山田祥平のRe:config.sys
電話番号でやりとりするリッチなマルチモーダルデータ
2025年12月6日 06:05

同じ技術なのに相互につなぐのが大変というのはよくある話だ。でも、そんなことに納得してしまってはいけない。電子的なコミュニケーションにありがちなやっかいなすれ違い。なんでこんなことが起こるのだろう。ショートメッセージの未来はどうなるのか。
SMSはタダじゃない
ここのところSMSを使う機会が増えた。自分の世代は決してデジタルネイティブでないため、バリエーションに富んだメッセージングアプリを使い分けるのは難しいし、特に、多くの相手に同じ内容を送る同報通信には不便だ。SMSは文字しか送ることができないが、それなりに役に立つ。何より、特別なアプリを入れる必要もない。
とにかくメールを送っても読んでもらえないというのは大きな悩みだ。でも、SMSならおそらく読んでもらえるし、返事もくる。誰がこんなふうにしたのかと思うのだが、とにかくスパムのおかげでメールの信頼性はガタ落ちになり、メールの利用にはあまり積極的ではないユーザーが多いだけにSMSは重宝する。
ただ、SMSの送信は無料じゃない。70文字までが3.3円、134文字まで6.6円と従量制で課金され、最大670字で33円かかる。それを超えるメッセージは次の別メッセージとして送る必要がある。だから、毎日10通くらいのSMSを送ると1カ月あたりで300通となり、最低でも1,000円程度の別費用がかかってしまう。
LINEやFacebook Messengerなどを使えば、そのデータはインターネットを介してやりとりされる。SMSなら70文字で3.3円かかるメッセージのデータ量は140byteだ。これが300通あっても42KBだ。それをデータ通信で送っても微々たるもので契約プランのデータ容量に影響を与えるほどではない。Wi-Fiにつながっていれば、完全に無料に近い感覚で使える。
SMSは古い技術かもしれないが進化をやめてしまったわけではない。文字だけを送受信できるシンプルな機能は後方互換性として残したまま、できることが少しずつ増えている。その基盤となっているのがRCSだ。これはRich Communication Servicesの頭文字をとったもので、これまで文字しか送れなかったSMSを進化させ、「電話番号だけで、リッチなやり取りができる世界標準の規格」としてデビューした。
電話番号に紐づいての通信であるため、友達登録やID取得などは不要で、電話番号だけで相手を特定してやりとりすることができる。高画質な写真を送ったり、数千文字に及ぶような長文も送ることができる。既読も分かれば、入力中であることも表示される。データ通信を使ってのやりとりになるので、料金もかからない。ただし、相手がSMSしか受け取れない場合だけ、従来のSMSとして送られるので料金がかかることになる。
Googleが提唱したAndroid標準としてのRCS
SMSの進化版として、無料のマルチモーダルコミュニケーションを実現すべく登場したRCSだが、これは携帯電話業界団体であるGSMAが中心になって策定したものだ。2008年に最初の版が出ている。ところが「WhatsApp」や「LINE」の爆発的な普及と時期が重なりいったんは退く形となった。日本ではちょうど東日本大震災が起こったころで、LINEはこの災害がきっかけとなって開発されたサービスだ。
だが、2015年頃、Googleが参入し、RCSを世界共通のルールでメッセージをやりとりできるようにしようと提案した。本腰を入れたGoogleは、「RCSをAndroidの標準機能にする」と決め、ルールを統一したことで、ようやく世界中で使える「完成された規格」になったという経緯がある。
もちろんAppleがそれに素直に従うとは思えない。実際、RCSがiPhoneで使えるようになったのは2024年のiOS 18のリリースからだ。つまりつい最近だ。しかもRCSの通信にはキャリア依存する部分があり、それを開放しているのは2025年時点でKDDIだけだ。
その背景にはAppleと中国政府との関係やEUのデジタル市場法対応など、いろいろな大人の事情があるようだが、いずれにしても、iPhoneの標準メッセージアプリが確立したiMessageというメッセージングの仕組みに食い込み、iOSとAndroidの間の橋渡しをした存在でもあるのがRCSだ。
つながらなければ世界標準の意味がない
auは早々にiPhone向けにRCSを開放したが、その理由は定かではない。ただ、ほかのキャリアが開放しないのにはプラスメッセージの存在が大きい。
プラスメッセージはRCSという世界共通の技術を使って日本の携帯会社が作ったメッセージングのためのサービスだ。サービスインは2018年で、当時は打倒LINEを目指していた。
RCSなのにRCSではないというのがプラスメッセージの立ち位置だ。プラスメッセージと標準的なRCSとの間でメッセージをやりとりすると、それはSMSとして扱われる。つまり、プラスメッセージは相手がプラスメッセージを使っていなければRCSとしては使えないのだ。
通信は互いに同じ約束事に従って会話しないとコミュニケーションが成り立たない。プラスメッセージもサービスイン時には「GSMAによる世界標準仕様であり、従来のSMSを代替するもの」とアピールされていた。だが、コマーシャルプラットフォームとしての使い方が想定されていたことから、純粋なRCS互換はかなわなかったということなんだろう。
RCSが電話番号に紐づいた電話会社主導のサービスである点を見落としてはいけない。電話番号と電話番号の間に経路を作り、それを使ってメッセージを送るのだ。だから、電話番号のない相手には送れないし、電話番号の付与された端末、つまり、物理SIMやeSIMが有効で着信ができる端末同士でなければやりとりできない。電話である以上これはどうしようもない制限だし、不便な点でもあるが、それが便利でもある。
LINEはこの不便を逆に利用して、電話番号を使わないのに単一の端末だけでやりとりすることを前提としたサービスだ。今でこそ、サブ端末を設定して複数台の端末でトーク履歴などを共有できるようになったLINEだが、それとて、サブ端末の設定にはメイン端末が手元になければならない。災害や盗難、故障などでメイン端末を失ってしまったら、サブ端末を調達確保することはできなくなるし、サブ端末が使えたとしても、そのトーク履歴などをバックアップすることはできない。こうしてわけの分からない不便さを強いてもなお、多くの人々に欠かせないサービスとなっているのは、それはそれで立派だと思う。
それでも次期SMSの事実上の標準はRCSだということは明らかだ。でも、その前に立ちはだかるプラスメッセージとの非互換性はちょっとやそっとではなくならないかもしれない。
相互接続性の確保は通信事業者にとってきわめて重要な仕事だと思う。だからこそ、この混とんとした状況を少しでも早く解消してほしい。
エンドユーザーをRCSに誘導し、OSや機種を問わない標準的な方法で、リッチなコミュニケーションを提供するサービスを使えるようにする。それが業界として望ましい方向性だろう。









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