藤山哲人と愛すべき工具たち

累計1億個出荷は伊達じゃネェ!超便利なパナソニックの人感センサー「PaPIRs」で自動コンセント作ってみた

本連載では、家電製品から実験機器の製作、プログラミングなど、幅広いジャンルで活躍するテクニカルライター藤山哲人氏がさまざまな工具をレビューしたり、多少無茶なことにチャレンジしたりしていきます。
超地味な人感センサー。白いドーム状のやつ

 普段は家電 Watchで記事を書いている筆者。なのでパナソニックから工場見学のお誘いをよく受ける。たいていは家電の最終アッセンブリラインの見学がメインなのだが、今回は超地味(笑)な「人感センサー」の製造ラインだ。

人感センサーの動き

 「そりゃ地味だからフツー公開しないよ」と思うことだろう。実際、人感センサーは地味って以上に、防犯システムなどに組み込まれることが多く、セキュリティ上から公開しないのだ。しかもパナソニックの人感センサーは他社製に比べてメッチャ小さい!小型実装のノウハウが生産ラインには数多くあるので、なおさら公開しないものだと分かる。

トイレの個室とか事務所のセキュリティ用で天井に埋め込むタイプの人感センサー。めっちゃ見かけるヤツ。パナソニック製
sirocaのヒーター。省エネや消し忘れの安全用に左上に人感センサー。これも見たところパナソニック製(笑)

 そんな工場見学で筆者はパナソニックの人感センサー「PaPIRs」(パピルス)に惚れた!マジ惚れた!この記事はステマじゃなくて俺の愛だから!お年玉もなんももらってネェ!

 どこに惚れたかったって言うと、容積比だと他社の4分の1という超コンパクトさ!さらに外付け回路がほとんど不要のデジタル出力Verやら、乾電池駆動できる超微弱電流駆動Ver、さらに長距離(半径12m)反応タイプや微動作(1cmの動き)反応タイプなどバリエーションが豊富なのだ。

電池で2年ぐらい駆動できる微弱電流&広角人感センサー。人が入った瞬間を見極め、瞬間で便座を温める

自作の人感センサー自動ONコンセントが超カンタンに作れる!

 一般的な人感センサー(以下「P-IR」と表記)は、小さいマッシュルームぐらいの大きさだ。しかもセンサーは「センサー部」のアナログ部品として販売されているので、信号を増幅したり、人と判断するための閾値を決めるコンパレータ回路を自分で作る必要がある。

 が!パナソニックのP-IRは、親指(製品によっては小指)の先ほどのセンサーの中に、増幅+コンパレータ回路が実装済み!マジか!

 だからP-IRの3本の足に電源(3~6V)をつなげてやると、もう1本の足Outから「人がいるときは電源電圧」「いないときは0V」が出てくるという簡単さだ。実験はしていないけど、Raspberry PiやArduinoならパラレルI/Oにそのままブッ込めるかも?

一般的なP-IRの大きさ。ビルの天井とかトイレの個室についてるヤツ。手前がパナソニックのPaPIRs。この回路全部入ってこの大きさ!。どちらも標準(半径5m)検出範囲品

 そんな小型で便利なデバイスなんてお高いんでしょ?みたいな感じだが、なんと我らが秋月電子で1個税込みで500~600円。激安!

 乾電池駆動や特殊タイプはちょっと値が張るけどけどMAX1,100円。しかも検出範囲のバリエーション(標準、遠方12m、標準電池駆動、標準低背型、広角148度)も揃ってるので実験用ならお手軽に入手できる。

 そんなわけで、説明うんぬんするよりPaPIRsを使って、いろんなパターンでリレーを動作させる回路を作ってみた!

リレーボード含めて総額3,000円切るぐらい。有名メーカーの人感センサー付きLED電球より数千円安く作れる!あとは電線とか電球。最近の透明な高輝度LEDを使うときは電圧と抵抗に注意。古い色の付いたタイプなら300ΩでOK。ACアダプタは6Vの1A以上
汎用リレーボードはAmazon(オートメーションリレーで検索)で800~1,000円ぐらい。パチモンがいろいろ出回っているので安いのでOK。注意するのは電源電圧をP-IRと合わせたいので「6~30V駆動品」がベスト(右側)。超そっくりの「12V駆動モデル」(左側;スイッチが3つで左が3端子)もあるので要注意!

