笠原一輝のユビキタス情報局

第13世代Coreは、マルチスレッドアプリで前世代比4割の性能向上

Core i9-13900K

 Intelは9月27日(現地時間)に、開発コードネームRaptor Lake-Sで知られてきた「第13世代Intel Core デスクトップ・プロセッサー」(以下第13世代Core)を発表。そして、10月20日(同、日本時間10月20日22時)から、プロセッサーナンバーの末尾にKがつく、倍率ロックが解除されたオーバークロック向け製品を発売する。。

 今回Core i9-13900Kのサンプルをいち早く入手する機会を得たので、従来製品Core i9-12900Kとの性能差などについてベンチマークテストで紹介していきたい。なお、Ryzen 7000シリーズとの比較などは別途レビュー記事が掲載されているので、合わせてそちらをご参照いただきたい。

PコアL2増量、Eコア数増、クロック周波数向上、DDR5速度向上が特徴

左がCore i9-13900K、右がCore i9-12900K

 今回発売となった第13世代Coreは、Sシリーズと呼ばれるデスクトップPC向け製品の中でも、K SKUと呼ばれるオーバークロック時の倍率ロックが解除されている製品群で、ここ数年の通例として新しいプロセッサシリーズの中で最初に発表されている。

 Intelは、今後SシリーズのK SKU以外の通常製品、およびノートPC向け製品を順次投入していく計画で、例年通りなら、1月にラスベガスで開催されるCESにおいて発表され、同時にOEMメーカーから搭載製品が発表される流れになる。

 第13世代Coreは、開発コードネーム「Raptor Lake」で知られており、第12世代Coreに採用されていた「Alder Lake」の改良版となる製品だ。

 Intelは第12世代Coreにおいて、「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼んでいる、Pコア(性能重視のコア、従来のCoreに搭載されていたレイテンシ重視のCPUコア)と、Eコア(効率重視のコア、1つ1つの性能はPコアほどではないが、小型のコアなので多数搭載して並列実行性能が高いCPUコア)という2種類のCPUコアを搭載している。

 Raptor Lakeを採用している第13世代Coreも、第12世代Coreのパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャを踏襲しており、いくつかの点で改良を加えることで性能向上を実現している。具体的には以下の4点が強化点になる。

  1. PコアはRaptor Coveに進化し、L2キャッシュが1.25MBから2MBに強化
  2. EコアはGracemontと第12世代と同じだが、最大コア数が8から16に増加
  3. 第12世代と同じIntel 7で製造されているが改良版になり、クロック周波数が5.8GHzに向上
  4. メモリがDDR5-4800からDDR5-5600へと向上(ただし1DPC)

 Pコアに採用されているRaptor Coveは、第12世代のPコアである「Golden Cove」の改良版で、L2キャッシュの容量が1.25MBから2MBに増やされている。ただし、今後第4世代Xeon Scalable Processorとして登場する見通しの「Sapphire Rapids」で2MB版のGolden Coveが採用されることをIntelは以前から明らかにしており、Raptor Coveは2MB版のGolden Coveだと考えてほぼ間違いないだろう。

 Eコアに関しては第12世代と同じGracemontが採用されているが、第12世代では最大8コアだったのが、最大16コアになっている。IntelのCPUにおけるL3キャッシュはPコアでは1コアあたりに、Eコアでは4コアから構成されてる1クラスタあたり3MBが実装されており、最大構成ではPコア8(3MB×8)+Eコア4クラスタ(3MB×4)=36MBが第13世代CoreのL3キャッシュになる。これは第12世代Coreの30MBから6MBほど増えている計算になる。

 3つ目はプロセスノードの進化と、それに伴うクロック周波数の向上だ。第13世代Coreのプロセスノードは第12世代と同じIntel 7になっている。ただし、Intel社内では「Intel 7 Ultra」や「Intel 6」などの名称で呼ばれている改良版であり、TSMCやSamsungなどのマイナーノードと同じような位置づけの改良がされている。

 また、第12世代Coreでのフィードバックを元に、回路設計なども見直されたことなどが影響され、より高クロックで動かすことが可能になっている。第12世代Coreではターボブースト時に最大5.2GHzだったクロック周波数は、第13世代Coreでは5.8GHzに強化されている。

 メモリは第12世代Coreと同じDDR5とDDR4に両対応だが、DDR5のデータレートは4,800MHzから5,600MHzに引き上げられている。

 こうした改良により、シングルスレッド時には15%、マルチスレッド時には41%の性能向上が実現されているとIntelは説明しており、1世代の性能強化としては十分過ぎる性能が実現されている。

前世代用のZ690でも利用可能だが、新チップセットZ790も登場

ASUSのROG MAXIMUS Z790 HERO

 第13世代Core向けには、Z790という新しいチップセットが用意される。ただし、名称が新しくなっているが、実際には前世代となるZ690とダイそのものは共通。Z690では無効にされていて使われていなかったいくつかの機能が有効にされており、機能がZ690に比べて強化されているというものだ。

 具体的な強化点は2つある。

  1. チップセット側のPCI Express Gen 4レーンが8レーン増加
  2. USB 3.2 2x2(20Gbps)が4ポートから5ポートに増加

 CPUとの接続も電気的にも、物理的にもピン互換になっており、従来のZ690の場合であればBIOS(UEFIファームウエア)を第13世代対応のバージョンにアップデートすることで対応できるし、逆にZ790マザーボードで第12世代Coreを利用することも可能だ。

