笠原一輝のユビキタス情報局

本格的に離陸し始めたNVIDIAのTesla
~Dell、IBMなどが続々とHPCをリリース



 NVIDIAが先月開催したGTCで最大のニュースと言えば、新しいロードマップを公開したことだが、その裏で重要なマイルストーンとなる発表をいくつか行なっている。そのうちの1つがCUDAに対応した新しいアプリケーションであり、Teslaに対応したOEMメーカーの新しい製品だ。Dell、IBMなどが新しいTeslaを搭載したHPCを発表したほか、従来から製品を発表していたSuper MicroなどがTeslaを搭載したHPCを展示して注目を集めた。

 Teslaのマーケティングを担当するTesla GPUコンピューティング 上級プロダクトマネージャのスミット・グプタ氏は「Teslaの市場はこれから急速に拡大していくことになる」と述べ、Teslaを利用したHPCの市場が今年(2010年)の後半から来年(2011年)にかけて急速に拡大していくという見通しを明らかにした。

●科学演算やCFDなどいわゆるHPCのエリアで大きな注目を集めるCUDA

 GTCで最も話題になったのは、NVIDIAが新しく公開したKeplerやMaxwellなどの次世代、次次世代GPUのロードマップだったのは論を待たないだろう。だが、実際のところそれらの発表は、NVIDIA CEO ジェン・セン・ファン氏の基調講演のうち、最後の数分で触れられただけだった。では、ファン氏は何に最も時間を使ったのかと言えば、それはCUDAに対応した新しいアプリケーションのお披露目だったのだ。

GTCの基調講演で講演を行うNVIDIA CEO ジェン・スン・ファン氏NVIDIAのTesla

 CUDAという言葉自体は、よく聞くが、どんなものかいまいちよくわからないという方もいらっしゃるだろう。CUDAというのは簡単に言ってしまえば、NVIDIAのGPUを汎用の計算に利用するための仕組みで、開発者がCUDAの仕組みに従ってプログラミングすることで、アプリケーションからGPUを利用して演算することが可能になるようになっている(NVIDIAはGPUコンピューティングと呼んでいる)。

 現代のGPUは、内部に数十から数百になる非常に小さなプロセッサコアを内蔵している。x86のCPUなどと違って複雑な命令をデコードしたりする必要もないため、シンプルな構成になっており、同じような演算を並列に実行する処理に向いた構造になっている。このため、天気予報や地震予知などの科学演算や、CFD(Computational Fluid Dynamics、流体力学演算)といって、大量のデータを並列に処理していく形の演算に向いているとされている。

 こうした大量のデータを処理するコンピュータの分野は、HPC(High Performance Computing)と呼ばれれており、従来はいわゆるスーパーコンピューターやマルチソケットのサーバーなどを利用して演算されてきたのだが、今それに変わってHPCの分野で注目を集めているのがCUDAであり、そのCUDAに従って作られたプログラムを走らせることができるNVIDIAのHPC向けGPUがTeslaなのだ。

●CUDAに対応した新しいアプリケーションが多数発表されたGTC

 ファン氏の基調講演では実に多くのCUDAに対応したアプリケーションが発表された。今ある既存のアプリケーション(むろんx86ベースになる)のCUDA版が発表されたというのではなく、既存のアプリケーションにCUDA対応機能が追加されたというのが正しい説明だ。つまり、CUDAの仕組みでは演算はNVIDIAのGPUを利用して行なうが、アプリケーションの起動や操作といった部分に関しては、CPU(つまり現時点ではx86プロセッサ)を利用して行なうからだ。

 例えば、ファン氏が基調講演で最もフィーチャーしたアプリケーションはAutodeskの3Ds MAXのCUDAへの対応だ。3Ds MAXは、3Dレンダリング、モデリング、アニメーションなどのプロフェッショナルユースでは圧倒的なシェアを誇る3DCGソフトウェアだ。こうしたソフトウェアでは、大量のデータを並列して処理することが多くなるため、GPUコンピューティングに向いたソリューションだ。

 今回ファン氏が発表したのは、Mental Image社が開発したiRAYと、NVIDIAの物理演算の仕組みであるPhysXが、3Ds MAXに統合されるという内容だ。このソフトウェアはAutodeskとサブスクリプション契約を結んでいるユーザーに対して今秋に配布される予定の、3ds Max 2011 Subscription Advantage Packの一部として提供されることになる。これらを利用することで、レイトレーシングと呼ばれる光の加減などの物理演算を行なう処理をGPUを利用してできるようになり、写真に匹敵するような画質の画像をより短時間で作成することができるようになるという。

 このほかにも、構造解析シミュレーションソフトウェアの「ANSYS」も、CUDAに対応する予定であることが発表された。また、数値解析ソフトウェアの「MATLAB」、生体分子のためのモデリングや分子力学などを演算する「Amber」など、多くのソフトウェアがCUDA対応になったことが明らかにされた。

GTCでの3Ds MAXのiRAYのデモ、こうしたレイトレーシングの演算がGPUを利用してCPUよりも高速に行なうことができる数値解析ソフトウェアのMATLABのGPU対応も発表された
構造解析シミュレーションソフトウェアのANSYSがR13でCUDA対応になることが発表されたAmberがマルチGPU環境のCUDAに対応