 リレーボードでON/OFFする電源は100V 10AまでイケるのでLED電球は余裕だし部屋の天井照明もOK!変わったトコだと机の前に着いたらPCの電源を入れる(電源ボタンを入れる)なんてこともできる。

 ただ勝手にPCの電源をOFFられないように、リレーのプログラム番号を変更するか「シャットダウン・スリープは電源ボタン無効」の設定をするといいだろう。

 実際の回路は次の通り。やり方はいろいろあるのでサンプルってことで。

P-IRの信号増幅用にトランジスタ2SC1815を利用。Baseには100kΩ挟んでいる。リレーボードのTriggerは6VのVccに、T(rigger)-GNDはLEDとトランジスタのC(Corrector)の間に接続。リレーボードはフォトカプラ(LEDを使った信号受け渡し+抵抗入り)をしているので、抵抗を入れずに直に電源をブッ込んでOK

 パナソニックのエンジニアの話だとトランジスタのBaseから10~100kΩ程度でGNDに落とした(プルダウンってヤツ)方が動作が安定するということ。ただ付けなくても誤動作はなかったので気分でOK。

 トランジスタのCollectorにはP-IRが反応しているかどうか見分けるLEDを付けているが、チカチカうるさいならとっぱらって、抵抗+LEDの変わりにリレーボードのTriggerとT-GNDを挟んでもOK。

 なおリレーボードには、Micro USBコネクタが付いてて、USBからの5Vでも動くようになっている。P-IRも5Vで動くのでUSBから給電できるとベストかもしれないが、5Vだとマジでギリ動くって感じで、4V台まで降下すると動かなくなる。

 んな感じでできたのがこの回路。

P-IRの基板オモテ
P-IRの基板ウラ
今回はP-IRの特性を見たかったのでICソケットを使って、挿し込みのコネクタを作った。グラつかないようにボンドで固めている
P-IRとリレーボードの結線

 今回は夜中にトイレに起きたときLED電球を1分間点灯させたいので、リレーの先はコンセントと電球ソケットにしている。リレー端子はNOとNCがあるが、これはNormal時Open(通電してないとOFF・通電でON)と、Normal時Close(非通電ON・通電OFF)という意味。どっちの場合もスイッチの片方は共通のCOMにつなげばいい。

 あとはリレーボードのプログラム番号をスイッチをONにしている時間などを設定すればいい。が!このリレーボード、とんでもなく汎用的なので切り替え方などを説明してると、それだけで記事1本になってしまう。なのでWebのデータシート(※基板のウラに型番が印刷されていれば、それを検索すれば出てくるはず)や、YouTubeに出てくる説明動画を参考にしてほしい。

コンセントから先の工事なので電気工事士の免許不要。心配な人は市販の電球スタンドを購入してスイッチの代わりにリレーを噛ませればいい
「倹約DIY」のYouTubeチャンネル。操作方法も説明しててデータシートより分かりやすい

 今回使ってるのはプログラム1の「トリガーON」。その中でも時間カウント中に動きがあるとカウンタをリセットする2番「P1-2」を使って1分リレーをONにしている。

 最初の動きから1分ならカウンタリセットしない「P1-1」でもいい。「P1-3」だと最初の動きでON、次の動きで強制OFFになる。P2は遅れてスイッチを操作する「遅延ON」、P3は「繰り返しON-OFF(回数指定)」となる。

 これはどのパチモンでも共通の動きになってるっぽいので、データシートが見当たらなかったらほかのデータシートを参考にするといい。

 そして壁に実装したのがコレ。

実装というか板に固定しただけ。この素人っぽさがいいんだよ!結局センサーの感度が高くて、ベッドから起きた瞬間、廊下の先のトイレから出てきた瞬間から反応したので、最後の動きから10秒間だけ点灯に変更した
P-IRの挿し込みは、ICソケットを使っている。足が細いのでパソコンのピンヘッダのメスは使えなかった。これでP-IRを取り替えて部屋のどの範囲まで検出できるか調べられる
電球はWiZというスマホから色とか照度とかコントロールできるタイプにしてみた
七色に光るので寝ぼけてるときにはちょうどいい。アニメーションや色、輝度、フェードタイムなども指定できるWiZのカラー電球

 WiZの電球は、アニメーションもできるのでフェードインとかも可能。パーティーモードとかにすると、七色に輝くので寝ぼけてる目が適度に覚めていい感じだ。

 ちなみに今回作った回路は、昼でも夜でも人の動きがあれば点灯しちゃうので、夜になったら点灯するLED電球にすれば、夜だけ電気が点くようにできる!「照度センサー付けろよ!」って話は、なしの方向で。

 ただフォトトランジスタと2SC1815で暗いときだけP-IRのVccに電源をつなぐ感じにすればできるので、各自考えていただきたい!(リレーボードも含めて電源制御するとリレーON時に100mAぐらい流れるので2SC1815だとちょい辛いかも?)

滅多に見られないセンサー工場に潜入!

