イベントレポート

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Adobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏
Adobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏

 Adobe Systemsは10月16日~10月20日の5日間にわたり、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市のThe Venetianにおいて、クリエイター向けのイベント「Adobe MAX」を開催した。

 Adobe MAXでは、同社の主力製品であるCreative Cloudの最新バージョンを発表。Adobeはこれを過去最大のアップデートと位置づけており、XD、Dimension、Sparkという3つのデザイン系アプリと、Lightroom CC(写真)、Character Animator(動画)という合計5つの新アプリケーション(バージョン1.0)が投入されたほか、PhotoshopやPremiere Proなどの従来からあるアプリも最新版が投入されている。

 本レポートでは、10月19日(現地時間)に行なわれたAdobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏の説明会などで語られたCreative Cloudの最新情報についてまとめている。

Adobe MAXではCreative Cloudの過去最大のアップデートを提供、今後はAIを利用した新機能を強化の方向性

 Adobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏は、同氏が管轄しているCreative Cloudのビジネスについての現状と、将来の可能性について説明した。

 Adobe Creative Cloudは、従来Creative Suiteというセットソフトウェアや単体のボックスソフトウェアとして提供されてきたPhotoshop、Premiere、Illustratorなどのクリエイター向けのソフトウェアを、サブスクリプション型として提供している同社の主力製品となる。

 Adobeは6年前(2011年10月)にCreative Cloudを発表し、5年前から提供しているが、今回行なわれたAdobe MAXではそのCreative Cloudの歴史で過去最大となるアップデートを提供する。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Adobe MAXでの発表の概要、新しいアプリケーションなどCreative Cloudの大規模アップデートが行なわれている
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Adobe MAXでの発表の概要、新しいアプリケーションなどCreative Cloudの大規模アップデートが行なわれている
Adobe MAXでの発表の概要、新しいアプリケーションなどCreative Cloudの大規模アップデートが行なわれている

 具体的には、XD、Dimension、Spark、Character Animator、Lightroom CCといった5つのソフトウェアがバージョン1.0として投入されているほか、PhotoshopやIllustratorなどの定番ソフトウェアもバージョンアップされている。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 XDはアプリやWebサイトのUIを設計するツール
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 XDはアプリやWebサイトのUIを設計するツール
XDはアプリやWebサイトのUIを設計するツール
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 昨年Project Felixとして公開された3Dコンテンツ版PhotoshopとなるDimension
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 昨年Project Felixとして公開された3Dコンテンツ版PhotoshopとなるDimension
昨年Project Felixとして公開された3Dコンテンツ版PhotoshopとなるDimension
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 モバイル向けのコンテンツを手軽に作成できるSpark、現在は英語版のみ提供されているが、シャルマ氏によれば今後日本語版など多言語展開も予定されている
モバイル向けのコンテンツを手軽に作成できるSpark、現在は英語版のみ提供されているが、シャルマ氏によれば今後日本語版など多言語展開も予定されている
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Character Animatorは、作ったキャラクターにしゃべらせるアニメーションをつくったりできる
Character Animatorは、作ったキャラクターにしゃべらせるアニメーションをつくったりできる
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 新しいクラウド版LightroomとなるLightroom CC
新しいクラウド版LightroomとなるLightroom CC
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略

 なお、これまでCreative Cloudではバージョン番号の替わりに、「Photoshop CC 2017」や「Photoshop Lightroom CC 2015」のようにソフトウェア名の後に、年号をバージョンの代わりとして使ってきたが、今回から年号表記はなくなっていく方向性だという。

 シャルマ氏によれば「ユーザー体験をシンプルにすることを目指している。我々はソフトウェアをサービスとして提供しており、つねに最新版を使ってほしい、そういう意味を込めて年号を入れないことにした」とのこと。つねに最新版を提供するという仕組みを提供している以上、バージョンがないほうがユーザーにとってシンプルでわかりやすいと判断したそうだ。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Photoshop CCのバージョン表示。内部バージョンはバージョン管理のために残される。現在の最新版Photoshop CCの場合は19.0
Photoshop CCのバージョン表示。内部バージョンはバージョン管理のために残される。現在の最新版Photoshop CCの場合は19.0
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Windowsのスタートメニューにはまだ年号表示が残っているがじょじょになくなっていく方向
Windowsのスタートメニューにはまだ年号表示が残っているがじょじょになくなっていく方向

 ただし、依然としてWindowsのスタートメニュー表示には「Photoshop CC 2018」とバージョン番号が表示される場合もあり、若干の揺らぎはあるようだ。とはいえ、今後はじょじょに製品名から年号のバージョンが消えていく方針になっていくということだ。

 そうしたCreative Cloudの方向性についてシャルマ氏は、「今後はよりシンプルに使えるようにしたりというユーザー体験の改善、さらにクリエイターの創造性の加速できるようなサービスやコミュニティーの拡大、Adobe Senseiを利用したAIの活用などが柱になる」と述べ、Creative Cloudのサービス拡張としてはユーザーインターフェイスの改善や、Adobe StockやBehanceなどのストックフォトサービスの拡大、そしてAdobeが昨年(2016年)発表した同社のAIフレームワークとなる“Adobe Sensei”のアプリケーションへの実装だと説明した。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Adobe Senseiは、AdobeのAIフレームワーク。APIとして提供されており、Creative Cloudから利用することができる
Adobe Senseiは、AdobeのAIフレームワーク。APIとして提供されており、Creative Cloudから利用することができる

