンタルした日数に対する課金になる点だ。米国まで往復すると、時差の関係で丸2日程度機内で過ごすことになり、当然その間使うことはできないが、ばっちり課金されることになる。そのため、短期の滞在だと、無駄が大きくなる。また、筆者は事前に予約をしておき、空港で受け取り、空港で返却するプランを利用するのだが、これが一手間だし、たまに帰国時に返却を忘れそうになり、慌てることがある。だが、メリットの方が大きいので、これまでは積極的に利用していた。

 実は、これと同等のアダプタは米国で個人で購入することもできる。詳細はこちらの記事を参照して欲しいが、Verizonの製品だと、初期費用としてアダプタ代が200ドル程度かかるものの、1日10ドルの定額で利用できる。また、こちらの記事にあるように、Virgin MobileのMiFiで1カ月40ドルで通信し放題(端末代は除く)というサービスもある。

 ただ、これらを利用するには、現地で家電量販店などを探して買いに行く必要があり、慣れていない旅行者にはハードルが高いだろう。

このようなUSB 3Gモデムを日本でレンタルしたり、現地で購入することで定額通信ができる最近は、MiFiもはやり

 こういった事情を考えると、普段使い慣れた携帯電話やPCを、屋内/屋外を問わず、海外でもそのまま使えて、料金が1日約1,500円というNTTドコモの新サービスは、個人的には非常に妥当な料金設定だと思える。サービスには携帯電話をPCのモデム代わりに使うことも含まれるので、出歩いている時は携帯電話でアクセスし、部屋などではモデムに切り替えられるのも便利だ。

 ちなみに、競合のソフトバンクモバイルの海外パケットし放題は、料金は同じだが、用途が限定的になっているので、筆者の仕事では使えない。

 ただし、ドコモの海外パケ・ホーダイにも制約がないわけではない。それは、ローミングする事業者が地域に応じて定められており、その事業者に接続しなければならない点だ。例えば、米国にはVerizon Wireless、Sprint Nextel、AT&Tといったキャリアがあるが、海外パケ・ホーダイが対応するのは、AT&Tの(Cingular含む)のみだ。そのため、各端末側で、ローミング先を手動で設定する必要がある。とはいえ、米国において使う限り、AT&Tはほぼ全土で利用でき、大きな問題ではない。

 課金の詳細について説明しておくと、基本的に1パケットあたり0.2円の従量課金だが、1,480円が上限。いくら通信を行なっても、これを超えることはない。ただし、この料金制度は2011年3月31日までのもので、2011年4月1日以降は、最大2,980円に引き上げられる。

●ドコモコネクションマネージャーは細かい点が未対応
実際に取材現場で使ったFOMA内蔵のVAIO Z

 それでは、実際の使い勝手に話を移したい。筆者はFOMAアダプタを内蔵したソニーの「VAIO Zシリーズ」を使っており、今回はこのアダプタでサービスを利用することにした。

 基本的に利用に際して事前の申し込みなどは必要ない。国内で通信するのと同じように、接続ユーティリティの「ドコモコネクションマネージャー」を使って、アクセスポイントに接続する。

 ただし、接続前にいくつかの設定変更が必要となる。それは、「設定」の「国際ローミングの接続先事業者設定」で、これを「接続可能な事業者を、手動で選択する」にした上で、「事業者選択」ボタンを押す。

 すると、接続可能な事業者の検索が始まり、その一覧が表示される。ここで「特定事業者」に○がついているのが、海外パケ・ホーダイの対象事業者となるので、これを選択する。

 続いて、「接続先設定」の「パケット通信の設定」で、「接続先」を「定額」から「従量」に変更する。

国際ローミングの接続先事業者設定を手動にし、リストから、海外パケ・ホーダイの対象となる特定事業者を選択するまた、 パケット通信の設定の接続先は、定額から従量に変更

 基本的にこれで準備は完了だ。しかし、後でも述べるとおり、ドコモコネクションマネージャーの従量料金通信におけるパケット代のカウンターは、海外パケ・ホーダイに対応していない。デフォルトでは、国際ローミング時に、パケット代が一定金額かかる毎に警告が出る設定なのだが、このままでは余りに頻繁に警告が表示されるので、オフにしておこう。

 あとは、「接続」ボタンを押すだけ……。なのだが、先にも述べたとおり、このツールは、海外パケ・ホーダイに対応に完全には対応していないため、接続すると国際ローミング時の通信料金がリアルタイムで加算されていくのだ。そのため、サイズの大きなファイルをダウンロードしたりすると、あっという間に数千円単位でカウンターが上昇。なんと、6日間の滞在における累積パケット代は700万円を超えてしまった。

