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インテル、作ってる。「Core Ultra」絶賛製造中のパッケージ工場が初公開

ペナンのパッケージ組み立て工程で組み立てられて検査されるMeteor Lake

 Intelは8月21日(現地時間)、後工程の生産拠点があるマレーシア・ペナンにある「ペナン・キャンパス」において、報道関係者を対象とした工場や研究開発センターの見学会を開催した。

 Intelは、今年(2023年)1月に発表したサーバー向けの最新世代CPU「第4世代Intel Xeon スケーラブル・プロセッサー」(以下第4世代Xeon SP)には2.5DのダイスタッキングとなるEMIB(イーミブ)を導入した。また、今年後半に投入を計画している次世代クライアントPC向けCPUとなる「Meteor Lake」では3Dの「Foveros」(フォベロス)を採用するなど、半導体の性能向上で鍵になるチップレット技術の開発に力を入れている。

 マレーシアにあるIntelの拠点(ペナン・キャンパス、クリン・キャンパス)では、FoverosやEMIBなどの開発が行なわれているほか、EMIBを利用した第4世代Xeon SP、Foverosを利用したMeteor Lake、Intel Data Center GPU Max(Ponte Vecchio)などの組み立てなどが行なわれており、世界中の顧客への出荷が行なわれている。

 今回こうした後工程の工場を、報道関係者などに公開したのは初めて。IDM 2.0やIFS(Intel Foundry Services)などの半導体関連の新戦略に向けて着実に準備が進んでいることを印象づける狙いがあると考えられている。

4年間で5ノードを開発するロードマップは着実に第2段階までクリア、今後もそれを加速していく

Intel セールス&マーケティング事業部 執行役員 兼 APJ 部門長 スティーブ・ロング氏。日本はAPJリージョンに含まれるので、インテル日本法人 代表取締役社長 鈴木国正氏がリポートする上司がロング氏になる

 Intelは世界中に多くの半導体製造や開発拠点などを持っており、グローバルに展開することで、コストや効率などを最適化し、半導体を製造して顧客に提供している。

 半導体の製造と一口にいっても、実際には大きく言うと、半導体のチップの板となるウェハを製造する「前工程」と、その前工程で製造したウェハをチップに分割してパッケージに乗せて顧客に出荷できる状態にする「後工程」という2つの工程に分けられている。

 Intelでは、ウェハを製造する前工程は、本国米国とアイルランド、そしてイスラエルの3カ所で行なわれている。今後は欧州での製造拠点が追加される計画になっており、既にドイツに工場を建設する計画が明らかにされている。プロセスノードが微細化すればするほど、チップの性能は上がっていくので、前工程が半導体メーカーにとって重要であることは言うまでもない。

4年間で5つのプロセスノードを立ちあげるというIntelの意欲的なロードマップ。既に2つまで完了
IDM 2.0
APJリージョンの概況
パット・ゲルシンガーCEOはビデオ出演

 Intelはそうしたプロセスノードの開発に関しては「4年間に5ノード」という意欲的な計画を明らかにしており、ロング氏は「我々は既に4年で5ノードという意欲的な計画のうち、Intel 7に関しては昨年(2022年)の第13世代Coreで出荷を開始しており、Intel 4に関してもMeteor Lakeで既にボリューム向けの製品を開始している、今後もこれを予定通り実行していく」と述べた。

 その上で、今後の計画としてはIntel 4のバリエーションとなるIntel 3を今年の後半に製造を開始、Intel 20AとそのバリエーションとなるIntel 18Aはそれぞれ2024年前半、2024年後半に製造を開始すると述べ、今後も前工程の製造技術の開発を行ない、着々と製造にこぎ着けていくと強調した。

マレーシアにあるペナン、クリンの2つのキャンパスは後工程や研究開発などが行なわれている

Intel 製造・サプライチェーン・運営担当 副社長 兼 マレーシアIntel 業務執行役員 兼 システム統合・マニファクチャリングサービス事業部長 AK・チョン氏

 今回の見学会では、主に後工程に関する話題が中心となった。というのも、会場となったIntelのペナン・キャンパスは、後工程となるパッケージ組み立て、組み立て後の動作検証など、各種試験などの後工程を担当する事業所だからだ。

Intelが世界に持つ工場、オレンジ色と緑が後工程で、ニューメキシコ、マレーシア、ポーランド、ベトナム、成都などがそれに該当する。ブルーは前工程の工場
Intelマレーシアの歴史

