イベントレポート

Adobe、クラウドファーストな次世代写真管理編集ツール「Project Nimbus」

~長期的にはLightroomを置き換えるものに

Project Nimbusのロゴ。同社の開発中の製品はこうした白抜きのロゴになっている

 Adobe Systems(以下Adobe)は11月2日~4日の3日間に渡って、米国カリフォルニア州サンディエゴで同社製品を利用するクリエイターを対象にしたプライベートイベントAdobe MAXを開催している。初日となった11月2日の午前中には基調講演が行なわれ、Creative Cloud関連製品のアップデートなどが説明された。クリエイターにとって中心の新製品は2Dと3Dがミックスしたフォトリアリスティック(写真品質)なCG画像を簡単に作成できる「Project Felix」、Adobeが近年力を入れているモバイルアプリケーションのアップデートなどが中心となり、それらに関しては既に別途お伝えした通りだ。だが、お楽しみは基調講演の最後に待っていた。今回は写真関連では何もアップデートはないと見られていたのだが、基調講演の最後にサプライズとして「Project Nimbus」と呼ばれる、新製品の計画を発表したのだ。

カメラマン御用達のLightroom、Photoshopと合わせて月額980円で提供中

 写真をビジネスにしている人やアマチュアのカメラマンにも御用達の写真管理・編集ソフトと言えば、AdobeがCreative Cloudの一部として提供しているLightroomであることは論を待たないだろう。Adobeは、このCreative CloudのLightroomとPhotoshopだけを提供するプラン(フォトグラフィプラン)を月額980円(税別)で提供している。Creative Cloudユーザーの多くがフォトグラフィプランを選択しているとみられる。

 “写真と言えばPhotoshopでは?”という疑問を持つ人もいるかもしれない。だが、Photoshopはどちらかと言えば写真を加工(例えば、写真にぼかしを入れたり、文字を入れたり)という用途に向いている。これに対して、Lightroomに搭載されている機能は撮影した生の写真の、色を調整したり、トリミングして切り抜いたり、レンズゆがみを補正したりと、カメラの自動補正機能では十分に行えなかった補正をマニュアルで行なうための編集ツールが搭載されている。PhotoshopでのみできることもLightroomでのみできることもあり、加工はPhotoshop、撮影後の後処理はLightroomでと使い分けているプロが多い。

現在はローカルストレージに最適化されているLightroom

 Lightroomでは、写真の管理はライブラリと呼ばれる仕組みを利用して行なう。Lightroomがユーザーデバイスのストレージにある写真を探して、カタログと呼ばれるデータベースを作成し、高速に写真を表示したり、検索できるようにしている。しかし、現状では、カタログ化されるのはローカルのストレージ上にある写真のみとなっている。

 一部例外もあって、iOSやAndroid用のLightroom Mobileを利用していると、デスクトップ版のLightroom CCとの同期の機能が利用できる。例えば、Lightroom MobileのDNG(Adobeの規定したRAW形式)撮影機能を利用して撮影した写真を、Creative SyncというCreative Cloudの同期機能を利用して自動で同期できる。この場合、モバイルで撮影した写真は、まずCreative Cloudのクラウドストレージにアップロードされ、それがさらにデスクトップ版のLightroomに同期されるようになる。

 しかし、この同期機能は制約も多い。例えば、Lightroom MobileとLightroom CCは1:1のような形で同期されるので、その組み合わせを解除して新しいデバイスを接続しようとすると、クラウドに保存してある写真を含めて削除されてしまう。このように、現在のLightroomではクラウドはモバイルとの同期のための一時的なストレージという扱いであり、本格的に使うのには幾分無理があった。

クラウドファーストのコンセプトで開発されるProject Nimbus。Lightroomとの連携も

 この状況がProject Nimbusでは大きく変わることになる。AdobeはAdobe MAXの基調講演で、Project Nimbusを紹介した時に「Project Nimbusの特徴はクラウドファーストであることだ」と説明した。つまり、Project Nimbusは現在のLightroomがそうであるようにローカル重視のソフトウェアではなく、クラウドで使うことを前提とした設計になっているということだ。

