「2022年のVLSIシンポジウム(2022 VLSI)」が2022年6月12日に始まった。写真は現地会場(米国ハワイ州ホノルルのリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」)の参加登録所(6月12日午後5時過ぎに筆者が撮影)。まだ閑散としている 半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム」が今年2022年も始まった。VLSIシンポジウムの開催地は、西暦の奇数年が日本の京都(会場は「リーガロイヤルホテル京都」)、偶数年が米国のハワイ(会場は「Hilton Hawaiian Village」)というのが最近の通例である。しかし新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年と2021年はバーチャルカンファレンス(オンライン開催)となった。今年は3年ぶりのリアルイベントとして米国のハワイで開催される。ハワイ開催そのものは、2018年が前回なので4年ぶりとなる。
「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成されてきた。1つはデバイスプロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。
最近は2つの国際学会が一体化する傾向が強まっていて、今年は1つの国際学会「VLSIシンポジウム(VLSI Symposium)」となり、その中にデバイスプロセス技術分野(テクノロジー分野)のトラックと、回路技術分野のトラックが存在する構成となった。
2022年は2つのシンポジウムを1つに統合した。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから スケジュールは以下のような流れになる。6月12日(日曜)の夕方に現地会場での参加登録が始まり、翌日の13日(月曜)にプレイベントであるショートコース(技術講座)を実施する。14日(火曜)~16日(木曜)はメインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)となる。17日(金曜)はポストイベントのフォーラムを予定する。
今年のVLSIシンポジウムは現地参加が難しい研究者のために、バーチャルでの参加登録枠を設けている。いわゆる「ハイブリッド開催」である。6月20日(月曜)~21日(火曜)には、オンラインでのライブイベント(質疑応答セッション)が開催される。
2022 VLSI(ハイブリッド開催)の概要。6月13日~17日の現地(リアル)開催では62本のセッションを実施する。6月20日~21日のオンライン開催では30本のイベントを予定する。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 6月20日~21日にオンライン開催されるライブセッション(質疑応答など)の概要。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから テクノロジー分野の投稿論文数は200件を超える
ここからはデバイスプロセス技術分野(テクノロジー分野)の概要とハイライト(実行委員会が選んだもの)をご説明しよう。なお回路分野の概要は、別のレポートでご紹介するので了承されたい。
デバイスプロセス技術分野の投稿論文数は232件(日本の実行委員会による)あるいは217件(米国の実行委員会による)である。前年の189件から増加した。採択論文数は82件で、投稿論文数を232件として計算すると採択率は35%となる。こちらは前年の43%から低下した。
デバイス・プロセス技術分野の投稿論文数と採択論文数、採択率の推移(2013年~2022年)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから デバイス・プロセス技術分野の投稿論文数の推移(2015年~2022年)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 国・地域別の投稿数は台湾、採択数は北米がトップ
投稿論文の件数を国・地域別に見ると、台湾が最も多く46件を数える。次いで中国が45件と多い。それから欧州が39件、韓国が38件と続く。投稿論文の件数で前年までトップに君臨していた米国は、33件とふるわない。
投稿論文数の国・地域別推移(2013年~2022年)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 採択論文の件数を国・地域別に見ると、北米が19件で最も多い。次いで欧州が15件、台湾が13件、韓国が11件と続く。
採択論文数の国・地域別推移(2013年~2022年)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 技術分野別の投稿数と採択数はいずれもメモリ分野がトップ
技術分野別の投稿件数と採択件数を見ていこう。投稿数はメモリ分野がダントツで、90件を超える。採択数もメモリ分野が最も多く、全採択数82件中の31件を占める。次は先進CMOS(Advanced CMOS)分野で15件の発表がある。
技術分野別の投稿件数の推移(2014年~2022年)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 技術分野別と国・地域別の採択件数。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 発表機関別の採択数ではimecが3年連続で首位を獲得
発表機関別の採択件数は、ベルギーの研究機関imecが11件で最多となった。imecがトップとなるのは3年連続である。2位はシンガポールのNational University of Singaporeが8件、3位は台湾のTSMCが7件である。4位は中国のIMECAS(Institute of Microelectronics, Chinese Academy of Science)と韓国のSamsung Electronicsで、ともに4件の研究成果が採択された。
発表機関別の採択論文数の推移(2022年~2013年)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから シンポジウムの実行委員会が選んだハイライト論文
シンポジウムの実行委員会は、デバイスプロセス技術分野(テクノロジー分野)の注目論文(ハイライト)を選出した。以下に、実行委員会が選んだ論文を紹介する。なおスライドは同じ論文を和文(日本側の配布資料)と英文(米国側の配布資料)で紹介したものなので、注意されたい。
デバイスプロセス技術分野の注目論文一覧。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 先進CMOS技術のハイライト
