笠原一輝のユビキタス情報局
Intelは新しい「Core Ultra」ブランドをなぜ導入するのか?
2023年6月16日 09:58
Intelは同社の新しいクライアントPC向けブランド「Core Ultra」などを含むCoreブランドの再編を行なうことを明らかにした。CPUブランド名であるCoreは、2006年にノートPC向けに発表された「Core Duo」(開発コードネーム:Yonah)で初めて導入されたもので、その後Core 2 Duo、そして2009年に導入された初代Core(Bloomfield)で、現在のi3/i5/i7(そして後にi9が追加される)のグレードを示すサブブランドが導入されて今に至っている。
今回の発表はそのブランドスキームを大幅に変更し、新しい最新CPU用のブランドとしてCore Ultraが導入され、Ultraが付かないCoreは、よりメインストリーム向けと位置づけが変更される。同時に「i3/i5/i7/i9」のiがつくグレード表示は廃止され、グレードを示すサブブランドは単純に3/5/7/9の数字に変更される。
このブランド変更でIntelはどのようなことを狙っているのか、その狙いを考えていきたい。
Intelのブランド史
Intelのブランド名は、1980年代などの初期は単なる数字の組み合わせだった。もっとも有名なのは初代IBM PCに採用された「8086」で(厳密に言うと、IBM PCに採用されたのはそのバリエーションである「8088」)、後に「80286」、「80386」として発展していく。8086互換の命令セットアーキテクチャ(ISA)を持つCPUという意味の総称でx86と呼ばれるようになった。
数字期 | Intel+数字期 | Pentium期 | Core/Core2 Duo期 | Core i期 | Core Ultra期 | |
---|---|---|---|---|---|---|
時期 | 創業期~1980年代 | 1980年代後半~1990年代前半 | 1993年~2005年 | 2006年~2009年 | 2008年~2023年 | 2013年後半~ |
例 | 4004、8086など | Intel 386、Intel 486 | Pentium、Pentium Pro、Pentium 4 | Core/Core2 Duo | 第13世代Core | Core Ultra |
話は脱線するが、その後Intelはx86のメモリアドレスを32bitに拡張した命令セットとして32bit版x86を導入する。これは当初「32bit版x86」と呼ばれていたが、後にIntelはそれを「IA32」(32bit版Intel Architecture)と呼ぶようになる。
そしてその64bit版はAMDが最初に導入。開発コードネームでx86-64と呼んでいたISAで、AMDはそれを「AMD64」とブランド名を定めた。Intelが当時導入しようとしていた64bit ISA「IA64」はx86非互換だったので、それに対抗しようとしていた。結局IA64は市場に受け入れられず、IntelはAMD64とほぼ互換の「EM64T」、後に「Intel 64」と改称したISAを導入し、今に至っている。
厳密に言うとAMD64=Intel 64ではないのだが、ほぼ同じであるため、OSベンダーのMicrosoftは両者の名称を合わせて「x64」と呼んでおり、両者に中立という意味で使われる場合にはx64と呼ばれるのが一般的だ。
さて、話をIntel製品のブランド名に戻そう。Intelはそうした数字のブランド名を32bit CPUの最初の世代になる386世代まで使っていたが、その世代から「80386SX」や「80386SL」のような、後ろにアルファベットをつけてブランディングすることを開始している。
そして486世代では「Intel 486」とIntelのブランド名を介してブランディングを開始。これは数字だけだと商標などが取れないためとされており、略して「i486」などと呼ばれることになる。製品名の後ろに「SX」や「DX」などのサブブランドをつけることも継続され、Intel 486DX、Intel 486DX2、Intel 486DX4、Intel 486SXなどのブランドのバリエーションが増えていったのもこの時代だった。
そしてそのブランド名が完全にアルファベットになったのが486の次世代になる「Pentium」からだ。1993年に最初の製品が発売されたPentiumは、もはや586とは呼ばれず、ブランド名に変更された。というのも、互換CPUのメーカーが486を関した製品を多数リリースしてきたからだ(そして商標的にはそれは合法だった)。このため、Pentiumは新しい造語のブランド名として製品に冠せられるようになった。このPentiumは、後に「Pentium Pro」、「Pentium II」、「Pentium III」、「Pentium 4」と新しい製品に関せられるようになり、Intelの主力ブランド名として利用され続けた。
それが「Core」に置きかえられたのは2006年に登場したモバイル向けのCPU「Core Duo」からだ。開発コードネームはYonahで知られたこの製品は、イスラエルの研究開発センターで開発された省電力CPUで、その後継となるMerom(DT版はConroe)はCore 2 Duoとして2006年~2007年にリリースされ、その後Intel製品のメインストリームはCoreブランドで導入されるようになり、現代に至っている。
このCoreのブランド名に改良が加えられ、Core2 Duoなどのデュアルコアを示すDuoのサブブランドが導入されている形から「Core」というシンプルなブランド名になったのが、2008年に導入されたBloomfieldからだ。ここでIntelはCore i7、Core i5、Core i3などの「Core+i#」というブランドスキームを導入して、今に至っている。
