イベントレポート
「Adobe Sensei」はクリエイターの創造性を助けるAIに
~今後多くのCreative Cloudアプリケーションに実装を続けると表明
2017年10月20日 12:40
Adobe Systems(以下Adobe)は10月16日~10月20日の5日間にわたり、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市のThe Venetianにおいて、クリエイター向けのイベント「Adobe MAX」を開催している。
会期3日目で実質的な初日(会期初日と2日目はプレカンファレンスと呼ばれる座学などが行なわれる日となっているため、本格的なセッションは3日目から)となる10月18日の午前中には基調講演が行なわれ、Adobe Systems 社長兼CEO シャンタヌ・ナラヤン氏、Adobe Systems 上級副社長 兼 デジタルメディア事業本部 事業本部長 ブライアン・ラムキン氏、Adobe Systems CTO 兼 クラウド技術担当 上級副社長 アベイ・パラスニス氏らによる、戦略や新製品の紹介などが行なわれた。
このなかで、同社が昨年発表したAIフレームワーク「Adobe Sensei」が、AdobeがAdobe MAXのタイミングで、過去最大のアップデートとなったAdobe Creative Cloudのアプリケーションに幅広く採用されていると説明し、パラスニス氏は「Adobe Senseiがコンテンツをデザインしたりするのではなく、クリエイターがクリエイション活動をする時の手助けをする」と述べ、今後も機械学習を活用したAdobe Senseiを発展させていくことで、クリエイターの手間を軽減し、創造性を発揮できるよう助けていくと説明した。
優れたユーザー体験に必要なのは優れたコンテンツ、それを作り出すツール、そしてAI
ナラヤンCEOは、基調講演の冒頭で「皆さんもご存じの通り、ここラスベガスでは国家的な悲劇が発生した。その犠牲者に哀悼の意を表明したい。そしてそれをよりポジティブな変化に変えていきたい」と述べ、集まったクリエイターとともに10月1日(現地時間)にラスベガスで発生した銃乱射事件の犠牲者に哀悼の意を表明し、そしてそれを乗り越えて社会に対してよりよい変化を促していこうと詰めかけたクリエイターに語りかけた。
「現在は21世紀のルネッサンスと言ってよい状況。15~16世紀にイタリアで起こったルネッサンスでは科学や美術などが飛躍的に発生した。現代のルネッサンスでは、優れたコンテンツ、そしてそれを生み出す優れたツール、そしてAIといった3つの要素が後押ししており、それらをAdobeは提供している」と述べ、AdobeがCreative Cloudなどを通じてクリエイターに優れたツールやAIなどを提供してきたと説明した。
その上で「すべてのビジネスにとって優れたユーザー体験を提供することが重要になる。そしてそのためには優れたコンテンツが重要だ」と述べ、今回のAdobe MAXではそうしたクリエイターツールの最新アップデートを紹介していくとした。
XD、Dimension、Lightroom CCなどのバージョン1.0アプリが追加されたCreative Cloud
続いて登壇したラムキン本部長は、「今回のAdobe MAXには12,000人もの参加者を集めており、これまでで過去最大だ。技術のイノベーションはどんどん世界を変えて言っており、今後世界はもっとインターネットに常時接続されるようになり、AIの普及も進む。それらがクリエイターの創造性を伸ばしていくだろう」と述べ、各製品の製品担当者とともに、同社が提供しているサブスクリプション型のクリエイターツール「Adobe Creative Cloud」の新機能などを紹介していった。
今回のAdobe MAXに合わせたCreative CloudのアップデートではXD、Dimension、Photoshop Lightroom CCなどがバージョン1.0の新しいアプリケーションとしてリリースされており、ラムキン氏の講演でもそうしたアプリケーションの紹介に時間が割かれた。
Adobe XD
Adobe XDはWebサイトやアプリケーションのUIデザインを行なうことができるアプリケーション。プログラムの素養がないデザイナーであっても、簡単にUI画面をデザインすることが可能になる。これまでベータ版として提供されてきたが、今回のAdobe MAXに合わせたアップデートで、正式版となりバージョン1.0として発表された。XDはCreative Cloudの単体プランないしはコンプリートプランで利用することができる。
