言うまでもなく、日本はモバイル通信王国だ。3G携帯のネットワークはほぼ全国をカバーし、都内であれば駅やファストフード店をはじめ、主要な場所で無線LANのホットスポットが見つかる。その気になれば、どこにいてもデータ通信ができるインフラが、ほぼ整っている。 ところが、海外に出かけるとなかなかそうはいかない。携帯電話1つにしても、ローミング料金は決して安価ではないし、データ通信ともなるとパケット料金に割引が効かず、即死しそうな請求書を受け取るハメになる。 こうした通信サービスを海外で安価に利用する最良の方法は、現地のサービスを利用することだ。現地のサービスは、現地の人が日常的に利用するものであり、少なくとも現地の物価に即したものになっている。通信サービスがある程度普及した国であれば、常識的な利用をする限り、それほど無茶な金額になることはない。 問題は、現地のサービスを旅行者が利用することが必ずしも容易でない、ということだ。わが国の携帯電話の大半がそうであるように、通信サービスの利用には一定期間の利用を前提にした契約が必要になることが多い。しかし、短期の旅行者に利用期間の縛りのある契約は向かない。 仮に利用期間の問題をクリアしたとしても、今度は支払い方法の問題が生じる。旅行者は現地の金融機関に口座など持っていない。頼みのクレジットカードにしても、現地で発行したものでなければ受け付けてもらえないことが少なくない。多くの場合、クレジットカードの番号を入力する前に、住所(Billing Address)の郵便番号や州名の入力(米国やカナダ等)ではねられてしまうことが多い。 こうした問題を回避する有力な手段は、契約を必要としないプリペイド式の通信サービスを利用することだ。携帯電話に関しては、筆者もこの3年くらいは米国のプリペイド携帯を利用している。うまくキャリアとプランを選ぶと、同じ電話番号を安価に維持することが可能で、筆者の携帯電話番号もずっと変わっていない。 難しいのはデータ通信だ。どこにいても、何時でも、PCでインターネットに接続でき、Webのブラウズやメールの送受信ができれば良いのだが、この何処でも何時でもが難しい。どこにでもあるハズのホットスポットが、利用したい時に限って見つからなかったり、クレジットカードの入力がエラーになったり、といったトラブルに遭遇する。 筆者は今、MacWorldとCESの取材のため米国にきているが、乗り換え地であるシアトルの空港でAT&Tの無線LANサービスを利用としたところ、何回試してもクレジットカードの入力がエラーになり、ついにあきらめてしまった、という経緯があった。こうしたイベントの取材では、直前になってのスケジュール変更や場所の変更はつきもので、だいたいメールで連絡がくる。取材先から時間と場所を指定されることもあるが、この時間はどうでしょう、といった伺いをいただくことも多い。できるだけ早く返事をすることが、調整をスムーズにする秘訣なのだが、ネットに接続できなければどうしようもない。 ●プリペイド型サービスを使う というわけで、米国滞在中も常時データ通信が可能なよう、対策を施すことにした。条件は、半年や1年といった長期契約を必要としないこと、米国内の住所や銀行口座、米国発行のクレジットカードを必要としないこと、定額制で従量課金されないこと、一定以上の(少なくとも普通にWebブラウザが使える程度の)帯域が得られること、なるべく安価なこと、の5点だ。が、残念ながら、この条件を満たすオプションは決して多くない。筆者が利用することに決めたのはVerizon Wirelessの「Broadband Access DayPass」と呼ばれるサービスだ。 このサービスの特徴は、DayPassという名称からも明らかなように、長期契約を結ばず、1日単位で定額の接続料を支払う点にある。そして、支払い方法にプリペイドカードが使えるというのがミソだ。支払いにクレジットカードを利用することも可能だが、例によってクレジットカードの請求先住所が米国内に限られるので、日本のクレジットカードを利用することができない。しかし、プリペイドカードのおかげで、この問題を回避できる。 このサービスを利用するにあたって必要なのは、このサービスを利用するためのソフトウェア「VZAccess Manager」が動作するPC(Windows 2000以降)、あるいはMac(Mac OS X 10.4.7以降)と、対応するUSBモデムがExpressCardモデム、あるいはVerizon Wirelessのデータカードが組み込まれたノートPCのいずれかだ。現時点では、3G携帯電話とPCの組み合わせでは、VZAccess Managerを利用してDayPassプランを利用することはできないようだ。今回筆者が米国に持ち込んだPCは、Aspire oneとMacBookという拡張スロットを持たない2台なので、選択は自ずとUSBモデムになる。 実際にサンフランシスコの市内にあるVerizon Wirelessのショップに在庫があったUSBモデムは、USB727(Novatel製、199.99ドル)とUM175(Pantech製、239.99ドル)の2種類だった(価格は長期契約のインセンティブを含まない定価)。