イベントレポート
VLSI技術シンポジウム、次世代のトランジスタ技術と不揮発性メモリ技術を展望
2021年6月14日 09:27
半導体の研究開発コミュティにおける初夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」が今年(2021年)も始まった。VLSIシンポジウムの開催地は、西暦の奇数年が日本の京都(会場は「リーガロイヤルホテル京都」)、偶数年が米国のハワイ(会場は「Hilton Hawaiian Village」)というのが最近の通例となっていた。しかし新型コロナウイルス感染症の影響により、昨年(2020年)に続いて今年(2021年)もバーチャルカンファレンス(オンライン開催)となった。
「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成される。1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。
VLSIシンポジウムは毎年、共通テーマを掲げてきた。今年のテーマは「VLSI Systems for Lifestyle Transformation(ライフスタイル変革のためのVLSIシステム)」である。新型コロナの世界的な流行によって人類の生活様式は大きく変わってきた。半導体技術の研究開発は、人工知能や機械学習、バイオメディカル、IoTなどの進化を促すことで、生活様式の変革を支援する。
VLSIシンポジウムそのものは近年、技術シンポジウムと回路シンポジウムの連携を強めるとともに、リアルのイベントを充実させてきた。しかし新型コロナの世界的な流行はVLSIシンポジウムに限らず、リアルイベントを休止させるとともに、バーチャルイベントという新しいプラットフォームを生み出し、普及させた。VLSIシンポジウムでも、オンデマンド(講演ビデオの視聴を先行して実施)とライブ(質疑応答やパネル討論、ミニ展示会など)の2つのアクセス手法によって参加登録者の満足度を高めようとしている。
以下では、VLSI技術シンポジウム(以降は「技術シンポジウム」と表記)の概要を解説していこう。VLSI回路シンポジウムの概要は、機会を改めて説明する予定だ。
投稿論文数は189件で京都開催年としては多くの投稿を集める
技術シンポジウムでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は189件で、日本開催の年次としては、最近では最も多い投稿数を記録した。京都開催だけで比べると2019年が187件、2017年が160件、2015年が171件、2013年が164件である。米国開催である2020年も最近では最も多い投稿数を記録しており、技術シンポジウム全体に対する関心が高まっていることが伺える。
発表講演に選ばれた論文の数は81件、採択率は43%である。いずれも例年の技術シンポジウムとあまり変わらない。
投稿論文の国/地域別件数は米国、台湾、欧州、中国、韓国、日本の順
投稿論文の件数を国/地域別に見ると昨年と同様に米国が最も多く、39件となった。ただし件数は昨年が69件だったのに対し、今年は大幅に減っている。投稿件数の2位はこれも昨年と同様に台湾で、33件を数える。昨年は48件だったので台湾もかなりの減少である。3位はこれも昨年と同様に欧州で、28件である。昨年は40件だった。4位は中国で26件である。昨年の16件から、投稿数を大きく伸ばした。5位は韓国で24件、6位は日本で19件である。
採択論文数のランキングでは欧州がトップ、ベルギーとフランスがトップに貢献
採択論文数を国/地域別に見ると、欧州が最も多い。18件を数えた。昨年の3位からランクアップした。欧州の内訳はベルギーが14件、フランスが3件と大半を占める。2位は米国と台湾が14件で並んだ。米国は昨年のトップ、台湾は昨年の2位である。4位は日本と韓国が11件で並んだ。日本は昨年も4位だった。件数は13件である。昨年の韓国は5件とふるわず、トップ5に入れなかった。
以下、6位はシンガポールで7件、7位は中国で6件となっている。なお中国の6件は、採択件数としては過去最多とみられる。
大学の採択論文はアジアと北米が大半を占める
次は大学と企業および研究機関による論文数の比較である。最近は、投稿件数では大学が多く、採択件数では企業が多い、という傾向が続いていた。ところが2019年は、採択件数でも大学が過半数を占めた。続く2020年は投稿件数で企業および研究機関が大幅に増加した。2019年の70件から、2020年は119件と49件も増えた。なお大学の投稿件数は129件である。その結果、採択件数は企業および研究機関が57件、大学が29件と企業側が盛り返した。
今年は投稿件数で大学が96件、企業および研究機関が93件となり、両者の差は昨年からさらに縮まった。採択件数は大学が30件、企業および研究機関が51件となり、逆に大学が盛り返した。すなわち採択件数に占める大学の割合は、2020年が34%だったのに対し、2021年は37%に拡大した。
採択率で見ると2020年は大学が22.5%、企業および研究機関が47.9%だったのに対し、2021年は大学が31.3%、企業および研究機関が54.8%であり、いずれも上昇した。
大学と企業および研究機関の採択件数を国/地域別に見ると、大学の採択件数はアジアと北米が大半を占める。特に今年はアジア優位が強く出た。30件の採択論文中、アジアが23件を占めた。特に日本とシンガポールは大学の採択件数が企業および研究機関の採択件数を上回った。北米における大学の採択件数は7件である。欧州は1件も大学の採択論文がなかった。
発表機関別の採択件数トップは2年連続でimec
発表機関別の採択件数は、imecが14件で2年連続のトップとなった。2位はSamsungと東京大学がともに7件で並んだ。4位はTSMCとNational Univ. of Singapore(シンガポール国立大学)が6件で続く。6位にはInstitute of Microelectronics, Chinese Academy of Science(IMECAS:中国科学院微电子研究所)が5件で食い込んだ。
メモリ分野の投稿件数と採択件数がさらに増加
採択論文の技術分野を国/地域別に分けると、3つの特徴が浮かび上がる。1つは、メモリ分野の発表が多いことである。昨年もメモリ分野は20件と多かった。今年は28件とさらに増えた。内訳は台湾が最も多く、8件に達する。次いで日本と韓国がいずれも5件と多い。もう1つは新規コンピューティング向けデバイス分野(昨年は人工知能および機械学習向けデバイス分野)の発表が11件と多いこと。発表国/地域は日本、韓国、台湾、米国、ベルギーと幅広い。最後は先端CMOSデバイス・プロセス分野の発表が低調であること。昨年の22件から、今年は11件と発表件数が減少した。
投稿件数と採択件数の分野別件数も興味深い。189件の投稿論文の中ではメモリ分野が55件と最大分野となっている。しかも昨年は全体の投稿数が248件、メモリが48件だったのに対し、今年は全体の投稿数が189件に減っているにも関わらず、メモリの投稿数は逆に増加した。投稿件数に占めるメモリ分野の割合は29%、採択件数に占めるメモリ分野の割合は35%である。
メモリ分野に続いて多いのは新規コンピューティング向けデバイス分野(昨年の分野名は「人工知能および機械学習向けデバイス分野」)である。投稿件数は43件で全体の23%、採択件数は11件で全体の14%を占めた。
11件の注目論文を技術シンポジウム委員会が選出
VLSI技術シンポジウムの実行委員会は、採択論文の中から11件の注目論文を選出した。以下は、11件の注目論文の概要を図面で説明していこう。
このほかにも興味深い講演が予定されている(参考文献)。随時レポートしていくので期待されたい。