Cinebench R23で約39%の性能向上を確認

 今回のレビューではASUSから貸し出しを受けた「ROG MAXIMUS Z790 HERO」を利用してベンチマークテストをした。ROG MAXIMUS Z790 HEROはPCI Express Gen 5に対応したx16スロットを2つ持っており(両方利用する場合にはx8、x8になる)、ASUSのHyper M.2 Cardというライザーカードが付属しており、そこにM.2のSSDをPCI Express 5.0対応のものを1つ、4.0を2つ搭載することができるのが特徴だ。そのほか、背面にThunderbolt 4対応USB Type-Cが2つ用意されている。

CPUソケット
拡張スロット
背面ポート

 CPUは、第13世代Coreの最上位SKUとなるCore i9-13900Kと、第12世代Coreの最上位SKUとなるCore i9-12900Kの2つをテストした。

 CPU以外は全く同じ環境(メモリ、ストレージ、CPUクーラー)となり、GPUに関してはどちらも同じ内蔵GPU(Intel UHD Graphics 770、Xe-LPの32EU)を利用しているので、基本的にCPUを第12世代から第13世代に交換したらどうなるかということを計測していると考えていただきたい。

 なお、テスト時期の問題で、JEDECスペックのDDR5-5600が入手できなかったため第13世代Core(Core i9-13900K)に関しては最高スペックよりも低い環境でのテストとなっている。従って、DDR5-5600を利用した場合には、さらなる性能向上を実現する可能性があることはお断わりしておく。今回はあくまで、第12世代Coreをそのまま第13世代Coreに置きかえるとどうなるのかということをチェックしているテストだと考えていただきたい。

【表1】テスト環境(CPU以外は全く同環境)
マザーボードASUS ROG MAXIMUS Z790 HERO
メモリ32GB(DDR5-4800)
ストレージ1TB(Intel 660p)
GPUIntel UHD Graphics 770
OSWindows 11 22H2

 その結果がグラフ1の通りだ。グラフはCore i9-12900Kを1とした時のCore i9-13900Kの性能向上の割合を示したものとなる。具体的なスコアは表2に掲載しているので、興味がある方はそちらも合わせてご参照いただきたい。

【グラフ1】ベンチマーク結果(Core i9-12900Kを1とした時のCore i9-13900Kの性能向上パーセンテージ)
【表2】ベンチマークのスコア
第12世代Core(Core i9-12900K)第13世代Core(Core i9-13900K)
Cinebench R23/マルチスレッド2702437508
Cinebench R23/シングルスレッド21002254
Procyon Office/Office Productivity score77988411
Procyon Office/Word score1051511380
Procyon Office/Excel score60876629
Procyon Office/PowerPoint score90419631
Procyon Office/Outlook score52385645
Procyon PhotoPhoto Editing Benchmark score81868953
Procyon Photo/Image Retouching score81098823
Procyon Photo/Batch Processing score82659085
Procyon Video/Video Editing score28133020
SPECworkstation 3.1.0/Media and Entertainment CPU4.155.45
SPECworkstation 3.1.0/Product Development CPU4.685.61
SPECworkstation 3.1.0/Life Sciences CPU4.85.93
SPECworkstation 3.1.0/Financial Services CPU4.717
SPECworkstation 3.1.0/Energy CPU4.265.15
SPECworkstation 3.1.0/General Operations CPU2.282.62

 注目したいのはCPUコア全部に負荷をかけるCinebench R23のマルチスレッドの結果だ。Core i9-12900Kが27,024であるのに対してCore i9-13900Kは37,508と、38.8%の性能向上になっている。通常Intelの1世代での性能向上は10%程度であることが多いが、公称の41%に限りなく近い性能向上を実現している。

 対してCinebench R23でもシングルスレッドの方は7.33%の性能向上になっており、Intelの主張(シングルスレッドで15%)ほどは向上していない。実際、それを反映してシングルスレッドの処理が多い、Procyonのテストなどは同じように1桁台の性能向上となっている。

 SPECのワークステーション向けアプリを利用したベンチマークテストになる「SPECworkstation 3.1.0」では、マルチスレッド性能の引き上げが性能向上に寄与。「Financial Services CPU」(CPUを利用した金融アプリケーションの処理)は48.62%、「Media and Entertainment CPU」(CPUを利用したメディア・エンターテインメント処理)が31.3%などに代表されるように、大きな性能向上が実現されている。

処理能力重視のユーザーであれば乗り換えの価値大

 以上のような結果から、シングルスレッドの処理や、シングスレッドの処理が多いと考えられるベンチマークでは1桁台パーセントの性能向上で、マルチスレッドでかつ特にCPUにフルロードで負荷をかけるようなテストでは2桁台パーセント以上の性能向上を実現しているというのが、第13世代Coreの第12世代Coreに対する向上だ。つまり、第13世代Coreの性能向上の肝は、Eコアが8コアから16コアに増えていることだ。

 その意味で、第12世代Coreから第13世代Coreに乗り換えた方が良いユーザー、そしてそれ以前の世代から乗り換えた方が良いユーザーは、CPUをマルチスレッド利用する機会が多いユーザーということになる。たとえば、CADやCAM、そしてCPUを利用してエンコードやトランスコードなどをする機会が多いユーザーは、第13世代Coreを導入することでその恩恵を受けることができるだろう。

 特に第12世代Coreのユーザーは、マザーボードなどはそのままにCPUを入れ替えるだけで性能向上を実現できるので、悪くない選択だと言える。