●Dell、IBMなど大手OEMメーカーがTeslaを搭載したHPCを続々展示

 そしてGTCではもう1つ大きな発表が行なわれた。それがTeslaを搭載したHPCをOEMメーカーがリリースしたことだ。発表ではCRAY、Dell、HP、IBMの4社が顔をそろえ、自社のHPCをアピールした。また、従来からTesla搭載製品をリリースしてきたSuper MicroなどのODMメーカーなども加わり、実に多くのソリューションが揃った。

 そもそもTeslaにはあまり馴染みがないという読者のために補足しておくと、Teslaは最新GPUをベースにしたHPC専用のGPUで、コンシューマ向けのGeForceなどには搭載されていないECCメモリの機能や、3GBや6GBといった大容量のメモリを搭載しているという特徴を備えている。ワークステーション向けのC2050/C2070、ブレードの形をしたS2050、OEM向け専用となるM2050/M2070という製品がラインナップされている。

 例えばDellは会場で「C410x」という3Uのラックマウントサーバーの形をした拡張型シャシーを発表。C410xは最大で16個のTeslaを内蔵することができるようになっており、10個をフロントに、6個をリアに装着できるようになっている。1,400WのPSU(電源供給ユニット)を最大で4つ搭載できるようになっており、最大で16個のTeslaを搭載した場合でも対応できるようになっている。

 C410Xは単体では利用することができず、「PowerEdge C6100」と組み合わせて利用する。PowerEdge C6100は2ソケットのWestmereコアのXeonを搭載した製品で、PCI Expressのケーブルを利用してC410Xと接続して利用することになる(詳しくは関連記事を参照して欲しい)。

 IBMも同じような拡張シャシーと2Uのブレードを展示した。2Uのブレードは2ソケットのXeonプロセッサと2つのTeslaを搭載できるシャシーになっており、中央で分離して開くようになっており、メンテナンス性に優れているのが特徴だ。このほかにも、OEMメーカーやシステムビルダーなどがTeslaを搭載した製品を多数展示して注目を集めた。

Dell「PowerEdge C410x」。前面に10のGPU、背面に6つのGPUと4つのPSUを搭載できるDell「PowerEdge M610x」には1つのTeslaを搭載できるIBMの2つのTeslaを搭載することができる2Uブレード
既存のサーバーにGPUをエクステンションとして追加することができるブレードSuper MicroのSuperServer 6016GT-TF-FM205はTeslaを搭載できる1Uブレード
NVIDIAリファレンスデザインの1Uエクステンション Tesla S2050。4つのM2050が搭載されているNVIDIAのTeslaのラインナップを説明するライド、Mがつく型番はOEM向け、Cがつく型番はチャネル向け、Sはブレードのリファレンスデザイン

●急速な立ち上がりが期待できるとNVIDIAのTesla担当者

 こうしたTeslaを巡る現状についてNVIDIA Tesla事業部 事業部長 アンディ・キーン氏は「Teslaを巡る環境はここ1年で大きく変わった。プログラム環境と対応ソフトウェアだけでなく、OEMメーカーの製品が揃った。足りないモノは何もなく、Teslaのエコシステムは完成したと言ってよい」と述べ、TeslaベースのHPCに必要なピースがそろったのだという見解を明らかにした。

 では、これから何が来るのか? NVIDIAの幹部が言いたいことはつまりこういうことだろう、助走期間は終わった。これから本格的な離陸があるのだと……。実際そのニーズは決して小さくない。先月筆者はIntelのデータセンターの担当者と会ったのだが、その時に担当者が言っていたのは、サーバーのうち70%はCPU設計のシミュレーションなどに利用するHPCなのだという。これは別にIntelだけが特殊なのではなく、なんらかの製品を製造するメーカーなら似たりよったりの現状なのだろう。つまり、そこには確実にマーケットがあり、これからNVIDIAとしてはそうしたマーケットにTeslaを積極的に売り込んでいきたいのだ。

 正直に言って現状ではHPCの市場(将来のではない、現状だ)でNVIDIAのマーケットシェアは0に近い。CUDAも盛り上がっていたのは、主に教育関連の市場(例えば東工大のTSUBAMEなどはそのよい例だろう)だったのも事実だ。だが、NVIDIA Tesla GPUコンピューティング 上級プロダクトマネージャ スミット・グプタ氏は「Teslaの市場はこれから急速に拡大していくことになると期待している」と、その普及に自信を示した。実際OEMメーカーなどに確認してみると、米国の石油会社などからは引き合いがすでに来ているそうで、非常に大きな市場の拡大が期待できそうな見通しであるのだという。

 そうした意味で、Teslaも本格的に飛躍の時期に入ってきた、そういうことが言えるのではないだろうか。

Dellとの共同発表会で利用されたTeslaを巡る環境を示すスライド。フルラインナップのGPUだけでなく、CUDAに対応したソフトウェア、OEMメーカー、ソリューションプロバイダーとすべてがそろってエコシステムが完成NVIDIA Tesla事業部 事業部長 アンディ・キーン氏NVIDIA Tesla GPUコンピューティング 上級プロダクトマネージャ スミット・グプタ氏

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(2010年 10月 8日)

[Text by 笠原 一輝]