先進CMOS技術では、Intelが開発した次世代CMOSロジック技術「Intel 4」の論文と、imecが開発した次々世代CMOSロジック用電源配線技術の論文がハイライトに選ばれた。
Intelが開発した次世代CMOSロジック技術「Intel 4」(論文番号T1-1)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Intelが開発した次世代CMOSロジック技術「Intel 4」(論文番号T1-1)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから imecが開発した2nm世代のロジックに向けた埋め込み電源配線技術(論文番号T1-2)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから imecが開発した2nm世代のロジックに向けた埋め込み電源配線技術(論文番号T1-2)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 次世代メモリ技術のハイライト
次世代メモリ技術では、IBMが開発した超高速・長寿命の磁気メモリ(MRAM)技術と、Huawei Technologiesが開発した次世代DRAM技術、Stanford Universityが開発した低消費電流密度の相変化メモリ(PCM)技術の論文が高い評価を得た。
IBMが開発した超高速・長寿命の磁気メモリ(MRAM)技術(論文番号T1-4)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから IBMが開発した超高速・長寿命の磁気メモリ(MRAM)技術(論文番号T1-4)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Huawei Technologiesが開発した次世代DRAM技術(論文番号2-5)。酸化物半導体のIGZOをチャンネルに使った垂直構造のトランジスタによるキャパシタレスのDRAMセル。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Huawei Technologiesが開発した次世代DRAM技術(論文番号2-5)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Stanford Universityが開発した低消費電流密度の相変化メモリ(PCM)技術(論文番号T4-1)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Stanford Universityが開発した低消費電流密度の相変化メモリ(PCM)技術(論文番号T4-1)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 次世代有線・光通信技術のハイライト
次世代有線・光通信技術では、東京大学が開発したシリコン光導波路の高速高感度光検出器と、National University of Singaporeが開発したゲルマニウム化合物の電界吸収型光変調器と光検出器によるシリコン光集積回路がハイライト論文に選ばれた。
東京大学が開発したシリコン光導波路の高速高感度光検出器(論文番号T15-4)。化合物半導体の光検出素子と組み合わせた。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 東京大学が開発したシリコン光導波路の高速高感度光検出器(論文番号T15-4)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから National University of Singaporeが開発したゲルマニウム化合物の電界吸収型光変調器と光検出器によるシリコン光集積回路(論文番号T15-2)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから National University of Singaporeが開発したゲルマニウム化合物の電界吸収型光変調器と光検出器によるシリコン光集積回路(論文番号T15-2)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 次世代チャンネル材料技術のハイライト
1nm世代以降のトランジスタを目指す次世代チャンネル材料では、TSMCが遷移金属ダイカルコゲナイド化合物(具体的には二流化タングステン)の単原子層をCVDで作成し、ウェハスケールで転写する技術を開発して高い評価を得た。
次世代チャンネル材料の候補である遷移金属ダイカルコゲナイド化合物の単原子層をCVDで作成し、ウェハスケールで転写する技術をTSMCが開発(論文番号T1-5)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 次世代チャンネル材料の候補である遷移金属ダイカルコゲナイド化合物の単原子層をCVDで作成し、ウェハスケールで転写する技術をTSMCが開発(論文番号T1-5)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから イメージセンサー技術のハイライト
イメージセンサー技術では、Samsung Electronicsが開発した画素数が2億と極めて多く画素寸法が0.6μm角と小さなCMOSイメージセンサーと、ソニーが開発した高効率高品質のCMOSイメージセンサーがハイライトに選ばれた。
Samsung Electronicsが開発した画素数が2億と極めて多く画素寸法が0.6μm角と小さなCMOSイメージセンサー(論文番号T8-4)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから Samsung Electronicsが開発した画素数が2億と極めて多く画素寸法が0.6μm角と小さなCMOSイメージセンサー(論文番号T8-4)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから ソニーが開発した高効率高品質のCMOSイメージセンサー(講演番号T1-3)。2022年4月22日に日本のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから ソニーが開発した高効率高品質のCMOSイメージセンサー(講演番号T1-3)。2022年5月31日(米国時間)に米国のVLSIシンポジウム実行委員会がオンライン開催した報道機関向け説明会の発表スライドから 回路分野の概要とハイライト、テクノロジーと回路の合同(ジョイント)分野のハイライトは続報でお届けする予定である。しばしの間、お待ちいただきたい。