 ペナン・キャンパスはIntelが51年前にマレーシアに開設した「A1」サイトがベースになっており、その後より大きく発展したものだ。

 Intel 製造・サプライチェーン・運営担当 副社長 兼 マレーシアIntel 業務執行役員 兼 システム統合・マニファクチャリングサービス事業部長 AK・チョン氏は「A1プラオンとは、Intel初の海外の事業所として1972年にスタートした。それから51年にわたって、製造拠点などとして機能してきた」と紹介した。

 ちなみに、Intel本社が設立されたのは1968年で、Intelの日本法人(インテル株式会社、IJKK)が設立されたのは1976年になるので、マレーシアのA1は日本法人よりも先に設立されたことになる。

マレーシアの2つのキャンパス、ペナンとクリン
マレーシアで行なわれている後工程

 マレーシアのIntelの事業所は、大きく言うとペナン・キャンパス、クリン・キャンパスという2つがあり、それぞれに複数の機能を持つ建物から構成されている。今回筆者などの報道関係者が訪れたのは、ペナン・キャンパスの複数の建物のうち、PG7/PG8(2つで1つのパッケージ組み立て工場)、PG16(デザイン・デベロップメント・ラボ)の3つの建物になる。

 こうした建物の名前は、順番でつけられているものの、実際にかつてあった建物の名前になっている場合もあり、PG18まであるから18個の建物があるというわけでない。

 たとえば、現在新しい先進パッケージ組み立て工場となる「Pelican」(ペリカン)というコードネームの建物が建てられているが、そのPelicanはかつてPG1が建っていた場所に建てられており、PG1は既にないということだった。そして、そもそもそのPG1はIntelが最初に建てたA1の跡地にあるなど、建物は壊されて立て直されたりしているので、欠番もあるのだ。

 そうしたPelicanなどの拡張が予定されている建物を含めての数字になるが、両方のキャンパスをあわせて16の建物があり、約65万平方mの敷地面積で、そのうち約18.5万平方mが製造に利用できる床面積となる。今後もまだ十分拡張する余地がありそうだ。実際、筆者が訪れた時も、前出のPelicanが建設中であることが確認でき、完工の時にはより進んだチップレットを利用したパッケージなどの組み立て工場として活用されるという。

チップをサブ基板に取り付けて、ヒートスプレッダを装着するなどのCPU組み立て工程

PG8、その前にはマレーシアでのIntel事業50周年を記念したモニュメントも作られている。トラはIntelマレーシアのマスコットで「ウル虎」ではないそうだ。隣のPG7とは内部的なブリッジで接続されている

 今回APJ(Asia Pacific Japan)地域からの報道関係者に公開されたのは、PG7/PG8にあるPGAT(PenaG Assembly Test)、PG18にある「デザイン・開発ラボ(Design and Development Labs)」の2つの施設だ。施設は公開されたが、工場の中や研究所の中は、半導体メーカーにとっては究極の社外秘。このため、カメラやスマートフォン、レコーディングデバイスなどは一切持ち込めないという状況下での取材となった。このため、写真に関しては、Intel公式のカメラマンが撮影した画像を使用している、この点はあらかじめお断わりしておきたい。

 PG7とPG8というペナン・キャンパスの2つの建物から構成されているのがPGAT(PenaG Assembly Test)と呼ばれるパッケージ組み立て工場とバリデーション(動作検証)の2つの機能を兼ねるメインサイトとなる。

 パッケージの組み立てとは、簡単に言えば、サブ基板にCPUのダイを貼り付ける工程と考えれば良い。別の工場でウェハからダイに分割された登場でPGATに運ばれてきたダイが、サブ基板に組み付けられてはんだ付けされ、そして統合ヒートスプレッダ(IHS)ないしはTIM(Thermal Interface Material)と呼ばれる放熱用のコンポーネントが取り付けられて、完成になる。

一番上の列が第4世代Xeon SP、EMIBで4つのタイルが1つのパッケージに、左側に見えるのがタイル、左から2番目がタイルを装着したところ、左か3番目がエポキシ樹脂後、そして一番右がヒートスプレッダ(写真提供:Intel)

①チップ取付(Chip Attach)

 別の工程で既にウェハからチップにカットされたダイが、テープの形で納品されてくる。そのテープからチップを取り出し、サブ基板に取り付ける構成がチップ取付。ダイだけでなく周辺チップ(キャパシタ)などもこの段階で取り付けられる。