 今回AdobeはProject Nimbusの詳細は説明しなかったが、彼らの言うクラウドファーストという意味では、ライブラリがユーザーのストレージから、クラウドストレージへ移動するということだと筆者は考えている。こうした仕組みになっていると考えられるので、Project Nimbusではアプリケーションの形を問わない。

 今回Adobeは基調講演において、WebブラウザからWebアプリケーションとして実行し、ライブラリの管理や写真の編集などをするデモを行なった。この仕組みであれば、写真の編集はクラウド側にあるプロセッサで実行されるので、現在のように写真の編集のために高い性能のCPUが必要ということがなくなってくる。また、写真の編集では写真の実体ファイルはいじらず、非破壊的に行なわれる。保存されるのは編集したプロセスなので、いつでも元の状態に戻すこともできる。さらに同日発表した、同社のクラウドベースのマシーンラーニング/ディープラーニングプラットフォームとなるAdobe Senseiの機能を利用して、マシーンラーニングを利用した新しい機能をいち早く実装することなども可能になるだろう。

 もちろん、WindowsやmacOSのようなデスクトップアプリケーションからも利用できるし(おそらくこの場合はCreative Syncを利用してコピーをローカルに同期するのだと思われる)、iOSやAndroidのようなモバイルAppsも用意されるとAdobeでは説明している。かつ、将来のバージョンのLightroomもNimbusのクライアントとしても利用できると説明しており、Lightroomを利用しているユーザーも、現在のローカルベースの写真管理を使いながら、徐々にNimbusのクラウドベースへと移行していくことも可能になりそうだ。

Project NimbusのmacOSクライアント
WebブラウザのSafariからNimbusのWebサービスにアクセスしているところ、クライアントと同じUXで利用できていることが分かる
Lightroomの現像機能として用意されているカラー設定、Uplightなどの機能はもちろんNimbusのクライアントでもサポートされる。画面は開発中のmacOSのNimbusクライアント
Nimbusのモバイルクライアント
Lightroom、Nimbusなどがデスクトップクライアント、モバイルクライアント、Webなどからシームレスに利用できる

クラウドストレージは現状のCreative Cloudとは違うスキームになる可能性を示唆

 ただし、課題もある。現在のCreative Cloudのストレージ容量は、写真を全て上げて管理するほど十分な容量を確保できていない。例えばフォトグラフィプランの場合は5GB、コンプリートプランで20GB、一番多いエンタープライズプランでも100GBしかない。これでは、現状ではユーザーのローカルにあるライブラリを上げて十分な容量とはお世辞にも言えない。写真のライブラリの場合、例えばRAWで撮影しているユーザーであれば1ファイルで25MBにもなってしまう。それをクラウドにあげていけばあっという間に破綻してしまうだろう。

Adobe Systems副社長兼Creative Cloudプロダクト、マーケティング&コミュニティ事業部長のマーラ・シャーマ氏

 Adobe Systems副社長兼Creative Cloudプロダクト、マーケティング&コミュニティ事業部長のマーラ・シャーマ氏は、「Project Nimbusのベータを導入した時には現在とはことなる形のストレージモデルを導入していく予定だ」と述べ、現在のCreative Cloudのストレージとは別の写真専用のストレージを導入していく可能性を示唆した。写真向けのクラウドストレージと言えば、Amazonがプライム会員向けに、条件を満たせば容量無制限で使えるプランなどを既に導入しており、今後ほかのクラウドストレージのベンダーもそれに続く可能性は高い。それと競争力があるようなクラウドストレージの仕組みやプランをAdobeが提供できるのかがNimbus成功の鍵となるだろう。

 なお、Lightroomとの棲み分けに関してはシャーマ氏は「短期的にはLightroomがプロ用、Nimbusがもう少し幅広いユーザー用として棲み分け、Nimbusが成熟するのを待ってLightroomもNimbusで置き換える」と述べ、短期的にはLightroomとNimbusが併存していき、将来的には2つの製品が統合されていくという見通しを明らかにした。

 Adobeによれば、Nimbusは来年(2017年)のどこかのタイミングでパブリックベータを開始する予定とのこと。プロカメラマンでなくても、写真に興味があり今後はクラウドベースで写真を管理していきたいと思っているユーザーであれば、Project Nimbusの動向には注意を払った方がいいだろう。