イベントレポート
【VLSI 2020レポート】最先端のCMOS製造技術とメモリ技術が続出
2020年6月17日 14:36
半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」が今年(2020年)もはじまった。「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成される。1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。
今年(2020年)のVLSIシンポジウムのテーマは「The Next 40 Years of VLSI for Ubiquitous Intelligence(知的な存在がどこにでもある状態を実現する、VLSIの次なる40年)」である。今年、VLSIシンポジウムは40周年を迎えたことから、次の40年をにらんだテーマとなった。
VLSIシンポジウムの開催地は、西暦の奇数年が日本の京都(会場は「リーガロイヤルホテル京都」)、偶数年が米国のハワイ(会場は「Hilton Hawaiian Village」)というのが最近の通例となっていた。本来であれば、今年はハワイで開催される予定だった。しかしCOVID-16(新型コロナウイルス)の影響により、バーチャルカンファレンス(オンライン学会)として開催された。
以下は、2020年のVLSI技術シンポジウムの概要を解説する。VLS回路シンポジウムの概要は、機会を改めて説明する。
VLSI技術シンポジウム:近年では最高数の投稿を集める
VLSI技術シンポジウムでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は248件で、近年ではもっとも多い投稿数となった。ハワイ開催だけで比較すると2014年が224件、2016年が214件、2018年(前回)が186件と減少傾向にあった。投稿の締め切りはコロナウイルス禍が欧米と日本ではじまる前であり、ハワイで発表することを前提とした投稿だと考えられる。前年の京都開催でも投稿数が前回に比べて増加しており、VLSI技術シンポジウム全体で投稿数が増加傾向にあることがうかがえる。
発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は、86件である。採択率は35%と近年ではかなり低い値となった。
投稿論文の件数はトップが米国、2位が台湾、3位が韓国
投稿論文の件数(投稿件数)を国/地域別に見ると米国がもっとも多く、69件を数える。昨年(2019年)の京都開催よりも20件多く、一昨年(2018年)のハワイ開催よりも21件多い。米国ではデバイス・プロセス技術の研究開発が活発になっていることがうかがえる。
米国の次に投稿数が多いのは台湾で、48件を数える。昨年の京都開催よりも11件多く、一昨年のハワイ開催と比べると26件も多い。ハワイ開催で比較すると2倍を超える。台湾でもデバイス・プロセス技術の研究開発が盛況であることがうかがえる。以下、3位は韓国で26件、5位は日本で24件、6位はベルギーで21件となっている。
採択件数の上位は米国、台湾、日本の順
採択論文数(採択件数)を国・地域別に見ると、これも米国がもっとも多く、21件を数える。昨年の京都開催が24件、一昨年のハワイ開催が20件だったので、あまり変わっていない。投稿数は69件と大きく増えたものの、逆に採択率は低下した。
採択件数で2位につけるのは台湾で、米国とほぼ同じ20件に達する。昨年の京都開催が16件、一昨年のハワイ開催が9件だったので、台湾の採択件数が急激に増加していることがわかる。
3位は日本で、13件の論文が採択された。昨年の京都開催が9件、一昨年のハワイ開催が13件だったので、件数そのものはあまり変わらない。以下、4位はベルギーで10件、5位はシンガポールとフランスでそれぞれ6件である。
企業の投稿数と採択数がともに増加
次は大学と企業(および研究機関)による論文数の比較である。最近は、投稿件数では大学が多く、採択件数では企業が多い、という傾向が続いていた。ところが昨年は、採択件数でも大学が過半数を占めた。
今年は投稿件数で企業(および研究機関)が大幅に増加した。2019年の70件から、2020年は119件と49件も増えている。その結果、採択件数でも57件と2019年の36件から大きく増え、過半数を取り戻した。
投稿件数は大学が129件、企業(および研究機関)が119件で、依然として大学が多い。採択件数は前述のように大学が29件、企業が57件と企業が3分の2を占めた。採択率は大学が22%と低く、企業が48%と高い。
採択件数を/地域別に昨年と比べると、今年はアジア(日本、韓国、台湾、シンガポール、中国)と欧州の企業(および研究機関)が採択件数を大きく増やしている。昨年はアジアの企業(および研究機関)からは16件が採択されたのに対し、今年(2020年)は29件と2倍近くに増えた。欧州の企業(および研究機関)は昨年(ベルギー、イタリア、英国)の採択数が7件だったのに対し、今年(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア)は16件と2倍強に増加した。
機関別の採択件数トップはimecとTSMC
発表機関別の採択件数は、imecとTSMCがともに9件でトップとなった。imecは過去のVLSI技術シンポジウムでもトップの常連であり、昨年は1件の差でIBMにトップを奪われたものの、2位につけていた。TSMCは昨年の採択件数が4件、一昨年はゼロ件で、これまではトップツーに入ったことはなかったと記憶している。TSMCがトップを取るのはたぶん、はじめてだろう。
3位にはIBMとSamsung Electronics、CEA-LETIが5件でならんだ。日本ではキオクシアが4件でシンガポール国立大学とともに6位につけた。
先端CMOS技術とプロセス技術の採択件数が4分の1近くを占める
採択論文(技術発表)の分野を国・地域別に分けると、3つの特徴が浮かび上がる。1つは、メモリ分野である。20件と発表数がかなり多い。その中で台湾、日本、米国の発表が合計で15件と4分の3を占める。もう1つは、先端CMOS技術とプロセス技術に関する発表の多さだ。合計で22件と、全体(86件)の4分の1近くになる。発表機関はアジア、北米、欧州と世界全体にわたる。最後は「異種材料の集積化と非シリコン(Non-Si)材料」の論文が10件とかなり多いことだ。
投稿件数と採択件数の分野別件数も興味深い。248件の投稿論文の中では「メモリ」分野が48件と断トツに多い。これに続くのは、31件の「人工知能(AI)および機械学習向けデバイス」分野である。人工知能(AI)向けデバイス技術の研究が活発になっていることがうかがえる。
そのほかで投稿件数が多いのは、25件の「デバイス物理とキャラクタライゼーション、モデリング」分野だ。これに24件の「異種材料の集積化と非シリコン(Non-Si)材料」分野と「CMOSを超える技術と新しいコンセプトの技術」分野が続く。
86件の採択論文の中では、投稿論文と同様に「メモリ」分野が20件とこれも断トツに多い。続くのは「先端CMOS」分野で、12件の論文が採択された。そして「プロセス技術」分野と「異種材料の集積化と非シリコン(Non-Si)材料」分野がともに10件で続く。
13件の注目論文をシンポジウムの委員会が選出
VLSI技術シンポジウムの実行委員会は、採択論文の中から13件の注目論文を選出した。以下は、13件の注目論文の概要を図面で説明していこう。
このほかにも興味深い講演が予定されている(参考記事))。随時レポートしていくので期待されたい。