チップ取付(写真提供:Intel)

②エポキシ樹脂注入(Epoxy)

 エポキシ樹脂は強力な接着剤で、ダイがストレスを受けてもサブ基板から外れないように注入される。IHS/TIMがついていない状態でダイがむき出しになっているノートPC用のダイなどでは、ダイの周囲が樹脂で固められているのを見たことがあると思うが、それがエポキシ樹脂だ。

エポキシ樹脂工程(写真提供:Intel)
右がエポキシ樹脂前の状態、左がエポキシ樹脂後の状態(写真提供:Intel)

③ヒートスプレッダ装着(Lid Attach)

 IHS/TIM(ヒートスプレッダ)を装着する過程。ダイの上に熱伝導をよくするグリスと、パッケージ上に接着剤を塗った後で、機械でヒートスプレッダが置かれていく

④動作確認(Burn-In)

 製造されたチップに問題がないか実際に電気を入れて動作するかどうかを確認するプロセス。高温や高電圧などの高ストレス環境でも動作するかをテストする。

動作検証は自動化されており、高速にチップをロボットが入れ替えて行なう(写真提供:Intel)

⑤試験(Test)

 ④の動作確認に続き、電気的な各種テストを行ない、チップとしての機能に問題がないかをテストする。またそのテスト結果はトレーサビリティのためにデータとして記録される。

コンピュータビジョンでのチェックのほか、目視でのチェックも行なわれる(写真提供:Intel)

⑥PPV(Platform Performance Validation)

 PPVはプラットフォームという言葉からも分かるように、マザーボードなどに実際に装着して行なうテスト。実際にエンドユーザーが使う環境を想定したミニマムのテストを行なう。OSも導入して動作するかどうかの確認が行なわれる。

 これらの過程では人間がやると膨大な時間がかかるため、PGAにもBGAにも対応したチップ自動交換装置(BGAもはんだ付をせずにマザーボードに装着できる特殊な装置を利用している)を利用して自動で行なわれる。それによりPPVにかかる時間を大幅に短縮しつつ、確実な動作検証が可能になっている。

チップはこのようにテープに封入されて納品されてくる(写真提供:Intel)

ポスト・シリコンの動作確認やEコアの動作確認などの機能を持つデザイン・開発ラボ

Intel デザイン・エンジニアリング事業本部 担当 副社長 兼 マレーシアデザインセンター 所長 スレッシュ・クマル・ペラバラ氏

 ペナン・キャンパスのもう1つの機能は、PG16などにある「デザイン・開発ラボ」で、こちらでは主にパッケージ関連の開発や動作検証(バリデーション)などを行なっている。Intel デザイン・エンジニアリング事業本部 担当 副社長 兼 マレーシアデザインセンター 所長 スレッシュ・クマル・ペラバラ氏は、デザイン開発ラボの機能には大きくいうと6つがあると説明した。

6つの機能

 それが、「Eコア・IP動作検証」、「製造向けデザイン試験担保」、「ポスト・シリコン動作検証」、「電気動作検証」、「電力・性能動作検証」、「アーリーカスタマー・エンゲージメント」の6つになる。

①Eコア・IP動作検証

 第12世代Coreプロセッサ(Alder Lake、以下第12世代Core)以降のCPUには、Pコア(高性能コア)とEコア(高効率コア)という2つの種類のコアが内蔵されている。このうち、Pコアに関しては従来からイスラエルで開発されてきたCPUコア(直接的には2003年にCentrinoの一部として投入されたBanias)が先祖になっており、動作検証はイスラエルなどを中心に行なわれている。

 それに対してEコアは、Intelがアリゾナに持つ研究所で開発されており、マレーシアの研究開発センターではEコアがAtomと呼ばれている時代から動作検証を担当してきたという。その流れで、現在も第12世代Core、第13世代Core(Raptor Lake)のEコアの動作検証はマレーシアのデザイン・開発ラボで行なわれていたという。

 筆者が訪問した時には、MTL Pと書かれたCPUのEコアをテストしていた。おそらくMeteor LakeのPシリーズ(現時点ではそんなシリーズがあるのかは分からないが順当に行けば28W前後のTDPとなるシリーズ)だと考えられる。

動作検証の様子(写真提供:Intel)