 そもそもP-IRの中ってどうなってる?という疑問に答えるのが、巨大化した模型。金色の台座に乗っているのが、メインのセンサー部分。黒い部分はセンサーの信号を増幅したり閾値を見分けるコンパレータ回路が入っている。もし閾値を自分で設定したいという場合はアナログ版も購入可能。外付けのコンパレータで閾値を自由に設定できる。

 で、黒い回路の上にチョコンと乗ってる「田」の字型をしたのが人感センサー本体(焦電素子)だ。

標準タイプのP-IRを超拡大した模型。センサー部は上にちょこんと載ってる「田」の字の部品のみ!

 ここに右側の銀色のキャップをはめて、電波などのノイズを遮断するためにシールドする。ただ上部には黒い部分がありセンサー(焦電素子)が外を見張れるようになっている。

 銀のキャップを閉めたら、今度は後ろにあるプラスチックのレンズを被せて完成。他社製がパナソニックに比べるとデカいのは、センサーとレンズの間の焦点距離が長いから。パナソニックはセンサーを小さく、さらに焦点距離を短くしたので小さく実装できてるってわけ。

 レンズには写真の標準型(エアコンの中とかトイレの個室用)、標準小型(最近の省エネストーブとか扇風機についている)、広角レンズ型(シャワートイレのリモコンや廊下の自動点灯)、あとは防犯用などに使えそうなきのこ型の長距離対応型や微動検知型(最近のトイレの個室は微動型に移行中)などがあり、いろいろなシーンでの人の動きや存在を検知している。

センサー本体は、乾電池駆動で何年も動作する極小電流タイプから、通常品まで4タイプほどが用意されおり、加えてレンズバリエーションをカラー(白と黒)が用意されている
センサーのウェハ。LSIのようにウェハの上にいくつものセンサーを作っていく。円は10cmほど
ウェハの顕微鏡写真。田の字で1つの焦電センサー。4つの領域に区切られ黒い「コ」の字の熱絶縁体を設けている
熱絶縁体を設けることで、4つのセンサーの温度差が大きくなるため高感度に動きを検出できる。左の図は一般的なP-IRセンサーで隣のセンサーに熱が伝わるので動きがぼんやりとしか検出できない。だから極ゆっくり動くと動き検出ができない

 さらにパナソニックの焦電素子は「田」の字に4区画に別れそれぞれに熱が干渉しないよう「熱絶縁性」を高めている。これにより動きを検知した際、区画で大きな温度差が発生するので、より高精度に、より高感度に検出できるのも特徴だ。

アンプとコンパレータ回路部分と金属基板に乗せていく
土台に基板を乗せた状態。焦電センサーはまだ乗ってない
ロボットアームを使ってセンサーを上に乗せる
正しい位置や傾きがないかを画像で判断

 完成した土台は、ノイズシールド用の金属ケースに収められる。またレンズ部分は工場内の射出成型機で作られる。射出成型したあとの研磨などは一切なく、金型だけでレンズを作ってしまうので、金型の精度もメチャ高く、工場内で職人がメンテナンスしているという。最後はレンズをセンサーにはめて外観などをチェック。動作試験をして出荷する。

金属ケースに入れてレンズなしのP-IRが完成
きのこ型レンズを射出成型
中央にある2つの黒いのがレンズ付きのP-IR。形からすると標準検出タイプの黒。キーエンスのカメラで最終チェック
足もシッカリ見える。どうやら端子の角度をチェックしているらしい

 こうして作られているパナソニックの人感センサー「PaPIRs」は、その性能や使いやすさ、小型でバリエーションが豊富なことから、累計出荷数がついに1億個を突破したという。特にデジタル版は、マイコンなどに簡単に実装できるので、省エネ家電が求められるこれからの時代ますます活躍するセンサーデバイスになるだろう。

 また精度が向上したこと1cmでも動けば「人が居る」と判断できる「微動検出タイプ」は、個室のトイレで用を足しているのに電気を消されるというアクシデントがなくなり、トイレで必至に手を振ってセンサーにアピールする人を減らせることだろう。

電子工作の素人でも間単に使えちゃうスゴイP-IR

 もの作りの仕事をされている方には、超オススメしたい「PaPIRs」だが、その扱いの簡単さから個人の電子工作をしたり、独自に生産ラインやセキュリティシステムを作ったりしたい人にもオススメ。市販のBluetoothモジュールなどを使えば、安価に無線の人感センサーを作ることも簡単だろう。

 以下のシステムブロック図とアプリケーション回路を見てもらえば、ちょっとハードを知っている人なら、使い勝手を一発で分かってもらえるはず。

デジタル版システムブロック図
デジタル版アプリケーション回路。人の有無だけを検知するならこっち
アナログ版システムブロック図
デジタル版アプリケーション回路。出力の変化を見て、接近・離脱を調べたいならコッチ

 気になった方は、以下の関連リンクにある総合カタログを見てほしい。