笠原一輝のユビキタス情報局
新名称になったAdobeの写真編集アプリ「Lightroom Classic CC」と「Lightroom CC」を速攻レビュー
~プロの写真管理もクラウドストレージ時代に突入
2017年10月19日 07:01
Adobeは10月16日~10月20日の5日間にわたり、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市のThe Venetianにおいて、同社のクリエイター向けのイベント「Adobe MAX」を開催している。
Adobe MAXは、同社のサブスクリプション型クリエイターツールの「Adobe Creative Cloud」に関するプライベートイベントで、世界中でCreative Cloudを利用するクリエイターに対して、Creative Cloudの最新情報などが提供されるイベントとなっている。
今年(2017年)はCreative Cloudの大幅アップデートの年に相当しており、別記事でも紹介したとおり、XD、Dimension、Charactor Animator、Photoshop Lightroom CCなどがバージョン1.0として投入されるなど新しいアプリケーションが追加されたり、従来からあるアプリケーションにも新機能が追加されたりしている。
このなかでも、PCユーザーにとって要注目なのは、新しいPhotoshop Lightroom CCだ。昨年(2016年)のAdobe MAXとして紹介された新Lightroom CCは、クラウドストレージに写真を格納して編集を可能にする新しいアプリケーション。PCだけでなく、スマートフォン、タブレット、Webからでも同じようにデータにアクセスして、写真を編集できるようになる。
Project NimbusがLightroom CCに、従来のLightroom CCはLightroom Classic CCに名称が変更
今回Adobe MAXでは、Lightroomという名前がつく「Photoshop Lightroom Classic CC(以下Lightroom Classic CC)」と「Photoshop Lightroom CC(以下Lightroom CC)」が発表されている。
2016年ブランド | 2017年ブランド | |
---|---|---|
ローカル版 | Photoshop Lightroom CC | Photoshop Lightroom Classic CC |
クラウド版 | Project Nimbus | Photoshop Lightroom CC |
Lightroom Classic CCは、これまでLightroom CCないしは、Lightroom 6などの名称で呼ばれていたLightroomのフォト管理/現像アプリの最新版で名称が変わっている。
アプリケーションとしてのバージョンも6から7に引き上げられており、従来のLightroom CCに比べて性能の最適化や機能強化などが図られている。
これに対して、今回からLightroom CCと呼ばれるようになる新しいアプリケーションは、昨年(2016年)のAdobe MAXで「Project Nimbus」として発表されたアプリケーションになる。
Project Nimbusの発表に関しては昨年のレポート記事(Adobe、クラウドファーストな次世代写真管理編集ツール「Project Nimbus」)をご覧いただきたいが、簡単に言ってしまえば、Project Nimbusはクラウドストレージにある写真を編集、管理するアプリケーションになる。
従来型のLightroomはPhotshop Lightroom Classic CCとしても提供していくことを今回発表したが、従来型のデスクトップアプリケーションを「Classic」、クラウド型のアプリケーションを「Lightroom CC」と名づけたことの意図は明確で、将来的にProject NimbusのLightroom CCをメインストリームにしていくという意思表明にほかならない。
カタログではなく、クラウドストレージにある写真を読み込んで編集する新しいLightroom CC
新しいLightroom CCの特徴は、クラウドストレージにアップロードされた写真を編集できるというところにある。Lightroom CCのアプリは、いわゆるPCデスクトップアプリだけでなく、iOSやAndroidなどのスマートフォン/タブレット用アプリ、そしてWebブラウザの形で提供される。どのアプリを利用しても同じように操作できるということが1つの特徴になっている。
なお、Lightroom CCを利用して写真を編集する場合には、非破壊な編集となる。というのも、クラウドストレージに格納されるのは、写真の元ファイル+編集パラメータという形になるので、いつでも撮影時の状態に戻すことが可能だ。
なお、PCのアプリケーションではオフラインでもキャッシュされていれば、クラウドに接続されているときと同じように作業でき、作業した結果はオンラインになったときにクラウドに同期される。
もちろん一度読み込んで、写真のデータがキャッシュされているという条件はつくが、オフラインでの利用も可能だ(オフラインで編集した場合、編集情報はPCがオンラインになった状態でアップロードされる)。どれだけキャッシュするかは、ストレージ容量の何%という形でアプリケーションの設定から設定できる。
従来のLightroomではローカルストレージに格納されている写真ファイルを「カタログ」と呼ばれる独自のライブラリ形式で管理していた。しかし、新しいLightroom CCでは、Lightroomに読み込ませた写真は、Adobeが提供しているクラウドストレージにすべてアップロードされ管理される。