②製造向けデザイン試験担保

 製造時の歩留まりを上げるために、どのような設計をすると歩留まりが上がるかなどを試験するための装置。そのテスト中に発見された課題は、設計チームや製造チームにフィードバックされ、次のバージョンのマスクが作成されるときなどに反映される。

③ポスト・シリコン動作検証

 ポスト・シリコンとは、半導体が出来上がって、試験的にないしは大量生産が始まった後での動作検証という意味になる。具体的にはメモリ、ストレージ、GPUなどの周辺部分を装着し、実際に動かしてみて問題がないかを確認する。

 たとえば、GPUを挿してみて、ちゃんとモニター出力が動作するか、極限状態の仕様(メモリやSSDなどをスペック一杯まで装着し、GPUにできるだけ多くのモニターをつないでみる、など)でテストしたりして、動作に問題がないかを確認する。

GPUやさまざまな拡張カードなどの動作検証が行なわれる(写真提供:Intel)
モニター4枚の動作検証(写真提供:Intel)

④電気動作検証

 たとえば、PCI Express Gen 5など最新のCPUなどでサポートされているような機能が、問題なくスペック通りに動作しているかどうかをオシロスコープなどの機器を使いながらアナログ的に確認していく。

PCI Express Gen 5の動作検証(写真提供:Intel)

⑤電力・性能動作検証

 現代のCPUやチップセットは、より多くの電力を供給すると、より高い動作クロックで動かせる(主にTurbo modeなどと呼ばれる公式オーバークロックモード)ので、電力をたくさんかけると、想定道理に動いているのかなどを検証する。

 実際に、より高い電力や、クロックなどをかけられる特殊な装置を利用して、検証していく。また、同時に定格のスペックで期待通りの性能が出ているかなども確認する。

電力・性能動産検証(写真提供:Intel)

⑥アーリーカスタマー・エンゲージメント

 OEMメーカー(Lenovo、HP、DellなどのIntelの顧客になるPCメーカー)は、製品が発表されるかなり前から次世代、次々世代CPUのスペックやデザインガイド(どのように設計をしたらよいかのガイド)などを手に入れて、シミュレーターなどで設計を開始している。このため、CPUのエンジニアリングサンプルが出来上がったら、できるだけ早くサンプルを渡す必要があるが、言うまでもなく新しい世代のCPUには新しいマザーボードが必要になる。そのため、できるだけ早く顧客向けの検証システムを作り、それを提供する必要があるが、それを担当しているのがマレーシアのデザイン・開発ラボとなる。

BGAも交換して利用できる特殊なソケット、それを利用してロボットが自動で交換してテストしたりができる(写真提供:Intel)

Meteor Lakeただいま絶賛製造中のペナンのIntel工場、Intelは第4四半期に正式に発表、出荷する予定だと明らかに

Meteor Lakeは既に大量生産が開始されている

 なお、Intelは既にMeteor Lakeの大量生産が開始されていることを、第2四半期の決算報告などの形で明らかにしていたが、実際、今回の報道関係者へ公開されたPG7/8のPGATでもMeteor Lakeの組み立てが行なわれており、実際に完成した製品などが公開されていた。

 Meteor Lakeでは、パッケージの上にベースタイルとコンピュートタイル(CPU)、GPUタイル、IOタイルなどが3D方向に積載されている形になるが、別工程で1つのタイルになっているCPU/GPU/IODと、ベースタイルが合体し、パッケージに張り付けられている様子などを確認できた。

 Meteor Lakeの製品発表や出荷の時期に関してIntelのロング氏は「今年後半という予定に向けて順調に計画を進めている」と述べるにとどまり、今年後半のうちいつ具体的に発表するのかに関しての言及を避けた。半年の次に細かな単位となる四半期(3カ月単位)でいうと、現在の第3四半期はあと1カ月と10日で終わることになる。その意味では、第3四半期中であれば、第3四半期中などもう少し細かいスケジュールが出てきてもいい頃だが、その点に関して具体的な言及はなかった。

 ただし、既に(後工程だけとはいえ)Meteor Lakeが生産される様子を報道関係者に公開したことは、Intelがその計画の推移に自信をもっていることの現われだし、元々第3四半期の予定ではなく、第4四半期のどこかという予定であったことは考えられる。その意味では、さほど遠くない時期にMeteor Lakeの正式発表や出荷などが行なわれるのではないかと期待できるだろう。