このデスクトップPC向けのBloomfield(とメインストリーム版のLynnfield)、ノートPC向けのArrandale、デスクトップPC向けのデュアルコア版となる、Clarkdaleの3つの製品でCore iのブランドスキームが導入され、次の世代以降、第2世代、第3世代という世代を示す表現が追加されたため、これ初代Coreと呼ばれることになる(当時は単にCoreと呼ばれていた)。その後順次に世代を重ねていき、昨年(2022年)の9月にデスクトップPCから発表されたRaptor Lakeで第13世代Coreまで到達した。
Meteor Lake世代から「世代」表記は廃止
そうしたIntelのブランドスキームが今回大きく変わることになる。最大の変化は、新しいブランド名として「Core Ultra」が導入されること、世代を示す表記を廃止すること、そしてCore iの「i」が廃止され、グレードを示す「3/5/7/9」の数字だけになるという変化だ。
このCore Ultraは、IntelのCPU製品の中で最新世代であることを示すブランド名となり、Intelの次世代CPUとなるMeteor Lakeで導入されることになる。ただし、以前から使われてきたUltraのつかないCoreブランドも残されることになる。
これまでIntelは「第13世代」のような形で世代名を製品の前に掲げてきた。しかし、今後それは廃止され、世代名はプロセッサー・ナンバーの中にだけ付けられる。今でも「1370P」のような形で、前2つが世代名(この場合は13世代であることを示している)、後ろ2つの数字がグレードを示す形になっている。それは継承されるため、そこを見れば数字が分かるような形になる。
この2つはどのように使い分けられるのだろうか? Ultraの定義をIntelは「最新世代のCPU向け」と位置づけていると説明しており、Meteor Lakeがその最初の製品になるということだ。では、Meteor Lakeがリリースされた後、Coreブランドはどうなるのか? これはシンプルに言えば、Meteor Lakeの前の世代の製品になるRaptor Lakeなどの改良版(CPU界隈ではそうした製品をRefreshと呼ぶ)となるRaptor Lake Refreshが登場したときなどに使われることになる。つまり、Meteor Lakeがリリースされ、Raptor Lake Refreshが登場した後は、次のように2つのブランド名が並び立つことになる可能性が高い。
- Intel Core Ultra 9プロセッサー 14xx(Meteor Lakeベース)
- Intel Core 3 プロセッサー 13xx(Raptor Lake Refreshベース)
というような形になるだろう。なお、これは想定であり、現時点では具体的なプロセッサーナンバーなどは発表されていないし、正式なプロセッサー・ナンバーはMeteor Lakeの発表時などに明らかになる。
Intelはこのブランドスキームを複数世代において使う計画だと説明しており、Arrow LakeやLunar LakeなどのMeteor Lakeの後継製品でも採用される見通しだ。なお、デスクトップPCへのCore Ultraブランドの導入は2024年になる見通しだとIntelは説明している。これはMeteor Lakeがモバイル向けであることが関係していると思われ、デスクトップPCではその次の世代で導入される、そういうことを意味していると言えるだろう。
狙いは一般消費者への分かりやすさ
Intelはこうしたブランドスキームを導入する理由として、3つのことを説明している。1つ目はMeteor LakeがCPUアーキテクチャとしては大きな変革期になること、2つ目は一般消費者の認知度を上げる意味ではよりシンプルなブランドが必要であること、そして最後に今やCPUのブランドの説明は年次(第*世代)だけでは説明するのが難しくなっており、何が最新世代なのかを明確に示すブランド名が必要になってきていると説明している。
Meteor LakeがIntelにとって大きなアーキテクチャの転換点であること、これまでも何度か紹介してきた通りだ。Meteor Lakeで、「Foveros」と呼ばれる3D積載の3Dパッケージング技術を導入し、ベースタイルの上にCPUタイル、GPUタイルなどを並べて積載していく。さらにMeteor LakeではNPUを統合することも明らかになっており、生成AIなどの新しいアプリケーションにも対応できる体制を整えている。
そして2番目の理由と3番目の理由は連動している。どんな時代でもよりシンプルなブランドが一般消費者に訴える上で重要というのは真理だが、CPU製品はその特性上説明するのが簡単ではないという宿命を常に抱えている。
たとえば、市場にMeteor LakeとRaptor Lake Refreshそれぞれが混在しており、それぞれ第14世代Core i7-1480、第13世代Core i7-1380と呼ばれていたとすると、どちらの方がよりグレードが高いのかを説明するのはかなり大変だ。もちろん筆者が属しているようなテックメディアであれば、「ベンチマークを取ってみれば第14世代のCore i7の方が高性能ですよ」と説明はできるし、読者の皆さまにもご理解いただけるだろう。
しかし家電量販店のようなお店ではそうはいかないだろう。そこまでCPUのアーキテクチャなどに興味がない人に「ベンチマークの数字が……」と言っても意味不明だろう。そのため、より分かりやすいスキームが必要になるのだ。
そこで、最新世代の方はCore Ultraと命名し、よりバリュー向けとなる前の世代のCPUは「Core」のブランド名と2段階にしておけば、家電量販店でどちらの方がすごいのと言われれば「Core Ultraの方で、中でもCore Ultra 9がオススメですよ」と説明がしやすくなるだろう。そうした狙いをもったブランド変更だと理解しておくと分かりやすいのではないだろうか。
もちろんもう1つの理由としては、既に複数世代が並列するような時代になっており、新しい世代の製品だけが市場にあるというような状況ではなくなっている。その時により分かりやすいブランド名が求められている、そうしたことも背景にはあると考えることが可能だ。
Intelはこの新しいブランドスキームをMeteor Lakeの投入と同時に始めると説明しており、今年(2023年)後半に予定されているMeteor Lakeの発表時に正式にお披露目されていくことになるだろう。