基本的な編集機能は、Lightroom CCにも備えられている。ホワイトバランスの調整(色温度、色かぶり補正、彩度、自然な明瞭度)、露光量(光の量、明るさの調整)やコントラスト、ハイライト、シャドウ、白レベル、黒レベルなどのライト設定、明瞭度やかすみの除去などの効果、シャープやノイズ軽減、偽色の軽減、粒子などのディテール、ブラシ、さらに色収差の除去/レンズ補正などのレンズ、写真の角度など調整するアップライトの機能、写真の切り抜き・回転などの切り抜きといった基本的な編集機能は揃っている。
クイックコレクションなどClassicにあるカタログ関連の機能はないが、クラウドで完結できる
筆者が編集機能を試したところ、PC上のLightroom CCに関してはローカルストレージのキャッシュを編集しているようだった。というのも、露光量の変更などを試してみたところ、CPUの負荷が上昇したからだ。つまりストレージ上のキャッシュを利用して編集を行ない、その結果をクラウドにアップデートしていると考えられる。
そのため、それなりの性能のPCであればとくに不満は感じないだろう。逆にWeb版のLightroom CCの場合にはCPU負荷はあまり上がらなかったので、こちらはクラウド側のプロセッサを利用して処理していると考えられる。
なお、赤目補正機能、トーンカーブ、明暗別色補正などに関しては現状のバージョンでは用意されていないので、これらの機能を利用したい場合には、Lightroom Classic CCを利用する必要がある。また、Lightroom Classic CCに用意されているクイックコレクションのようなコレクション関連の機能や条件(ファイル形式やファイル名、画像サイズなど)を細かく設定して書き出すなどの機能は用意されていない。これらの機能が引き続き必要な場合には、Lightroom Classic CCを利用することになる。
ただしその代わりに、フォルダ、アルバムという機能が用意されている。フォルダはPC上のストレージにフォルダを作るのと同じ考え方で、アルバムを階層化できる。
たとえば、今のLightroomでフォルダ単位で写真を管理している場合は、同じように管理可能だ。フォルダとアルバムの違いは、フォルダはフォルダとアルバムを格納できるが写真は置くことができない。逆にアルバムはフォルダのように階層化できないが、写真を置くことができる場所となる。これらの機能を活用すると、従来Lightroom上のカタログ機能で写真を管理していたときと同じようにクラウドストレージでも写真を管理できる。
Lightroom CCから直接クラウドストレージを公開する機能が用意されており、アルバム単位で公開可能だ。たとえば、従来であれば写真を納品するときに一度ローカルのディスクで編集して書き出していたプロセスが、すべてクラウドストレージ上で済む。そのため、納品のプロセス上で書き出し機能がなくても困らなくなると言える。
バージョン7.0になったLightroom Classic CC、性能向上と編集新機能を搭載
従来のLightroom CCの最新版という扱いになるLightroom Classic CCは、内部バージョンが7.0に引き上げられており、新バージョンという扱いになる。
Lightroom Classic CCの従来のLightroom CCに対する強化点はおもに性能面で、プレビュー生成の高速化、ライブラリと現像モジュール間移動の高速化などが実現されており、従来バージョンよりもサクサク使えるというのが特徴になる。
現像モジュールの新しい機能としては、範囲マスク作業時に、色域と輝度を指定して範囲を設定できるようになっている。たとえば、空だけを明るくしたり、暗くしたりという作業をしたいときに輝度をパラメータにして範囲マスクを行なうと、空と同じような輝度や色の部分だけに明るさや色温度を変えたりということができる。
なお、Lightroom Classic CCからも、新しいLightroom CCのクラウドライブラリにアクセスできる。より正確に言うなら、従来のLightroom CCでもその機能は搭載されていた。モバイルデバイスとの同期機能がそれに相当するが、Lightroom Classic CCでも、Lightroom CCのクラウドストレージにおいてある写真をローカルファイルとしてダウンロードして編集可能だ。
ただし、Lightroom Classic CCでは、引き続き従来のLightroomで利用されていたローカルのカタログベースの写真管理システムが「主」で、クラウドとの同期はどちらかと言えば「従」という扱いになる。あくまでクラウドとの同期はオマケであって、ローカル中心で写真を管理したくて、クラウドも併用するというユーザー向けという扱いになるだろう。
クラウドストレージの利便性ではLightroom CC、強力な編集機能ではLightroom Classic CC
Lightroom Classic CCとLightroom CCの両アプリの違いを図にすると、以下のようになる。
Lightroom Classic CC | Lightroom CC | |
---|---|---|
バージョン | バージョン7.0 | バージョン1.0 |
写真の置き場所 | おもにローカル/クラウドとの同期も可能 | クラウド |
クラウドと同期 | 可 | キャッシュを作成 |
現像モジュール | ||
ホワイトバランス | 色温度/色かぶり補正 | 色温度/色かぶり補正 |
階調 | 露光量/コントラスト/ハイライト/シャドー/白レベル/黒レベル | 露光量/コントラスト/ハイライト/シャドー/白レベル/黒レベル |
外観 | 明瞭度/自然な彩度/彩度 | 明瞭度/自然な彩度/彩度 |
トーンカーブ | 対応 | - |
HSL/カラー/B&W | 色相/彩度/輝度/すべて | - |
明暗別色補正 | ハイライト/バランス/シャドウ | - |
ディテール | シャープ/ノイズ削減 | シャープ/ノイズ削減/偽色の軽減 |
レンズ補正 | 色収差を除去/プロファイル補正を使用 | 色収差を除去/プロファイル補正を使用 |
