イベントレポート

VLSI回路シンポジウム、低消費AIチップや超高速通信回路などの開発成果を披露

投稿論文数と採択論文数、採択率の推移(2006年~2011年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

 半導体の研究開発コミュティにおける初夏の恒例イベント、「VLSIシンポジウム(VLSI Symposia)」が今年(2020年)も始まった。

 「VLSIシンポジウム」は、半導体技術に関する2つの国際学会で構成される。1つはデバイス・プロセス技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Technology」(「VLSI Technology」あるいは「VLSI技術シンポジウム」とも呼ばれる)、もう1つは回路技術の研究成果に関する国際学会「Symposium on VLSI Circuits」(「VLSI Circuits」あるいは「VLSI回路シンポジウム」とも呼ばれる)である。

 すでにVLSIシンポジウムのプレビューの記事で述べたように、今年のVLSIシンポジウムは昨年(2020年)に続き、バーチャルカンファレンスとなった。またVLSIシンポジウムを構成する2つの国際学会の中で「VLSI技術シンポジウム」の概要は、すでにレポートした。本レポートでは「VLSI回路シンポジウム」の概要を紹介する。なお以降はVLSI回路シンポジウムを「回路シンポジウム」と表記するのでご了承願いたい。

日本の投稿件数は2006年以降で最小に凋落

 回路シンポジウムの発表講演を目指して投稿された論文の数は、300件である。今年は本来であれば日本開催の年となる。過去の京都開催年を見ていくと、2019年が299件、2017年が320件、2015年が348件、2013年が392件、2011年が409件となっていた。最近は減少傾向が見える。

 発表講演に選ばれた論文の数は102件である。採択率は34%で、前年の34%と変わらず、2019年の36%からは2ポイント低下した。

 投稿論文の件数を国/地域別に見ると、米国(およびカナダ)が78件で最も多い。前年でも米国がトップだった。ただしこのとき投稿件数は116件で、件数そのものは減少傾向にある。

 米国の次は韓国が72件と多い。韓国は前年も74件と高い水準を維持した。3位は台湾で42件を数える。4位は欧州が36件、5位は中国が31件と続く。日本はわずか12件である。2006年以降では最も少ない投稿件数となった。なお2006年の時点では日本の投稿件数は67件で、米国に次ぐ2位の件数を誇っていた。

投稿論文の国/地域別推移(2006年~2021年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

国/地域別の採択論文数では日本は5位

 発表講演に選ばれた論文の数を国/地域別に見ると、投稿論文の件数と同様に米国がトップ、韓国が2位を占めた。米国の採択件数は35件、韓国の採択件数は28件である。その後は6件で台湾と中国が並ぶ。日本は5件にとどまり、5位となった。

 なお採択件数の統計は欧州をまとめておらず、国別で表記している。公表されているベルギー(4件)、スイス(3件)、アイルランド(3件)を合計すると10件となり、投稿件数と同じカウント方法だと欧州は3位以上になることが分かる。

採択論文数の国/地域別件数(左)と主な国/地域の採択件数の推移(右)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

発表機関別の採択件数はトップがKAIST、2位はSamsungと韓国勢がトップ2を占める

 採択論文の数を発表機関別に見ていくと、トップはKAIST(韓国科学技術院)で14件に達する。2位は8件のSamsungで、韓国勢がトップ2を占めた。3位はIntelとミシガン大学(University of Michigan)が7件で並ぶ。5位はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)と清華大学(Tsinghua University)である。採択件数はいずれも4件。

 日本からは東京大学が2件、東京工業大学が2件、早稲田大学が1件の発表を予定する。残念ながら、日本企業からの採択論文はゼロ件となった

発表機関別の採択論文数ランキング(2017年~2021年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