このように、接続直前にでるダイアログには、特定事業者に接続する場合、課金は1日単位となることが表示されるにも関わらず、メイン画面のパケット料金カウンタはうなぎ登りに上がっていく

 もちろんこれは、表示されるだけであり、実際の課金は日額(日本時間)で1,480円なのだが、頻繁に目にするので、かなり心臓に悪いのは事実だ。筆者も心配になったので、2日目にNTTドコモの窓口に電話して、料金を確認してみたところ、内訳の詳細は分からないが、現時点での課金は2,960円と告げられ、きちんと定額になっていることを確認して安心した。

 もう1つ問題点として、回線切断からしばらくした後や、PCを再起動した後などは、国際ローミングの接続事業者設定が、「自動」に戻ってしまうのだ。試してみた限り、この場合でも、一度手動設定を行なっておけば、その事業者が優先的に選択されるようだが、他の事業者につながる可能性は十分にある。また、自動から手動への切り替えには、事業者の検索で1分間程度時間がかかる。今回、GTC会場には高速なWi-Fiがあったので、それを利用していたのだが、部屋に帰ってFOMAで接続し直すたびに待たされるのが苦痛だった。

 余談だが、海外パケ・ホーダイを使わずに、素の国際ローミングでアクセスした場合、料金が5万円を超えた時点で、いったん接続が強制的に停止され、再開するには、クレジットカードで精算するなどの必要がある。逆に言うと、料金カウンタが5万円を超えても通信ができている場合は、きちんと海外パケ・ホーダイの対象となっていると考えてもいいと思われる。

 なお、ドコモコネクションマネージャーの海外パケ・ホーダイ完全対応は2011年4月の予定となっている。

通信速度の計測結果の一例

 通信速度については、おおむねかなり快適だった。ホテルの部屋ではアンテナは5本中3本しか立たないが、下りで1.5Mbps前後、上りで500kbps前後出る。2~3日、適当なタイミングで計測してみたが、速い場合は、下り2.2Mbps、上り1.1Mbpsという結果も出た。

 実際、ニコニコ動画やYouTubeなどの動画も360pクラスなら、余り引っかかることもなく再生できた。

 ただ、昼過ぎから夕方くらいにかけて、かなり速度が遅くなることがあった。これはiPhoneの影響によるものと思われる。GTCのような技術イベントでは、iPhoneユーザーがかなりの数集まる。日中は、それらのアクセスが増えるのだが、iPhoneもAT&Tを利用しているので、その割を食らってしまい、仕事にならないくらい遅くなることもあった。

 他方、国内で「定額データプラン」に加入して定額通信を行なう場合、一部のアプリケーションが利用できない。これには、MicrosoftのWindows Live Messengerも含まれるのだが、海外パケ・ホーダイで使っている間は、何の制約もなしに利用できた。そのため、もしかしたら海外パケ・ホーダイでは、アプリケーションやポートの制限がないのかもしれない。

 なお、帰国後は、通信先を元の定額に戻すのを忘れないようにしよう。

●利便性は高いが、不安が残る現状

 さて、今回海外パケ・ホーダイを使ってみた率直な感想は、「便利だが、怖い」というものだ。基本的な使い勝手は、国内と同じで、速度ももしかすると都心よりも速いかもしれない。

 しかし、自分が本当に定額通信の状態になっているのを確認する術がないのが怖い。ドコモコネクションマネージャーについて、すでに海外パケ・ホーダイ対象の特定事業者が認識できるなど、一部は対応ができているのだから、料金カウンタの面も対応させるのはそう難しくないと思われるのだが、完全対応まで後半年もかかるというのは理解に苦しむ。

 もう1つ不安要素として、手持ちの携帯電話では、なぜかホテルの部屋でAT&Tの電波を拾うことができなかった。理由は分からないが、これと同様のことがPCでも起こる可能性は否定できない。

 実は最近、これらNTTドコモなどのサービス開始を受けて、USBモデムのレンタル料を1,000円程度に引き下げた会社もある。この場合を今回の出張に当てはめると、19日に渡米、24日に米国を出て25日に帰国、海外パケ・ホーダイでは約7,500円、レンタルだと約7,000円の計算で、レンタルの方が安くなるし、確実に定額で利用できる。

 こういった状況から、2011年1月のCES取材にはどちらを使うか、まだ考えあぐねている。

(2010年 9月 28日)

[Reported by 若杉 紀彦]