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東大、大規模光量子コンピュータの“量子テレポーテーション回路”を開発
2019年5月20日 13:36
科学技術振興機構(JST)は5月18日、2017年9月に東京大学 大学院工学系研究科が発表した「究極の大規模光量子コンピュータ」について、同研究科がその方式の心臓部となる「量子テレポーテーション回路」の基本構造を開発したと発表した。
これまで、光量子コンピュータの実現方法としては、量子ビットの情報を乗せた多数の光パルスを多数の光路に沿って光学部品を並べ、光回路を構成することで量子ビットを処理する方法が考えられてきた。ただし、このやり方では大規模な計算のために、光回路を増大させる必要があり、膨大なスペースと光学部品を用いなければならないという問題がある。
一方、究極の大規模光量子コンピュータと呼ぶこの方式は、大規模な計算も最小規模の回路構成で効率良く実行できるという特徴がある。仕組みとしては、時間的に一列に並べた多数の光パルスが、計算の基本単位となる1ブロックの量子テレポーテーション回路を何度もループする構造になっており、ループ内で光パルスを周回させ、1個の量子テレポーテーション回路の機能を切り換えながら繰り返し用いることによって、どれほど大規模な計算でも実行可能とする。この方式によって光量子コンピュータの飛躍的な大規模化が期待でき、実験的な検証が待たれている状況にある。
今回、同研究科は「究極の大規模光量子コンピュータ」の心臓部となる、機能切り替えを可能にする量子テレポーテーション回路の基本構造を開発。これにより、計算原理の本質的な動作である、最小限の回路でさまざまな量子もつれの光パルスを自在に合成する、効率的で汎用的な量子もつれ合成動作を実現した。
量子テレポーテーション回路で計算1ステップを行なうさいには、光パルスと光パルスの間に、行ないたい計算の種類に応じた量子もつれを作り出す動作が不可欠で、量子テレポーテーション回路を構成するミラーの透過率や光位相シフタの設定が異なれば、異なる種類の量子もつれが作り出され、異なる種類の計算1ステップが実行できる。
そのため、この方式で計算する場合は、1つの量子テレポーテーション回路のミラー透過率や光位相シフタを切り換えながら繰り返し用いて、順次やってくる多数の光パルスを必要な規模や種類の量子もつれに次々変換させる。この動作原理を用いれば、さまざまな計算を無制限に何ステップも続けられるとする。
今回開発された量子テレポーテーション回路は、ミラーの透過率・位相シフタの設定を数ナノ秒の時間精度で高速に切り換えて制御するシステムで、切り替えパターンを適切に設定すれば、最小限の回路機能の切り替えで順次光パルスを量子もつれに変換できる。従来は量子もつれの種類が変われば、光回路の構造を組み替える必要があったが、この方式では一切構造を変えることなく、パターンを切り換えるだけで対応が可能。実際に2~3個の光パルスの量子もつれから、1,000個以上の光パルスの量子もつれまで、さまざまな量子もつれの合成を実証できたという。
この結果によって、1,000ステップ以上のさまざまな種類の計算が実行できることが実証され、同研究科は大規模光量子コンピュータ実現の重要なステップにつながるとともに、今後も継続的な開発を進めていくとしている。