技術分野別の投稿件数は「プロセッサ関連」がトップ、「バイオ」と「電力変換」が続く

 技術分野別の投稿件数を見ると、「(1)プロセッサ、SoC、量子コンピューティング、機械学習」が48件で最も多い。それから「(4)バイオメディカルとシステム」と「(6)電力変換回路」が35件で続く。その後は「(3)メモリの回路とアーキテクチャ、インタフェース」が34件となっている。

 近年の目立った動向としては、データ変換回路の投稿が漸減してきたことがある。一方、メモリは2019年に18件まで落ち込んだものの、その後は回復傾向にある。

技術分野別の投稿件数(2008年~2021年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

技術分野別の採択件数は「プロセッサ」がトップ、「センサ」が2位

 同じく技術分野別の採択件数を見ると、「プロセッサ・アーキテクチャ」が18件で昨年と同様に最も多い。次いで多いのは「センサ、ディスプレイ」で12件、それから「バイオメディカル」が11件と続く。その後は「メモリ」が10件、「有線通信」が9件となっている。

 日本の採択論文を技術分野別に見ると、「無線通信」で東京工業大学が2件の発表を予定しているのが目立つ。

技術分野別の採択論文数と日本の発表件数の推移(2017年~2021年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

企業対大学の投稿件数では大学の投稿が大半を占める

 企業および研究機関と大学の投稿件数を比較すると、回路シンポジウムは過去からずっと、大学からの投稿が多い。企業および研究機関の比率が少ない。それでも企業側の投稿は2015年までは30%を超えていたものの、2016年以降は30%を割り込み、2021年は22.7%と2006年以降では最も少ない比率となっている。

企業および研究機関と大学の投稿件数の推移と、企業側の比率の推移(2006年~2021年)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

13件の注目論文をシンポジウムの委員会が選出

 ここからは注目すべき発表論文に話題を移そう。VLSI回路シンポジウムの実行委員会は、採択論文の中から13件の注目論文(ハイライト論文)を選出した。以下は、13件の注目論文の概要を図面で説明していく。

VLSI回路シンポジウム委員会が選んだ13件の注目論文一覧(その1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
VLSI回路シンポジウム委員会が選んだ13件の注目論文一覧(その2)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
第5世代(5G)携帯電話システムの28GHz帯中継基地局用バッテリーレス無線中継トランシーバ(東京工業大学、講演番号C11-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
1波長当たり112Gbit/秒の波長分割多重方式4波長光送信回路(Intel、講演番号JFS3-4)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
エッジ用深層ニューラルネットワーク(DNN)学習・推論アクセラレータ(Stanford Univ.、講演番号CFS1-2)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
エッジ用深層強化学習(DRL)プロセッサ(KAIST、講演番号CFS1-3)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
相変化メモリ(PCM)のクロスバーアレイによる乗算回路と線形電流制御発振器を駆使した低消費・省面積の推論回路コア(IBM、講演番号JFS2-5)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
5nm世代のHKMG FinFETプロセスによるアンチヒューズ方式の16Kbit OTPメモリ(TSMC、講演番号C16-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
パッケージ内のシリコンダイ間を短距離、高密度で高速通信する技術(Media Tek、講演番号JFS1-3)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
低電圧低損失GaNパワートランジスタを開発して94.2%の高効率DC-DCコンバータを試作(Intel、講演番号C3-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
ジッタが20.3fsと短い19GHz帯のPLL回路(UCLA、講演番号C18-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
完全ダイナミック動作のパイプライン型SARアナログ・デジタル変換回路(ADC)(imec、講演番号C15-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
受光ダイとAD変換ダイを画素ごとに積層接続した超高速CMOSイメージセンサ(Samsung Electronics、講演番号JFS4-4)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
測定範囲を従来の4倍に広げたジャイロスコープ用フロントエンド回路(Robert Bosch、講演番号C19-1)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会
光照射に強い脳神経信号計測・送信回路(Univ. of Michigan、講演番号C2-2)。出典:VLSI回路シンポジウム委員会

 このほかにも興味深い講演が予定されている。随時レポートしていくので期待されたい。