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機械学習の未来を創るプロセッサとメモリがVLSIシンポジウムに続出
2022年6月18日 06:31
半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム」が今年(2022年)も始まった。開催地は米国ハワイ州ホノルルのリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」である。「VLSIシンポジウム」がリアルイベントとして開催されるのは3年ぶりのことだ。新型コロナウイルス感染症の影響により、一昨年(2020年)と昨年(2021年)はバーチャルカンファレンス(オンライン開催)となった。
VLSIシンポジウムの開催地は近年、西暦の偶数年を米国のハワイ、奇数年を日本の京都としてきた。前回のハワイ開催は2018年6月で、4年も前のことだ。この日を待ち望んでいた関係者は少なくない。
「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」は前回まで、半導体技術に関する2つの国際学会で構成されてきた。1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)である。
もう1つは回路・サブシステム技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。両者は元々は別の国際学会だったのだが、最近は徐々に一体化してきた。開催日程と会場、サブイベントなどはすでに共通となっている。そして今年は、1つの国際学会「VLSIシンポジウム(VLSI Symposium)」となり、その中にデバイス・プロセス技術分野(テクノロジー分野)のトラックと回路・サブシステム技術分野(サーキット分野)のトラック、合同(ジョイント)のトラックが存在する構成となった。
VLSIシンポジウムは以下のようなスケジュールで進んでいる。6月12日の夕方に現地会場での参加登録が始まった。翌日の13日にはプレイベントであるショートコース(技術講座)を実施した。14日~16日はメインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)が進む。17日はポストイベントのフォーラムを予定する。
また現地への訪問が難しい方のために、バーチャルでの参加登録枠を設けている。厳密にはリアルだけではない。いわゆる「ハイブリッド」のイベントだ。バーチャル参加者のために、6月20日~21日には、オンラインでのライブイベント(質疑応答セッション)が開催される。ライブイベントに先行して6月17日には、テクニカルカンファレンスの講演を録画したビデオの配信を開始する予定である。
300件を超える研究成果の投稿から110件の優れた成果を採択
先日にお届けしたVLSIシンポジウムのレポートでは、デバイス・プロセス技術分野(テクノロジー分野)の概要とハイライト(注目論文)をご紹介した。ハイライトは、採択の可否を決める審査で高い評価を得た論文である。
今回は、回路・サブシステム技術分野(サーキット分野)の概要とハイライト(注目論文)、それからテクノロジーとサーキットの合同トラック(ジョイント分野)のハイライトを簡単にご説明する。なお投稿論文(発表を目指して投稿された論文)の評価は各専門分野の審査委員(複数名)が務めており、実行委員会のメンバーとは基本的に関係がないことを付記しておく。
回路・サブシステム技術分野の投稿論文数は、日本のVLSIシンポジウム実行委員会によると348件、米国のVLSIシンポジウム実行委員会による332件である。デバイス・プロセス技術分野(テクノロジー分野)でも日本の説明と米国の説明では投稿件数にずれがあった。この違いについてはよくわからない。ただ日本の説明時期は4月22日、米国の説明時期は5月31日(米国時間)と1カ月ほどの違いがあるので、この間に投稿の取り下げが生じた可能性はある。
なおVLSIシンポジウムに限らず、国際学会では論文の著者による取り下げそのものは特に珍しいことではない。採択されて発表が決まり、プログラムに掲載されてから後に著者が発表を取り下げたこともある。
昨年の投稿論文数は300件、一昨年の投稿数は321件だった。近年、サーキット分野の投稿数は漸減傾向にある。今年は一昨年と比べても投稿数が増加した。減少傾向に歯止めがかかった可能性はある。
採択論文数は日本の委員会によると116件、米国の委員会によると110件である。採択率(採択論文数/投稿論文数)はいずれも33%であり、過去2回(いずれも34%)と変わらない。
国/地域別の投稿数は韓国と中国が過去最多で2位と3位につける
投稿論文の件数を国・地域別に見ると、北米(米国とカナダの合計)が最も多く、100件を数える。全体の3分の1に近い。ただしハワイ開催の年では2006年以降、最も少ない投稿件数となっている。2番目に多いのは韓国で、過去最多の86件に達した。3位は中国の49件である。中国も過去最多の投稿件数を記録した。なお国・地域別の採択件数は公表されなかった。
専門別ではプロセッサと機械学習、電力変換が投稿の増加を牽引
投稿論文は、専門分野別の件数も報道機関向けに説明があった。11の専門分野に分類し、1番から11番までの番号を付けてある。1番が「プロセッサ、SoC(System on a Chip)、量子コンピューティング、機械学習」、2番が「ディジタル回路、シグナルインテグリティ、入出力回路」、3番が「メモリの回路とアーキテクチャ、入出力」、4番が「バイオメディカルの回路とシステム」、5番が「センサーとイメージャー、ディスプレイの回路」、6番が「電力変換回路」、7番が「アナログのビルディングブロック」、8番が「無線通信の受信器と送信器」、9番が「データ変換器」、10番が「周波数生成回路とクロック回路」、11番が「有線通信の受信器と送信器」となっている。