変形(Uplight) | 自動/ガイド付き/水平方向/垂直方向/フル | 自動/ガイド付き/レベル/垂直方向/フル |
効果 | 切り抜き後の周辺光補正/粒子/かすみの除去 | 切り抜き後の周辺光補正/粒子/かすみの除去 |
カメラキャリブレーション | 対応(バージョン4) | - |
スポット修正 | 対応 | 対応(修復ブラシ) |
赤目修正 | 対応 | - |
段階フィルター | 対応 | 対応(線形グラデーション) |
円形フィルター | 対応 | 対応(円形グラデーション) |
上の表を見ればわかるように、Lightroom Classic CCとLightroom CCの大きな違いはストレージの置き場所(クラウドかローカルか)と、現像モジュールの編集機能の違いの豊富さであることがわかる。
写真を編集するユーザーにとって、どちらのほうが望ましいかは、ユーザーの利用方法によるだろう。クラウドによる利便性、クロスプラットフォームで使えて、ローカルデータを持ち歩く必要がないということが重視されるならLightroom CCだし、逆につねに性能重視でローカルでの処理、たまにクラウドを活用するという用途ではLightroom Classic CCを活用するほうがおすすめとなる。
ただ、すでに述べたとおり、AdobeはProject NimbusのほうをLightroom CCと名づけた以上、将来的にはクラウドベースのLightroom CCをメインストリームにするつもりだと考えられる。
また、昨年Adobeが発表した同社のマシンラーニング機能「Adobe Sensei」を効率良く活用するには、写真がクラウドストレージにおいてあることが前提になる。このため、今後はLightroom CCの機能を強化し、Classicに近づけていくことになるのは明らかだろう。
そう考えれば、現在Lightroom Classic CCを使っているユーザーが、Lightroom CCに乗り換えるというのは、乗り換えるか乗り換えないかではなくて、いつ乗り換えるのか、そこに焦点があると考えることができる。
そこで鍵になってくるのはクラウドストレージの容量だ。今回AdobeはLightroom CCで使えるクラウドストレージについて、1TB、100GB、20GBという3つの段階を設定しており、ユーザーが選択するプランにより異なっている。
Creative Cloudフォトプラン | (新)Creative Cloudフォトプラン(1TBストレージ付) | (新)Lightroom CCプラン | (新)モバイルプラン | コンプリートプラン | |
---|---|---|---|---|---|
Lightroom CC | ○ | ○ | ○ | - | ○ |
Lightroom Classic CC | ○ | ○ | - | - | ○ |
Photoshop CC | ○ | ○ | - | - | ○ |
そのほかデスクトップアプリ(Premiere、Illustratorなど) | - | - | - | - | ○ |
Lightroom for Mobileなど | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
Web版Lightroom CC | ○ | ○ | ○ | - | ○ |
ストレージ | 20GB(従来は2GB) | 1TB | 1TB | 100GB | 100GB |
価格 | 980円/月または11,760円/月 | 1,980円/月または23,760円/年 | 980円/月または11,760円/月 | 4.99ドル/月 | 4,980円/月ないしは59,760円/年 |
ストレージ追加プラン2TB | - | 2,980円/月ないしは35,760円/年 | 1,980円/月ないしは23,760円/年 | - | あり(価格/容量未発表) |
ストレージ追加プラン5TB | - | 5,980円/月ないしは71,760円/年 | 4,980円/月ないしは59,760円/年 | - | - |
ストレージ追加プラン10TB | - | 9,980円/月ないしは131,760円/年 | 8,980円/月ないしは107,760円/年 | - | - |
従来から設定されているコンプリートプラン(すべてのデスクトップアプリケーションが使えるプラン)では20GB、フォトプラン(Photoshop+Lightroom)では2GBのストレージが提供されていた。これをそれぞれ100GB、20GBへと増量する。
さらに、フォトプラン(1TBストレージつき)、Lightroom CC単体プラン、モバイルプラン(AndroidないしはiOSのアプリストアからアプリ内課金で契約可能)が新設され、それにはフォトプラン(1TBストレージつき)とLightroom CC単体プランには1TBのストレージ、モバイルプランには100GBのクラウドストレージ容量が設定されている。
1TBが十分かそうではないかは人によるだろう。筆者の場合も本誌への寄稿記事などで多数の写真を撮影しているが、1年分でだいたい100GB程度になっている。基本はJPEGで撮影し、RAWで撮影することは少ないからこの程度で済んでいると言えるだろう。プロカメラマンであれば、1日で数十GBということもめずらしい話ではないと思われるため、使い方によってはこのストレージ容量では十分ではないと言える。
このため、フォトプラン(1TBストレージ付)とLightroom CC単体プランには、2TB、5TB、10TBのストレージ追加プランが設定されており、それぞれ表中の料金で利用できる。Adobeはコンプリートプランにもストレージ追加プランが設定される予定があると説明しているが、現時点ではどのようなプランがどのような容量/コストで設定されるのかは明らかにされておらず、後日何らかの形で発表されることになりそうだ。