なお、同時にPhotohop CCのデモ中では、Surface Dialが紹介され、PhotoshopでSurface Dialをネイティブでサポートしたと明らかにされた(記事:Photoshopがホイール型デバイス「Surface Dial」に対応参照)。
Adobe Dimension CC
2016年のAdobe MAXでProject Felix(プロジェクトフィーリックス)として紹介された、3Dデザインアプリケーションは、Adobe Dimensionとして正式にバージョン1.0としてリリースされた。
Dimensionは3Dの素養をもっていない2Dのデザイナーが、Photoshopを使うような感覚で3Dのコンテンツをデザインするためのツール。3Dのオブジェクトに、ロゴを入れたりしてPR用のCG素材などを簡単に作成することができる。
DimensionはCreative Cloudの単体プランないしはコンプリートプランで利用することができる。
Adobe Photoshop Lightroom CC
今回もっとも注目されているのが、Photoshop Lightroom CCとPhotoshop Lightroom Classic CCだろう。詳しくは別記事(新名称になったAdobeの写真編集アプリ「Lightroom Classic CC」と「Lightroom CC」を速攻レビュー)で解説している通りなので、そちらを参照して頂きたいが、昨年(2016年)Project Nimbus(プロジェクトニンバス)として紹介されたクラウド版LightroomがLightroom CCとなり、従来のデスクトップ版Lightroom CCがLightroom Classic CCとなっている。
デモでは新Lightroom CCを利用して、クラウドストレージに置いてある写真を、PC版のLightroom CC、iPad上のLightroom for Mobile、Web版のLightroom CCからアクセスして同じように編集したり、編集結果が同期できていることなどが紹介された。
Adobe Senseiはクリエイターの創造性を助ける役割を果たす
基調講演の最後には、Adobe Systems CTO 兼 クラウド技術担当 上級副社長 アベイ・パラスニス氏は、同社が昨年(2016年)発表し、Creative Cloudの各種アプリケーションに実装してきた同社のAIフレームワークとなるAdobe Senseiについての説明を行なった。
パラスニス氏は「クリエイティビティにおけるAIは、人間の創造性を奪うものではない。人間の創造性や知性を助ける役割を果たすことになる。Adobe Senseiがコンテンツをデザインしたりするのではなく、クリエイターがクリエイション活動をする時の手助けをAdobe Senseiが行なう」と強調した。
Adobe Senseiのデモとして行なわれたのは開発中のPhotoshopを利用したデモで、例えばポスターを作る時、音声認識を利用して対象となる写真をAIが探してきたり、探してきた写真からオブジェクトだけを抜き出してくりぬく時に、これまでであればマウスなどでデザイナーが複数ポイントを指定してくりぬいていたところを、くりぬいて欲しいオブジェクトをデザイナーが指定すると、AIがどこまでがそのオブジェクトなのかを判別して、くりぬくというデモが行なわれた。
こうしたくりぬくという作業そのものは、クリエーションとは異なるいわゆる“事務作業”のようなもので、本来デザイナーが行なうような作業ではないと言える。そうした事務作業はAIに任せて、オブジェクトをどこに置くかなどのデザインにより集中して作業を行なうことをAdobeとして想定している。つまり、AIがアシスタントになって、事務作業を代行してくれる、そうしたものがAdobe Senseiだとパラスニス氏は強調した。
パラスニス氏は「こうしたAIの機能は今後もアプリケーションにどんどん統合されていく。SenseiはAdobeの次のチャプターで重要な役割を果たすだろう」と述べ、今後もSenseiを利用したクリエイターの創造性を助ける機能を、Creative Cloudのアプリケーションに実装していくと説明して、講演を終了した。