イベントレポート

AMD、HBM2搭載のモバイルGPU「Radeon Vega Mobile」

~7nmのRadeon Vegaは年内サンプル出荷

Radeon Vega Mobileを公開するAMD CEO リサ・スー氏(AMD提供)

 米AMDは、CESに先立って記者会見を開催し、同社が今年発表する多数の製品に関しての説明を行なった。本記事ではGPUに関連する話題をお伝えする。別記事でデスクトップPC向けCPU、モバイルPC向けCPUについてお伝えする。

 AMDは昨年の7月末に行われたSIGGRAPH 2017において、同社の最新GPUアーキテクチャ「Vega」を発表し、最初の製品として「Radeon RX Vega 64」およ「びRadeon RX Vega 56」の2製品を発売。CESでは、新しいGPUとしてRadeon Vega Mobile(ラデオンヴェガモバイル)を追加し、ゲーミングノートPC向けに投入すると発表した。

 また、AMD CEOのリサ・スー氏は「われわれの7nmプロセスルールで製造される最初の製品はRadeon Vegaになる。この製品と同時に機械学習向けのソフトウェアスタックを製品版としていく」と述べ、今年投入する予定の7nmプロセスルールで製造されるRadeon Vegaを、Radeon Instinctとして今年中にサンプル出荷を開始すると明らかにした。

HBM2メモリをオンパッケージで統合したRadeon Vega Mobile

 AMDが今回クライアント向けのGPUとして新たに発表したのはRadeon Vega Mobile。VegaアーキテクチャのGPUに、HBM2メモリを搭載しており、それらをGPUのインターポーザー上で1チップとした製品になる。チップ高さはわずか1.7mm。これにより、HBM2という高速なメモリを搭載しながら、ノートPCの基板上の大きさを抑えることが可能になり、薄型ノートPCや薄型モバイルワークステーションなどに採用可能になる。

HBM2とVegaがパッケージ上で1チップになっているRadeon Vega Mobile。高さは1.7mm

 また、AMDは今後ドライバのアップデートによりHDMI 2.1でサポートされる可変リフレッシュレートの機能に対応する。これは、VegaなどHDMI 2.0に対応しているGPUなどが対象になっており、最新ドライバを入れることでHDMI 2.1の可変リフレッシュレートに対応できるようになる。

HDMI 2.1の可変リフレッシュレートの機能に将来のドライバアップデートで対応

 HDMI 2.1は昨年のCESで概要が発表されたHDMIの新しい仕様で(10Kまで対応する「HDMI 2.1」が公開。ゲーム向け同期機能など搭載参照)、従来AMDがFreeSync、NVIDIAがG-Syncとして訴求してきた可変リフレッシュレートの機能に近い機能が含まれる。MDは自社のソリューションであるFreeSyncに加えて、HDMI 2.1の可変リフレッシュレートのサポートが追加される。

Radeon Everywhere
AMDとIntelが協力してKBL-Gを開発
広がるRadeonのIPコア

 AMDは「Radeon Everywhere」戦略を推進しており、RadeonのIPコアを他社に提供することに積極的だ。同日にはIntelから「8th Gen Core Processors with RADEON RX Vega M Graphics」(開発コードネーム:KBL-G)が正式に発表されており、PlayStationやXboxなどのゲームコンソールだけでなく、競合であるIntelの製品でも採用されるなど幅が広がっている。

 スー氏は「AMDの製品がIntel製品に搭載されていると不思議な印象を受けるかもしれないが、Radeon Everywhereという戦略を考えれば自然な展開だ」と述べ、これからも積極的にIPの他社への提供を続けていくとした。

7nm VegaはRadeon Instinctとして2018年中にサンプル出荷

AMDのGPUロードマップ

 Radeon Instinctは、現在14nmで製造されている「Vega 10」(Radeon RX Vega 64/56にも利用されている、Vegaアーキテクチャの最初の製品)ベースの製品として、機械学習、深層学習向けのGPUとして提供開始されている。そのソフトウェアスタックは試験運用版として提供されており、TensorFlowやCaffe2といった一般的な機械学習/深層学習のフレームワークなどをサポートしている。

AMDの機械学習/深層学習ソフトウェア開発ツール

 さらにその下のレイヤーでは、NVIDIAで言えばcuDNNに対応するライブラリとしてオープンソースのMIOpenを利用し、NVIDIAで言えばCUDAに相当するプログラミング言語としてはオープンソースのHIPを活用しているの。AMDは、CUDAのコードをHIPに移植するツールとして「HIPfy」という自動変換ツールを用意しており、それを利用してCUDAベースのアプリケーションを、HIPに変換してRadeon Instinct上で機械学習/深層学習の学習や推論を行なうことができるようになっている。

 今回それが7nm Vegaを採用したRadeon Instinctのリリースに合わせて製品版として提供されていくことが発表された。

HIPfyを利用してCUDAのコードをHIPに自動で移植
NVIDIAのソフトウェア環境との比較
7nmのVegaは機械学習/深層学習向けのRadeon Instinctから投入

 これにより、これまでCUDAのアプリケーションとNVIDIAのGPUを活用して機械学習/深層学習の学習を行なってきたAIソフトウェア開発者がAMDのGPUに乗り換えることが容易になり、これまでNVIDIAの独擅場となっていたデータセンターでの機械学習/深層学習市場に大きな動きが出るだろう。

 スー氏は昨年AMDがリリースしたデータセンター向けCPUとなるEPYCを含めて「AMDはHPCの市場に完全に戻ってきた」と述べ、今後もデータセンター向けのビジネスに力を入れて、競争を加速していくと宣言した。

 さらに、Vegaの後継となる製品として、7nmで製造される新アーキテクチャとして「NAVI」を、その後には7nm+プロセスルールでNAVIの後継となる次次世代GPUを投入する計画だ。