イベントレポート
クリエイティブ市場に“Sensei”で切り込むAdobeの戦略
2017年10月24日 12:22
Adobe Systemsは10月16日~10月20日の5日間にわたり、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市のThe Venetianにおいて、クリエイター向けのイベント「Adobe MAX」を開催した。
Adobe MAXでは、同社の主力製品であるCreative Cloudの最新バージョンを発表。Adobeはこれを過去最大のアップデートと位置づけており、XD、Dimension、Sparkという3つのデザイン系アプリと、Lightroom CC(写真)、Character Animator(動画)という合計5つの新アプリケーション(バージョン1.0)が投入されたほか、PhotoshopやPremiere Proなどの従来からあるアプリも最新版が投入されている。
本レポートでは、10月19日(現地時間)に行なわれたAdobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏の説明会などで語られたCreative Cloudの最新情報についてまとめている。
Adobe MAXではCreative Cloudの過去最大のアップデートを提供、今後はAIを利用した新機能を強化の方向性
Adobe Systems 副社長 兼 Creative Cloud 事業本部長 マーラ・シャルマ氏は、同氏が管轄しているCreative Cloudのビジネスについての現状と、将来の可能性について説明した。
Adobe Creative Cloudは、従来Creative Suiteというセットソフトウェアや単体のボックスソフトウェアとして提供されてきたPhotoshop、Premiere、Illustratorなどのクリエイター向けのソフトウェアを、サブスクリプション型として提供している同社の主力製品となる。
Adobeは6年前(2011年10月)にCreative Cloudを発表し、5年前から提供しているが、今回行なわれたAdobe MAXではそのCreative Cloudの歴史で過去最大となるアップデートを提供する。
具体的には、XD、Dimension、Spark、Character Animator、Lightroom CCといった5つのソフトウェアがバージョン1.0として投入されているほか、PhotoshopやIllustratorなどの定番ソフトウェアもバージョンアップされている。
なお、これまでCreative Cloudではバージョン番号の替わりに、「Photoshop CC 2017」や「Photoshop Lightroom CC 2015」のようにソフトウェア名の後に、年号をバージョンの代わりとして使ってきたが、今回から年号表記はなくなっていく方向性だという。
シャルマ氏によれば「ユーザー体験をシンプルにすることを目指している。我々はソフトウェアをサービスとして提供しており、つねに最新版を使ってほしい、そういう意味を込めて年号を入れないことにした」とのこと。つねに最新版を提供するという仕組みを提供している以上、バージョンがないほうがユーザーにとってシンプルでわかりやすいと判断したそうだ。
ただし、依然としてWindowsのスタートメニュー表示には「Photoshop CC 2018」とバージョン番号が表示される場合もあり、若干の揺らぎはあるようだ。とはいえ、今後はじょじょに製品名から年号のバージョンが消えていく方針になっていくということだ。
そうしたCreative Cloudの方向性についてシャルマ氏は、「今後はよりシンプルに使えるようにしたりというユーザー体験の改善、さらにクリエイターの創造性の加速できるようなサービスやコミュニティーの拡大、Adobe Senseiを利用したAIの活用などが柱になる」と述べ、Creative Cloudのサービス拡張としてはユーザーインターフェイスの改善や、Adobe StockやBehanceなどのストックフォトサービスの拡大、そしてAdobeが昨年(2016年)発表した同社のAIフレームワークとなる“Adobe Sensei”のアプリケーションへの実装だと説明した。
今回Adobeは、10月18日(現地時間)に行なった基調講演のなかでAdobe Senseiのアプリケーションへの実装例について非常に多くの時間を割いて説明したほか、基調講演の最後では開発中のPhotoshopを利用したAdobe SenseiのAIエンジンを利用したデモを行なった(「Adobe Sensei」はクリエイターの創造性を助けるAIに)。
AdobeはAdobe Senseiに非常に力を入れており、今後Adobe Senseiをベースに多数の新機能をアプリケーションに実装していく予定だ。
今回のAdobe MAXで同社幹部が繰り返し「Adobe Senseiはクリエイターを助けるAIだ」と強調しており、Adobe Senseiが従来はクリエイター自身やそのアシスタントがやっていた“誰でもできる作業”を代替し、クリエイターはもっと創造性を発揮する仕事に集中してもらう、という方向性を打ち出していた。
今後、Photoshopで切り抜き部分を指定する仕事などはAIに任せ、クリエイターは独自性の高いキャラクターのデザインなどに集中していってもらえるような機能をCreative Cloudのアプリケーションに搭載していく方針だとシャルマ氏は説明した。
フォトグラフィーユーザーの拡大などにより契約数は増えている、2020年には242億ドルのTAMと予想
そうしたCreative Cloudのビジネスについてシャルマ氏は「今年(2017年)の第3四半期までに新しくCreative Cloudを契約しているユーザーは40%も増加している。また、モバイルデバイス向けにAdobe IDを取得したのは5,800万ユーザーに達しており、さらにエンタープライズ向けのサービス契約を伴うライセンスも66%に達している」と述べた。
その最大の理由としてシャルマ氏は、「Creative Suiteからの移行が進んだ上、ユーザー数の上昇やエンタープライズでの契約数の増加がコアになっている。そこに、フォトグラフィープランに代表されるような写真ユーザー向けのプランがユーザーの支持を集めており、市場が拡大している」と述べ、Instagramに代表されるような写真中心のSNSが拡大していることにより、写真への注目度が高まっており、その結果フォトグラフィープラン(日本では1カ月あたり税別980円でPhotoshopとLightroomを提供するプラン)などの写真向けの契約が増えているとした。
その上で、今後の市場拡大の可能性であるTAM(Total Addressable Market : 予想最大市場規模、すべての条件が整ったときに獲得できる市場規模のこと)は2019年が195億ドル、2020年にはさらに成長して242億ドルだと予想した。
シャルマ氏によれば、このうちコアとなるクリエイター向けが114億ドル、写真などの成長市場分が57億ドル、Adobe Stockのようなサービスが71億ドルと予想しており、今後も大きな成長が期待できると述べた。