 今回Adobeは、10月18日(現地時間)に行なった基調講演のなかでAdobe Senseiのアプリケーションへの実装例について非常に多くの時間を割いて説明したほか、基調講演の最後では開発中のPhotoshopを利用したAdobe SenseiのAIエンジンを利用したデモを行なった(「Adobe Sensei」はクリエイターの創造性を助けるAIに)。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 基調講演で行なわれたAdobe Senseiを利用したアプリケーションのデモ
基調講演で行なわれたAdobe Senseiを利用したアプリケーションのデモ

 AdobeはAdobe Senseiに非常に力を入れており、今後Adobe Senseiをベースに多数の新機能をアプリケーションに実装していく予定だ。

 今回のAdobe MAXで同社幹部が繰り返し「Adobe Senseiはクリエイターを助けるAIだ」と強調しており、Adobe Senseiが従来はクリエイター自身やそのアシスタントがやっていた“誰でもできる作業”を代替し、クリエイターはもっと創造性を発揮する仕事に集中してもらう、という方向性を打ち出していた。

 今後、Photoshopで切り抜き部分を指定する仕事などはAIに任せ、クリエイターは独自性の高いキャラクターのデザインなどに集中していってもらえるような機能をCreative Cloudのアプリケーションに搭載していく方針だとシャルマ氏は説明した。

フォトグラフィーユーザーの拡大などにより契約数は増えている、2020年には242億ドルのTAMと予想

 そうしたCreative Cloudのビジネスについてシャルマ氏は「今年(2017年)の第3四半期までに新しくCreative Cloudを契約しているユーザーは40%も増加している。また、モバイルデバイス向けにAdobe IDを取得したのは5,800万ユーザーに達しており、さらにエンタープライズ向けのサービス契約を伴うライセンスも66%に達している」と述べた。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Creative Cloudのユーザー数は増え続けている
Creative Cloudのユーザー数は増え続けている

 その最大の理由としてシャルマ氏は、「Creative Suiteからの移行が進んだ上、ユーザー数の上昇やエンタープライズでの契約数の増加がコアになっている。そこに、フォトグラフィープランに代表されるような写真ユーザー向けのプランがユーザーの支持を集めており、市場が拡大している」と述べ、Instagramに代表されるような写真中心のSNSが拡大していることにより、写真への注目度が高まっており、その結果フォトグラフィープラン(日本では1カ月あたり税別980円でPhotoshopとLightroomを提供するプラン)などの写真向けの契約が増えているとした。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 写真重視のSNSなどの普及などにより写真への需要は増え続けている
写真重視のSNSなどの普及などにより写真への需要は増え続けている
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Creative CloudのTAMは2019年が195億ドル、2020年には242億ドルが想定されている。
Creative CloudのTAMは2019年が195億ドル、2020年には242億ドルが想定されている。

 その上で、今後の市場拡大の可能性であるTAM(Total Addressable Market : 予想最大市場規模、すべての条件が整ったときに獲得できる市場規模のこと)は2019年が195億ドル、2020年にはさらに成長して242億ドルだと予想した。

 シャルマ氏によれば、このうちコアとなるクリエイター向けが114億ドル、写真などの成長市場分が57億ドル、Adobe Stockのようなサービスが71億ドルと予想しており、今後も大きな成長が期待できると述べた。

クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Adobe MAXのCommunity Pavilion(展示会場)に展示されていたGoogleのPixelBook(ピクセルブック)。Chrome OSを搭載した2in1デバイスで、デジタイザペンも利用可能。最新版のChrome OSはAndroidアプリも動くようになっており、AdobeがAndroid向けに提供しているPhotoshop MixやLightroom CCなどをインストールしてクリエイターに訴求していた。macOSやWindowsのようなPC OSだけでなく、iOSやAndroidなどのマルチプラットフォーム戦略も近年のAdobeの基本的な戦略の1つだ。
Adobe MAXのCommunity Pavilion(展示会場)に展示されていたGoogleのPixelBook(ピクセルブック)。Chrome OSを搭載した2in1デバイスで、デジタイザペンも利用可能。最新版のChrome OSはAndroidアプリも動くようになっており、AdobeがAndroid向けに提供しているPhotoshop MixやLightroom CCなどをインストールしてクリエイターに訴求していた。macOSやWindowsのようなPC OSだけでなく、iOSやAndroidなどのマルチプラットフォーム戦略も近年のAdobeの基本的な戦略の1つだ。
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 360度回転型ヒンジを備えており、CPUは第7世代Core i7、メモリ8/16GB、ストレージは128/256/512GB SSD(NVMe)、12.3型2,300×1,600ドットの液晶ディスプレイを備えており、バッテリで10時間駆動(公称値)が可能
360度回転型ヒンジを備えており、CPUは第7世代Core i7、メモリ8/16GB、ストレージは128/256/512GB SSD(NVMe)、12.3型2,300×1,600ドットの液晶ディスプレイを備えており、バッテリで10時間駆動(公称値)が可能
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 PixelBookの付属ペン
PixelBookの付属ペン
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 Lightroom CCのAndroid版がそのまま動作している
Lightroom CCのAndroid版がそのまま動作している
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 左右にUSB Type-C端子が用意されており、充電もUSB Type-CのACアダプタで行なう
左右にUSB Type-C端子が用意されており、充電もUSB Type-CのACアダプタで行なう
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 右側面
右側面
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 天板部
天板部
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 ペンを利用したユニークな機能として、ペンで画像を円で囲むと画像検索を行なってくれる、これは便利だ
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略
ペンを利用したユニークな機能として、ペンで画像を円で囲むと画像検索を行なってくれる、これは便利だ
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略 キーボード
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