専門分野別で投稿数が最も多いのは1番の「プロセッサほか」の分野で、84件に達した。前年に比べると2倍近くに伸び、2008年以降では最高の投稿数を記録した。次に多いのは6番の「電力変換回路」で49件を数えた。ただし今年は7番の「アナログ」を6番が吸収したので、前年の43件(6番と7番の合計)からは大きく増えたとは言い難い。
逆に減少が目立つのが、3番の「メモリほか」である。10年ほど前には40件を超えていたが、最近は減少傾向が目立つ。今年の投稿数は15件で、前年の半分弱と大幅に下がった。2008年以降では最も少ない投稿数である。
採択件数では「プロセッサ」が多く、採択率では「メモリ」が高い
専門分野別の採択件数では、1番の「プロセッサほか」が最も多い。29件を数える。単純計算では採択率は34.5%となり、平均に近い。このほか9番の「データ変換器」が13件と大きく増えた。6番の「電力変換回路」も16件と件数は多いが、前年は7番「アナログ」と6番「電力変換回路」の合計が14件なので、増分はそれほど大きくない。
興味深いのが3番の「メモリほか」で昨年と同じく10件が採択された。投稿数は昨年の34件から今年は15件と大幅に減っているので、採択率が非常に高いことがわかる。
回路・サブシステム技術分野(サーキット分野)の注目論文
ここからは、VLSIシンポジウムの実行委員会が報道機関向けにアナウンスしたハイライト(注目論文)を紹介していこう。始めは回路・サブシステム技術分野(サーキット分野)の注目論文を、次に合同(ジョイント)分野の注目論文を報告する。なおスライドは、同じ論文を和文(日本側の配布資料)と英文(米国側の配布資料)で紹介したものなので、注意されたい。
サーキット分野のハイライトは順に、「機械学習」、「メモリ(DRAM)」、「メモリ(SRAM)」、「パワーマネジメント(電源回路)」、「有線通信」、「第5世代移動体通信(5G)用トランシーバ」、「イメージング(LiDAR)」、「アナログ回路」となっている。
推論精度を落とさずに消費電力を削減した深層学習アクセラレータ
「機械学習」ではNVIDIAが開発した、消費電力当たりの性能が95.6TOPS/Wと高い深層学習の推論用アクセラレータが高い評価を得た(論文番号C2-1)。データの内容によってベクトルの分解能を最小で4bitに小さくすることで、消費電力を低減しながらも推論の精度をほとんど下げずに済んだ。
誤り訂正の強化で入出力速度を高めたHBM3準拠DRAMモジュール
「メモリ(DRAM)」ではSamsung Electronicsが開発した、誤り訂正(ECC)機能を強化したHBM3準拠16GバイトDRAMモジュールが注目論文に選ばれた(論文番号C15-1)。
シーケンシャルアクセスに特化した低消費電力SRAMマクロ
「メモリ(SRAM)」では、Intelが次世代CMOSロジック製造技術「Intel 4」で開発した高密度SRAMマクロと、Metaが開発したシーケンシャルアクセスに特化した低消費電力SRAMマクロが高い評価を得た。
プロセッサの電源電圧を動的に制御
「パワーマネジメント(電源回路)」では、プロセッサに電源を供給する電圧レギュレータ回路の開発成果がハイライトとして挙がっていた。Intelが開発したシリコンインターポーザ(中間基板)に埋め込む電圧レギュレータ回路と、Samsung Electronicsが開発したモバイルプロセッサ向けのCPUコア用リニアレギュレータ回路である。
72Gサンプル/s、8bitのD-A変換器を内蔵した有線シリアル送信器
「有線通信」では、IBMが開発した72Gサンプル/s、8bitのD-A(デジタル・アナログ)変換器をベースとする有線シリアルリンク用送信回路が注目論文として紹介された。200Gbps秒の高速通信を可能とする。
5Gの基地局向けミリ波帯フェーズドアレイ送受信回路
「第5世代移動体通信(5G)用トランシーバ」では、Tsinghua Universityが開発した28GHz~39GHz帯向けフェーズドアレイ送受信回路と、東京工業大学が開発した39GHz帯向けフェーズドアレイビームフォーミング送受信回路が高い評価を得た。
超小型LiDARと3次元距離測定イメージセンサー
「イメージング(LiDAR)」では、東芝が開発した体積が64ccの超小型LiDAR受信器と、凸版印刷ほかが開発した3次元距離測定用ToF(Time of Flight)イメージセンサーがハイライトに選ばれた。
56Gサンプル/sで8bitの高速アナログ・デジタル変換回路
「アナログ回路」では、IBMが開発した56Gサンプル/sで分解能が8bitの超高速アナログ・デジタル(A-D)変換回路が高い評価を得た。
このほか、強誘電体トランジスタを機械学習の一種であるリザバーコンピューティングに応用する東京大学の試みをハイライトに挙げていた。
10mKの超極低温で動作するCMOS RFマルチプレクサ
続いて合同トラックのハイライトを報告しよう。わずか10mK(ミリケルビン)の超極低温で動作するCMOS RFマルチプレクサを試作したKU Leuvenの研究成果、積和演算結果をデジタル変換せずに抵抗変化メモリに入力することでコンピューティングインメモリのシリコンダイ面積を大幅に削減したGeorgia Institute of Technologyの研究成果、多値記憶の抵抗変化メモリを利用してアナログのコンピューティングインメモリチップを試作したUniversity of Michiganの研究成果を挙げていた。
3年ぶりのリアル開催となったVLSIシンポジウム。現地の雰囲気を次回はご報告する予定だ。ご期待されたい。