笠原一輝のユビキタス情報局

第12世代Coreと新ボディでさらに速く格好よくなった「HP Dragonfly G3」

HP Elite Dragonfly G3

 ノートPCがオフィスワーカーやナレッジワーカーと呼ばれるユーザーの生産性を高めるデバイスであることに異論反論はないと思う。そのため、ビジネス向けのノートPCと言えば、やや武骨なデザインが採用されていて、あまりデザインには注意が払われてこなかったというのがビジネスPCの歴史だったと言える。

 しかし近年、ビジネス向けのノートPCでもデザインコンシャスな製品が登場しつつある。持ち歩くビジネスPCは、客先やカフェなどで開くことから、特に若い世代の中にはデザインにこだわりたいユーザーが増えているためだとPCメーカーは説明している。

 グローバルのPCメーカー御三家(Lenovo、HP、Dell)も同様で、LenovoはThinkPad Z13、DellはXPS 13 PlusというデザインコンシャスなPCを発売しており、それぞれ注目を集めている。今回の記事では、そうした御三家のデザインコンシャスなノートPCでこれまで取り上げる機会がなかったHPの「HP Elite Dragonfly G3」(以下Dragonfly G3)を見ていきたい。レビューに使用したのはCore i7-1255U/32GB/512GB/5Gモデム搭載のモデルだ。

 実機を触ってみて分かったことは、非常に優れたデザインを採用しており、同時にCPUが第12世代Core U15へ強化されたことによる高性能、また長時間バッテリ駆動を実現しているということだ。

CNCマグネシウムの外装はそのままクラムシェル型に

CNCマグネシウムを採用したボディのHP Elite Dragonfly G3

 今回取り上げるDragonfly G3は、G3(Gen 3)という名称が製品名についていることからも分かるように、Dragonflyブランドの製品としては第3世代となる。

 ただし、初代のDragonflyおよびDragonfly G2と、Dragonfly G3はその製品コンセプトが大きく異なっている。というのは、Dragongly G2までが360度回転ヒンジを利用した2in1型デバイスであるのに対して、Dragonfly G3はクラムシェル型のノートPCになっており、ディスプレイは180度まで開くものの、回転しない形になっている。

 このデザインコンセプトの変更は、特に重量面でのインパクトが大きい。従来モデルで1kgを切る重量になっていたのは、バッテリが2セル(38Wh)とやや容量が小さいものを採用したモデルで、より長時間駆動を期待して大容量バッテリ(56Wh)を選択すると、約1.14kgまで重くなってしまう仕様になっていた。

360度回転ヒンジではなくなり、180度まで開くクラムシェル型のヒンジに変更

 しかしDragonfly G3では、2in1型ではなくなったこともあって機構や素材を省略できるため、その分軽量化が可能になっている。そのため、従来のDragonfly G2(38Whモデル)より、バッテリ容量が45Whと増えているにも関わらず、ほぼ同じ約1kgという重量を実現している(ただしセルラーを選択すると1.15kgとなる)。これがDragonfly G3における製品パッケージングの特徴と言える。

 ただ、その代わり2in1型デバイスの時に得られていたデジタイザーペンなどの特徴は失われているので、そこはトレードオフであるのは事実だ。しかし、ペンは要らないよというユーザーの大多数にとっては、軽さが変わらずバッテリ駆動時間は増えることになるのでメリットだと言えるだろう。

 ボディの素材にCNC加工によるマグネシウムを採用している点は従来モデルと同様だ。このため、外観は高い質感を維持しており、それがDragonflyの特徴であることは従来モデルを継承している。

ディスプレイは3:2、タッチパッドも画面も大型化

ディスプレイはWUXGA+(1,920×1,280ドット)の解像度で3:2のアスペクト比になった13.5型

 そうした変更を受けて、デザインはG2から2つの点で大きく変わった。1つはディスプレイのアスペクト比であり、もう1つはポートのデザインだ。

 G2のディスプレイは13.3型フルHD(1,920×1,080ドット)になっており、スタンダードな16:9のアスペクト比になっていた。それに対してG3のディスプレイは13.5型とやや大型化されており、解像度はWUXGA+(1,920×1,280ドット)へと3:2のアスペクト比になった。

 現在ノートPCのディスプレイは、こうした3:2や16:10など、16:9を縦方向にやや伸ばしたアスペクト比がトレンドになっており、たとえばWebブラウザのような縦型のアプリケーションでより多くの情報を表示することが可能になっている。今回のG3もそうしたトレンドに沿った3:2のディスプレイを採用しているのだ。