USB727は折りたたみ式のアンテナが特徴でUSBコネクタがキャップ式、UM175はUSBコネクタが折りたたみ式でやや小型。つい最近、USBメモリのコネクタキャップを紛失したこと、1ドルが100円を切る円高傾向にあることなどを踏まえ、UM175を購入することにした。 困ったのは、最初に応対した店員が、このBroadband Access DayPassプランを知らず、USBモデムは契約なしでは使えないから売れない、と言い張ったこと。シャツに優秀店員賞を受賞しました、みたいなステッカーをつけた別の店員に変わってもらって無事に購入することができたが、この種のデバイスが米国ではマイナーなことが良く分かった。 そしてもう1つ必要なのがプリペイドカードであるVerizon Wireless Gift Cardだ(DayPassカードというのもあるらしいが、サンフランシスコのショップでは取り扱いがなかった)。Verizon WirelessのWebページに掲載されているGift Cardは、25ドル、50ドル、100ドル、150ドル、200ドル、250ドルの5種だが、Verizon Wirelessの店頭では任意の金額でプリペイドカードの作成が可能なようだ。 DayPassの利用料は1日9.99ドル(10ドルと表示されることもある)。この値段が高いか安いかはさておき、5ドルの端数が出るのは避けたいと思い、筆者は30ドルでカードを作成してもらった。要は3日分(より正確には24時間×3回分)である。DayPassサービスを利用するごとに、ギフトカードから10ドルが差し引かれていくが、残額はWebページで確認することができる。 UM175のパッケージにはモデムのほか、VZAccess Managerソフトウェアを収録したCD-ROM、マニュアル類、USBポートを2つ利用して給電能力を強化する二股ケーブルが納められている。VZAccess Managerは、事前にWebサイトからダウンロードしておいたので、CD-ROMを使わず、こちらを用いた。
モデムをPCに接続前にVZAccess Managerをインストールし、インストーラの指示に従ってモデムをPCにプラグインする。モデムのLEDがしばし点灯し、数分間待たされる。どうやらネットワークに接続し、ファームウェアのアップデート等を行なっているようだ。インストールが完了すると、非接続状態でVZAccess Managerが立ち上がる。Connectボタンを押すとWebブラウザが立ち上がり、モデムのアクティベーションが始まる。アクティベーションは、24時間のアクセス(10ドルの支払い)ごとに必要で、ここで電話番号の割り当て等も行なわれるようだ(USBモデムとPCでSMSも可能)。
作業が完了すると、VZAccess Managerを終了し、10分間たってからVZAccess Managerを再起動し、OptionメニューのActivateを実行するよう求められる。この一連の作業に数分間(プラス10分)かかるが、1度アクティベーションしてしまえば、次の24時間内のアクセスは、モデムを挿してConnectボタンを押すだけで済む。 以上を踏まえて、早速接続してみたが、なかなか快適である。Webページをブラウズする感覚は、都内でイーモバイルを利用するのとほとんど変わらない。YouTubeの動画を再生してみたが、特に問題は見られなかった。YouTube再生中のデータレートは、ピークで1.4Mbps弱は出ているようだ。Webページに記載されている公称レートは、ダウンロードが600kbps~1.4Mbps、アップロードが500~800kbpsなので、ほぼ公称値が出ていることになる。常時この速度が期待できるのであれば、かなり使える気がするが、今のところまだなんとも言えない。
個人的には、この速度が期待できるのであれば、1日9.99ドルは悪くないと思っている。ホテルや空港の無線LANサービスで1日10ドル程度とられることは少なくないし、10ドル払ったホテルのサービスでこれより遅かったことはいくらでも経験している。何より、ホテルや空港のサービスが利用できない場合、使うに耐えない速度しか得られない場合の保険として、持っていると安心だ。 昨年暮れから米国ではWiMAXのサービスが始まった。この6日には、Intelのお膝元であるオレゴン州のポートランド(本社はカリフォルニア州サンタクララだが、従業員数はオレゴン州が上回っている)でもWiMAXがサービスインする。わが国でも夏頃にはUQ Communicationsによる商用サービスが始まる予定だ。WiMAXが普及し、世界のどこにいっても高速なワイレスブロードバンドを手軽に使えるようになって欲しいと思うが、それにはインフラの整備など時間がかかる。それまでの間、米国旅行のお供に、このUSBモデムは欠かせないものとなりそうだ □Verizon Wireless(英文)http://www.verizonwireless.com/ (2009年1月8日) [Reported by 元麻布春男]
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