タッチパッドは80×120mm(幅×奥行き)
日本語キーボードの配列
キーピッチは18.7mmとほぼフルサイズになっている

 このため、本体の縦横比も変わっており、底面積で見るとG2が約304.3×197.5mm(幅×奥行き、約6万平方mm)であるのに対して、約297.4×220.4mm(同、約6万5千平方mm)と約9%大きくなっている。しかし、その増加分をうまく使ってタッチパッドは約80×120mm(同)と大型化されており、G2と比較すると実に34%も大きくなっている。そう考えると、気になるほどの増加ではなく、むしろディスプレイが0.2型分大きくなっていること、そしてそれに応じてタッチパッドが大きくなっていると考えれば、ユーザーにとってメリットの方が多い底面積増加と言える。

本体の左側面にはHDMI、NanoSIMカードスロット、USB Type-C
SIMカードスロットは押し込むとトレーが飛び出す仕組み
本体の右側面、ケンジントンロックのホール、USB Type-C、USB、ヘッドフォン端子
USB端子は下側に飛び出す仕組み
この仕組みで、薄さとUSB端子を両立させている
前面カメラ(500万画素)はMIPI接続のカメラ
前面カメラのプライバシーシャッターは電子式でキーボードのボタンで操作

 ポート類はThunderbolt 4が2つ、USB(Standard-A)が1つ、HDMI、ヘッドフォン端子という構成は同じなのだが、ユニークなのはUSB端子の形状だ。このポートデザインが、下にカバーを引き出すとケーブルがさせる形状に変更されている。これにより、本体部分の薄さを強調したデザインにすることと、USB端子を残すという使い勝手の両立を実現している。

実測重量は1.138kgだった
付属のACアダプタ、USB Type-C接続(USB PD対応)
ACアダプタの重量は309g

 無線関連はWi-Fi 6とBluetooth 5.1に対応するほか、LTE-A(XMM-7560)ないしは5G(Intel 5G Solution 5000)のセルラーモデムを購入時に選択できる。ただし、セルラーモデムを搭載すると、重量は150g増えて1.15kgになる。このあたりは機能とのトレードオフになる。

第12世代Core U15は前世代の上級モデルを上回る性能を発揮

 Dragonfly G2では第11世代Core(Tiger Lake-UP3)が採用されていたが、今回のDragonfly G3では第12世代CoreへとCPUが強化されている。ただし、採用されているのはUシリーズの第12世代Coreで、ベース電力(従来の言い方でいうと、TDPないしはPL1)が15Wに設定された、いわゆるU15シリーズのSKUが採用されている。

 Tiger Lake-UP3のTDPは最大28Wになっていたため、ベース電力が15Wになっていると聞くとスペックダウンに聞こえるかもしれない。だが、Tiger Lake-UP3は12W~28Wというのがスペックで、従来のDragonfly G2でも15W近くがターゲットに設定されていたため、ほぼ同じ熱設計と考えられる。

 しかし、CPUが第12世代Coreに強化されたことの意味は小さくない。すでに本連載でも何度も説明しているが、第12世代Coreの特徴は「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼ばれる2種類のCPUコア(PコアとEコア)を持ち、Pコアを利用してメモリレイテンシが性能に影響を与えるアプリ(OS自体やOfficeなど)を処理し、高い電力効率のEコアを利用して動画のエンコードなどの並列処理が必要なアプリを処理するという仕組みになっていることだ。

 OS(Windows 11)上でアプリをどちらのコアに割り当てるかは、Intel Thread Directorと呼ばれる仕組みを通じてCPUからOSにフィードバックがかかる形になっており、2つの種類のCPUを利用して効率よく演算して、PC全体の性能を引き上げる仕組みになっている。

 従来のDragonfly G2に採用されていた第11世代Coreは、第12世代で言うところのPコア相当のCPUコアが4つある仕組みになっていたが、Dragonfly G3に採用されている第12世代Core U15では、Pコアが2つ、Eコアが8つという構成になっており、特に並列実行できるアプリケーションで大きな性能向上が期待できる。

 実際にベンチマークで計ったデータが以下のグラフ1~5になる。比較対象は第11世代Coreを採用したMicrosoft Surface Pro 8で、第11世代Coreを搭載した2in1型デバイスとしては代表的な製品と言ってよい製品であり、CPUはCore i7-1185G7と第11世代Coreの薄型ノートPC向けとしては発表時の最上位SKUを搭載している。

 なお、今回のレビューに使用したDragonfly G3はWindows 10がプリインストールされていたため、Windows 11にアップグレードしてからテストを行なっている(Surface Pro 8はWindows 11がプリインストール)。

【グラフ1】Cinebench R23

 シングルスレッドテストではCPUコア1つだけで実行したスコアを、マルチスレッドテストではCPUコアすべてをほぼフルロードするCinebench R23は、CPUの限界性能を試すには最適なテストだ。結果を見て分かるように、Dragonfly G3に採用されているCPUのCore i7-1255Uは、Surface Pro 8に搭載されているCore i7-1185G7に比べてシングルスレッドの性能でも12%向上し、マルチスレッドの性能では18%ほど性能が向上している。

 こうしたことからも、Pコアは4つから2つになっているが、Eコアが8つ搭載されることで、マルチスレッド時の性能が向上しているのが分かる。これはシンプルにEコアの効果と考えてよい。そして、Pコアのシングルスレッドの性能も上がっているので、OSやアプリケーションの起動も高速化が期待できる。

【グラフ2】GFXBench 5.0.5

 第12世代CoreのGPUは、第11世代CoreのGPUと同じIris Xe(開発コードネーム:Xe-LP)になっており、どちらの結果を見てもほぼ誤差の結果でしかない。従って、GPUに関しては特に性能の向上などはないと考えられる。

【グラフ3】Procyon

 UL BenchmarksのProcyon(プロシオン)は、Microsoft Office、Adobe Creative CloudのPCにおける2大アプリケーションを実際に利用して、その応答速度などを計測しスコア化するタイプのベンチマークになる。今回はPhoto(Adobe PhotoshopとLightroom Classicを利用した写真編集)とVideo Editing(Adobe Premiere Proを利用した動画編集のテストを行なった。

 結果は見ての通りで、PhotoではDragonfly G3が31%、Video EditingではDragonfly G3が13%ほど、Surface Pro 8を上回った。こちらも第12世代CoreでEコアが導入されたことの効果だと考えられるだろう。

【グラフ4】PCMark10 Battery/Applications(バッテリ駆動時間)

 UL BenchmarksのPCMark 10に用意されているBattery/Applicationsは、Microsoft Officeのアプリ(Word、Excel、PowerPoint)とMicrosoft Edgeブラウザを順次動作させ、間にアイドルを挟むことで、ユーザーが実際にPCを利用している環境を再現しながらバッテリ駆動時間を計測するタイプのバッテリベンチマーク。比較的ユーザーの体感に近い結果がでると定評があるベンチマークだ。

 このバッテリ駆動時間では、Dragonfly G3が約10.6時間(635分)、Surface Pro 8が約9.5時間(570分)という結果になった。ただし、バッテリの容量はDragonfly G3が45.6Wh、Surface Pro 8が51.5Whなので、この違いも結果に影響している。

【グラフ5】PCMark10 Battery/Applications(平均消費電力)

 そこで、容量を駆動時間で割って、平均消費電力(システムが時間当たりに消費している電力)を求めたのがグラフ5になる。x86プロセッサを搭載したシステムとしてはSurface Pro 8の結果が標準的で、Dragonfly G3のように4W台前半という結果はかなり優秀な部類と言ってよい。

デザイン重視の特徴を維持しながら、前世代を上回る性能を発揮するDragonfly G3

Dragonfly G3のロゴ

 以上のように、ベンチマーク結果でも第11世代Core発表時の薄型ノートPC向け最上位SKUであるCore i7-1185G7を搭載したSurface Pro 8を上回っており、少ないバッテリ容量でより長時間駆動を実現しているなど、満足できる性能を実現している。

 そして、すでに述べた通り、CNC加工によるマグネシウム合金を利用した外観は質感も高く、常に持ち歩いていて十分満足できる仕上がりになっていると思う。やや余談になるが先日米国に取材に行ったときに、筆者もこのDragonfly G3に自分の環境を作って取材マシンとして使っていた。そのときに会った米国のノートPC好きテック記者がやはりDragonfly G3を持っていて、「今はコレだよね~」みたいなことで一致したことを覚えている。生産性を追いかけ、かつデザインも重視する筆者のようなテック記者にとっても、Dragonfly G3はまさに注目の製品だなということを感じた次第だ。

 もちろん、より性能が欲しければ、P28シリーズの第12世代Coreを搭載した薄型ノートPCを選ぶという手もある。そうすると、Pコア×6+Eコア×8とか、Pコア×4+Eコア×8といった選択肢も出てくる。しかし、その分やや重くなったりするので、そこはトレードオフだと考えることができるだろう。P28までは性能が必要ないけど、写真の処理とかはやっぱり速い方がいいよねというユーザーであれば、Pコアは2つだが、EコアはPシリーズと同じ8つあるU15シリーズは悪くない選択肢だと筆者は考えている。

 DellのXPS 13 Plusが第12世代CoreでもP28を、LenovoのThinkPad Z13がRyzen Pro 6000シリーズを搭載し、薄型ノートPCとして最高性能を目指しているのに対して、Dragonfly G3はどちらかと言えばモバイル方向に振ってU15を選んでいる、そういう製品だと感じた。

 その意味でDragonfly G3は、モバイル性は重要だし、デザインにもこだわりたい、さらにLTEや5Gは必要だよねという場合に、かなり有望な選択肢になってくるのではないだろうか。